#1484 幼女にお願いお兄ちゃん言われたら方針も変更
「ゼルレカがしょんぼりしちゃったの!? 大変!」
「いえアリス、そのしょんぼりというのは多分イメージが違うと思うよ?」
サテンサ先輩の発言にアリスが大慌てで反応していた。なんて純粋な勘違い!
キキョウ、頑張って説明してあげて。
「こほん。まあそんなところでね。うちら身内が声を掛けてもちょいと効果が無くてね。少し、環境を変えてやった方が良さそうなんだよ」
「それで、〈エデン〉ですか?」
「ああ。できれば一緒に行動させたりはできないかい? 特にアリスとキキョウとは親友の間柄と聞くしね。同じ環境に居ればあの子の心も幾分か持ち直すんじゃないかと思っているんだよ」
元々ゼルレカはアリスやキキョウなど、知り合いと分かれて1人別のギルドに入ることを憂いていた感じがしたが、おそらくサテンサ先輩たちもそれは感じていたのだろう。
「なるほど。確かに親友と引き離されて自分1人だけ別のところで修業、しかも結果が報われなかったとなれば厳しいな。でも逆に、間近でアリスとキキョウの精強さを見て、ぽっきり折れていたものが今度は跡形もなく粉砕、なんてことになったりはしないか?」
「さすがにゼルレカはそんなにヤワじゃないよ。少し環境を変えて、考える暇も無くビシバシ鍛えてあげれば自然と前向きになるだろうさ」
「なるほど」
〈獣王ガルタイガ〉の懸案事項は分かった。
あとさすがは〈獣王ガルタイガ〉、考え方がスパルタだ。
なぜか千尋の谷という言葉が頭を過ぎったのは、きっと気のせいだろう。
「ちなみにゼルレカのLVは?」
「下級職の70だね」
「う~ん、まだ上級ダンジョンにも来られない感じか~」
感覚が麻痺っているかもしれないが、1年生でこの時期にLV70というのはとんでもない強さだ。
去年のクラス対抗戦でLV70を超えていたのは、俺たち〈エデン〉メンバーズとラムダ、後はハクくらいじゃないか? それくらい一握りの強者。
しかし、結果は振るわず。しかもアリスとキキョウは五段階目ツリーを開放していてもう大変。ゼルレカが受けた衝撃は計り知れない。
だが、俺も〈エデン〉も今は大事な時期。上級中位ダンジョンの攻略をして、新メンバーとレギュラーメンバーを合流させなくてはならないのだ。
端的に言えば育成の時間がない。今回は時間を確保するために〈転職制度〉をスルーすると言ったばかりだしな。しかし、
「お兄ちゃん。ゼルレカを助けてあげて。お願い」
「ぐふっ!?」
キキョウを振り払ったアリスが正面から抱きついてきて上目遣い、「抱きつき」「お兄ちゃん」「お願い」の3連続コンボを繰り出してきたのだ。油断していたこともあって、俺はこれが見事にぶっ刺さった。
「あの、ゼフィルス先輩。私からも、なんとかお願いできないでしょうか?」
キキョウからも「お願い」発生!
これは危うい。俺はいつの間にか崖っぷちに立たされていた。
しかもここで、サテンサ先輩がトドメの言葉を放ってきた。
「もしなんだったら、しばらく〈エデン〉に移籍させるってのもありだね。むしろそっちの方が良いかもしれない。こき使ってやっておくれ」
「ええ? それは〈獣王ガルタイガ〉的にいいのかサテンサ先輩?」
「まあ、完全にいいとは言いがたいけどね。だが、そっちにはすでに【獣王】のラウがいるしね。今更、という感じもするんだよ。それに今のゼルレカではどっちみち〈獣王ガルタイガ〉に居る方が悪影響が出かねない。なら、いっそ別ギルドに派遣してトップを見てこさせた方がゼルレカのためになるさね」
なんと驚きの展開。
ゼルレカは〈獣王ガルタイガ〉の創設者の娘である。故に他の様々な傭兵団に所属する傭兵猫人たちをまとめ上げることを期待されていた。だからこそ、次期ギルドマスターと目されていたわけだ。
しかし、今の〈獣王ガルタイガ〉はむしろ安定している。
【獣王】のラウが〈エデン〉に居て、獣王子ガルゼ先輩まで卒業しているため、むしろ〈獣王ガルタイガ〉の結束は緩んでもおかしくはなかった。
だが、実際にはサテンサ先輩がギルドマスターをしていても〈獣王ガルタイガ〉の結束は緩まず、今まで通りの活動ができている。
おそらく上級ダンジョンという目標が大きいのだろう。大きな目標に意思が1つに纏まっているんだ。
サテンサ先輩は言葉を濁しているが、おそらくこのままのゼルレカでは、〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスターは務められない。せっかくの結束がむしろ緩むのではと危惧しているとも感じた。
だからこそゼルレカ鍛え直し案を立ち上げ、〈エデン〉に協力を頼んできたのだろう。
むしろゼルレカを〈エデン〉の一員にして良いというのであれば、本気で検討する必要がある。要はカルアと同じ〈エデン〉永久就職パターンだ。
サテンサ先輩は期間限定、みたいに言っているが、そんなものどうとでもなるし。
一生懸命育成したんだから、〈エデン〉に還元してもらわないと困るとでも言ってずぶずぶよ。ふっふっふ、お高い装備とか〈上級転職チケット〉とかその他諸々とか、色々投資しなくちゃいけないな!
