#1499 上級職ランクアップ! エフィシス編!
シヅキにたくさんの「〈上級転職〉おめでとう」というお祝いの言葉が贈られてみんなとハイタッチしている光景を見届けると、次の〈上級転職〉者が前へ出てくる。
「よろしく、ゼフィルス」
「おう。次はエフィの番だな」
3人目はエフィだ。
エフィの〈上級転職〉は【ウリエル】。
【天使】系、【アークエンジェル】の〈上級転職〉先の中でも攻撃に特化している強力な天使だ。
『大天使フォーム』をしてからの連続攻撃は非常に強力で、フィナの猛攻を見ても分かる通り、アレを受け続けて耐えられる人は中々いないと言われている。
【ウリエル】はその攻撃特化版。天使系で最強の大火力を秘めたスキルや魔法を連発し、状況に応じて遠近を使い分けることのできる強力な職業だった。
ただ、【姫騎士】系列も同じようなことができるため、ゲームでは上限1枠となっている【天使】系に【ウリエル】を選ぶ人は少なかったという、ちょっと不遇な職業だったんだよなぁ。
しかし、その上限が取っ払われたのなら使うでしょ。もちろん使うでしょ!
「そういえば聞きたかった」
「ん? 何を聞きたかったんだ?」
「【ウリエル】って物理型? それとも魔法型に育成する?」
「両方だな。両方使って勝ちに行く、とても希少な職業なんだぞ」
「両方……」
この〈ダン活〉では育成の仕方に1つのセオリーがある。
SUPを振る際、STRかINTかDEX、どれを特化して育てるか、だ。
基本的に1つに絞るのが強いキャラを生み出すコツである。
俺の【勇者】系は特殊中の特殊だが、普通はSTRかINTの才能があればどちらか選ぶことになる。フィナにSTRを選んでもらったように。
これはどちらも育てると中途半端になることが多いからだ。
つまり物理ならSTR特化でINTは欠片も育てないし、魔法ならINT特化でSTRは欠片も育てない、ということだな。
しかし、【ウリエル】の場合は凄いぞ。
育成するのは――基本的にINT特化になる。
だがスキルの中にSTRとINTの数値を合算して共有するというものがあるのだ。
つまりINTが600あってSTRが10でも、共有されることでINTとSTRが両方とも610として使用することができる、とんでもないスキルだ。
STRとINTを入れ替えではなく、共有というところがマジ化け物。
これにより、【ウリエル】は他の職業に就くダメージディーラーと同じような火力を出しながら、物理も魔法も使用することができるのである。パナい。
エフィがこれを聞いてきたのは、INT特化で育てているのになぜかSTR依存のスキル取得が最強育成論に書いてあったからだろう。
普通ならアクシデントだな。だが、この理由を説明すると納得してくれたよ。
「納得した。【ウリエル】強い」
「だろ?」
「でもなんでSTRじゃなくてINT?」
「INTを上げるとMPも2割増えるからだな。これはSTRを育ててもHPやMPは増えないため、必ずINTを育てて数値を共有させるのがセオリーとされている」
「そんなセオリー聞いたことない」
「ふ、そう褒めるな」
「あれ? 褒めてたんだっけ?」
途中エフィがはてなと頭に浮かべていたが、きっと大丈夫だろう。
「さーてそれじゃあ早速〈上級転職〉を始めよう。まずは〈宝玉〉からだな。これは〈天聖の宝玉〉を使用する。――ということで、使ってくれ」
「軽い。とてもお手軽な軽さで渡されて困惑を隠しきれない」
「全く困惑しているように見えないけどな」
「今の自分の心境を言葉で表してみた」
「クールだなぁ」
中々のクールっぷり。しかし心の中ではどうやら困惑しているらしい。
うん。隠しきれないとか言ってるけど、隠しきれてるからな?
改めて話してみたが、俺の身近にはあまり居なかったタイプだ。クール秘書のコレットさんや、〈エデン店〉店長代理のセラミロさんにちょっと似てるかも?
おっとシャッターチャンス。パシャパシャ。
「使った。なんだかふわふわしてる感じ」
「まだまだそのふわふわ感は終わらないぜ。何しろ【天使】は覚醒の光が確定しているからな。どんなポーズを取るか決めておいてくれよ」
「了解」
クール。
ポーズを取ってと言ってこんなに素直に了解されたのは初めてかもしれない?
