#1498 上級職ランクアップ! シヅキ編!
ゼルレカが終わると、次はシヅキの番。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ! じゃあ早速だが〈上級転職〉してもらうぞ? 前から言っていたように、シヅキに就いてほしいのは【悪魔】系の上級職、高の上――【ルシファー】だ!」
俺は背後にデデンとテロップがつきそうな勢いで宣言した。
――【ルシファー】。
様々な物語で悪魔最強と名高く。別名では傲慢や大魔王サタンとも呼ばれている、まさに最強の一角。
ちなみに【傲慢】と【大魔王】と【サタン】と【ルシファー】は〈ダン活〉では別職業として設定されているぞ。どえらい強い職業としてな!
〈ダン活〉でもそんな【ルシファー】の能力は高く、特に召喚系に特化しており、〈金箱〉級の上級召喚盤を起動することが可能とあってもうとんでもない存在だった。
特に魔王属性、とでも言うのだろうか。自分自身の能力も高く、まるで【魔王】の様なラスボス級のスキルや魔法をじゃんじゃん使うことのできる、ロマン職でもあった。
いわゆる「いては」系と呼ばれるバフを消す魔法も覚えるぞ。相手は死ぬ!
さらに【アークデーモン】時代から覚えている『悪魔召喚』と『召喚契約』で結ばれた固有悪魔を保持し、育成することも出来るほか、〈六ツリ〉では『魔王進化』スキルで悪魔モンスターを魔王へ進化させることが可能だというのだから恐ろしい。
加えて魔王のもう一歩先の段階、大魔王形態も用意されていて、どこまで強くなってしまうんだという笑いが止まらない職業でもあったな。
ゲーム時代、【悪魔】系はほんと【睡魔女王】と【ルシファー】でどっちに育成するか毎回悩んだものだよ。
ではなぜこれほどの職業を今まで〈エデン〉に加えなかったのか。
その理由の1つが、先程語った、ラスボス級の魔法を使えるロマン職、という部分にあった。
正直に言うと、【ルシファー】は強い。もうそれはそれは強いんだが、【ルシファー】を【ルシファー】らしく活躍させるには六段階目ツリーが必須になる!
いや、五段階目ツリーでも強いことは強いんだが、六段階目ツリーで覚えるスキルと魔法を総なめにして覚えさせて使った方が、より【ルシファー】らしく、さらに使い勝手が良いのである。
以前、【勇者】が【魔王】職に〈上級転職〉した際、それまでのスキルが使用不可になる、という話を語ったのを覚えているだろうか?
故に【勇者】の時はSPを使うのは勿体ない、となる。
【ルシファー】はそこまで傲慢ではないが、やはり魔王と呼ばれていたからか、それまでに覚えたスキル魔法を顧みないようなやべぇ能力を六段階目ツリーで覚えまくるのである。つまり、六段階目ツリー以外を取得させるの勿体ない、となる。
全く覚えさせなくても良いというわけではないが、極力六段階目ツリーまでSPは温存しておくのが【ルシファー】の育成方法だ。
故に、できるなら上級上位ダンジョンに入ダンするようになって、高速パワーレベリングができるようになってからお迎えする職業なのである、と言えばどれだけ【ルシファー】がやべぇ職業なのかが分かるだろうか?
「ちゃんとSPを保持しているか?」
「はい! でも、正直〈初ツリ〉と〈二ツリ〉と〈三ツリ〉、全部合わせても7つしか取らないとは思わなかったけど」
「〈道場〉で高速レベルアップしたからこそできる育成論だな」
「後は全部上級職のスキルと魔法で揃えるとか、正直とんでもなさ過ぎ!」
そう、なんとシヅキに使用可能させたスキルは、たったの7つだ。ユニークスキルと後6つだけだな。
ぶっちゃけ【アークデーモン】は【アークエンジェル】並に強い職業なのだが、【ルシファー】にするときはあまりここでSPを振らない方がいいのだ。
【アークデーモン】は【サタン】方向にも行けるためにタンク系のスキルが充実しているのだが、これが罠。【悪魔】は盾を持てない!
おかげで【サタン】でこそ真価を発揮するスキルを大量に覚えた【ルシファー】も量産されてな。強々【ルシファー】と弱々【ルシファー】なんて名前が出来たりもしたんだ。召喚師が挑発スキル覚えてどうする!?
おっとまた話がズレた。
「ふっふっふ。四段階目ツリーと五段階目ツリーではもう少しスキルを覚えてもらう予定だから安心してほしい」
「それってどういう安心? まあ、ゼフィルス君がそういうのなら任せるけど~」
「それじゃあ早速。使ってもらうのは〈天杯の宝玉〉だな」
「おお~。えっと、ちなみにこれって今いくらくらい?」
「値段は気にしなくていいぞ。これは今の値上がりする前に買い溜めたやつだから」
「買い溜めた……!」
シヅキはリアクションとノリがすこぶる良い。とても良い反応だ!
