#1476 〈ナダレグランキ〉VS〈2組〉〈3組〉全力戦!
各所でどんどん被害が拡大しているとき、ラウはようやく〈1組〉拠点の近く、〈ナダレグランキ〉のいる最前線に来ていた。
「ダウンだ! ダウンを狙え! 防衛モンスターを崩すんだ! タイミングをはかりノックバックさせる!」
「ラジャ」
ラウの隣で控える猫人ターニアが短剣を構える。
同盟軍たちの攻撃で〈ナダレグランキ〉をノックバックさせ、その隙にターニアが『急所一刺し』でノックバックダウンを奪うという作戦。しかし。
「ブオオオオオオオ!」
「その戦法は〈エデン〉では定番だ。やらせはせん――『グラビティ・ロア』! 『ブリザードテンペスト』!」
「たはは~。カルアちゃん戦法は素早さ下げれば封じられるんだよ~『素早さドレイン』!」
「ぬあゆっす!?」
「ターニア! くっ、やはり難しいか」
〈ナダレグランキ〉を援護するのは、メルトとミサトだ。
しかもその位置は、〈ナダレグランキ〉の両肩の上。落ちないように〈聖ダン〉でドロップした〈木箱〉産の〈転落帽子〉という、どう見ても天使の輪にしか見えないアイテムを頭にのせている2人が、〈ナダレグランキ〉の肩から攻撃魔法やデバフを撃ちまくっていた。
さらに〈ナダレグランキ〉の攻撃もさっきから半端なく、すでに数人の退場者が出ている始末。
しかし、とある優秀なタンクがやってきてからは被害はそこまで出ていなかった。
「む、あの〈3組〉リーダー、やるな」
「紅盾ちゃん、すっごかったんだ~」
そのタンクこそ紅色の盾を持つ〈3組〉のリーダー、ベニテだ。
「ブオオオオオオオ!」
「『三つ月の盾』!」
〈ナダレグランキ〉が体格を活かしたショルダータックルをしようとするも、ベニテの3つの満月の盾が見事に〈ナダレグランキ〉を止めると。
「いいわ! 『三つ陽の砲』!」
「チャンス――『戦撃乱斬』!」
ズドーンと発射された〈火属性〉の3つの砲撃と、胸に飛び込んだ斬撃の嵐が〈ナダレグランキ〉をノックバックさせる。
「いいよいいよ! マースィさん、エフィちゃん、ナイス!」
そしてベニテがナイス宣言。かなり連携慣れしている様子をうかがわせた。
それもそのはずでベニテの職業は【盾乙女】。そしてマースィの職業は【銃砲乙女】である。
サチ、エミ、ユウカと同じく【魔装】系から〈上級転職〉が可能な、全12職ある【乙女】シリーズのうち2職に就いているのだ。もちろんユニークスキル『魔装共鳴LV10』も持っているのでこの2人は〈新学年〉の頃から一緒に行動していた。
また、〈3組〉のエフィは片手剣に片手銃という銃剣スタイル。
その職業は【ハンター】系の上級職、高の下【必殺人・鬼狩り】だ。
剣と銃両方に適正を持ち、両方を扱える遠近攻撃。さらにエフィの持つスピードの乗った攻撃スタイルは目を見張るレベルだ。プレイヤースキルではタンクのベニテ、アタッカーのエフィと言われているほどである。
しかも鬼狩りとか、氷のオーガの様な見た目の〈ナダレグランキ〉にこれ以上ない程決まっていた。
「しっ――『ドギュラーシュータ』!」
剣閃でノックバックしたところへ追撃の銃撃。
この素早い剣と銃のスイッチこそ【必殺人・鬼狩り】の神髄だ。
あまりの攻撃の速度にノックバック中にダウンを取ってしまえるほどなのである。
「『ヘッドグラビティ』!」
しかし、これはメルトの重力魔法によって真下へズドンと叩きおとされて防御されてしまう。