とても楽しみだぜ。
「それじゃあ次だ。【ウリエル】と言えば巻物。これは必須だな」
「巻物?」
「天使は必ず何かしらの持ち物を持ってるんだよ。【ミカエル】なら天秤、【ガブリエル】ならユリの花、【ウリエル】なら巻物、【ラファエル】なら魚、って感じにな」
「え? 私って魚なんですか?」
「こほん。マシロのそれはまた後で。大丈夫だ、生魚とかじゃないから」
「わかりました」
途中俺の説明にマシロが入って来てしまうハプニングもあったが無事進行。
俺は適当な巻物を取り出して渡す。
ちなみに【ウリエル】の持ち物なら本じゃないか? という疑問もあるだろう。
だが本だと武器であるからなぁ。おそらく開発陣が難易度を上げるためにわざと巻物にしたんだろう。本だとすぐに見つかってしまうから。
また、エフィの装備は現在赤系の軽装備。
まるで海賊船の女船長もかくやというハットに身体にしっかりとフィットしたカジュアルな上下、そこにコートを羽織っている姿だ。
かなりかっこかわいい見た目をしている。ツインテール船長、これはありだよ。
戦闘では右手に片手剣、左手に銃というスタイルだ。
これがクラス対抗戦の時のスタイルで、今は左手は銃に見える杖となっている。
エフィは元々上級中位ダンジョンにも入ダン出来るほど装備も強かったため、装備の更新もする必要が無かった。そのため自分の持ち物をそのまま装備している形だな。
おっとそうだった、巻物巻物。
これでいいか?
「……これ、クラス対抗戦MVP賞受賞って書いてあるんだけど……」
「あ、なんか適当に〈空間収納鞄〉から取り出してた」
「…………」
そういえばこの前のクラス対抗戦で学園長から貰った賞状、まだ〈空間収納鞄〉に入れっぱなしだった。
どうやら俺が適当に取り出した巻物はクラス対抗戦の表彰状だったらしい。
これ巻物かな? 紙を丸めれば巻物? なんかこれでできるかどうか試したくなってきた!
「エフィ、悪いがそれで1回試してみてくれ!」
「これで【ウリエル】に就けるの?」
エフィがすっごく不思議そうな顔をしてる。クール顔がここで崩れるレベルだったらしい。うむ、これも実験だ!(←好奇心100%)
とりあえず、これは個人のものなので問題は無い。これがクラス優勝のやつだったらさすがに引っ込めるが、あれは教室に飾ってあるので大丈夫だ。
「噂通りだ。学園長、お労しや」
「こほん。シヅキはちょっと静かにしてようか。――後はもう終わっているものばかりだから、〈上級転職チケット〉を持って〈竜の像〉にタッチすれば【ウリエル】が載っていることだろう」
「了解」
そう言って〈上級転職チケット〉を持ったエフィが〈竜の像〉へタッチすると、ジョブ一覧が現れる。そこにはちゃんと【ウリエル】の名前が輝いていた。
「やっべ、マジで出た!」
「え? 今何か聞こえたような」
「気のせいだ!」
朗報。表彰状でも巻物の代わりになる。
なぜかは知らない。しかし、これは新たな発見だぞ!
俺はしっかり記憶に刻み込んだ。
「よし、いったれエフィ!」
「……【ウリエル】を選択」
ポチッとエフィがそれを押すと、【ウリエル】の文字がエフィの上に輝いた。
直後に巻物が勝手にオープンし、覚醒の光が現れる。
あ、表彰状開いちゃった。
まあいい! 演出開始だ!
「おっしゃ行くぞ! エフィ、ポーズを取ってくれ!」
「これ、私がMVPみたいになってるんだけど!?」
ここでハプニング。表彰状が勝手にオープンしたことでまるで表彰台に上がった金メダリストにでもなったかのようなエフィが誕生してしまったのだ。
俺はそれでも撮りまくった。パシャパシャ。
クール顔が崩れたエフィのスクショがたくさん撮れてしまったよ。
「これ、取って!」
「任せろ! いっぱい撮るぜ!」
「いや、そうじゃなくて!」
一通りスクショを撮りまくり、覚醒の光が終わったエフィは、しばらく賞状を手に持って読むと、それをクルクル巻いて丁寧に返してきた。
「それ、消してね」
「それはできない相談だ」
この慌てるエフィのスクショ。なんとなく将来の笑い話になる予感なんだぜ。
まあそれは置いといて、巻物をしまって改めてエフィに向き直る。
「エフィ、〈上級転職〉おめでとう。これで君は【ウリエル】だ。今後〈エデン〉でトップクラスのアタッカーになることを期待するぜ」
「……とても複雑な気持ちだけど、頑張る」
こうして3人目も無事終わる。
最後は――マシロだな。