「了解だ。前向きに検討させてくれ」
「本当かい?」
前向きと言っているが、ほぼ決まったようなものだ。
俺はサテンサ先輩に向けて力強く頷く。
「ああ。ギルドのメンバーにも相談しなくちゃいけないから即決はできないが、まあおそらくいけると思うぜ」
「助かるよ。あたいらじゃどうしてもね。それじゃ、詳しい話は帰ってからでどうだい?」
「もちろんオーケーだ。こっちも話が纏まったらメッセージを送るよ。IDを教えてくれ」
そうこうしてサテンサ先輩と学生手帳のIDを交換した。
アリスは「お兄ちゃんありがとうー! ぎゅ~~~~!」って抱きついてくるし、キキョウは「ありがとうございます。先輩」と袖をほんの少し掴んでくるんだ。
後輩たちの萌え萌え攻撃がパナイ。俺を尊死させる気だろうか?
顔と気をしっかり引き締めなければ! キリッ!
そしてこの件はすぐに〈エデン〉の幹部が集められて相談された。
シエラ、セレスタン、リーナ、後は人材担当のメルトとミサトにも出席してもらう。
「……新しい加入者は無しだと、今朝言っていませんでしたか?」
「ああ。予定は変更だ!」
「…………」
リーナのセリフに予定の変更を告げると、シエラが無言のジト目で見てきた。
うおぉぉ。こんな時なのにテンションが上がりそうになってしまう!
「それでゼフィルスは、大量の投資をして〈エデン〉から脱退できないようにしようとしていると」
「たははは~。ゼフィルス君の鬼! でもそこがいい~」
メルトとミサトが俺を褒める。ふっふっふ、そうだ、もっと褒めるがいい。
なんちゃって。
「でもそう簡単に行くかしら?」
「ゼルレカさんの気持ちが気になりますね」
シエラとリーナの考えも分かる。話を聞く限り今のゼルレカの状態はどんよりブルー1色だ。
だが、サテンサ先輩が言ったように親友と一緒に居ることでだいぶ変わるだろう。
それでもダメなら…………俺が特別メニューを組んでもいい。サテンサ先輩が言っていたとおり、落ち込んでいる暇なんか無いほど鍛えまくってやる!
「…………」
「では、ゼルレカ様を受け入れるということで手続きはこちらで行なっておきますね」
「頼むセレスタン!」
ということで話は決定。
シエラがまた俺にジト目を贈るものだからひゃっほいするのを抑えるのに苦労したよ。
早速アリスとキキョウにこのことを告げると。
「ありがとうお兄ちゃん! アリス、頑張ってゼルレカを治すよー」
「先輩。あの、ありがとうございます。私も出来る限りサポートします」
「ああ。頼むな2人とも」
お礼を言いながらその場でぴょんぴょん跳びはねるアリスがとても可愛い。
キキョウはしっかりとこの状況を認識しているようで、決意が見て取れたな。
もちろん2人だけに任せっぱなし、なんてことにはならないから安心してほしい。
そしてその日の夜。
サテンサ先輩にメッセージを送ってやり取りを開始すると、事態は思いのほかトントン拍子に進むことになった。
翌日の朝、とある場所に俺とセレスタン、それとアリスとキキョウの4人で向かうと、サテンサ先輩と、大罪の1つ【憤怒】に就くクエスタール先輩、そしてゼルレカの姿があった。
そう、翌朝にはもう移籍が始まったのである。
早っ!!
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