#1503 学園祭1日目、俺たちの仕事はアリーナで警邏!?
―――〈迷宮学園祭〉。通称〈学園祭〉。
11月の半ばに3日間かけて行なわれるお祭りイベント。
学園全体がお祭りムード一色になってわいわい騒ぐのだ!
なんだか少し前に夏祭りが終わったばかりだというのに、もう次のお祭りかよって気がするが、こっちの方が数倍規模が大きいのでとても楽しみだ!
「ゼフィルス君、おはよう~」
「おはようハンナ」
朝のちょっとした時間、今日はハンナがとあるものを持って俺の部屋を訪ねてきた。
ちなみに朝食はない。
お祭りの日は露店の品を楽しみにしているため、朝食抜きなのだ。
じゃあなんでハンナが今日も朝から俺の部屋に居るのかというと、それは俺が依頼していたとあるものが原因だった。
「頼まれていたもの、持ってきたよ~」
「さっすがハンナだ。もう出来たのかよ!」
「えへへ~。アルストリアさんやシレイアさんにも手伝ってもらったんだ~。でも、こんなのどこで使うの?」
「もちろん、〈迷宮防衛大戦〉で、だ」
俺はそれが入った〈空間収納鞄〉をハンナから受け取る。
中に入っているのはなんと――3人の【アルケミーマイスター】が共同で作り出したスペシャル〈爆弾〉系アイテムだ。
「去年よりは楽に倒せるだろうが、これがあればさらに楽になるんだよ。ハンナ、すごく助かった。ありがとう」
「えへへ~」
学園祭で爆弾なんか用意して何する気!?
もちろん3日目のレイド戦に備えてだ。
今年も学園名物〈迷宮防衛大戦〉ことレイド戦は開催予定で、去年の〈ヘカトンケイル〉を超えるモンスターが呼び出される予定なのだ。
俺たちも去年より成長しているし、相手が〈ヘカトンケイル〉より強いとは言っても去年より楽ができるだろう。だが、念には念を、だな。
さすがはハンナ。俺の要望をしっかり叶えた素晴らしいアイテムをとんでもない数揃えてきてくれたぜ。
「ハンナは学園祭は?」
「うーん、〈生徒会〉のお仕事が結構入ってるよ~。役員も増やしているんだけど、お仕事全然減らないの。それに学園祭って来年の生産隊長の立候補で重要な位置を占めているんだよ~」
「まあ、ハンナは来年も期待されているからな~」
「多分、立候補しなくても生産隊長が内定する勢いなんだって。はぁ」
だろうなぁ。としか言えない。
というより去年のデジャブを見ている気分だ。
〈生徒会〉の代替わりは基本的に3月だが、その生産隊長選挙はすでに始まっていると言っていい。
そしてその重要なポジションを占めているのが――この〈学園祭〉なのだ。
去年はミリアス先輩が立候補して、ハンナはその補佐みたいな位置で支えていたのだが、みんななぜか「え? ハンナ様じゃなくてミリアスさんが立候補なの?」みたいな反応をしており、最終的に学園祭で凄まじく頑張ったミリアス先輩を置いてきぼりにして、なぜか立候補していないはずのハンナが無事当選。
生産隊長に輝いたんだよなぁ。(全然無事じゃない)
そして今年は、もちろんハンナは生産隊長選挙に立候補しておらず、学園祭では普通に〈生徒会〉のお仕事をするそうだ。
にもかかわらず、すでに次の生産隊長の座はハンナに決まったみたいなものらしく、他の立候補者がゼロというのだから恐ろしい。みんな、立候補してもしなくても次の生産隊長はハンナだって分かっているんだ。
とても不思議です。
当のハンナはもう諦めの心境のようで「仕方ないな~」と言っていた。
あのハンナが、大物になったものだ。
「ゼフィルス君は今年も警邏? だっけ?」
「だな。学園中の色々なところを回る予定だ」
「むう、リーナさんとアイギスさんと一緒に、だよね?」
「いや、仕事……だぞ?」
「休憩中もはぐれないように一緒に行動するでしょ?」
「まあ、基本そうだな」
「……ズルい」
ハンナが可愛いことを言う。
ほっぺがちょっとぷっくり膨れてしまったぞ。
うっかり休憩中に抜け出してハンナに会いに行ってしまいそうになる!
