#1468 〈1組〉VS〈留学生1組〉戦――決着。
セレスタンがクイナダとカルアを破ったころ、〈1組〉のメンバーズもだいぶ〈留学生1組〉を追い詰めつつあった。
「『正義は我にあり』!」
「いいや、〈1組〉にあり!」
「ただのスキル名でゴザルよ!?」
「知ってる!」
「よそ見をしているとは余裕があるな――『二刀斬・氷雪月下』!」
「『ジャスティスソード』でゴザルーー!」
〈留学生1組〉の北側ではゴザルことアビドスがリカと激しく切り結び、拮抗。
何気にゴザルは〈留学生1組〉の中で3本の指に入る強者であり、〈千剣フラカル〉に所属する留学生だ。
リカも姉のリン姉からゴザルのことは聞いており、ちょっとリン姉に鍛えられたという腕前を体験したかったということもあって、1対1で切り結んでいた。
これがなかなか侮れない、なんとリカとほぼ互角のプレイヤースキルを持っていたのである。意外すぎる強さだ。
度々あっちこっちで急所を突き〈留学生1組〉を攪乱するゼフィルスが茶々を入れにくるが、【ジャスティス】になる者の宿命か、ちゃんとツッコミまでこなしながらリカと切り結ぶゴザル。やはり、なかなかの強者だ。色んな意味で。
だが、今の所リカの相手ができていた。【ジャスティス】はバフ系のスキルに恵まれてパワーアップできるため、辛うじて対抗。これがリカだけじゃなく、他の〈1組〉メンバーが援護に参加すればとても危険な状態だった。
「おいゴザル! このままじゃマズいぞ! 一旦体勢を立て直さないと!」
「ぐぬぬ、こちらも手一杯でゴザル!」
「リーダーたちはまだ戻らないのか!?」
「まだ拠点を落とされていないところから、今もリーダーは頑張ってるわ! 私たちも頑張らないと!」
指揮系統が完全に破られているが、元々〈留学生1組〉は出来る子たちで構成されたクラス。
〈1組〉が奇襲を仕掛けたクラスの中で一番粘っているのはまさにこのクラスだった。
「いた! 〈嫁げ姫のオリヒメ〉! ヒーラーがここにいるぞ! 討ち取れ!」
「行かせん!!!! 『雷速天空・閃断』!」
「あ」
「きゃーーー! レグラム様かっこいいです!」
「喜んでいる場合か、大技行くぞ!」
「はい! どこまでも!」
「『天海の雷神』!」「『天海の津波』!」
「な! 『スターブロックアンロック』!」
「『ファイトー・爆発』!」
【陣・秘印術師】と【ミスター・ナンバーワン】がなんとか止めに入ろうとするが。
「だめ、止まらない! きゃああああ!」
「ダメだ威力が強すぎる! 範囲攻撃なのにこの威力だと!?」
レグラムとオリヒメも絶好調。
ヒーラーが狙われるのは世の常だが、レグラムがいるので次々返り討ちにしていく。
この部隊の純ヒーラーはオリヒメだけだが、オリヒメは1人でここにいるメンバー全員の回復を担うポテンシャルがある。
「そろそろね――『生命のメロディ』!」
「くそ、また回復だ!」
「あの〈嫁げ姫のオリヒメ〉をどうにかしないと、このままだとじり貧だぞ!」
「〈嫁げ姫〉とか最初二つ名を聞いたときは思わず吹いちまったのに、本物はとんでもないな!?」
なんとかオリヒメを狙いたい〈留学生1組〉だったが、そうはさせないとゼフィルスたちがガンガン連携を乱す。だが、〈留学生1組〉にも切り札はあった。
「防衛モンスターは!?」
「3割がやられているわ! でも、おかげであれを出す準備が整ったわ!」
「出るぞー! 持ちこたえろー!」
「ようやくでゴザルかー!」
ここで〈留学生1組〉の防衛モンスターが降臨。
それは、なんと上級下位ランク5、徘徊型ボス。