ターニアもこのノックバック中カルア戦法を実行しようと飛び掛かるが。
あいにく急所はミサトたちに守られていた。
「『急所一刺し』!」
「『ニードルバリア』!」
「にゃ!」
デバフで鈍ったターニアの動きを見切ったミサトが、棘付きの結界で迎撃したのだ。そこは空中、もちろんメルトも杖をターニアに向けていた。
「『アポカリプス』!」
「みゃああああああ!?」
選択したのはユニークスキル『アポカリプス』。
カルア戦法を知っているからこそ今確実に倒す、その思いが出ている強烈な一撃。
これにより、ターニアは退場してしまう。
『攻防デュアル』によって攻撃と防御の魔法を同時に展開できるメルトは【必殺人・鬼狩り】よりもその切り替えが速かった。
だが、ここで隙を突きメルトに接近した者がいた。
総指揮官のラウだ。これは『獣速牙狼』のスキル。ブリッツ系の上位ツリー。
「あ、メルト様危ない!」
「くっ!」
「間に合えーー!」
しかし、如何にラウと言えど地上から10メートル近い肩の上だ。
かなりギリギリのタイミング。
メルトは両方の魔法を使った直後、防御スキルすら使えない。そう判断した瞬間、〈転落帽子〉を取りつつ全力で後方へと飛び、敢えて肩から落ちることを選ぶメルト。
結果ラウの『獣速牙狼』はメルトが消えたため〈ナダレグランキ〉の首へ直撃した。
「グブオオ!?」
完全な巻き込まれ。
これが決め手になってしまい、〈ナダレグランキ〉はノックバックダウンした。
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
「ラウがやりやがった!!」
「すげぇ!!」
「ナイスリーダー!!」
偶然の産物だが〈ナダレグランキ〉のダウンを捥ぎ取ったラウに賞賛の嵐が吹き荒れた。
ここから総攻撃、というところだが、もちろんそんなの許す〈1組〉ではない。
「ここでゼフィルス君直伝の裏技発動だよ! 『召喚盤よ本気を見せよ』! 『レアボスユニークスキル解放』! これで締め! ――ユニークスキル『真の力を取り戻せ』!」
フラーミナが切り札をこのタイミングで切ったのだ。
「んな!」
『召喚盤よ本気を見せよ』は形態変化スキル。上級以上の最奥ボスに限り、好きな形態へ変化させることができるスキルだ。
今までの〈ナダレグランキ〉は第二形態。それを〈新団長・ナダレグランキ〉である第三形態へ変化させるのだ。
そしてここで副次効果が起こる。ボスの場合、形態変化中は無敵状態になり、どんな攻撃をされても受け付けなくなる。それが、ダウン中でもだ。
そして、これが現在ダウン中の〈ナダレグランキ〉にも適用される。
「まさか!」
「形態変化の無敵状態!?」
「うっそだろおい!?」
これは今回が初披露。
ラウも含めてそんな副次効果なんて知らなかった同盟軍には、これは強烈だった。もちろん形態変化が終わり、第三形態となった〈新団長・ナダレグランキ〉はダウンも終わってしまっていたのである。
これぞ、ゼフィルスがこっそりフラーミナだけに教えていた奥の手だ。
そこにレアボスの場合のみ使用可能な『レアボスユニークスキル解放』を使ったことで、ぶち切れた大きな子どもが大暴れしだす。いわゆるバーサーカーモードである。
そこにダメ押しのユニークスキル『真の力を取り戻せ』が発動されたことにより、HPバーが3つになった。マジやばい。
「ベニテ、止めるわよ! 『咲き乙女のクランショット』!」
