#1489 〈エデン〉の引き抜きが〈救護委員会〉にまで
交渉はスムーズに進んだ。
なぜか終始ジト目の圧を背中にビシビシ感じたのでテンションが溢れ出さないか心配だったんだぜ。
俺は〈秩序風紀委員会〉へ【通信兵】の発現方法を伝授する。
あと〈上級転職チケット〉は1枚。これはシヅキの分の補填だな。
これだけで交渉は纏まった。
「〈テレポ〉もあげようか?」と聞いたのだが。
「これだけでも国が動くレベルだよ? むしろ貰いすぎさね」
と言われて受け取ってもらえなかった。
ちなみにこの話は学園長に飛び火し、そこから国へ話がいって、ちょうど「外では妙な気配やモンスターが増えてきている」ということもあり即国防に導入。
国が通信というものの扱いと見方を大きく見直し活用する切っ掛けになる超大騒動へ発展するのだが、この時の俺には知るよしもないのだった。
「まあ、シヅキがこんなに望んでいるんだしね。引き留めることはできやしないね。はぁ、また通信部の人事を変えなくちゃいけないと思うと少し気が重いよ」
カンナ先輩はそうは言うがニカッと笑ってシヅキを送り出してくれた。
どうやらなんだかんだ言いつつ、シヅキが脱退することはオーケーするつもりだったようだ。
「わわわわ! やった! これはやったってことだよね! マリアちゃん!?」
「これからがんばってくださいねシヅキちゃん。色々常識とか粉々になっちゃうでしょうから、本当に覚悟しておかないと身が持ちませんからね?」
「え? それってどういうこと!?」
こらこらマリア、余計なことを言わないで?
まだ手続きとかなんも済んでないんだから。
とはいえ、すでに色々決まったようなものだ。後は手続きだけなので、早速俺は行動を起こすことにする。
だがその前に1つ。
「カンナ先輩、ありがとうございました」
「うむ、まあいいさね。その代わり、うちのシヅキを大切にしておくれよ?」
「はい! 任せてください!」
「やふー! これで私も〈エデン〉加入だよ!」
「……なんか〈秩序風紀委員会〉に来た時よりも数十倍の勢いではしゃいでいるじゃないのさシヅキ」
「……あはは!」
「笑って誤魔化そうとしてんじゃないよまったく。――ゼフィルス、ちょっとシヅキと2人で話したいから席を外しておくれ」
「了解です」
うむ。最後、ではないが、カンナ先輩的に色々シヅキに言いたいことがある模様だ。
何しろ正式に〈エデン〉へ加入することになったからな。今後のこととか〈秩序風紀委員会〉の活動とか、色々話すことは多いのだろう。
少し待っていると、話を終えたシヅキが戻ってきた。
「お待たせ!」
「おう。そういえばシヅキ、〈秩序風紀委員会〉はどうするんだ? 掛け持ちするのか?」
「とりあえず籍だけ残してもらって保留になったよ。えっと〈下級転職〉? したら弱くなっちゃうし、今の仕事である通信も出来なくなっちゃうしね」
「悪いな」
一応【ルシファー】の召喚能力があれば伝達とかも出来そうなんだが。通信に代わるものかは分からないしな。
「いえいえそんなそんな。私は〈秩序風紀委員会〉と〈エデン〉、どっちかにしか入れないのなら〈エデン〉に入るので安心して」
「さすがはシヅキちゃん。思い切りが良いなぁ」
「マリアちゃんたちの活躍を見せられて私がどれだけ落ち込んだか……! でももうそれも終わりよ! これからは私の時代だわ!」
「……本当にこの子で良かったのかしら?」
シヅキのテンションが高い。
このテンション、覚えがあるんだぜ。念願叶ってハイテンションになっている者のテンションだ。俺もよく成るので分かる。
まあ、やる気が溢れているだけだからその内落ち着くだろう。
だからシエラ、長い目で見てあげて。
俺たちは〈秩序風紀委員会〉を出て〈ギルド申請受付所〉へ向かうことにした。
その道中でシヅキが俺に振り返って聞いてくる。
「そういえばさっき、えっとゼフィルス君はアタッカーを探してるって言ってたよね?」
「シヅキちゃん、早く慣れなね~。ゼフィルス君だよ、ゼフィルス君」
「気をつける!」
俺を呼ぶときにちょっとつっかえたシヅキにマリアがアドバイス(?)をしていた。
どうやらシヅキは今まで俺のことをずっと勇者君と呼んでいたらしく、名前呼びになんか抵抗感があるらしい。まあニーコのように勇者君と呼ぶ人もいるのでそのままでもいいよと言ったのだが、どうしても名前で呼びたいようだ。