〈グリム・リーパー〉だったのだ。
「キィィィィィィィィィィ」
「うお! こいつ、〈グリム・リーパー〉じゃん!」
それを見てゼフィルスは喜――驚いた。決して喜んだわけではない。
顔が「〈留学生1組〉、やるじゃないか!」という表情をしていてもだ。
見た目は大鎌を持った死神を連想させるレイス型モンスター。
上級下位登場ではあるが、徘徊型という上級中位に足を踏み入れているモンスターなため、なんと〈即死〉スキルを持っている恐ろしいモンスターだ。(普通の上級下位級ならカウントダウン即死)
実際、こいつに出会ってしまい戦闘不能にされた学生は数知れず。
今や〈夜ダン〉の鬼門に位置づけられている。
〈エデン〉ですらシェリアのあの大精霊が一瞬でやられ、女性陣が怖がるなど、大きな被害(?)があったほどだ。(実質被害ゼロ)
「いくでゴザル〈グリム・リーパー〉よ、〈1組〉を倒すのでゴザル!」
「よそ見は厳禁だと言ったはずだぞ――『二刀斬・陽光桜嵐』!」
「ぬおおおおおお!?」
「キィィィィィィィィィィ」
ゴザルの指示を聞いたからか、〈グリム・リーパー〉は鎌を振り回す。
いきなり〈即死〉攻撃の『グリム・チョッパー』だ。
もし〈即死〉が決まってしまえば〈1組〉とて退場は免れない。
会場は大盛り上がりだった。もしかしたら、〈1組〉に大量の退場者が出るかもしれないと。
防衛モンスターが切り札なのは〈1組〉、というか〈エデン〉の戦法。
当然真似したいところだが、さすがにボスの召喚盤はなかなか手に入らない。
手に入ったとしても普通は3年生の部でお披露目されるだろう。
しかし、〈留学生1組〉は手に入れた。留学生の最高学年は2年生なので3年生の部で使う、なんてこともなく、この試合に投入出来たのだ。
じゃあなぜ今まで出さなかったかというと、実はこの〈グリム・リーパー〉は特殊で、コストの他にも召喚するには贄が必要だったのだ。つまり防衛モンスター。
この〈グリム・リーパー〉は、上級下位でゲットできる召喚盤としては強すぎるため、防衛モンスターが一定数退場しないと召喚できないという縛りが存在している。
おかげでここまで召喚に時間が掛かったのだ。
だが、召喚出来てしまえばこっちのもの。
強力で恐怖なモンスターの登場に〈1組〉の勢いも止まるかと予想されたが。
「あの時の雪辱の相手、引導を渡してあげます――テネブレア様! イグニス様! お願いいたします! ―――『大地の怒り・エレメントテラ』! 『陽光の驚き・エレメントソル』!」
「むー! 怖いのはヤーなのです! 『ヒーロー・バスター』!」
「すごく怖い。でも、撃つ――『ハードクリティカルショット』!」
「〈聖属性〉ならばダメージは大きいと聞く! 受けてみよ――『エクスカリバー』!!!!」
むしろ〈1組〉は〈グリム・リーパー〉に恨みでもあるのかと言わんばかりに攻めが強くなった。
でも鎌と〈即死〉は恐ろしいようで、女子は遠距離攻撃が主。
シェリアは大精霊にお願いし上下から挟むように属性攻撃を叩き込み、ルルは唯一の中距離攻撃をぶっ放し、ミューが〈五ツリ〉の強力な攻撃を放って、ラムダは迷わずユニークスキルを使って飛び込んだ。
「な、なにーーー!」
「いや、ちょっとは止まりなさいよ! これ死神よ!?」
死神ごときで止まっていたら〈1組〉には所属できないのだ。むしろ。
「うおおおお! ボーナスポイントだーーー!!」
ゼフィルスからはボーナスと認識されているくらいである。
〈グリム・リーパー〉が鎌をブンブン振って対抗するが、まず〈エデン〉組の〈即死〉対策はかなり高い。〈即死〉が怖いと知っている者からすれば、対策は必須だ。
