#1496 育成方針〈エデン〉流を開始しちゃうよ10日間
歓迎会が終わった翌日から、早速俺が付きっきりで教え、エステルかアイギス、ロゼッタを借りて、シヅキたちのダンジョン攻略へ勤しむことにした。
今日はエステルに来てもらっている。もちろん〈イブキ〉担当だ。
「では、これより4人の育成方針〈エデン〉流を説明させてもらう! 質問は説明が終わってから受け付けるからまずは最後まで聞いてほしい!」
「はい! 質問よろしいですか!?」
「説明前だから許可する!」
「許可するんだ!?」
シヅキの挙手があまりにも見事だったためうっかり許可を出してしまったら、ゼルレカが目を丸くして驚いていた。
〈覇姉のサテンサ〉先輩はそこら辺、厳しそうだもんなぁ。
だが、ここでは俺がルールだ!
そしてシヅキの視線は、本日手伝ってくれる〈乗り物〉担当のエステルに向けられる。
「王女殿下の護衛であるエステルさんが手伝ってくれるって、ありなの? 王女殿下が危険な上級中位ダンジョンに潜っているのに?」
「もちろんオーケーだ」
「よろしくお願いしますね」
「あ、はい。よろしくお願いします?」
うむ。ラナは現在ノーアたちの攻略階層更新のため、一緒に〈謎ダン〉に潜っている。つまり上級中位ダンジョン攻略中だ。
まだまだどんな危険が潜んでいるか分からない場所。そんなところに向かう王女ラナから護衛を引っ張ってきていいの? とシヅキは疑問に思ったわけだ。
もちろんオーケーだ。ここでは俺がルールだ!
まあ冗談は置いておくとして。
正直〈謎ダン〉に潜っているメンバーは過剰戦力も良いところなのでエステルが1人抜けたところで大した問題にはならない。〈エデン〉はそんな柔な鍛え方をしていないのだ。
そうシヅキたちに説明する。
「なんか思っていたよりも数倍とんでもないところだった……!」
「つまりはこれから4人もこの〈エデン〉に仲間入りするんだよという意味だ。これからビシバシ鍛えて、すぐにみんなも〈エデン〉レギュラーメンバーに合流させてやるからな!」
そう、俺はにこやかな表情で強くなれるぞと語った。
「腕が鳴る」
おっとエフィはこの話を聞いてやる気が出た様子だ。
「私も、ヒーラーとして、役に立ちたいです!」
「あたいだって、こんなところで燻っているわけにはいかねぇ! アリスやキキョウたちに追いつけるなら、どんなキツい訓練もこなしてみせる!」
「良い覚悟だな!」
マシロとゼルレカも覚悟あり。
これなら4人とも強くなれるだろう。
早速俺たちは中級上位ダンジョンの1つ、ランク6の〈無人の巨城ダンジョン〉通称:〈妖館ダン〉へと潜り、放課後の2日間で攻略した。
「……は?」
「ゼルレカ、分かる、分かるよ。私たちは友だよ」
「お、おう。分かってくれるかシヅキ?」
どうやら2日という最速攻略は友情も最速で育んでくれたようだ。
いつの間にかシヅキとゼルレカが仲良くなってた。
最初はゼルレカも「シヅキ先輩」と言っていたのだが、今では呼び捨てが定着している。
シヅキとゼルレカがとても何か言いたそうに俺の方に視線を向けてきたが、結局はなにも言わずに受け入れたようだった。
「ええ、それが正解です。少々の疑問や問題など、〈エデン〉では些末ごとなのです」
「そうなんですか!?」
「〈エデン〉ではこのくらい些末事。覚えた」
エステルもこのようにマシロやエフィに説いていたよ。
いや、問題なんて欠片も無かった気がするんだが。順調そのものじゃない?