「分かってるよー! 『真芯・乙女の盾』!」
「隙を見て斬り込む――『三十連鬼バースト』!」
マースィが強力な威力の砲撃を放ち、ベニテは巨大な盾を持った乙女の像を召喚して防御、エフィの30連射による攻撃をそれぞれ使い止めようとした。しかし、
「ブオオオオオオオオ!!!!」
バーサーカーモード中はノックバック耐性があるためか、止まらない。ガンガンぶん殴られて、ついには乙女の像も破壊されてしまう。
「きゃあああ!」
「ブオオオオオオオオオ!」
「うおおおおりゃあああ!! 『カース・オブ・ライトデスター』!」
だがここで、大暴れする〈ナダレグランキ〉の側面を突き、見事に止めた者がいた。
〈留学生4組〉所属のサブリーダー、〈第Ⅶ分校〉出身。その名も〈呪拳のジョウ〉。
強力な右拳を使う男子が〈ナダレグランキ〉をぶん殴ってベニテへの追撃を見事に止めたのだ。
「ジョウだ! ジョウが来たぞ!!」
「厨二入ってるジョウだ!」
「お前らマージ黙れーーー!!!? 厨二入ってねぇし!! これマージだから!」
なんか周囲に人気だがイジられているジョウ。
彼の職業は【殴りマジシャン】の上級職、高の下【呪われし右手の魔拳流】。自ら〈呪い〉の状態異常となり、本来はステータスダウンするところを逆に呪いを力に変えて敵にぶっ放す、俗に言う「収まれ、俺の右腕」的な職業だ。
だが、その力はかなり強力。見た目も右腕から呪われているような邪悪なオーラを出していたりしてちょっとかっこいい。そんな職業だ。
バーサーカーモードになった〈新団長・ナダレグランキ〉をぶっ飛ばしたことからもそれは伺えるだろう。
さらに呪いを増やし、追撃を放たんとするジョウ。だが、それを見逃すミサトたちでは無かった。
「たははは~。本物のマージさんだ! そんなマージさんにプレゼント! 『マジックパフパフ』!」
「なかなかやるな。だが、足下がお留守だな――『集束・グラビティレーザー』!」
「ブオオオオオオオオ!」
「はふんん!? ってマアアアアアアア!?」
「ああ!? ジョウが!」
「ジョーーーーーウ!?」
「厨二のジョウが一瞬でやられたぞ!?」
ジョウの敗因は〈新団長・ナダレグランキ〉のことに集中しすぎたこと。
そんな相手が集中的に狙われてしまうのは自明の理だった。
ミサトには一瞬動きを止められてしまう『マジックパフパフ』され、「はふん」としたところにメルトの強力なレーザーが貫いて、最後は〈新団長・ナダレグランキ〉にぶっ飛ばされて退場してしまうのだった。
「ブオオオオオオオオ!」
「防衛モンスターを止めろ!」
「『乙女結界・フォースシールド』! きゃあああああ!?」
「ダメだ! リーダーの盾でも歯が立たないぞ!?」
「ベニテ、逃げて! 『鬼狩りの閃』!」
再び盾が壊され、暴れる〈新団長・ナダレグランキ〉がベニテに狙いを定めた。
他のクラスメイトたちが先程から攻撃し続けているが止められない。
だが、そこに割り込むのはやはりラウ。
「ミサトさんとメルトを抑えろ!! おおおおお――『獣王烈震咆哮牙』!」
現在のラウの最強スキル。
これを暴れる〈ナダレグランキ〉の顔面にぶっ放したのだ。
ほんの一瞬動きを止めるに至った。
ミサトとメルトは他のクラスメイトが抑えることに成功する。
この大チャンス、逃す手は無かった。
「サチさん!」
「今度こそーーぶち抜けーー!!」
「いっけーー!」
「お待たせー!!
