#1507 午後の休憩はちょっぴりデート?乱入者現る!
「改めて思いますが、学園祭の規模は大きいですわね。こちらの方も人がたくさんですわ」
「はい。この前やった夏祭りが小規模に感じてしまいます」
〈迷宮学園・本校〉には学園祭に夏祭りという、似たようなお祭りがあるが、学園祭と夏祭りの大きな違いは、その規模だ。
夏祭りが校舎2つを使っていた学生のお祭りだったのに対し、学園祭は外から来る人も対象としているため学園全体がお祭り騒ぎになる。
素早く行動しないと全て見ることはできない。
「今回は変装に手間取ってしまい時間があまり取れませんでしたから、次の現場に向かいつつ出店でお腹を満たしましょう」
うむ。時間が無くなったのは主にスクショのせいだが、仕方なかった。これは仕方なかったんだ。
俺はリーナの言葉に頷き、次のエリアの情報を共有する。
「だな。次の現場は〈戦闘6号館〉。あそこでは今〈剣刀大会〉が行なわれているから、その近辺の警邏だそうだ」
「大会の余波で溢れるエナジーが爆発する人もおりますからね」
次の現場は変わって〈戦闘6号館〉。
そこは〈戦闘課1年1組〉などがある校舎だ。
この校庭では〈剣刀大会〉が行なわれている。〈剣刀大会〉は文字通り、剣、もしくは刀を使う者のみが出場出来る大会で、毎年凄まじく観客を熱狂させている。
ただ、その余波を受けて攻撃的になる人も少なからずいて、やっちまったな、というやらかしをしでかす人が毎年のように出るのだとか。アイギスはこれをエナジーの爆発なんて言っているが、あながち間違った表現でもなく、文字通り過去にはなぜか爆発した人もいたらしい。マジどういうことだし。
ちなみにその人はHPこそ全損したものの無傷だったそうだ。
とはいえ〈剣刀大会〉は現在予選中。
そういうデンジャラスは大体決勝戦の前後などで起こるので、まだ起こらないだろうと言われたが。なにそれフラグ?
まあ、俺たちはその道中なので今は考えないようにしよう。
おっとここでリーナが珍しいものを見た様な顔をして何かを1本買ってきた。
「これがフランクフルト、大きすぎではありません? こんなの1本でお腹いっぱいになってしまいますわ」
「2人で分け合いますか?」
「そ、それは良いかもしれませんわね。ではゼフィルスさん、あーんを」
「ちょっと待ってくださいリーナさん、私と2人で分け合いませんかという意味です。なに私の目の前でゼフィルスさんと2人で分け合おうとしているのですか」
「あ、あらわたくしったら」
どうやらリーナは、見た目からはそうは見えないが、結構はしゃいでいるらしい。
何をどうしたら提案したアイギスではなく俺と食べさせ合いをしようと思ってしまうのか。でも俺も嬉しいのでいただきます。
「あむ。ん~、結構美味いなフランクフルト」
「な! ゼフィルスさん!?」
「アイギスも食べてみ? 1人で食べるにはちょっと大きすぎるからな。3人で分け合おうぜ」
「そ、そういうことでしたら。確かにゼフィルスさんを除け者にしたみたいでしたね。失礼しました。では私もいただ――」
「はむ。ん~~。なるほどですわ。これがフランクフルト、ボリューミーな味ですわね」
「ってリーナさん!? そこはゼフィルスさんが食べた」
「ふふふ、わたくしはもう慣れたものですわ。はい、アイギスさんも食べなさいな」
「……いただきます」
何か言いたげだったアイギスだったが、その言葉を飲み込んでリーナの持つフランクフルトをパクリと味わう。
リーナは結構食べさせ合いが好きみたいで、思い返せば出店を一緒に回る度にあーんをしていた気がする。慣れたものというのも間違いではないな。
あと、リーナって意外とこういう出店の食べ物好きだよな。色々買ってはパクパク食べている印象があるよ。
この学園に来るまでこんな出店を巡ったことも、売られているものを食べたことも無かったので新鮮なんだそうだ。
「美味しいです」
「ですわよね。はい、ゼフィルスさんも」
「あ」
「おう、ありがと。あむ」
アイギスの次に向けられたフランクフルトをパクリ。
うん。美味しい。だが、たくさん食べたいというものでもないのも確かだ。
3人で食べればちょうど良い感じ。
アイギスはまだ慣れていないのか、結構顔を赤くしていたのが微笑ましかった。
そんな感じで仲良く食べたり、分けたりしながら進むと〈戦闘6号館〉にたどり着く。
ちょっとトイレなどに入って変装を解けば、いつもの勇者装備のお出ましだ。
鏡でしっかり不備がないかを確認して外にでる。
ここでリーナたちと合流する予定だ。だったのだが。
「ねぇあれ」
「きゃ! 勇者さん!?」
「あのお一人ですか!?」
なんか変装を解いた瞬間すぐバレた!
いきなり女子集団に囲まれてしまう!
俺は努めてキリッとした勇者顔を作った。
「悪いな、今から警邏の仕事に行かなくてはならなくてな。ここで待ち合わせをしているんだ」
「お仕事ですか!」
「真面目に仕事をする勇者さん素敵」
「あの仕事の後とかは――」
一応柔らかくお断りしたのだが、中々諦めない女子たち。そこへ。
「何をしていますの?」
「「「!!」」」
リーナの声が掛かった! それを聞いた瞬間、なぜか直立不動になる女子たち。
背中がピーンと伸びたぞ?