そういえば〈宝玉〉を渡されたとき、その価値を知っている人は震える者も多かったが、お値段を聞かれたのは初めてだったな。
懐かしい。買いに走ったのは去年の夏休み。
あの頃はお値段がすっごく安かった。ゲーム時代よりも安い商品というのは中々見ないが、当時の〈宝玉〉はそれほど安かったのである。……〈天槍〉以外。あと〈天剣〉も高かったか。〈天剣〉は下級職、高の中から上級職、高の上(SUP35)になるときによく使われる〈宝玉〉だ。つまり〈姫職〉には絶対使わないという意味であり、転じて「男」に使われる〈宝玉〉という意味を持っている。
〈彦職〉で使われるのもそのためだな。うちではレグラムには使わなかったけど。
だからかは知らないが、〈天剣の宝玉〉はこの世界でも結構使いどころが知られていて、お高かったんだよなぁ。
おっとまた脱線してしまった。
「ごくり、さすがは〈エデン〉。先見の明の能力値が高すぎる! じゃ、じゃあありがたく使わせてもらおうかな?」
「おう。使ってくれ」
震える両手で受け取ったシヅキが、ゴクリと息を飲んで〈宝玉〉を使用する。
〈宝玉〉が粒子のように解けてシヅキの中に入っていくのだが、シヅキはギュッと目を瞑ったりキッと開けて見たりと忙しそうだった。葛藤が見られる。
「よし、じゃあ、続いては――これだ」
「…………あの、これも〈宝玉〉なんだけど?」
「おう。こっちは〈天罪の宝玉〉だな!」
ここが【ルシファー】のとんでもないところだ。
なんと【ルシファー】は、〈宝玉〉を2つ使う唯一の職業なのである。
これが原因で、他の【悪魔】系は〈天杯〉で〈上級転職〉出来たのに、【ルシファー】だけは出来ないものだから色々試され、すぐに〈天罪〉を使えばジョブ一覧に載ることが突き止められたのだが、「〈天罪〉を使ったんだがジョブ一覧に載らないぞ!?」と〈天罪〉だけしか使わなかったプレイヤーから悲鳴が上がって混乱したのだ。
〈宝玉〉は1人1つ。
そんなルールなんて無いのにこの常識が浸透していたせいでしばらく【ルシファー】は〈宝玉〉以外に何か条件があるはずだ! と別方向で大捜索がされたんだっけ。
結局ヒントを解読した人から「これ、もしかして〈宝玉〉2つ必要なんじゃない?」というコメントが舞い込んでようやく発見に至るまで、中々見つけられなかったんだよ。思い込みって怖いよな~。
「【ルシファー】は、〈宝玉〉2つ必要なんだよ」
「なんてお金の掛かる職業!」
うむ。さすがのリアクションに乾杯。
若干悲鳴を上げながら2つ目の〈宝玉〉を受け取ったシヅキは、またもキュッと目を瞑って使用していた。
よしよし。後は槍だ。
「次に、武器だな。〈地獄の三つ叉の戟〉を取り出してくれ」
「はい!」
続いて取り出したのが装備品。〈夜ダン〉のレアイベントボスでドロップした〈金箱〉産武器。〈地獄の三つ叉の戟〉である。
これを持つことで【サタン】や【ルシファー】に〈上級転職〉できる、まさに専用装備だな。
魔法力の値が凄まじく高くて、槍なのに杖とほぼ同等に使えてしまう、物魔両刀の両手槍だ。
それを取り出し、構えるシヅキがなかなかに様になっている。
シヅキの装備はこれまた〈夜ダン〉のレアイベントボス、〈ホネデス〉からドロップしたレシピから作製した、〈悪魔生誕シリーズ全集〉の女版だ。
黒を基調にして赤で彩られた、ドレスにも似た装備。というかドレスだな。
ゴスロリ、とまではいかないが、それに近い構造のドレス。
背中にはコウモリの翼、頭には悪魔の2本角がこめかみの辺りから生えているようにしてセットされている。
まさに悪魔っ娘装備。
同じ感じの装備を身に着けているエリサがちょっと感動してたからな。
ちなみにシヅキは、この装備を結構気に入っているらしい。
「準備出来、ました!」
「無理にですますつけなくてもいいぞ?」
「いやぁ、なんか緊張すると自然に出ちゃうのよ」
そういうことなら仕方ない。そういえばスカウトの時も言ってたっけ。
よし、こんなところだろう。
残りは〈戦闘不能10回以上達成〉なのでこれはすでに済んでいるからな。
シヅキに〈上級転職チケット〉を持たせて、〈竜の像〉の前に立たせた。
「後はタッチすれば【ルシファー】が出るはずだ」
「は、はい! やってみます!」
ドキドキ。
そんな心境が透けて見えるかのようにシヅキが〈竜の像〉にタッチすると、しっかり【ルシファー】の名前が現れていた。
「本当に出た!? ゼフィルス君はなんでこれ知って――」
「細かいことはいい! いったれシヅキ!」
「――はい! トモヨちゃん、マリアちゃん、私も今追いつくんだよ!」
シヅキがなにかに気が付き掛けたが大したことではないだろう。
俺が背中を押してあげれば気合いを入れたシヅキが【ルシファー】をタップする。
他の一覧が消え、【ルシファー】の文字だけがシヅキの上に輝いた。
そして続いてくる覚醒の光。
「ふわ、ふわわわ!」
「――よし、今だ! パシャパシャ!」
「ま、またやってやがるぜ……」
「この記念すべきシーンだけは見逃せない!」
覚醒の光に包まれたシヅキを激写し、ゼルレカにツッコまれる。
だが俺はやめなかった。
光の中で若干浮いてあわあわするシヅキに指示を出し、槍をかっこよく構えてもらってパシャパシャ。
なんか、これぞ悪魔生誕って気がするぞー!
よーし、良い絵が撮れた!
「ただ〈上級転職〉するだけだと思ったのに、何この試練的なもの……? 上位のギルドってみんなこんなことしてるの?」
「いや、少なくとも〈獣王ガルタイガ〉ではしてなかったから安心しな」
シヅキがどこかに迷ってしまったがゼルレカのフォローでなんとか無事に帰って来れた。
ここで俺はいつものコメントを贈るんだ。
「シヅキ、〈上級転職〉おめでとう!」
「んーありがとう!」
ちょっとヤケ気味の返答だった気がしないでもないが、良い返事だった!




