#1497 上級職ランクアップ! ゼルレカ編!
「なんかまた取り出した!?」
「それ〈上級転職チケット〉じゃん!」
「これが〈上級転職チケット〉ですか」
「そう、これが嫁チケット」
俺のペラリと見せた4枚の〈上級転職チケット〉にゼルレカとシヅキは良いリアクション。マシロは純粋に初めて見たようだ。ってこらエフィ、純粋なマシロに変なこと教えないの。ちゃんと「嫁チケットじゃないぞ?」と訂正しておいたよ。
「こほん。つまりはこれから4人にはそれぞれ上級職に就いてもらう。ということだ!」
「ということだ、じゃないし!」
「すっごく話が軽かったよ今!? 私が〈秩序風紀委員会〉で〈上級転職チケット〉受け取ったときはもっとこう、多くの人たちの目の前で授与されて、盛大な拍手で祝われたんだけど!?」
「私も〈救護委員会〉で同じ感じだった。とても嬉しかったのを覚えている。これが〈エデン〉流? さすが、〈リンゴとチケット交換屋〉を経営している所は違う。嬉しいより困惑が勝る」
「私、もう上級職になれるんですか?」
事の重要さをしっかり認識している3人と、ついこの間〈転職〉したばかりなのに、もう上級職なの? と純粋なハテナを浮かべるマシロのこの温度差よ。
俺は笑いながら勢いで突き進むのだ!
「ははははは! 〈エデン〉はこれが普通なんだ! みんな下級職LV75に到達したら〈上級転職〉! これ、〈エデン〉の常識。むしろ下級職のまま上級ダンジョンへなんて送れないな!」
「ぶ、ぶっとんだ常識もあったもんだぜ……」
「というか上級ダンジョンに潜ることが大前提になってるし」
ゼルレカとシヅキのリアクションがすごくいい。なんか、つい驚かせてみたくなってしまうんだ。この気持ち、分かってもらえると思う。
「じゃあ上級職にならないのか?」
「私は喜んで受ける。困惑を喜びに変えてみせる」
「私も受けたいです! もっともっと頑張ります!」
「よーしじゃあエフィとマシロには1枚ずつ〈上級転職チケット〉を進呈しよう」
「ちょっと待った! あたいだって受けるに決まってる!」
「もちろん私もだよ! みんなと上級ダンジョンにも挑むよ!?」
「もちろんオーケーだ! ゼルレカとシヅキにも〈上級転職チケット〉を進呈だ!」
「あ、あっさり渡してきたぜ……!」
「〈上級転職チケット〉、確か私とエフィの補填分は〈秩序風紀委員会〉と〈救護委員会〉へも渡しているはずだし、〈エデン〉って本当に何枚持ってるんだろこれ?」
「細かいことは気にしない、気にしない。それじゃあ今から〈測定室〉に行くぞ!」
もう準備は滞りなく済んでいたので、フィリス先生から鍵を借りて〈測定室〉に入室し、ゼルレカたちの〈上級転職〉を即で始めることにした。
フィリス先生が「また〈上級転職〉、ですか?」と少し硬くなった笑顔をしていたのが印象的だったんだぜ。
「それじゃあ、まずは――ゼルレカからいってみようか」
「あたいからでいいのか?」
「今回3人をスカウトする切っ掛けになったのがゼルレカだったからな。最初に〈上級転職〉するのはゼルレカで決まりだ。その次はシヅキ、エフィ、マシロの順番でいく」
「スカウトされた順番というわけだ。それならいいよ」
「順番にこだわりはない。どうせすぐにみんな上級職になるし」
「私も構わないです。というより自分の番で失敗しないよう、最後がいいくらいです。〈上級転職〉がどういうものか、見させていただきます!」
マシロがとってもマシロらしい。
相変わらず意欲と気合いに溢れた、良いフンスをしていたよ。
3人からもオーケーをもらい、そういうことならと照れながらゼルレカが前に出る。
「ゼルレカは〈放蕩獣鉄剣〉を取り出してくれ」
「お、おう」
〈空間収納鞄〉に入れていた武器をゼルレカが取り出す。
その名は〈放蕩獣鉄剣〉。
【大罪】職の一角――【怠惰】に就き、【怠惰】の本領を発揮するための専用装備だ。
懐かしいな。
「これ、ゼフィルス先輩たちが見つけてきてくれたんだって?」
「おう。あれは良い取引だった」
現在タバサ先生が持っておられる〈白の玉座〉。