なによりゼフィルスがボーナスと例えた訳。それは少し前に〈即死〉を無効化してしまうギルド設置アイテム、〈カメさんトロフィー〉をゲットしていたためである。
あれのおかげで〈エデン〉メンバーにはスキル『カメ代わり』が付き、1回まで〈即死〉を無効にしてしまう。
つまり、〈グリム・リーパー〉なんて怖くない。
「『聖剣』!」
「『ホーリースラストバースト』!」
「『大気の哀しみ・エレメントヴェントゥス』! 『大海の荒れ・エレメントアクワ』!」
「キィィィィィィィィィィ」
むしろ5人以上で攻撃に参加してもハンディが乗らない分、ダンジョンにいた本物よりも格段に弱く感じるほどだった。
ガンガンHPを削っていき、一気に半分を割る。
それを見た〈留学生1組〉は希望からズドンと転落した表情で慌て出す。
「援護! 援護よ! 〈グリム・リーパー〉を攻撃させないで! 『ハンドレットダート』!」
【サジタリー】女子がなんとか援護しようと矢を放つが、ほとんど焼け石に水状態だった。
「体勢を立て直す余裕すらないんだが!?」
「僕いきます! あれを貸してください!」
だが、〈留学生1組〉にはまだ切り札がある。
「あれか!! 我ら〈第Ⅲ分校〉のダンジョンでしか産出されない希少なアイテムだが、今こそ使うときだろう! キハに任せる!」
そう、それはここでは手に入らない超希少アイテム。
とある〈第Ⅲ分校〉でしか産出しないアイテムだった。
「はい! 〈ダークマターグラビティーサクション〉を発動し――」
「なあなあ今〈第Ⅲ分校〉でしか産出しないアイテムって言った!?」
だが、なんか発動前に向こうのリーダーがフィッシュした。
「ゼ、ゼフィルスさん!?」
「ん? あ、君は確か元リーナのクラスにいた。ってそれは置いといて、それなに? アイテム!? 超アイテム!?」
「教えられませんよ!?」
当然である。
なに普通に聞いてんの? である。
ちなみにこのキハが託された〈ダークマターグラビティーサクション〉は重力の力場を作るという超とんでもないアイテム。
メルトがしているように重力で敵をおいでおいでしてしまうのはもちろん、逆らうにも力がいるし、重力に捕まり逃れられなくなると動けなくなってしまうのだ。
〈即死〉使いの〈グリム・リーパー〉がいるときにこんな物を使えばどうなるか。
重力に引き寄せられるイコール〈即死〉するというコンボが誕生することだろう。
なんか使用する前に超興味津々と言わんばかりの〈1組〉リーダーが目を輝かせて隙だらけで立ちはだかったために、うっかり使い損なった。だがキハは改めてハッとしてアイテムを発動せんとする。しかし。
「却下だ! 『フィニッシュ・セイバー』!」
「はへ?」
そんな希少な物を使うなんてとんでもない。
うむ。ゼフィルスの目の前で使おうとしたのが、キハの最大の失敗だった。
ゼフィルス、使われる前に倒すを実行する。一瞬で懐に入られ、バッサリと切り捨てられてキハは訳が分からずダウンしてしまうのだった。
「それ見るからに消耗品じゃねぇか! それは後で〈エデン〉が買う! じゃあ後でな! 『スターオブソード』!」
そんなゼフィルスの一言で、キハは退場していってしまうのだった。
もちろん手に抱えたままの〈ダークマターグラビティーサクション〉も一緒に転移。
「うおおおお!? キハーーーーーー!?」
「それ持って行っちゃダメーーー!?」
こうして〈留学生1組〉の2つ目の切り札は無くなってしまったのだった……。