「「「『神気開砲撃』!」」」
ここでサチ、エミ、ユウカによる最強のコンボ攻撃が炸裂。
輝く神装シリーズを装備した3人の攻撃は誰かに妨害されることなく、〈新団長・ナダレグランキ〉に直撃した。
「ブオオオオオオオオ!?!?!?」
あまりの威力に〈新団長・ナダレグランキ〉のHPががっくんがっくん減っていく。
普通ならHPバーが1本無くなった時点で形態変化が起こり、無敵モードになるためにそこでダメージが止まるはずが、今回はすでに形態変化を終えているため止まらずどんどんHPが消し飛んでいく。そしてついに2本目のHPバーまで吹き飛び、〈新団長・ナダレグランキ〉のユニークスキルが止まってしまう。
「!! 今だ!」
「みんな、特大の攻撃を放ってーー!! 『究極乙女のハートスナイプ』!」
「ええい! 私が受けた今までのダメージ、返しちゃうんだから! 『乙女の怒り・シールドビンタ』!」
「『必殺の鬼ハント・烈撃砲丸』!」
「うおおおおお――『エンペラーバスター』!!」
ズドドドドドドン!
超強烈な攻撃の応酬。
マースィもユニークスキルをぶっ放した。
ベニテはがまん系スキルを発動。今まで溜めた鬱憤を解消するかのように盾でバチンとビンタ。凄まじい衝撃を繰り出した。
エフィも銃を構え、自分の中で最強威力のスキルをぶっ放す。
そしてラウが『バスター』系をゼロ距離で放った。
これによりHPバーが一瞬でゼロになり、〈新団長・ナダレグランキ〉を粉砕したのだった。
「今度こそ!」
「今度こそ!」
「ああ、今度こそ!」
「「「やったー! 倒したーー!!」」」
「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
「あれを、あれを倒しただとーーーー!!」
「すっげぇ!! すっげぇぜ〈2組〉! 〈3組〉! あとジョウも!」
ここで〈ナダレグランキ〉が撃沈。
大歓声が轟いた。
これで阻む防衛モンスターは、〈カマクラ〉のみ。
超巨体だった〈ナダレグランキ〉が消え、拠点への射線が開けたことで、次々攻撃が放たれた。
しかし、そうはいかない。フラーミナが3体目のモンスターを呼び寄せたからだ。
「〈ナダレグランキ〉が!? うっそぉ、あれ倒しちゃうんだ。ってやば、来てリーシェン! 拠点を守って!」
「オオオオオオオオオォ!」
「な、なんだぁ!!!!」
「また新手かよ!?」
「こいつは〈エルダートレディアン〉!? いや、違うのか?」
拠点の前に突如超巨大な木が生えてきたのである。
これは〈古代樹〉。
フラーミナが〈集え・テイマーサモナー〉から受け取ったもう1体で、今回が初お披露目。耐久と支援に優れた、巨大な樹木型モンスターだ。
「HPは減ってる! 倒せ倒せ!」
「硬いな! だが、倒せないわけではない!」
もう同盟軍は押せ押せモードだ。
後もう少し、誰もがそう思ったところで、突如凶報が舞い込むことになる。
それは――〈3組〉の拠点にいる【伏兵通信士】シヅキからだった。
「『緊急連絡! 〈1組〉別働隊が〈4組〉拠点を強襲! 今、陥落しました!』」
「へ? は?」
「な、なななななな、なんですってーーーー!!」
ここでゼフィルスが仕込んでいた一手が芽吹くことになる。
北部攻撃部隊のゼフィルスは自分を含む10人をエステル号に乗せて〈1組〉拠点へ戻ってきた。
最初に出ていったのは14人。ノエルが退場してしまったので13人のはず。
数が合わない。じゃあ残り3人はどこにいったのかというと。
「『ゼフィルスさん、報告しますわ! レグラムさん、オリヒメさん、セレスタンさんが〈4組〉拠点を陥落させました!』」
「さっすがセレスタンたちだな! このチャンスを活かさないわけがない!! 一気に押し込むぞーーー! 『英勇転移』!」
丁度この時リーナとゼフィルスがこんなやり取りをしていた模様。
そう、ゼフィルスはセレスタンたちに、他の拠点の陥落を頼んでいた。
この混乱を逃すはずもなく、ゼフィルスたちはでっかく斬り込んできた。
〈ナダレグランキ〉戦勝利から一転、同盟軍は大ピンチを迎えることになる。




