#1480 クラス対抗戦〈戦闘課2年生〉決勝戦――決着!
同盟軍、対〈1組〉攻略部隊の事実上の全滅。
観客席がシーンと静まったり、大きく盛り上がったり、ペン速の音が歓声をかき消したりする中、この戦いで生き残った僅かなメンバーはもうさすがに撤退するしかなく、〈2組〉の氷の拠点へとたどり着いていた。
「ひーん、みんなやられちゃいましたー!」
「〈1組〉、激強」
「嘘でしょ?」
フィールドの中央にある池。そこに建てられた氷の城塞を守っていたレイテルにとんでもない報告が舞い込んできた。
ここまで帰ってこられたのは、〈3組〉のリーダーベニテと補佐のエフィなどわずか数名。
僅かな残ったメンバーがどよめきと動揺で震える。
試合開始からまだ24分の出来事だ。いや20分の途中経過を見てものすっごく嫌な予感はしていたのだが、それが現実になった瞬間だった。そして。
「〈1組〉、攻めてきました!」
「ひやぁ!?」
レイテルが普段のクールな彼女とは違う素っ頓狂な声を上げる。
掃討がほぼ完了した〈1組〉が、今度は約20人体制で攻撃を仕掛けてきたからだ。
この時の氷の城塞にいた同盟軍は追加でベニテたちが来て7人だった。あかん。
レイテルの脳裏に、〈エデン〉が夏休み前に行なった練習ギルドバトルが過ぎり、自分の作った城塞も簡単にぶっ壊される未来が見えた気がした。とっても危険。
「落ち着けレイテル」
「ゴウ!」
そこに現れたのは、去年のギルドバトルでは〈24組〉で最強、【武僧】に就いていたゴウだ。今は上級職、高の下、【仙人】に〈上級転職〉している。
「元々この城塞の役割を思い出すのだ。なぜ池の上にわざわざ建てたのかを」
「! そう、ね。これは私が提案したことだもの。やるわ」
「よし、いい目になったな」
ゴウは体に闘気を纏っていた。やる気だ。覚悟が決まりまくっている。
それを見てレイテルもいつものクールな彼女に戻っていった。
「では私たちは退避してますね!」
「ご武運を」
それを見てベニテたちは撤退。
急ぎ氷の城塞を離れていく。
それはこの城塞の役割が故だった。
「攻撃部隊の全滅。そうなったとき逆転の可能性がこれしかないとはいえ、複雑だわ」
「だが、頼りにしている。これならばきっと〈1組〉に通じるはずだ。攻撃部隊を退け、気分が高揚している〈1組〉の足下を、存分にすくってやるといい」
ゴクリ、とレイテルの喉が自然に鳴る。
タイミングが命である。
なぜこんな場所に城塞を建てたのか?
〈1組〉の拠点から真東にあり、最も近く、鬱陶しい城塞。
故に狙われるのは時間の問題だった。
だからこそここに罠を張る。ただの罠では無い。地形を利用したトラップだ。
先程も言ったようにここは池の上に建っている、足場が怖い場所だ。
つまりは、そういうことだ。レイテルとゴウは、この不安定な足場をぶっ壊し、〈1組〉を池に沈めてまとめて退場させる気なのだ。
Aランクギルド〈氷の城塞〉のギルドマスターレイテルは、〈エデン〉の練習ギルドバトルで悟った。あれは私では防げないと。
ここに氷で造った城塞を建てようが、確実に、100%突破されてしまうだろうと考えた。ならば、自ら破壊してしまおうというのがレイテルの作戦。
あまりに思い切った作戦に当初ラウも何度か聞き返したほどだ。
これがレイテルの覚悟。全く新しい、拠点運用の戦法だった。
ここで20人の〈1組〉メンバーを池で退場させることができれば、まだ〈1組〉の拠点攻略は可能性がある。本当はもう防衛モンスターが強すぎてちょっとどころじゃなく難しいのだが、まあ可能性はゼロでは……うむ。そんな訳でレイテルとゴウは、この作戦に全力で挑んでいた。
「来たわ! 『リパルス・フリズドウォール』! ゴウ!」
そして〈1組〉がとうとう池へと進入する。氷の城塞をぶっ壊すために。
レイテルはここで超巨大な拒絶の壁を展開。拠点の様子が一時的に見えなくなる。
その間にゴウが隠れて地面に降り立ち、拳を振りかぶる。
そして〈1組〉が攻撃を開始。レイテルの氷の壁がぶっ壊された瞬間、ゴウはスキルを発動した。
「行くぞ! ―――『仙法・道断仙峰拳』!」
ゴウが氷の地面に強力な正拳突きをお見舞いし――ぶっ壊した。
◇ ◇ ◇
ゼフィルスたちはラウに勝利した後、一気に攻勢を仕掛けた。
「リーナ、ラナ、シエラ、シャロン、フラーミナ、カタリナを残し、攻勢に出るぞ!」
「「「「おおー!」」」」
〈エリクサー〉をグイッと飲んでMPを回復させると、まずはフィールドの中央に建っている氷の城塞を目指すことにする。
「あそこから再度攻められるかもしれん、まずは氷の城塞から行くぞ!」
「「「「おおー!」」」」
他の拠点を攻めている最中に氷の城塞に邪魔されてはたまらない。
ゼフィルスはまず、氷の城塞の無力化に手を出そうと考えた。
だが、池の上に氷の城塞が建っているというのはポイントだった。
あんな場所に建築する理由を、ゼフィルスは1つだけ知っている。
あと無力化の方法も。
「全員聞け! 氷の城塞は池の上にわざわざ氷を張って建てている! ということは、俺たちが近づけば氷を粉砕し、道連れにして退場させに来るはずだ!」
「なに?」
「え、えええ? それじゃあどうするの? また〈イブキ〉に乗ってっちゃう?」
メルトが顔をしかめ、ミサトがエグいことを言う。
〈イブキ〉に乗っていく。それも1つの案だろう。相手にとっては凄く可哀想だ。
だが、それよりももっと無慈悲で可哀想な手があるんだ。
「いや、敢えて氷は割らせる! むしろ俺たちで割る!」
「え、ええー!?」
ゼフィルスの言った意味を正確に理解したミサトが素っ頓狂な声を上げた。