去年あれを巡って、前〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスター、ガルゼ先輩と交渉し〈放蕩獣鉄剣〉と交換するに至ったのだ。
「だが結局あたいがこっちに来たせいで凄まじいレートで交換したはずの〈放蕩獣鉄剣〉まで〈エデン〉に来ちまって、〈獣王ガルタイガ〉が丸損しちまった」
ゼルレカがそう言ってちょっとブルーになる。
弱くて負けて〈エデン〉に来たゼルレカにとって〈獣王ガルタイガ〉の迷惑や重荷になることは、とても悔しいらしい。その辺実力主義が染みついてる。
これから〈上級転職〉するのにそれはいけないと俺もフォローした。
「いやそんなことないぞ? 多分ガルゼ先輩が聞いても笑い飛ばすんじゃないかな。なにしろ〈放蕩獣鉄剣〉と交換した〈白の玉座〉は〈決闘戦〉で手に入れたはいいものの扱いには困っていたし、交換してからも〈放蕩獣鉄剣〉はゼルレカに渡すと言って埃を被らせていたくらいだからな。そもそもそれが〈エデン〉に来ても〈獣王ガルタイガ〉にはなんの影響も出てないと思うぞ」
「そう、なのか?」
俺の説明にゼルレカがきょとんとした目で見つめ返してくる。
まあ去年のことだしな。ゼルレカは今年入学したばかりなのだし、知らないのも無理はないのかもしれない。ガルゼ先輩ってそういう細かいこと説明しなさそうだし。
「おう。サテンサ先輩が〈放蕩獣鉄剣〉ごと〈エデン〉にゼルレカを預けたのがその証拠だろう。〈獣王ガルタイガ〉じゃ使わないから、ゼルレカの役に立ててくれと、そういう思いがこもっていると見たぜ」
「……そうか。なら、こいつで強くならないとな」
そう言ってゼルレカの表情に決意の炎が灯ったのが見えた気がした。
シャキンと〈放蕩獣鉄剣〉を背中に背負う形で装備する。
うん、かなり様になっていてかっこいいな。
現在のゼルレカの装備は上級下位のランク8、〈雷ダン〉からドロップした、〈雷黄剣豪シリーズ〉。
軽装備系で速度特化型の防具だ。軽装備なのにHPもかなり上昇するし、『食いしばり』系のスキルも内包しているので、回避にもし失敗した時も安心をコンセプトにしている。
ゼルレカの現在の職業【ハイニャイダー】はある特殊な性能を持っているので、それと相性が良い装備を選んだ形だ。
見た目は着崩したファンタジー和風、とでも言えばいいだろうか。
やや余裕のある和服系の装いだが、下はホットパンツ寄りで足が大きく露出していて、とても動きやすそうな見た目になっている。
マリー先輩の腕もかなり上がっていて、これで上級中位ダンジョン中は換装しなくても大丈夫という性能を誇っているぞ。素晴らしい!
よし、ここで一気に〈上級転職〉させてしまおう。
「ゼルレカに就いてもらいたいのは【怠惰】だ。ゼルレカは【怠惰】は知ってるよな?」
「もちろんだ。というかあたいの場合、当初から兄貴に【怠惰】に就けって言われてたからな。戦力的にも申し分ないし、あたいも構わないって思ってる」
【怠惰】はその名の通り怠惰を司る【大罪】職。
その力はデバフと――重ね掛け。
本来、〈ダン活〉のスキルや魔法というのは、バフやデバフの重ね掛けができない。
『攻撃力上昇』のバフを使い、また別の『攻撃力上昇』バフを使用すると、重ね掛けではなく上書きされてしまうという仕様だ。
ただ、『STR上昇』や『装備能力アップ』、『威力上昇』や『ダメージ上昇』など分類が違うのならこれは上書きされずに付与できるんだけどな。
そして【怠惰】はこのルールをぶち破る、超デバフスタイル。デバフの重ね掛けをして相手を怠惰にしてしまうという罪深い能力を持っている。
つまり『攻撃力デバフ』を与えた相手にさらに『攻撃力デバフ』、さらに『攻撃力デバフ』、さらに『攻撃力デバフ』、さらに『攻撃力デバフ』と何度もデバフを与え続けてしまうユニークスキルを持っているのだ。
結果、相手の攻撃力は可哀想なくらいまで落ち込んでしまい、攻撃が全く脅威にならなくなる。なんてことが起こるのである。
ゲームではここで「あなた、怠惰ですね」とか決めゼリフを浴びせるのが流行ってたっけ。
怠惰にしたの、俺たちだけどな!
