#1473 一瞬で〈1組〉攻撃部隊が回り込んで来たんだが
〈炎帝鳳凰〉撃破!
そのポイントは、なんと130P。
上級ダンジョンボスのなんととんでもない数値か。
それをフラーミナは『コストを下げよLV10』を使って3割減、91Pで召喚可能だが、撃破ポイントは変わらず130P振り込まれる。
〈炎帝鳳凰〉は上級下位ランク4の最奥ボス。
同盟軍の中には〈炎帝鳳凰〉を倒したことのないメンバーも大勢いて、これには大歓声が上がった。
しかし、その歓声が悲鳴に変わるまでそう時間は掛からなかった。
〈留学生1組〉終了の報。
それからそう時間も経たず南側からとんでもないものが飛来したためだ。
もちろんゼフィルスたちのことである。
初めに危険を察知したのは、ラウなど、『直感』系のスキル持ちだった。
「んなにっ!? ――全員防御! 南側にありったけのスキルを叩き込めーー!!」
「『五重壁結界防御』!」
「『フル乙女三角盾』!」
「『エンペラーバスター』!」
「『滅退の剣閃線』!」
ラウの大声に対応できたメンバーは少なかった。
アケミの付き人であるカジマルが障壁を張り、ベニテも強力な逆三角形の盾を顕現し、ラウも全力の〈五ツリ〉バスターを放ち、エレメースが特大の斬撃で迎撃した。さらに数人が南側に向かってスキルを放つくらいだった。
〈炎帝鳳凰〉を倒した瞬間というのが良くなかっただろう。大歓声にかき消されて声が届かなかったのと、奇襲を見抜けず意識が完全に前に向いていて、後ろの警戒心が吹っ飛んでしまったのだ。よくあることだ。
さらにその直後のことだ。別の場所からも『直感』が警報を鳴らす。
「リヴァアアアアアア!!」
「「「「はああああああああ!?」」」」
なんと〈1組〉拠点の1マス西の池から突如〈リヴァイアサン〉発生!
これは〈集え・テイマーサモナー〉のカリンから受け取った、フラーミナのモンスターだ。名前はヴァイア。
そして、タイミングバッチリ。これは陽動で囮。
これにより、同盟軍の意識が完全にバラバラになってしまう。
もちろんこれはリーナの指示だ。
ラウたち同盟軍は〈1組〉の拠点へ進行する際、ビッグマスから西側に伸びる2つの通路のうち、南側から進行していた。〈留学生1組〉の拠点からなにかが起こったとき、その知らせを受けるためだ。
だが、そんなの意味なかった。
同盟軍のほとんど真後ろから、襲撃は来た。
◇ ◇ ◇
「『インパルススラストキャノン』! 『ロングスラスト』! 『スラストゲイルサイクロン』! 『ロングスラスト』! 『ホーリースラストバースト』! 『ロングスラスト』! 『トライ・スラストカノン』!『ロングスラスト』! 『インパルススラストキャノン』!」
「『ドラゴンブレス』! 『激・火炎放射』!」
まず来たのは衝撃。
エステルとアイギスによる槍砲とブレスによるものだった。
なお、エステルは『姫騎士覚醒』済みである。
これに後衛陣やラウが対処したのだが、結局相殺とは至らず押し込まれ、ズドドドドンと強力な奇襲を受けて同盟軍が混乱してしまう。そこへ。
「突っ込むぞーーーー!!」
「「「「おおー!!」」」」
南の〈デッカマス〉でエステル号から降りていたメンバーたちが次々と同盟軍の後方に襲いかかったのだ。
メンバーはゼフィルス、エステル、リカ、シェリア、ルル、アイギス、ラクリッテ、ルキア、ラムダ、ミューの10人である。
「先陣は任せてもらおう! 『二刀斬・雷鳴麒麟』!」
「続け続けーー! 『テンペストセイバー』! 一掃だー『スターオブソード』!」
「全解放いっちゃうよ――『そして時は動き出す』!」
「いきなりクライマックスですね――『大精霊様二大降臨』! 『古式精霊術』! 『大聖霊降臨』! お願いします『イグニス』! 『テネブレア』!」
「自分も負けていられんな! ――『聖光剣現・真突』! 『聖光剣現・真斬』!」
続いて強力なスキルが発動しまくり、ガンガン後方を襲うと。
