#1483 新メンバーと〈謎ダン〉出発!サテンサと邂逅
「今日から新メンバーには本格的に上級中位ダンジョンの攻略に入ってもらおうと思う! もちろん、合同攻略だ!」
そう、みんなの集まるギルドハウスで俺は宣言した。
たくさんの拍手が賛成の意思をのせて俺に送られてくる。
「私たちもいよいよ上級中位ダンジョン進出ですわ~」
「正直、早すぎる気がしますが」
「何を言っているんですのクラリス、あのゼフィルス様たちと肩を並べて戦えるんですわよ? これほど光栄なことはそうはありませんわ!」
「……ゼフィルス様、あまりお嬢様を調子に乗せないでくださいね」
「約束はできないな!」
「(じー……)」
クラリスの視線が突き刺さるが、ダンジョンは楽しいものだ。
ちょっとテンションが上がりすぎてメーターを振りきることだってある!
俺もよく振りきっているから分かるのだ。しみじみ。
「シエラ様」
「出来る限り助力するわ」
「ありがとうございます」
するとクラリスがそっとシエラの近くに行って助力を頼んでいた。
シエラがなんだかジト目です! ありがとうございます!
「それじゃあこれからスケジュールを煮詰めていこうか!」
「そうね……。学園祭まで1ヶ月半しかないもの、予定を組むことは大事ね」
「他には〈転職制度〉の実行日も近いですわね。ゼフィルスさんは今年はどこかのクラスに勧誘へ行ったりはしませんの?」
「むむ、それなんだがな……」
リーナの言葉に少しテンションが落ち着く。
―――第2回〈転職制度〉。
〈転職〉によりLVをリセットし、ゼロからやり直すことのできる制度。高位職となり、新たな一歩を踏み出すことのできる制度だ。
今年もこれが10月に行なわれることが決定した。
これは俺が強く勧めたからでもある。
何しろ高位職の中には、中位職から〈転職〉することで条件を達成し発現するような職業があるのだ。
代表的なのは「侯爵」関係の職業だな。【箱入り娘】から【深窓の令嬢】へとか。【侍】や【ブシドー】から【炎武侯】へとか。
実はこれ以外にも、ノーカテゴリーで何職かあったりする。
この世界では、1度職業を決めてしまうとなかなか〈転職〉することが難しいため、その機会を国が作ってしまうことでこれを解決する仕組みだ。
それに去年の〈転職制度〉から学生の質はこれまでにないほど上昇しており、相当な効果があったことが誰の目にも明らかなレベルで証明されている。
これだけの結果がでているからな。毎年恒例にするのに学園も否は無かったようですぐに決まってたよ。
そして、新たな職業に就いてLVがリセットされるということは、俺好みに育成して勧誘するチャンスでもある。
去年もリーナたちが所属していた1年51組に行って色々伝授したなぁ。そしてシャロン、カタリナ、フラーミナ、ロゼッタが新たに〈エデン〉に加わったんだっけ。
あ、エリサとフィナ、それにオリヒメさんもか。
まあ、それはともかくだ。
この時期は多くの人をギルドに勧誘できるチャンスである、リーナはそう言いたいわけだ。
しかしである。
「もうだいぶ人も揃ったしなぁ。今は新メンバーの育成に集中したくもある」
せっかく新メンバーが上級中位ダンジョンに合流したのだ。
みんなで上級中位ダンジョンをフィーバーしたいというのが俺の要望。
「それもそうですわね。わかりましたわ。今年の〈転職制度〉では新たな加入者は無しですわね」
〈エデン〉メンバーもすでに45人だ。
ギルドバトル〈50人戦〉でもなければメンバーは十分だと言える数である。
焦って新たに人を増やすこともないだろう。
それにゲーム時代では考えられないほど今の〈エデン〉の人材は豊富だ。後は増やしたいと言っても、〈天使〉か〈悪魔〉くらいじゃないかな。あと残りの【大罪】職とか?
「しかし、今年はクラス替えがなくて良かったな。おかげでダンジョンに集中できる」
「去年はそれが影響してこの時期に臨時テストがあったものね。おかげでクラス対抗戦が夏休みが終わってたった1週間で開催されるというハードスケジュールだったわ」
「へぇ、そんなことがあったんですか」
「去年は色々と大変だったのです。私も〈新学年〉に移っていいものか、とても悩みましたし」
シエラが呟くとアルテが興味を示し、それに姉であるアイギスが神妙に頷いていた。アイギスが〈転職〉したのは〈転職制度〉のかなり前だったからな。LVは確か60超えてたし、そのまま2年生を継続するか、それとも1年生からやり直すか、そりゃあ迷うことだろう。
ただ、そもそもこの〈転職制度〉の発端の1つがアイギスなので、〈新学年〉になってもらわなくちゃ逆に困る。説得して〈新学年〉に移ってもらったんだよな。
え? なんで困るのかって? そんなのアイギスだけ最上級生だったらタバサ先生みたいに一足先に卒業しちゃうじゃん!