ゼフィルスグッジョブ(?)である。
「キィィィィィィィィィィ!!」
〈グリム・リーパー〉を投入したことで〈1組〉の狙いがボスへ向かい、ちょっと余裕が生まれたためその間に体勢を立て直そうとした〈留学生1組〉だったが、そんなのしてたら〈グリム・リーパー〉が消えそうな状態。
そんな状態に目を見開いて、全員が再び〈1組〉を相手取る。しかし、
「もしかしたら〈留学生〉たちはさらなる未知のアイテムを持って来ているかもしれないだと? う、うおおっしゃー! テンション上がってきたーーー!! いくぞ! 『完全勇者』! 『勇気』! 『勇者の剣』!」
ここでテンションを振りきってしまったゼフィルスがユニークスキル3連続発動という暴挙を発揮しちゃった。
無敵状態になり、超特大バフで急激に能力を上昇させ、物理的に止めようとする〈留学生1組〉を華麗にスルーして『勇者の剣』を〈グリム・リーパー〉に叩き込む。
ゼフィルスは新しく装備していた〈竜の腕輪〉のスキル『ドラゴンユニソウル』の効果で全ユニークスキルの威力や効果時間が上昇。
「うおおおりゃりゃりゃりゃりゃーーー!!」
そんな状態で無敵のまま乱舞開始。
〈極光剣・レーラ〉によって属性耐性とかは無意味。〈幽霊特性〉ももちろん無意味だ。
『極光剣』は相手の耐性のうち、もっともダメージが出る属性で攻撃するスキルなので、一番ダメージが出る〈光属性〉を参照し、ガンガン弱点属性で通常攻撃を入れまくる。
「やめてぇぇぇぇっ!? 『兆サイコーバースト』!」
「うおおおお勇者くらええええ『モンスターセカンドパニッシャー』!」
【兆能力者】と【S級冒険者】がなんとかゼフィルスを止めようと試みるが、ゼフィルスは無敵状態なのだ。
「「あ!?」」
そして10秒後、〈グリム・リーパー〉は頑張ってゼフィルスに〈即死〉を与えまくったが、これも全部無効。
HPがゼロにされてそのまま消えてしまったのだった。
「うおっしゃあああああ!」
「きゃああああああ!?」
「切り札やられたーーーー!?」
「2分持たなかっただと!?」
「うっそでゴザルーーー!?」
〈留学生1組〉を襲った衝撃は思いのほか大きかった模様。
なお、ゼフィルスは両手を挙げて勝ち鬨を上げているカオスっぷりだ。
「では、そろそろ締めるとしよう。『一刀斬・対壊』!」
「! 『ジャスティスガード』! あ、しまったでゴザル!?」
ここでリカが、勝負を決めにくる。
今まで温存していた防御破壊スキルを発動してゴザルの防御を抜きに来たのである。
防御スキルを発動していなければ問題無いスキルであるのだが、〈グリム・リーパー〉が一気に屠られたことで動揺したゴザルはここで痛恨のミスをしてしまう。反射的に防御スキルを発動してしまい、ぶっ壊されてノックバックさせられてしまうのだった。ゴザルのクセを見抜いていたリカの読み通りだ。
「シッ! 『抜刀術・閃光』!」
「ゴザ―――!?」
ノックバック中に追撃が綺麗に決まると、そのままゴザルはダウンした。
と、ここでドガーンという音が聞こえる。
「え?」
「あ、あれ?」
〈1組〉との戦闘に気を取られていた〈留学生1組〉は、そこでようやく拠点のHPが危険な状態であることを知る。
ノエルのいないセレスタンが頑張って削ったのだ。
だが、気がついた時にはすでに遅かった。
「(ま、マジでゴザルか!?)」
リカが納刀するのと拠点のHPがゼロになるのは同時だった。
「うむ。楽しめたぞ。えっと……ゴザル殿」
「(ゴ、ゴザルーーー…………)」
リカの言葉を最後に〈留学生1組〉は陥落してしまうのだった。