だが今年の学園祭もそれはそれは大混雑が予想されている。
そのため休憩中に別行動してうっかり合流できなかった、なんてことにならないよう俺たちは休憩中もなるべく一緒に行動するよう言われていた。
「夜は会えるからさ。な?」
「うーん。我慢するね。美味しそうなもの、いっぱい買っておくね!」
「ハンナならタダで貢がれまくるんじゃないか?」
夜には俺たちも解放され、〈秩序風紀委員会〉などの学園公式ギルドで完全警備となる。
これには〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉、〈攻略先生委員会〉も加わることになっているようだ。
故に俺たちの警邏は日中だ。
夜になれば基本自由行動できるので、ハンナとは夜会う約束をしていた。
楽しみにしておこう!
ハンナと一緒に出発して途中で別れ、俺は例の〈秩序風紀委員会〉のギルドハウスへと向かう。ここが学園祭期間中の俺たち警邏部隊の本部となる。
もちろん直属の上司は部隊長であるカンナ先輩だ。
「ついに学園祭当日だよ。今まであんたたちに手ほどきをしてきたが、さすがは上位クラスだと認識している。あんたたちの実力であればどんな暴徒が現れようとも鎮圧できるだろうさ。だが無理はしないように、何かあったら連絡をすぐに取ること。まずは焦らないこと。それだけは深く心に留めておくんだよ!」
「「「「「はい!」」」」」
カンナ先輩が皆の前で訓示を聞かせる。
そういえば去年はライザ分隊長もしていた気がするな。
あの時は本当に臨時のお手伝い、という感じだったが、今年は俺たちが主力の一部だ。
日中は学生の上位勢を中心にして警邏部隊を組織し、夜は学園公式ギルドを中心にして警邏部隊を組織して活動する体制。
「学園祭の規模は例年を遥かに超えている。何しろ、学生が去年の約6割増しなんだからね。それだけ様々な催し物も増えているということさ。そして、遠くから来場するお客さんも今年はそれだけ増えている。だが、そっちは普通の警邏隊に任せな、あんたたちはあくまで上級ダンジョンに入ダンするような実力者が問題を起こしたときに備えておくように!」
俺たちは主力であり戦力。
俺たちがしなくてはいけないのは一般人の対応ではなく、ここ最近実力を伸ばした上級ダンジョンの入ダン者だ。
そのため、俺たちは基本巡回するのがお仕事となる。
「まあ、クラス対抗戦の決勝戦に出場したあんたたちが巡回していれば、学生なら滅多なことはしないだろうがそれでも絶対じゃない。気張っていくんだよ!」
「「「「「はい!」」」」」
カンナ先輩の薫陶はためになるな~。
「改めて通達しよう。総司令官はあたし、カンナが務める。何かあった場合はここ本部に通達。総司令官から現場に通達し、問題解決に努めるものとする。質問は?」
つまりは命令権は総司令官に集約されるというわけだ。
俺たちはオペレーターを通してカンナ先輩に指示を仰ぎ、オペレーターを通して指示がなされるので遂行する、ということ。
しっかりとしたシステムだ。
なお元通信部にいたシヅキが、おそらく同僚にドヤ顔して歯ぎしりされてる光景が見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。
普通の通信部のメンバーは基本〈学生手帳〉でやり取りをしているので、声をやり取りできる【伏兵通信士】のシヅキがあのタイミングで引き抜かれたのはかなり痛手だったっぽい。
ただ、シヅキ本人は大仕事を抜け出せたからなのか、喜んでいたりするが。
「それじゃあ各エリアに散らばりな。あんたたち、頼んだよ!」
「「「「「はい!」」」」」
こうして学園祭1日目が始まる。
俺たちの最初の警邏の場所は、なんと学園で最も人が集まる場所と言っても過言ではない、第一アリーナの周囲巡回だった。




