#1505 非常事態発生?気が抜けないリーナとアイギス
「ピピー! そこの方、横入りはダメですわよ!」
「あのブースですか? それでしたら向こうから回って」
「え? 握手? サインも欲しい? いやぁ悪いな、今仕事中だから」
学園祭が始まり、俺たちもなんだか忙しくなる。
お客さんがいっぱい入って来たのだ。
リーナは笛を持って、去年はナギがしていた仕事を思い出しながらキリキリ仕事をしている。
アイギスはおだやかなお姉さんな雰囲気でパンフレットを片手に道案内なんてしているな。
俺の方には、なぜか少女たちが集まって来て握手やサインをねだられたよ。
まだ職業に覚醒していない子たちだ。
「ゼフィルスさん。もうギルドの定員はいっぱいですわよ?」
「いや、そういうつもりじゃないぞリーナ? ほら、あの子たちは来年入学するわけじゃないって言ってたし」
「ちゃんと確認しているじゃないですか」
リーナからは去年のアリスやキキョウのように青田買いをしていると思われてしまう一幕もあったが、さすがにギルドの定員がいっぱいなので自重している。ほ、本当だよ?
ね、自重さん? 俺ちゃんと自重してるよね? …………返事がないけどきっと大丈夫さ!
おかげで(?)警邏の仕事は、今のところ順調。
だが、俺たちの仕事って本来手に負えないレベルの生徒が何かやらかした時の最後の砦、みたいなものだったはずなんだが、なぜか一般の警邏の仕事もしている。
一般の警邏とは去年俺たちがしていた仕事だな。
分隊長指揮の下、各所で警邏の人員を配置して、ちょっとしたトラブルに対応したりするんだ。
それで、俺たちは大きなトラブル対応の人員なので、総隊長直属の人員という配置となっている。
おかげで去年あったようなパレードの警備など、配置されると抜けるのが困難な配置は免除となっている。
要はいつでもどこに居ても緊急出動できるよう、仕事は最低限でいいよ、というのが俺たちだ。
だが、リーナやアイギスはとても真面目なので、去年と同じように次から次へと仕事を引き受けている気がする。
とはいえ、俺たちがこうしていられるのも大きなトラブルが起きていないが故だ。
このまま大きなトラブルも無く、終わってほしいところ。
そう、思ってしまったのが良くなかったのかもしれない。
「おおーい助けてくれ! 上級職の学生たちが〈魅了〉状態になっちまったんだ!」
「でへへへへ。みんなかわゆい~~~」
「きゃあああ!」
大きなトラブル発生!!
それは第一アリーナのとあるブースからだった。
「リーナ、アイギス、行くぞ!」
「ちょ、――申し訳ありません、緊急事態なのでこれで失礼いたしますわ!」
「すみません、向こうの従業員に聞いてください。いかなければならないので!」
リーナとアイギス、初動が遅れる!? と思いきやそうでもない。
初動はなにより大事。そう〈エデン〉のメンバーに教え込ませていた影響かリーナとアイギスは即俺に追いついた。
「ゼフィルスさん!」
「リーナ、アイギス、声はあっちのブースだ! どうやら〈魅了〉で暴走しているようだぞ!」
「先行します!」
即で情報共有。
アイギスは持ち前のAGIをフルに活かして先行してもらい。
俺はリーナに合わせた速度で移動しながら打ち合わせをし、二の腕に付けた〈秩序風紀委員会〉の腕章を見せながらブース入りした。
「おお! 〈秩序風紀委員会〉が来てくれたぞ!」
「こっちこっち! こっちの子たちだ! 頼む!」
「動きが速すぎて『キュア』が避けられるんだ!」
「みんなお持ち帰りする~~~~」
「きゃああああ!?」
「私は美味しくないです~~~~!?」
状況把握。
どうやら2名の女子が〈魅了〉状態になって暴れて(?)いる様子だ。
なぜかさっき俺に握手やサインをねだった少女たちを小脇に抱えている。
どこへ連れて行こうというのかね?
「おとなしくしなさい! 〈スタンロッドアウト〉!」
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!?!?」
ここで先行したアイギスが1人を〈麻痺〉状態に!
「ゼフィルスさんは左を! 〈スタンロッドアウト〉で一時制圧してください!」
「おう! 『英勇転移』! どぅりゃ!!」
「ひやややややややや!?!?」
そしてなぜか逃げようとするもう1人を俺が転移で即追いつき、一撃で鎮圧する。
これが〈スタンロッドアウト〉の力だ!