また、さっきまでは敬語だったが、カンナ先輩には普通に(?)話していたため俺相手にも楽にしていいよと言ってある。
だが本人曰く「了解です! でも私はテンション上がると口調がこんがらがることがあるので、その時は気にしないでください!」と言っていた。どうやらテンション上がりすぎてテンパる状態になると敬語が出たり出なかったりするらしい。
そういえばさっきもそんな感じだったっけ? なるほど。
おっと、質問に答えよう。
「シヅキの言うとおり、〈エデン〉は現在【ウリエル】という【天使】系のアタッカーになってくれる人を募集中なんだよ。遠近両刀のアタッカーで腕が良くて〈転職〉してもよくて、〈新学年〉になってやり直してもいいって人材に心当たりってあるか?」
【ウリエル】はアタッカー特化型天使。
物魔両方の使い手で物理と魔法両方が強いという両刀使いのとんでもアタッカーだ。
アタッカーとしてどんなボスも苦手とせずに臨機応変に戦えるスタイルはかなり強かった。
しかし、言っていてやっぱ難しいかなぁと思っていたのだが、シヅキはきょとんとした顔をしてから頷いた。
「うん、心当たりならあるよ!」
「え、マジで?」
「マジマジ。うちのクラスの子なんだけどね。銃と剣を使っていて、遠近両方の使い手で上級職。多分〈3組〉で一番強いよ」
「大丈夫なの、それ?」
〈3組〉で一番強い。つまりはリーダー格。
そんな子を〈下級転職〉させてもいいのか? そんな心配が口に出たのだろう。
シエラの心配ももっともだった。
「大丈夫大丈夫。クラス対抗戦では〈1組〉のミューちゃんだって倒してるし強さは折り紙付き。なんだったらもっともっと強くなりたいっていう意欲もあるし。そのためには〈下級転職〉もオーケーしちゃうんじゃないかな。とりあえず会ってみる?」
「マジ? ミューを倒した子か!」
「本人や周りが良いと言うのなら私もかまわないわ」
「了解、じゃあ早速〈救護委員会〉へ行こう!」
「……ん? 〈救護委員会〉?」
「うん。その子、〈救護委員会〉に所属してるから」
どうやら俺、〈秩序風紀委員会〉だけではなく、〈救護委員会〉からも人員を引き抜くことになりそうな予感。
「そういえばラムダが言っていた気がするわね。〈3組〉にはとても強い〈救護委員会〉所属の者が居るって」
「〈3組〉を攻めに行ったときに退場させきれなかった【必殺人・鬼狩り】の子だよな」
クラス対抗戦では〈3組〉でやたら強い子がいたんだよ。
確か最後の〈3組〉拠点戦ではルル、シェリア、フィナを相手に大立ち回りをしていて、それでも結局退場させられなかった子だ。
遠近両方が高い攻撃力で両立出来るのが特徴の【必殺人・鬼狩り】!
【ウリエル】も同じく魔法と物理で遠近両方を両立する職業だ。
確かに、これほどバッチリ合う子は中々いないだろう。
「よし、なら早速行ってみよう! ラムダにもメッセージを送っておくな」
「〈ギルド申請受付所〉は後回しね。マリアはどうするの?」
「私はマシロちゃんに話をしに行ってきますね」
「そうね。お願いするわ」
「まっかせといてくださーい」
「ってええ!? マリアちゃん!? 私は!?」
「頑張れシヅキちゃん!」
ここでマリアは離脱。
俺とシエラ、あとシヅキが残された。
シヅキはちょっとポカンと、呆然としていたよ。まあ、知り合いっぽいマリアが途中で抜けたらそうなるよね。
「シヅキの紹介だから俺たち的には付いてきてほしいんだが」
「りょ、了解~」
なんだろう、シヅキって結構苦労人な雰囲気もあるな。
そんなことを思ったのは内緒にしておこう。
ラムダからのメッセージは思いの外早く返って来た。
「返事、来たぞ。今なら2人とも〈救護委員会〉本部にいるらしい」
「ちょうどいいわね。早速行きましょ」
「おう。ラムダからも、今なら来ても大丈夫、だってさ」
ラムダからオーケーが届いたので、早速向かってみる。
〈秩序風紀委員会〉と同じ〈S等地〉にあるので、さほど時間も掛からず到着した。
「こんにちは~」
「ゼフィルス、よく来たな」
「あれラムダ? 待っていてくれたのか」
玄関口、いわゆる受付に到着するとラムダが待っていてくれた。
