#1494 〈転職〉終わったらまずLV70まで戻して温泉だ
――〈試練の門塔ダンジョン〉、通称〈道場〉。
QPを支払うことで利用することが出来る、レベル上げ専用のエクストラダンジョンだ。
攻略者の証の保有状況に比例して上階へ挑めるシステムになっており、莫大な経験値を保有する〈シルバー〉系モンスターのみが出てくるダンジョンである!
よって、一気にレベル上げをすることができる。素晴らしい。
〈転職〉した時、元のLVまですぐに戻ることができるため非常に重宝する。
そして、〈下級転職〉や〈転職〉をしたシヅキ、エフィ、マシロには、この〈道場〉で一気にレベル上げをしてもらうことにした。
「目標は、ゼルレカに並ぶLV70だな」
「そんなにレベルを上げちゃって、いいんですか!? すごくQP掛かりますよ!?」
「驚き。さすがは〈エデン〉。豪勢すぎる」
「ありがたくいただきまーす!」
俺の宣言にマシロとエフィは驚き、シヅキは諸手を挙げて大歓迎した。良い性格してるなシヅキは。
「それはいいのだけど。あなたたちちゃんと攻略者の証は持っているの? 特に上級職とはいえサポート主体だったシヅキ、あと1年生のマシロが気になるのだけど」
確かに。
〈道場〉は攻略者の証の保有状況でレベル上げのできる階層が解放されていくダンジョンだ。攻略者の証を持っていないと、ほとんどレベルは上げられない。
ダンジョンを攻略したかが鍵になるんだ。
「ふふーん。それなら安心してよ。これでも〈3組〉所属だよ? しっかり中級上位までの証は持ってるもんね。最高攻略階層は上級ダンジョンで最奥60層だよ!」
そう言ってシヅキがバッチを入れるケースを開けて見せてくれた。
確かにそこには見覚えのある証がいくつも入っており、中級上位の証も5つちゃんと揃っていた。
これならLV75までレベル上げのできる〈ランク8〉階層まで行けるな。
「上級ダンジョンでも司令塔の通信係として色々指示を送っていたりしたんだよ。まあ、そんなんだから上級に私を入ダンさせるために無理矢理攻略者の証をゲットする旅に連れて行かれてさ。あれはキツかった……」
シヅキの話によれば、〈秩序風紀委員会〉も俺たちが〈守氷ダン〉などでやっていた戦法を使い、司令官の指示によってダンジョンを攻略していってある程度までレベル上げをしていたらしい。
その戦法を使うためにシヅキはわっしょいと育てられたのだとか。よかったな。
「マシロは?」
「私は以前所属していたギルドとマリア先輩に育てて貰いました!」
「ふっふっふ。見くびってもらっては困りますよシエラさん。この〈ダンジョン商委員会〉の隊長、マリアが担当するのは常に最前線! 今担当しているのは中級上位のランク3です。そこまでマシロちゃんを連れていくため、頑張って証をとってもらいました」
そう、マリアが自信満々に言ってクイッとメガネを上げてくる。
相変わらずその仕草、すごく決まってるな!
「はいです! マリア先輩のおかげで私は中級上位ダンジョンのランク3に入れるようになりました! 中級上位ダンジョンの証は1つです!」
「ということはLV70まで育成できる〈ランク7〉階層はマシロも利用可能ということなのね」
マシロは〈ダンジョン商委員会〉に加入する前にいたギルドでも、貴重なヒーラーということで中級中位ダンジョンまではパワーレベリングもかくやというレベルで育ててもらっていたらしい。パワーレベリングを受けていてなお回復の腕が良いということは、マシロがそれだけ才能があったということだろう。
そして〈ダンジョン商委員会〉からスカウトを受けて移籍。そこからはマリアに育ててもらった口のようだ。
しかしマリアは非戦闘職。というかマリアの攻略者の証を取らせたのは俺らだ。
どうやってマシロを育てたのだろう?