さらに1週間掛けて4人に3つの中級上位ダンジョン、ランク7〈鎧獣の鉄野ダンジョン〉通称:〈鉄獣ダン〉。
ランク8〈強者の鬼山ダンジョン〉通称:〈鬼ダン〉。
ランク9〈猛禽の渓谷ダンジョン〉通称:〈猛禽ダン〉を攻略してもらうと、ここで一番攻略者の証の保持数が少なかったマシロが上級ダンジョンへの条件を満たした。
「見てくださいゼフィルス先輩! 攻略者の証、5つ揃いました~」
「おお~! そりゃあよかったな! これで上級下位ダンジョンに行けるな!」
「はい!!」
見てよこの素直なマシロを。純粋にはにかむ笑顔がすごく癒されるんだけど。
さすがに約10日間もぶっ続けでダンジョンを攻略したりボスを撃破したり、レベル上げをしていれば慣れもした様子で、最初は少し俺に対して緊張していたマシロも今ではこの通りだ。
よし、そろそろいいだろう。
「それに今回でみんなLV75に育ったな?」
「ああ。無事カンストだぜ」
「まだ下級職にも慣れてないけど。空を飛ぶのとか」
「私なんかまだ召喚獣の扱いに振り回されている気がするよ」
ゼルレカはグッと拳を作ってやり遂げた、という表情をしていたが、エフィとシヅキはまだ困惑の表情だ。どうやらまだ【アークエンジェル】と【アークデーモン】に慣れていないらしい。
「しかし、マシロはすごいな。もう【アークエンジェル】のヒーラーを使いこなし始めている。空を飛ぶのも上手い」
「えへへ。なんかコツを掴めちゃいました」
ここで目覚ましい成長を遂げていたのが、驚くことにマシロだ。
マシロはヒーラー。確かにあまり動かなくてもいいし、必要なのはヘイトの見極めやダメージを負っているメンバーへの回復やフォローなので、エフィたちとは役割が異なるのだが、それでも成長が早いと感じた。
1年生なのに、もう2年生のエフィと同じくらい『大天使フォーム』を使いこなしており、このペースで成長を続けるなら上級職になって『天空飛翔』を覚えたらマシロが一番空中の飛び方が上手くなるだろう。
ヒーラーとしての腕も素晴らしく、さすがはマリアが推すだけはある。
元々中位職なのに1年生で中級上位ダンジョンまでたどり着き、野良で臨時パーティに入りまくってボス戦をこなしまくっていたためか、パーティメンバー1人1人がなにを欲しているのか、その観察眼がとても優れているのだ。そのため的確に回復を送ることが出来ており、崩れそうになってもすぐに支えることが出来ている。
これは知らない人とずっとボス戦をしてきた故の影響だろうか。
〈エデン〉はそのメンバーが全員で49人にもなる。
ここまで来ると組んだことのあまりないメンバーと一緒になることもあり、最初は戸惑うこともあるだろう。
だが、マシロはそういう知らない人との連携を組むことにかなり長けている。
要は順応能力や対応力が非常に高いのだ。
ヒーラーとして天性の才能だな。素晴らしい。
「あ、ゼルレカさん、お水いります?」
「おう。ありがと」
「いえいえ~。――エフィ先輩、タオルをどうぞ」
「ありがとう、助かる。あ、これひんやりタオル。気持ちいい……」
「えへへ。――シヅキ先輩、ポーションの在庫は大丈夫ですか? 少ないならお渡ししますよ」
「あ、貰っていい? ちょうど少なくなってて」
そしてこのように気遣いが凄い。これは商人のマリアの影響か?
なんか叩き込まれてる!
そんなだから3人の体調管理や補充の担当なんかもお願いしていて、アタッカー3人は動きやすいよう〈空間収納鞄(容量:小)〉のポーチ型を持っているのに対し、マシロは大きな鞄型の〈空間収納鞄(容量:特大)〉を肩に掛けていて、今のように3人がポーションなどの在庫が少なくなってきたら渡して補充させてくれたりもしてくれる。
さらに水筒やタオルなど、サポート用品も充実している様子だ。
すごくいい。
マシロがすごくいいです。こんな子を〈エデン〉に迎えられて良かったよ!
マリアには大感謝しないとな!
「それじゃあ休憩したら、次のステップに移るか」
「次の、ステップ……?」
「なんだか、嫌な予感がするよ!?」
「はっはっは。しないしない、気のせいだ。今の〈猛禽ダン〉で全員のLVも75になってカンストしただろ? なら、やることは1つだ」
「おいおいまさか」
ゼルレカが最初に気が付くと、それが伝播したかのように全員に緊張が走った。
俺は鷹揚に頷いて自分の〈空間収納鞄〉からそれを取り出す。
「そう、いよいよやって来たぜ。〈上級転職〉の時間だ!」
俺はそう言って4枚の〈上級転職チケット〉をペラリと見せた。
※ここまで3人が〈転職〉してから10日。