つまりである。相手が〈1組〉を池に落とそうとしているのと同様に、ゼフィルスたちも相手を池に落としてしまえばいいんだよ。
そんなところに城塞なんて造ったら、敵からしたら池に沈めてくれと言っているようなものだよね。と、そういうことだ。
ゴウたちはまさに泥船に乗っているに等しい。
足場を崩されたら、確実に沈むのは城塞なのだ。
正直に真正面から攻略するなんて愚の骨頂である。
ゲーム時代、最初にこれを造った人はこの罠を見事に成功させ、城塞を攻略しに来た数十人のキャラを一気に池に沈めて仕留めて見せた。
『あれは熱かった……!』と思い出してグッと拳を作るゼフィルス。
だが、所詮は初見殺し。
次の試合では見事に対策されて足場を崩され、自分たちだけ沈んでいってプレイヤーたちは大爆笑した。ゼフィルスも笑わせてもらった1人である。そしてこの戦法と対策は一躍有名になってしまったのだ。
それから度々素人がこの作戦を思いつくも、古参プレイヤーにとってはすでに対策が割れた戦法。次々ぶっ壊されては笑いを誘うという妙に有名な戦法になってしまったのだ。
そんな訳で、ゼフィルスもこれを周知する。
氷の張った池に飛び込んだ瞬間。レイテルが巨大な氷の壁を張って来たので、遠慮無くその根元部分に攻撃を入れまくった。
「ぶっ壊せーー! 撃って撃って撃ちまくれーー! ついでに特製爆弾もプレゼントだ!」
ついでにゼフィルスはハンナとシレイアが作った爆弾もそこら中に投げまくった。
これにはレイテルとゴウも、攻撃が始まり〈1組〉が氷の城塞の攻略を開始したものだと思い込む。
実際ゼフィルスたちは半包囲するように広がり、氷に向かって攻撃しまくって破壊。
そしてレイテルの防御魔法の氷の壁を破壊したところでそれは起こる。
「ん? 全員退避!」
「『みなさん退避ですわ!』」
ゴウが氷をぶっ壊したのだ。瞬間ゼフィルスとリーナの声に反応した全員が飛びのく。
そのヒビは蜘蛛の巣状に広がり、氷の池全体に広がる――はずだったのだが、すでに結構な部分が破壊されていて衝撃が池全体に届かず。
中心にあった氷の城塞の周囲だけが破壊。
「あ」
そのまま氷の城塞はギリギリで浮かび、グラグラと揺れていた。
もしかしたら、イレギュラーが起きた時用に池の上で浮力を保つアイテムなんかを使ったのかもしれない。だが、
「メルト、やっちゃって」
「沈め―――『十倍キログラビティ』!」
それは重さを10倍にしてしまう凶悪な魔法。そんなものをギリギリの所で浮かんでいる城に使われたら、あとはお察しである。
これがトドメとなって自重を支えきれなくなった氷の城塞は、池の中へと勢いよく沈んでいってしまったのだった。
ちなみに〈1組〉は、ゼフィルスとリーナの避難指示のおかげで沈んだ者はゼロである。
「え、ええー。こんなことってある? ゼフィルス君?」
「いやぁ、まあこういうこともあるさ! ははははは!」
「…………なんだか、とても無慈悲なことをしてしまった気がする」
これにてレイテルとゴウも退場。
〈2組〉最後の罠も〈1組〉には通用せず。
〈1組〉はここから掃討戦に取りかかることになる。
レグラム、オリヒメ、セレスタン、と合流してまずは〈留学生4組〉の拠点が退場。
残りは〈2組〉と〈3組〉。ここで二手に分かれて攻撃開始。
2クラスは手強く、上級ボスの防衛モンスターも揃えていた。
〈3組〉は同盟軍へ送ったメンバーが他のクラスよりも少なかったために防衛担当の人数が15人もいて、かなりの時間を耐えることになった。
特に強かったのが、やはりリーダーベニテとエフィ、シヅキの3人。
ベニテはシヅキから回復をもらってなんとかメルトたちの大攻勢を受けても最後まで生き残り、エフィはルルとシェリアとフィナの3人を相手にするも、なんと最後まで生き残ってみせた。シヅキはあっちこっちで妨害電波を発生させまくってリーナの指示を無力化しつつ、索敵なども封じて隠れながら砲撃をカマしてくる戦法で最後まで生き残った。ちなみに〈3組〉で最後まで残ったのはこの3人だけだ。
しかし、最後はセレスタンの突貫で拠点が落とされて退場。
その時【伏兵通信士】のシヅキが最後にゼフィルスへ「今度会うときはゆっくり話をしようね!」なることを言い残して退場したりしたが、これからどうなるのかはまだ分からない。
そして最後に〈2組〉戦だが、こちらもよく耐えたが〈3組〉の退場とほぼ同じくらいで退場してしまうことになる。
ここで試合終了のブザーが会場中に響き渡ったのだった。
試合結果――〈残り時間:3時間25分33秒〉
〈2年1組〉『残り人数:28人』『ポイント:8634点』1位
〈2年2組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』2位
〈2年3組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』3位
〈2年4組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』5位
〈2年6組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』最下位
〈留学生1組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』6位
〈留学生3組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』7位
〈留学生4組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』4位