「あ、アケミさん! 『六角三重障壁』! ってあああああ!?」
「「カ、カジマルーーー!?」」
「い、〈1組〉の強襲だーーーーーー!?!?」
「う、後ろからだとーーーーーー!?」
「ちょ、前々! 前を見ろ! 防衛モンスターが襲い掛かってきてるって!」
「リヴァアアアアアアア!!」
「あれもなんとかしなくちゃ!!」
最初の犠牲者はカジマルだった。
彼は【多重展開結界師】。勇敢にも付き人としてアケミを庇って結界を張ったところを狙われチュドーン。結界を破壊され、そのままリカとゼフィルスとルキアとラムダの攻撃を受けて吹っ飛び、退場してしまったのだった。
さらにこれが原因で強力な防御結界を失い、大精霊2体を含む〈1組〉メンバーズの攻撃がどんどんぶっ刺さることになる。
「指揮官を守って! 『退場の絶横薙ぎ』! ダメ、きゃああああ!」
「エレメース! くっ!」
ここでラウをかばい、護衛の1人だったエレメースが退場してしまうほどの攻撃が不意打ちで一気に叩き込まれ、同盟軍は一瞬で大混乱に突入してしまうのだった。
ラウはエレメースが作ってくれた機会を不意にすることなく、まずヴァイアをどうにかする。
「―――リャアナ! 池を凍らせてあれを止めろ!」
「了解!!」
「ナギ、モンスターに狙われないようタンクのヘイト管理を頼む!」
「アイサー!」
「私たちは!?」
「サチさんたちはまだ神装が回復しきっていないだろう。ナギに付いていって隠れてろ! 〈4組〉は後方防御だ!」
落ち着かせる間もなくどんどん指示を出していくラウ。
そこにまたも悲鳴が轟いた。
「きゃあ!」
「今なんか通ったぞ!」
「あれは!」
「ラウ! 構えろ!」
「とう!」
それは小さな襲撃者。
ルルである。
俺やシェリアからの英才教育でまずは指揮官を倒すことが正義であると教えられ、同盟軍の総指揮官であるラウにいきなり攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ラウお兄ちゃん、今日も引導を渡すのです!」
「そんなに引導を渡されてたまるか!」
「『ヒーロー・バスター』!」
「!」
ルルが選択したのは〈五ツリ〉『ヒーロー・バスター』。
ラウの脳裏に練習ギルドバトルの光景が過ぎった。
ここでラウも下手に対抗したが最後、前回と同じ結果になるだろうと。
しかし、他のどんなスキルで対抗しようとも1対1ではまずルルには勝てない。
ルルのスキルは2倍速。つまりは2回攻撃である。
これは最低でも2人で対処しなければならないことを示していた。
「『獣速牙狼』!」
発動したのは『ブリッツ』系の上位ツリー。ラウはこれを回避に使った。
ルルの『ヒーロー・バスター』に対し、ラウは全力で逃げる選択。
「待つのですーー!」
「くっ!」
しかしルルも速い。すぐに追いかけてくる。
なお、ルルの『ヒーロー・バスター』に巻き込まれて1人が退場しているが、それに気が付く者はいなかったとか。
ラウがここでルルに対応した場合、指揮系統が大きなダメージを受けることになるというのは明らかだった。
絶対にラウは戦うわけにはいかない。
その時、大きな巨体がルルの前を遮った。
「はははははは!! ならば俺が相手になろうではないか!」
「アラン!!」
「にゅ!? すっごい筋肉さんなのです!」
なんと筋肉の貴公子(?)アランの登場である。
すでに上半身は裸だ。
「ここは任せろラウよ! 筋肉に賭けてお嬢さんは俺が止めるぜ!」
「! 任せた!」
こうしてルルVSアランというとんでもない構図が発生。
色々問題がありすぎる絵面の中、筋肉ことアランが仕掛けた。
「うなれ俺の筋肉! 『最強の筋肉は鋼の鎧、これに勝るものは無し』!」
「鋼の筋肉さん! ルルも負けないのです! 『変身・プリンセスメイクアップ』なのです!」
アランのボディがメタルのように黒鉄を纏いテカッテカへと変身する。