「「「「おお~~~!!」」」」
すると周りから歓声があがった。
そういえばここはアリーナ会場だったな。
「大丈夫だったか?」
「は、はい」
「勇者さん、素敵です」
すぐに両脇に抱えられていた2人にそれぞれ手を差しのばす。
2人とも、なんだかあこがれのシチュエーションにまさかの自分が遭遇してしまった様な夢心地の表情をしていた。
しかも差しのばした手は、その細腕のどこにそんな力があるんだと言わんばかりガシッと掴まれて離れなくなってしまったぞ?
とりあえずこのまま連れて行こう。
「ゼフィルスさん、またですか?」
「いや、またも何もただ助けただけだが? というかリーナの指示で助けたんだが?」
「はぁ。とりあえず本部には連絡済みですわ。すぐに応援が来るそうですので。彼らに引き継いでほしいとのことです」
「……了解」
「ではその間に事情聴取ですわね。――ここの警備担当者はどこですの!」
問題がとりあえず鎮圧したのでここで事情を伺う。本部への連絡はすでにリーナが済ませてくれたようだ。仕事が早いぜ。
今日の第一アリーナのこのエリアのブースでは、いわゆる職業未覚醒者を対象にしたモンスターの撃破体験を行なっていた。
もちろんこれは将来の高位職を増やすことを目的にもしている。
そのおかげで第一アリーナでは同じような試みのエリアがそこら中にあった。
その一角で事故は発生。
とある少女たちが腕輪を使ってモンスターへ〈魅了〉を掛けようとしたところ、2人が誤って技術指導係と警備担当に〈魅了〉を当ててしまったとのことだ。
本来、RESの高い上級職が、職業未覚醒者から状態異常攻撃を受けてもほぼ確実にレジストに成功する。
しかし、モンスターに〈魅了〉が刺さりやすいように〈魅了貫通の腕輪〉まで使っていたために、2人の上級職にこれが貫通してしまい、晴れて上級職の2人が〈魅了〉状態になってしまったとのことだ。普通は状態異常に掛からないだろう上級職が掛かってしまう、これが『貫通』系の恐ろしいところ。
しかも、よりによってこの2人がこのブースで一番強かったために誰も止めることができなかったというのがこの事故の概要らしい。
まさに俺たち案件だったというわけだ。
というかこの子がこのエリアの警備担当者か!?
『リカバリー』しておこう。
「いくらモンスターを状態異常にしたいからと言って〈魅了貫通の腕輪〉はやり過ぎですわ」
「はい。すみませんでした」
アリーナを使ったモンスター撃破の試みが始まってからまだ1年半、安全対策は出来る限りしているが、こういうちょっとした事故はちょくちょく起きていて、その度に改善していっている。
今度からは普通に〈魅了の腕輪〉だけを使用すること。ということで注意を受け、無事にそこのエリアは再開することになった。〈魅了〉と〈麻痺〉を受けていた子もちゃんと俺の『リカバリー』と他のヒーラーの『キュア』で状態異常を回復してもらい、そのまま営業を続けるとのことだ。
結局リーナは応援が来る前に大体事後処理も終わらせちゃった感じだ。本当に仕事が早いぜ。
一方で俺は助けた少女から言いよられ、アイギスがそこへ割って入ってなぜか俺の護衛についていた。少女とアイギスがバチバチ火花を放っている予感。
「ゼフィルスさん。いくら子どもと言っても相手は女です。何歳であっても見知らぬ相手には用心してください」
「ええー……」
「交代要員が来ましたわ。撤収しますわよ!」
リーナまで来ちゃった。どうやらようやく応援が到着したとのこと。
「ええ!? ちょっと待ってください、せめてお礼だけでも!」
「結構ですわ。お礼なら〈秩序風紀委員会〉へお願いいたします!」
そう助けた少女に言ってリーナとアイギスが俺の両側を堅め、アリーナを出ていく。
観客席に居た数少ない観客から手を振られたので俺も振り返しながらアリーナから退出したのだった。
ふう。まさか本当に手に負えない上級職が現れるとは。
〈スタンロッドアウト〉が火を噴いちまったぜ。ちょっと楽しかったのは秘密だ。
「これは、別の意味で気が抜けないかもしれないですわ」
「はい。ゼフィルスさんの噂がこんなに広がっているとは予想外でした」
一方で、リーナとアイギスがその後なぜか俺の護衛かと思うレベルでピタッとずっと近くに張り付いていたのは、良い傾向なのか悪い傾向なのか。
こんな感じで午前中の警邏が終了した。
正午になれば一旦休憩、出店にお昼を買いに行こう!




