#1492 正式に加入手続きが終われば、〈転職〉だな!
マシロからも〈エデン〉に加入したいという意思を確認すると、すぐに〈ギルド申請受付所〉と出向き、〈エデン〉への加入手続きを行なった。
シヅキ、エフィ、マシロは六大学園公式ギルド所属で掛け持ち可なので、加入手続きだけでOK。
3人とも掛け持ちで他のギルドには加入していなかったのが幸いだった。
公式ギルドに加入する前は普通に別のギルドに所属していたらしいのだが、公式ギルドに加入する時に脱退していたそうだ。
ちなみに今回、六大学園公式ギルドの脱退はせず、3人とも籍だけ残すこととなっている。
なにしろ〈エデン〉に加入するのだ。どんな高位のギルドに在籍するよりも成長することは確実で、そんな人材手放すなんてとんでもないことだ、ということで掛け持ちということにしてほしいとむしろ頼まれたほどだよ。
とはいえ基本的に公式ギルドへの参加はしばらくお休み。(いつまでかは未定)
〈転職制度〉を受け、〈転職〉か〈下級転職〉しなくちゃいけないからだ。今までのような仕事は不可能になる。
ということで、成長して公式ギルドの仕事が出来るようになるまで編成から一時離脱という扱いになるようだ。是非〈エデン〉に集中していってほしい。
「うわー、うわー、これが、〈エデン〉のエンブレム。私、ついに〈エデン〉の一員になったんだ!」
「シヅキが感極まってる。凄い……」
「エフィはどう!? 今の気持ちを一言で表してみて!」
「……うん。確かに結構嬉しいかも」
エンブレムが付いた書状を受け取ったシヅキの喜びようったら、こっちまで嬉しくなってくるような素直な大歓喜だったよ。ジーンときている様子だ。
エフィは相変わらずクールキャラ。だがシヅキに心を確認され、少し嬉しそうな雰囲気を出していた。喜んでもらえているみたいだ。
「質問いいですか!? 〈エデン〉に加入することはそんなにすごいことなのですか?」
「〈エデン〉に入るというのがどれほどとんでもないことなのかマシロンは認識が足りてないね! この私、シヅキが分かりやすく教えて上げましょう!」
「後で掲示板に報告してみるといい。そしたら分かる。とっても分かる」
「あー! エフィ、それ私が言おうとしたのに! ――マシロン、報告するときは教えてね。私もリアルタイムで見たいし! というか合わせよう!? デュエットしようよ!」
「デュエット……。ダブルパンチで悲鳴拡散……。掲示板が楽しみになってきた」
マシロは純粋な挙手で質問していた。
うむうむ。分からないことは聞く。マシロはしっかりそれが出来ているな。すると3人がキャピっていた。もう仲良くなったのか。
「もしかしたら、この3人って結構相性が良いのかもしれないな」
「……そうね。なんだかちょっと微笑ましくなったわ」
「それじゃあ3人とも、親睦会を兼ねて、早速〈転職〉しよっか!」
「「「へ?」」」
「…………」
手続きが終われば次の行動。
何をするかって? そりゃもちろん〈転職〉と〈下級転職〉に決まってるじゃないか!
そう宣言すると、3人はポカンと、シエラはジトッとした目で見つめてくれたのだった。テンション上がってきたーー!!
早速ギルドハウスへと戻る。
「発表するぜ。マシロとエフィは【天使】系、下級職、高の上【アークエンジェル】に就いてもらう! こっちは先人が2人も居るので慣れたものだ!」
「ふえ?」
「本当にこんなので【アークエンジェル】? というものに就けるの?」
「分かるわ。でも私たちも通った道よ。あまり深く考えない方が身のためだわ」
フィナとトモヨにもやってもらった【アークエンジェル】の発現条件を2人にも満たしてもらう。
あまりにも簡単すぎたためか2人とも最初困惑していたが、シエラがなにかを言ってから落ち着いてきたよ。さすがはシエラだ。きっと良い感じの言葉で諭したに違いない。
「そしてシヅキにはこちら。【悪魔】系、下級職、高の上、【アークデーモン】に就いてもらうぞーー!」
「【アークデーモン】! ……【アークデーモン】ってなに?」
「まあ知らないのも無理はない!」
なにしろこちらは〈エデン〉でも前例のいない初めての試み。
シヅキに最終的に就いてほしいのは【ルシファー】である。
残念ながら【ナイトメア】からのルートが無いのだ。
【アークデーモン】は『召喚』系を扱えるため、【ルシファー】ルートへの道が続いている、というわけだな。
「【アークデーモン】に就くには〈悪魔〉系か〈ヘビ〉系モンスターの〈召喚盤〉が2つ以上必要なんだが、これは〈木箱〉産でもいいから集めるのは楽勝だな。ただ、1つちょっと満たしにくいものもあるから、それは〈竜の像〉に直接触ってから確認しよう」
「満たしにくいもの?」
要はクエストや授業の中で条件を満たすタイプの条件だ。
こればっかりは見た目では判断できないため、これ以外の発現条件を満たした上で〈竜の像〉に触らないと、クエストを満たしているか分からない。
全て満たせていればジョブ一覧に出るし、クエスト条件だけ満たせていないのならばジョブ一覧には出ない。まあ、満たせていないと確認できれば満たしてやれば良いだけだ。
条件は確か〈闇に落ちた者〉とかいう曖昧な表現で、いくつかの満たす条件がある。例えば、『クエストを連続で10回失敗する』とか、『ギルドバトルで5回戦闘不能経験がある』とか『赤点を取った』とか。
まあ最後の条件はゲーム設定上、テストは主人公にしか受けられなかったので主人公にしか満たせない条件だったのだが、このリアル世界では全員がテストを受けているので満たすチャンスはあるはずだ。赤点なんか取らせないけどな!