これに対抗するようにルルも変身! ヒーロー形態へと進化するのだ。
さらにヤバい構図に大変身だ。
「こんなものシェリアさんに見られたらなんと言われるか……。いや、それどころじゃない! 〈2組〉と〈留学生4組〉はこのまま〈1組〉の拠点を攻めるぞ! 押せ押せーーー!!」
「「「「おおー!!」」」」
ラウはこの後のことを想像して身震いしたが、今はそんなこと言っている場合ではないと奮い立たせて攻めへと向かう。
完全に意表を突いたタイミングの挟撃、完全にリーナが戦場を操っているとみて良い。
となれば、正面突破しかない。
作戦は継続だ。打ち破って勝利を掴む。
すでに厄介と言われていた城壁は破壊されている。
次の関門、フラーミナが操るテイムモンスターと防衛モンスターを打ち破れさえすれば勝利は目前だ。ラウも前戦に加わり、一気に押し込む。
「拠点への攻撃、届きません!」
「空は2人の天使が抑えてる! 通れないぞ!」
「残りの巨人と機械が倒せない!」
「誰か、あの天使たちを止めて!」
「それよりも巨人オーガをなんとかしろー!? タンクが吹っ飛んでるぞー!?」
しかし、〈1組〉のメンバーは防御に長けた者がものすごく多い。
筆頭のシエラを初め、天使のフィナとトモヨ、ロゼッタにカタリナ、そしてミサトにアイシャまでいる。
さらにはメルトも遠距離攻撃を重力で防いでくるし、ラナ殿下の回復はデタラメだし、エリサは〈即死〉をばらまいてくる。ちなみにエリサはフィナによって再び空中に攫われ、どこかに爆撃されたらしいが、ここからではどこに行ったか分からない。
こほん。その中で防衛モンスターである〈ナダレグランキ〉と〈カマクラ〉までいるのだからもう大変だ。
特に〈ナダレグランキ〉がヤバかった。15メートル級の大型オーガ。
上級中位ダンジョンのレアボスであるため、そのコストは半端なく、なんとコスト262である。
〈炎帝鳳凰〉の2倍以上と言えばこのヤバさが分かるだろう。
クラス対抗戦の1クラスのコストが最大300なので、こいつ1体でほぼみたしてしまうという意味不明さだ。フラーミナがコストを抑えておかなければ3体も防衛モンスターを召喚するなんてできないだろう。
ちなみに〈カマクラ〉がコスト158である。
フラーミナのスキルで『上限を上げよLV10』でコストの上限が3割増。
『コストを下げよLV10』で召喚盤のコストが3割減。
――〈炎帝鳳凰〉コスト130。抑えて91P。
――〈強打義装機兵・カママクラス〉コスト158。抑えて110P。
――〈ナダレグランキ〉コスト262。抑えて183P。
合計コストは384Pも掛かっている。
コスト上限が300→390に上がっていたのでまかなえたが、 かなりギリギリの運用だった。
その中でも〈ナダレグランキ〉のコストがヤバいことが分かるだろう。
その実力もとんでもなく、さっきから拳を振るうごとに人が吹っ飛び、陣形がボロボロ崩れていくのだ。
タンクが頑張っているが、彼らは上級中位ダンジョンのボスすら倒したことがない。レアボスなんて完全に手に余っている。
今はMPをじゃぶじゃぶ使って全力で防御をしているから何とかなっているだけで、MPかクールタイム、どちらかが欠ければすぐに崩壊するだろう。
早く何とかする必要がある。
なのに上空の天使など、〈1組〉タンクメンバーが強すぎて抜けないという状況だった。まずはこれをどうにかして〈ナダレグランキ〉と〈カマクラ〉に攻撃を届かせないとどうにもならないと判断。
「ハイウド! ナリリス! 上空の天使を頼めるか!」
「やってやるさ!」
「やったるわよ! アマリー箒出して!」
ナリリスは迷宮学園〈第Ⅴ分校〉所属。〈留学生4組〉のリーダーだ。
その職業は【騎士】系の上級職、高の上、【天の先槍】。
ナリリスは近くにいた女子を捕まえ指示。
その子が持っていたのは〈魔法使いの箒杖〉。それに乗せてもらうと、一気に空へと向かうのだった。