だが、それは簡単な話だった。
マリアがしたのは、〈マッシュン〉で最奥までマシロを連れていったことだけ。後は救済場所で臨時〈ダンジョンショップ〉の営業中にヒーラーに困ったパーティにマシロを臨時で参戦させてあげれば、後は運が良ければ攻略者の証を手に入れられるという寸法だ。ついでにレベルも上がり、どんどんダンジョンを更新していったのだという。
これを繰り返し、なんとマシロは夏休みの終わりには中級上位ダンジョンまでたどり着いてしまったというのだから凄まじい。さすがはマリアである。
おかげでLV70までレベル上げするだけならこのメンバーでも問題無く、一気に上げてしまおうという話になったのだった。
ちなみにエフィは〈救護委員会〉で上級ダンジョンで活動中とすでに聞いていたので問題無しだ。聞けば上級中位ダンジョンでも活動していたと聞く。凄い。
「それじゃあみなさん。頑張ってくださいね!」
「はいはーい! マリアちゃんも〈ダンジョン商委員会〉のお仕事、がんばってねー! 推薦してくれてありがとうー!」
マリアとはここで解散し、俺、シエラ、シヅキ、エフィ、マシロのメンバーで〈道場〉へ潜った。
そして無事―――その日のうちにLV70までレベル上げを完了させたのだった。
「……たった1日で上級職から下級職のLV0になり、さらにそこからLV70になってしまったことに驚愕を禁じ得ない。〈エデン〉、パナい」
「エフィに完全に同意だよ! そりゃ他のギルドはなかなか追いつけないよねぇ。なんだか心の奥底からモヤモヤした黒い固まりが溢れちゃいそう」
「えっと、強くなれたのになにか不満があるのでしょうか?」
「うっ、マシロンが真っ白すぎて黒い固まりが一瞬で浄化されたんだけど!?」
「シヅキに同意。というかマシロン。その純粋な顔でこっち見ないで、なんか、本当にダメそう」
「ふえ?」
すでに日はどっぷり沈み、〈エデン〉のギルドハウスでちょっと伸びているのはエフィとシヅキだ。なんとなく、身体よりも精神にダメージを受けている雰囲気。証拠にマシロはなんか元気だもん。
3人は今日の〈道場〉で色々と親睦を深めた様子。でもシヅキもエフィもなぜかマシロの純粋な瞳にダメージを受けてる不思議。存分に浄化されてほしい。この〈エデン〉にも視線と笑顔で浄化してくる子が、割と何人もいるのだ。
俺も何回浄化されそうになったことか……。いや、勇者は最初から清廉潔白だけどな!
「3人ともお疲れ様。お風呂入ってから帰りましょうか」
疲れた3人に向けシエラがお風呂に誘う。
「「「お風呂!?」」」
「え、お風呂があるのここ?」
「あるぞ。我が〈エデン〉が誇る最高の温泉があったりする。入れるのはギルドメンバー限定だけどな」
「温……泉……?」
「さ、さすがはSランクギルド……ギルドハウスに温泉。その発想は無かった」
「わ~嬉しいです! 私温泉大好きなんですよ!」
エフィとシヅキが固まってしまったが、マシロは純粋に喜んでいる様子だ。シエラに付いていって入ってきなさい。
俺も男湯に入ってすっきりする。それからしばらく待っていると、ホカホカの4人が帰ってきた。シエラがとっても色っぽい。ツヤツヤしている。
「戻ったわ」
「ふえ~。何あれ~。なんか凄かったんだけど」
「気持ちよかった。今日の疲れとか悩みとか全部溶けていった。でもなんでギルドにあんな温泉施設あるんだろう?」
「気持ちよかったです~」
「お帰り。満足してもらえて良かったよ」
なにしろギルドの温泉は、あの〈秘境ダン〉でお世話になった学生宿の温泉施設を参考にバリバリに力入れて作ったからな。
純粋な感想がとても嬉しいところだ。
「これからは毎日温泉に入れるぞ」
「……私、これだけでも〈エデン〉に来て良かった。かも」
「エフィが籠絡されてる!? でも分かっちゃう」
「こんな贅沢を毎日なんて、夢のようです!」
ふっふっふ、完全に3人の心を掴んだな。
今日はなかなかにハードだったはずだが、それも吹き飛んだ様子だ。
この調子でどんどん成長していってもらいたい。
目標は早期、レギュラーメンバーとの合流にしよう!
明日はまずゼルレカと合流からだな!