その他にも、リアルにしかない条件があるかもしれない。
さすがにクエストをわざと失敗してもらったり、戦闘不能になったりしてもらうのはリアルでは気が咎めるので、リアル条件を満たしていて貰いたいなぁとちょっと願望。ただ、マリア曰く〈戦闘不能経験〉だけなら相当な数らしいので、もしかしたら満たしているんじゃないかというのが俺の予想だ。
そして結果、シヅキはやってくれたよ。
〈闇に落ちた者〉以外の発現条件を満たした上で〈天魔のぬいぐるみ〉を使用し、〈竜の像〉へ触ってもらったところ、なんと【アークデーモン】が発現していたのである。これにはびっくりしたよ。
マリアから「闇落ちしかけていた」なんていう報告があったが、しっかり一度落ちていた模様だ。
「おおお! すげぇ、つうかマジか! 【アークデーモン】、出てるじゃん!」
「う、うん! これを押すんだよね」
「おう。すぐに強くしてやる。いったれシヅキ!」
「―――!! えーい!」
俺の勧めに気合いを入れて勢いよく【アークデーモン】をポチッとするシヅキ。
半ばヤケクソ気味に見えたのは、これが〈下級転職〉である以上仕方ない。〈下級転職〉には、覚悟と勢いが必要なんだ。
上級職だった【伏兵通信士】が消え、【アークデーモン】の文字がクローズアップしてシヅキの上に輝いた。
「あ、ああ、やっちゃった。なんかやっちゃった気分だよ……!」
「よく頑張ったな、おめでとうシヅキ! これでさらに強くなれること間違い無しだ!」
「――決別の時! 私は悪魔に魂を売ってでも強くなってやるよー!!」
うむうむ。シヅキの気合いと切り替えの早さは素晴らしいな。
目を見張るものがあるぞ。
あ、そうだ。これは確認しておこう。
「ちなみにシヅキって赤点とか取ったことある?」
「ないけど!? というかなんで赤点!? これでも〈3組〉! 上位成績者で通ってるんだからね!?」
「はは。そうだよな。悪い悪い」
どうやら『赤点を取った』で満たしたわけではないようだと知ってホッと一息。
学業を疎かにしては若いクラスに入れないからな!
ちなみにセレスタンに調べてもらったところ、『ギルドバトルで5回戦闘不能』の記録はなく、『クエストを連続10回失敗』なんて伝説も残していなかった。そのためおそらくリアル効果により条件達成ができていたのだと結論付けたよ。
いったいどんな経験がトリガーになって闇を知ったのか。俺、とても興味がある!
もちろん心の中に秘めておくが。
「それじゃあ次はエフィ、その次はマシロだな」
「ごくり。緊張の一瞬」
「恐れるな。生まれ変わればさらに力を伸ばすことができるぞ」
「そうだよエフィ、さあ、私と一緒にこっち側に来よう!」
「シヅキは黙ってて」
〈下級転職〉2人目、エフィの番。
エフィはクールな雰囲気とは裏腹に、とても緊張している様子でしばらく葛藤したのち、気を引き締めて【アークエンジェル】の項目をタップした。
「はぁ~~~~」
「ようこそエフィ、こちら側へ!」
「……その笑顔、ぶった斬りたい」
「なんでよ!?」
さすがに上級職からLV0の下級職になるのはハードルが段違いらしく、ただの〈転職〉よりも精神的にハードな模様だ。シヅキはもう復活してるけど。
うむ。シヅキがとても良い笑顔でウェルカムして手を広げていたが、エフィの目はジト目だった。
あ、それ俺に向けて……いや、やっぱりなんでもないです。
今シエラの方からブリザードの視線が来た気がしたが、気のせいだよな?
「あ、私も【アークエンジェル】出てます。これを押すんですよね」
そう言ってマシロはほとんど躊躇無く【アークエンジェル】の項目をポチッとする。
この子、素直すぎない? なんか将来が心配になってきたんだけど。
悪い男に騙されそうな予感! 俺が守ってあげなければ。
「ゼフィルス。あまりマシロに変なことを言わないように」
「あれ!? もしかして俺が悪い男に認定されてる!? シエラ、それは悲しい誤解だぞ!?」
「…………」
俺、勇者。悪い男違う。
なのにシエラが凄いジト目で俺を見てくる、だと!?
くっ、でもちょっと嬉しくなってしまう俺がいる。
何しろ今日は1日、シエラはほとんどジト目だったのだ。テンションが溢れ出さないよう、気を静めるのが大変だったんだよ。
でもこんな日もいい……。
「こほん。これで全員の〈転職〉は終わったな。次はレベル上げに行こう。一緒に組む予定のゼルレカはLV70らしいからな。――いいかシエラ?」
「ええ。それじゃあ次に向かうのは――〈道場〉ね」