「ああ。ゼフィルスには世話になっているからな。それに未だに聞きたいことも多い。もちろんダンジョンの攻略地図の詳細とか」
「ははは」
どうやら向こうにも俺に用があったようだ。
と、ここでラムダの目がシヅキの方を向く。
「そちらは――」
「ああ、新しく〈エデン〉に加入する予定のシヅキだ」
「やっほーラムダ君、〈エデン〉に加入する予定のシヅキです!」
紹介するとシヅキが勢いよく応えた。すっごい自慢っぽい。
よっぽど自慢したかったと見える。
あと、2人はどうも知り合いっぽかった。
「まあ〈救護委員会〉と〈秩序風紀委員会〉は連携を取ることも多いからシヅキ殿のことは知っているが、まさか通信副隊長を引き抜きか?」
「任期ももうすぐで終わるからね! 心機一転、掛け持ちしちゃおうって魂胆だよ!」
「通信はヘカテリーナ殿ができるのに、シヅキ殿が〈エデン〉に加入する理由とは?」
「まあ、そこら辺色々あってな」
「簡単に言えば、私が〈エデン〉に加入したいんだよ!」
おお、シヅキの意思がなんか熱い。
要約しすぎているのに思わず納得してしまいそうな力強さがあるんだぜ。
「そ、そうか。まあ〈秩序風紀委員会〉のことだしな。――それでゼフィルスよ、ここには何用で来たんだ?」
「実はな、このシヅキの紹介で〈救護委員会〉所属のエフィシスという方をスカウトに来たんだ」
エフィシス。それがスカウトしようとしている方の名前だ。
愛称はエフィ。
「スカウト? しかもエフィシス殿か」
「あー、やっぱまずいか?」
「まあそうだな。エフィシス殿は上級中位ダンジョンのランク1をもうすぐ攻略できる、というレベルだ。期待されている人たちの1人なんだ」
「まあ、あの強さだもんなぁ」
「ゼフィルスもクラス対抗戦を覚えていたか」
うむ、まあ普通はそうだ。ラムダには珍しく渋い顔をされたよ。
できれば下級職のまま上級職になれず、燻っている、なんて子だとやりやすいんだが、今のご時世、優秀な人はどんどん〈上級転職〉していくからな。強い人はどんどん上級ダンジョンに突入させたいと思うのはどこも一緒のようだ。
とりあえずラムダにこっちの事情を話してみる。
「そうか。正直自分では判断できん。会長に直接話してもらってもいいか?」
「もちろん。むしろ助かるよ。そういうのはしっかり長に話を通しておくのが筋だしな」
〈秩序風紀委員会〉では話が纏まってからカンナ先輩のところへ行こうとしていたが、〈救護委員会〉では先に長に話しておく。知らない仲ではないからな。
ラムダの案内で会長室へ向かい、入室する。
すでに知らせが届いていたようで、待ち時間ゼロで出迎えてくれた。
「失礼します。お久しぶりですヴィアラン会長」
「そうですね。ここに顔を出すのも1ヶ月ぶりじゃないでしょうか? 〈聖ダン〉の攻略が終わったから地図を渡しに来ましたとか言っていたのがつい昨日のようです」
「クラス対抗戦のために集中してましたからね。これ、お土産の上級下位ランク10、〈亀ダン〉の攻略情報です」
「…………いつも悪いですね」
ヴァンダムド・ファグナー学園長の直系の孫で、〈救護委員会〉の会長を務めるヴィアラン会長へ、まずお土産を渡す。
クラス対抗戦で学園もバタバタしていたため延び延びになってしまったが、〈亀ダン〉の情報を纏めた書類だ。
地図なんてほとんどいらないダンジョンだから、モンスターの説明や弱点、攻略の仕方などに力を注ぎまくってしまったよ。
それを見たヴィアラン会長は1度固まった後、深く息を吐いてお礼を言っていた。
あとなぜかラムダが緊張している。直立不動状態だ。どうしたんだろう?
「……それで、今日は別の用があってきたのでしょう?」
「はい。実は――」
さすが察しの良いヴィアラン会長に俺たちの今日の目的を告げると、1度天井を見上げてから溜め息を吐き、ラムダに指示を出してくれた。
「ラムダさん、エフィシスさんを連れてきてもらえますか?」
「イエスマム!」
おお、本場の敬礼?
ラムダは見事な敬礼の後に部屋を出て行き、数分後にエフィシスが部屋にやって来た。
「呼ばれてきた。なに?」
「お客さんですよエフィシスさん。まずは話を聞いてみてください」
「ラジャ」
そこには、あのクラス対抗戦決勝戦で活躍していた。
〈3組〉のエフィシスの姿があった。