「へ、ヘカテリーナ様!?」
「公爵令嬢のヘカテリーナ様ですか!?」
「ゆ、勇者さんと待ち合わせって」
「どなたか存じませんが、ゼフィルスさんはこれからわたくしたちと仕事がありますの。遠慮していただけますか?」
「「は、はい!」」
「失礼いたしました!」
リーナの一声で女子たちがぴゅーっと走り去っていった。なんだろう、ちょっと寂しい気持ちになったのは秘密なんだぜ。
「お待たせいたしましたゼフィルスさん。大丈夫でしたか?」
アイギスが素早く駆け寄り、なぜか俺の身体を隅々までチェックしていく。
「大丈夫か否かって言われたら、大丈夫だが。というか話しかけられただけだからな。本当に大丈夫だからなアイギス?」
「もう。ゼフィルスさんはなんでほんのちょっとの時間で余計な虫を引きつけますの?」
「いやぁ」
「なんでゼフィルスさんは照れているのでしょう?」
「はぁ」
アイギスが振るも、リーナは溜め息を吐いただけだった。
そしてキリッと切り替えてから俺に言う。
「ゼフィルスさんはわたくしとアイギスさんの間から出ないように、余計な女性からガードいたしますわ」
「それ普通男女逆じゃない?」
「今のゼフィルスさんには必要だと私も思います」
と言うリーナとアイギスに負け、俺は結局2人にガードしてもらいながら〈剣刀大会〉予選の警邏をすることになったのだった。
いやぁ、〈剣刀大会〉はなかなか凄かったよ。
あくまで学園祭なので、出場者は学生のみとなっていたんだが、分校生も可にしていた影響で、来年の留学の座を狙った分校生がすんごい押し寄せたんだ。
おかげで予選はバトルロイヤル方式が取られたんだが、誰も彼も凄い熱い戦いを繰り広げていたよ。ハチャメチャだった。
「一応、近いLVの人たちが同じグループに入ってバトルすることになっていますが、争いが凄いですわね」
「最後まで生き残るにはMPが足りず、通常攻撃の斬り合いになってますからね。MPが多かった方や、上手く温存出来た方が勝ち残ったりと、波乱が巻き起こってます」
「これはこれで見応えがあるけどな。だが、アピールの場と考えるには、MP不足になるような環境は適してないんじゃないか?」
「これは学園長案件ですわね」
うむ。要は来年の留学の座を賭けて出場した分校生、MP不足で力を発揮しきれないという状況。これではアピールの場所には適していないねという話だ。
「さすがに留学制度を実行したのは今年からですからね、想定を超える事態が結構起こりえるのでしょう。今年はMPポーションの持ち込みはダメですが、来年には何かしら改善されるでしょうね」
「こんなところにも留学制度の波が来てるんだなぁ」
そんなことを考えていると、ちょっとした騒ぎが発生。
「なにをとろとろやってんだ! 俺が参加者を全員倒してやるぜ!」
「乱入者だ!」
「おいおい何やってんだ! 俺も混ぜろよ!」
「え、これ乱入オッケーって流れ!? じゃあ俺も参加したいぞ!」
「某も乱入いたす!」
なぜか試合中の会場に乱入しようとする乱入者が現れたのだ。
無論。
「『英勇転移』! そして、気絶しろ」
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!?」
俺が即1人目を制圧。
「勇者だ!?」
「勇者さんが来た!?」
「こちら〈秩序風紀委員会〉だ! 大会のルールを横破りする人は全員3日間の個室待機をしてもらう!」
「きゃー勇者さんかっこいいー!」
「ヤバい人来ちゃった!?」
「あ、俺、用事を思い出したので戻ります!」
「某も門限がありますゆえ」
「あ、お前らきったねぇ! というかまだお昼過ぎ――あばばばばばばば!?」
「〈剣刀大会〉を乱す乱入者はこの勇者が全て逮捕する!」
「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」
一瞬で制圧して宣言。
すると大きな歓声が鳴り響いた。なんか〈剣刀大会〉より盛り上がっている気がするが、これは気のせいではないだろう。
だが、これでアホな乱入者はもう来ないはず。そう思っていたのだが。
「勇者と戦えるだと! この機会、逃すものかーー!」
「なんか追加来ちゃった!?」
なぜか俺と戦いたいとか抜かす輩が3人くらい襲ってきたんだ。
だが、うん。ごめん。
「「「あばばばばばばばばば!?」」」
触れるだけで即〈麻痺〉する〈スタンロッドアウト〉が強力過ぎたんよ。
これ、相手の剣に当てたとしても電撃が伝わって〈麻痺〉するからな。パッシブスキルなのでクールタイムも無いし。打ち合いもできないんだぜ。
そう簡単にいかなかったときのために『完全勇者』も用意していたのだが、必要なかったほどだ。
やっぱ〈スタンロッドアウト〉はチート装備だったんだぜ。ゲームでの夢が叶って、ちょっと嬉しかったのは秘密にしておこう。
「ゼフィルスさん。お疲れ様です。今リーナさんが本部と連絡を取っています」
「サンキューアイギス。悪いがここに俺と一緒に居てくれ。またどんな奴が乱入してくるかわからないからな」
「はい。ですが、乱入者なんているのですね」
「それ、俺も思った」
結局乱入してきて俺に制圧された5人は3日間の個室送りとなり、それ以上乱入者が現れることはなかったのだが。
またも「勇者が〈戦闘6号館〉の〈剣刀大会〉に参加している」などという噂が広がり人が押し寄せてきた。




