#1502 これが最強武器の1つ〈スタンロッドアウト〉!
「お、おおおお! これがどんな『麻痺耐性』を持っていても100%貫通して〈麻痺〉させてしまうという〈秩序風紀委員会〉専用武器――〈スタンロッドアウト〉か!」
支給されたそれを手に持ち、俺はちょっと感動に打ち震えていた。
見た目は黒い警棒。
しかしその先っちょはスタンガンの様な2つの突起があって、スイッチを入れれば突起の間を電撃がバチバチ言うのだ。
ちなみにこれを押し当てるだけでも良いが、普通に棒の部分で叩いても〈麻痺〉するので、別にスタンガンを押し当てる必要は無かったりする。不思議!
「これが〈アーティファクト〉の1つ、暴徒鎮圧用武器〈スタンロッドアウト〉だよ。『麻痺耐性』を100%貫通し、盾の上から叩いても相手は〈麻痺〉するから暴徒鎮圧にはもってこいだ。さらに武器の種類としては〈棍〉に分類されるからどんな職業でも適性があるのが魅力さね」
ざわざわ、ざわざわ。
カンナ先輩の説明にざわめきが起こる。
今明かされる、〈秩序風紀委員会〉秘奥の武器の秘密。
まあ、俺は知ってたけど。
ちなみに〈棍〉というのはメイスなどの武器類のことだ。
これの特徴はなんと言っても使用者を選ばないところ。カンナ先輩の言うとおり、例外なくどんな職業でも装備することができるのだ。
普通、適性の無い装備類というのは装備すること自体ができない。
例えば〈刀剣〉の適性があれば刀や剣は装備できるし、なければ絶対に装備できない。
魔法使い系なんかはほぼ〈刀剣〉の適性が無いな。
そんな重要な〈適性〉という概念に、〈棍〉というのは真っ向から馴染みきった万能武器なのだ。
魔法使いから錬金術師、果ては魔王や勇者まで装備可能。
と言えば〈棍〉がどれだけとんでもない武器種なのかが分かるだろう。
ちなみに俺がスラリポマラソンでメイスを使わせていたのもこれが理由だったりする。メイスは人を選ばないのだ。
まあ、適性があるだけで、多くの職業は〈棍〉専用スキルを持っていないんだけどな。
「装備だけはできるよ、装備だけはね」そんな感じの武器である。
だが、〈スタンロッドアウト〉は〈棍〉の装備なので全員が装備できるのが素晴らしい。
これなら誰でも暴徒鎮圧できるな!
俺たちが本気でスキルなんて使用しようものなら、うっかり威力が高すぎた、なんてことも起こりうる。そう言う意味でも適した装備と言えよう。
ほんと、ゲーム時代俺はこれをもの凄く使ってみたかったんだ。
もしこれが使えればギルドバトルで猛威を振るうどころの話じゃないもんな。
まあ、結局使用不可で、さらには入手もできない武器だったんだ。
だからこそ、幻の装備とも呼ばれ、1度装備してみたいとずっと思っていたんだよ。
「おお~。おおおお~~~」
「ゼフィルスが目を輝かせているわ」
「……ゼフィルスがこんな目をするのなんて、スクショの時以来じゃないかしら?」
今の俺を、ラナとシエラがとても的確に表現していた。
そんなに顔に出ていたのか。いや、出てしまうだろうな。
感動の感情が抑えられない!
俺は現在、制御不可能だ!(←ブレーキさんこちらです!)
「それじゃあこれからこの〈スタンロッドアウト〉の使い方を学んでもらうよ! 大混雑が予想される学園祭で慣れない武器種を振り回すなんて事故まっしぐらだかんね! 練習して、ある程度武器の運用に慣れてもらうよ!」
ごもっとも! 俺は正気に戻った。
一通り〈スタンロッドアウト〉の説明が終わると、今度は基礎的な練習。
武器を振り回したことのない人もいるからな。魔法職の人とか。
クラス毎で分かれて練習を開始していると、カンナ先輩とフィリス先生のこんな会話が聞こえてきた。
「……なんで1組はそんなに棒を振るのに慣れてるんだい?」
「さあ、わかりません」
ふっふっふ、うちはスラリポマラソンで慣れてるからね。
〈エデン〉では1度は〈棍〉の振り方を学ぶのだよ。
おかげでラナですら〈棍〉の振り方はかなり堂に入ったものだった。まあ、ラナは1度ギルドバトルでサターンをメイスでぶっ飛ばしてるしな。ふふふ、慣れたものよ。
魔法使いは一応杖術を習う人も多いためアイシャとハクもそこそこ慣れていて。
1組で四苦八苦していたのは意外にもミューだった。
ラムダは剣を振り回しているからすぐに慣れていたしな。
それに平行して警邏の巡回のルートや、どういうときに緊急性があり連絡するのか、連絡システムの指導を受けたり、緊急事態に遭遇したときどういう行動すればいいのか、そういう状況を再現して実際に練習してみたりと、なかなかハードに俺たちは過ごした。
とはいえ去年も警邏の仕事をしていたので多くの学生は2度目とあってできている人は多かったようだ。
去年〈新学年〉に居たという学生だけ初めての警邏なので、そういう人は慣れた人と組まされることが決まる。
「あの、ゼフィルスさん。どうぞよろしくお願いします」
「おう。アイギスよろしくな」
「アイギスさんが一緒のチームですと心強いですわ」
3人1組のスリーマンセルを組むと、俺のチームに選ばれたのはアイギスとリーナだった。
この中でアイギスだけは去年〈新学年〉だったため、警邏の仕事は初めて。
俺とリーナで補助しながら仕事をしてほしいと頼まれた形。
こんな感じに慣れた2人に初心者1名を入れるという方式で、カンナ先輩が担任のフィリス先生と相談しパーティを決めてしまった。
去年はシャッフルだった気がするが、今年は気が抜けないということで、かなり綿密に練られた様子で、固定になったようだな。
「もし何かあった場合、リーナさんとゼフィルス君の組み合わせほど対応力のある構成はありませんから」
とはフィリス先生のお言葉だ。さすが、よく分かってる。
一応ラナやシエラがそれなら私が3人目になる、と名乗り上げたものの、ラナはエステルと組んでフィナを、シエラはミューと組んでシャロンを抱えているため却下されてしまった。
色々と考えられている様子だ。
「3日間このチームなんて、こんなこと言っていいのか分かりませんが、とても楽しみですわ」
「はい。私もゼニスは当日出せませんが、足を引っ張らないよう頑張りますね」
「こちらこそ。リーナやアイギスが一緒で頼もしいよ。頑張ろうな!」
ということでチーム分けが決定したのだった。
それから準備期間はどんどん過ぎていき、あっという間に学園祭当日がやって来た。