さらにこれが『防御力デバフ』だった場合は戦闘が進めば進むほど相手の防御力は下がっていき、たとえボスだったとしてもとんでもないダメージを負ってしまうのだ。
事実、ゲーム〈ダン活〉で最高レベルのDPSを出した動画ではこの【怠惰】がパーティに組み込まれていたほどだ、と言えばどれほど罪深い職業か分かるだろうか。
非常に強い。さすがは【大罪】職。
正直、この全てをゼルレカがちゃんと理解しているかは怪しいので、就かせた後、俺が徹底的に教え込んでやろうとほくそ笑んでいる。ふふふ。
「んあ!? なんだ、今すげぇ寒気、いや悪寒が走った気がしたぞ!?」
おっといかんいかん、俺の念は〈幸猫様〉へも届く! ちょっと強く念を込めすぎてしまったようなんだぜ。
俺は誤魔化すように〈天罪の宝玉〉を取り出してゼルレカに渡した。
「ほらゼルレカ。まずはこれを使ってくれ」
「いや使ってくれって、これ〈宝玉〉――」
「これを使わないと【怠惰】には就けないぞ。大丈夫だ、その〈宝玉〉分はしっかり〈エデン〉で働いてもらうからな」
「! そういうことならありがたく使わせてもらうぜ。しっかり働いて返すからな!」
そう言って先程とは裏腹に一気に〈宝玉〉を使うゼルレカ。
なるほど、ゼルレカのことが少し分かった気がした。
ゼルレカは根っからの傭兵、ということなんだろうな。筋はしっかり通す。それがゼルレカを動かすコツかもしれない。
「持ち物は〈放蕩獣鉄剣〉だけで良いし、他の条件は全て満たしている。ゼルレカ、〈上級転職チケット〉を持ったまま〈竜の像〉に触ってみな。そうすれば【怠惰】が出ているはずだぜ」
「マジかよ。【大罪】職ってそんな簡単に就けたっけ?」
まあそう思ってしまうのも無理はないが、ゼルレカは当初から【怠惰】に就くことが前提で育てられていたからな。ステータスの既定値を見事に満たしてたんだ。
以前アリスとキキョウに頼まれてゼルレカに渡した俺の【怠惰】の〈最強育成論〉メモ、ちゃんとその通りに振ってくれていたみたいでホッとしたよ。
SPとかかなりきわどい振りだったんだが、ちゃんとメモの通りでマジありがたいところだ。サテンサ先輩には感謝だな。
ゼルレカは背中に〈放蕩獣鉄剣〉を背負ったまま、左手に〈上級転職チケット〉を掴んで〈竜の像〉にタッチすると、しっかりジョブ一覧には【怠惰】が載っていたのだった。
それを見て1度深呼吸をしてから改めて【怠惰】をタップするゼルレカ、意外に慎重な様子を見せる。
あとで聞いたら「こんなによくしてもらっているのに失敗とか絶対できねぇだろ」と言っていたよ。なかなか可愛いところもあるよな。
そうして他の一覧が消え、ゼルレカの頭上に【怠惰】の職業名が光ると、続いて覚醒の光がゼルレカを包み込む。
「うわ!? なんだこれ!?」
「知らないのか? それが覚醒の光だ」(パシャパシャ)
「ってゼフィルス先輩はなにしてんだ!」
「もちろん、記念を残してるのさ」
「残すなよ! 恥ずかしいだろ!?」
「まあまあそう言わずに。あ、ポーズをお願い。〈放蕩獣鉄剣〉構えて!」(パシャパシャ)
「うがあああああ!」
結局覚醒の光を楽しみ尽くした(?)ゼルレカはなぜかその後、四つん這いになって荒い息を吐いていたという。
「ゼルレカ、〈上級転職〉おめでとう」
「…………ありがと」
まずは1人目だ。
 