というわけで、アイギスには足並み揃えてもらった裏の背景がある。
なんだかんだ言いつつも、俺たちと同じクラスでアイギスも楽しんでいる様子だ。
そして去年あったクラス替えは今年は無し。
今年もまた〈新学年〉を作るのだが、それだけだそうだ。
おかげでクラス替えに必要な臨時テストが無くなって、クラス対抗戦を夏休み終わりから3週間後に設定できたため、今年のクラス対抗戦は去年に比べてそれほどバタバタしていなかった、という感じだな。
俺はそれを簡単に1年生にも分かりやすく説明する。
「では、今年は学園祭まで時間がある。ということですわね!」
「上級中位ダンジョンを攻略する時間はたっぷりある、ということですか」
「そういうことだ。じゃあまずは恒例の〈謎ダン〉から攻略してみようか!」
こうして今回のスカウトは見送り、育成に集中する方針に決定。
学園祭は11月半ば、今年は12日水曜日から14日金曜日まで行なわれるとのことだ。
それまで1ヶ月半はかなり自由に使える。
まずは新メンバーに追いついてもらわないとな。
早速行動を起こす。
クラス対抗戦の翌日から土日を使って〈謎ダン〉の攻略を進めまくる予定だ。
最初は〈謎ダン〉のこれまでとは全く違う構造に戸惑っていた新メンバーたちだったが、次第に上級中位ダンジョンの仕様にも慣れていき、行き止まりである宝箱エリアではたくさんフィーバーしまくった。
「大量ですわー!」
「ここ、本当に上級中位ダンジョンなのでしょうか? フィールドは狭いですし、クイズはなんか色々問題ありますし、1日で30層以上を攻略してしまうってどういうことですか」
「分かるわクラリス。私たちもよくそんな感情を味わったわよ」
「シエラ様も、ですか?」
「今後ゼフィルスと一緒にダンジョンを攻略することになるのなら覚えておいた方が、いえ、覚悟しておいた方が良いわ。コツは常識に囚われないことよ」
「それは……なぜか、お嬢様を見ているとできる気がしてくるから不思議ですね」
「あなたの主人は、ちょっとゼフィルスと気質が似ていると思うわ」
「…………」
新メンバーとレギュラーメンバーの合流は、お互いにコミュニケーションを育んだ。
特に意外だったのはクラリスとシエラだな。なんかあっという間に仲良くなってたよ。
「おーっほっほっほ!」
「はーっはっはっは!」
ちなみにノーアと俺は結構仲良くなった感じがする。
いやぁ、『ドロップ革命』、最高です。
笑いが止まらないな! ふはははははは!
また、〈謎ダン〉から帰還すると、〈上中ダン〉にはいくつかのギルドの姿があった。
Sランクギルド〈百鬼夜行〉に〈千剣フラカル〉、Aランクギルド〈獣王ガルタイガ〉などだ。情報交換をしているらしい。
ここで俺は〈覇姉のサテンサ〉先輩と会話をする機会があったんだ。
「やぁ、ラウ」
「サテンサさん、お疲れ様です」
「お疲れ様だよ。〈謎ダン〉に入ってたんかい。こういうダンジョンはあたいらには向かないねぇ。そっちは順調そうだけど」
「分かりますか。実は今日新メンバーを入ダンさせたばかりですよ。今は30層を少し超えたところです」
「はぁ。またゼフィルス君の仕業かい。……そうだ、ラウ。良い機会だから、ちとギルドマスターに繋いでくれないかい?」
「いいですよ。ちょっと待っていてください、話してきます」
そんな会話の後、ラウが俺に聞いてきたんだ。
「ゼフィルスさん少しいいか? 〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスター、サテンサさんが話をしたがっているんだが、どうする?」
「もちろんいいぞラウ。サテンサ先輩から用があるなんて珍しいな」
こうして俺は〈獣王ガルタイガ〉のサテンサ先輩と邂逅することになった。
これは例のSランク戦で戦った時以来の邂逅になるのかな?
「やあ、久しぶりだねゼフィルス君。突然呼んで悪かったね」
「構わないさ。〈獣王ガルタイガ〉とは持ちつ持たれつだからな――ん?」
軽く挨拶を交わしてグッと握手すると、俺の後ろから人の反応。振り向くとそこには、誰も居なかった。否、下にアリスがいた。見えなかっただけだった。
「ねぇねぇ。ゼルレカはどこ~?」
そんな無邪気な質問が飛んだ!
ゼルレカとは〈獣王ガルタイガ〉の前ギルドマスターガルゼ先輩の妹で、アリスとキキョウの親友だ。
俺の体から顔を出すような形で質問するアリスが可愛い。
しかし、そこにキキョウが走り込んできた。
「アリス~!? ギルドマスター同士の会話に入っちゃダメだよー!?」
そしてがばっとアリスを回収。
おお、幼女が幼女を持ち上げている。ぐっ! スクショを撮りたい!
そのまま走り去るのかと思いきや、キキョウはその気質からか丁寧に頭を下げる。
「失礼しましたサテンサ先輩!」
「構わないよ。むしろちょうどいいさね」
「ん? どういうことだサテンサ先輩?」
「実はちょっと頼みがあってね、うちでも手を焼いている問題があって、〈エデン〉に協力を頼めないかってお願いなんだよ」
「ほほう? 〈獣王ガルタイガ〉で手を焼いている問題」
「ああ、実はクラス対抗戦で負けたゼルレカが盛大にしょぼくれちまっててね、なんとか元気づけたいんだよ」
サテンサ先輩は割と困ったような表情でそんなことを言った。
これが、この騒動の始まりだったんだよな。




