#1467 セレスタン ノエルVSクイナダ、カルア、リテア
「みんな西側! 防衛急いで! すっごい急いで! ほんとすっごく急いでーー!!」
西側バリケードに衝撃があった直後、クイナダは心の中で嘆きながらも指示を飛ばしていた。
そりゃ嘆きたくもなるだろう。
何しろ〈1組〉が、よりによってゼフィルスに率いられて奇襲してきたのだ。
同じ〈エデン〉所属のクイナダは、加入した当初から〈エデン〉のとんでもなさに圧倒されまくりだった。ここ3週間近くは本校の〈1組〉と一緒の行動をしていたため、〈1組〉と〈留学生1組〉の差もちゃんと理解している。
普通に戦っては勝てない。
故に、大規模な同盟を組もうと頑張っていたのだ。
〈1組〉は強い。もうただでさえ強い。なのに。
「なんで〈1組〉、あれだけ強くて奇襲してくるのかな!? 奇襲なんていらないんじゃないんかな!? もうちょっと、せめて北側から攻めてきて欲しかったんだよ!?」
「そ、それが〈1組〉の強さの秘訣とおっしゃっていたのはクイナダさんでございますよ! あのゼフィルス様はどんなに戦力差があろうとも油断はせず、常に効率を考える方だとおっしゃっていたではありませんの!」
「そうだったね! そうだったよ!」
普通奇襲って弱い方がするんじゃないかな?
なんで強い〈1組〉が奇襲してるの?
そんな強い思いもリテアに言われて飲み込み、素早くみんなに〈1組〉の迎撃を指示するクイナダ。
そこへとんでもない凶報を持って来た者が居た。
「クイナダ、報告。セレスタンとノエルがセットで来てる」
「ちょっ!?」
カルアだ。
そしてその報告がまたとんでもないものだった。
セレスタンとノエルのセット?
それ、拠点が10秒くらいで落ちるやつ!
「すぐ案内してカルアちゃん! リテアちゃん付いてきて!」
「ちょ、クイナダ殿、どこに行くでゴザル!?」
「ここはゴザルに任せる!」
こうして問答する時間すら惜しいとカルアに先導され、クイナダたちはとある場所に駆けだした。
「あそこ!」
「いたーー!! ちょ、セレスタンさんにノエルさん!? 本気すぎるよ! それダメーー!!」
発見。
拠点の南側に居たのは見間違おうはずもない。セレスタンとノエルだった。
この2人は超重要人物。否、究極重要人物だ。
クラス対抗戦で1番警戒しなくてはいけない組み合わせである。
理由は言わずもがなだ。でも敢えて言おう。
2人が手を組めば、拠点を10秒で落とせるから、だ。
色々勘弁してもらいたい。
この組み合わせを見た瞬間、クイナダは思わず叫んで青竜刀を振りかぶった。
「おや、やはり来ますかクイナダ様、それにカルア様も」
「やほー2人とも、来ちゃった♪」
「妨害しないと絶対にダメな組み合わせは来ちゃダメでしょー! 『必殺・横薙ぎの大山顎』!」
「あの時の、リベンジ―――『ブレイクピンポイントスタッブ』!」
〈留学生1組〉が〈1組〉の対応に追われる中、クイナダが真っ先にここに走った理由が目の前の2人。
この2人が来ていたら真っ先に妨害ないし退場させなくてはいけない。
もうやるしかないと腹をくくってクイナダは最初から大技、〈五ツリ〉の回避妨害攻撃を放つ。
同時にカルアも強襲。
本当ならクイナダを案内したあとすぐにでも離脱してもいい、むしろ離脱しなければいけない伝令の位置にいるはずのカルアだったが、なぜか一緒に参戦してしまう。
練習ギルドバトルでセレスタンに意識を刈り取られたリベンジに燃えてしまったのかもしれない。
そして、このカルアの行動がゼフィルスの作戦を狂わせることになる。
クイナダの『必殺・横薙ぎの大山顎』は対大軍用の必殺技だ。射程7メートルの薙ぎ払いと強烈な衝撃破を巻き起こし、回避したとしても吹っ飛ぶという超強力なスキルである。だが、
「『瞬拳』!」
「! きゃ!」
「にゃに!?」
「そのスキルはタメの隙が大きすぎます。故に、出だしで止めれば問題ありません」
「くぅ! てーい!」
ブリッツ系の上位ツリー『瞬拳』が先にクイナダに叩き込まれ、失敗させられてしまう。さらにカルアの攻撃は完全にスルーされてしまい命中しなかった。
いきなりの先制攻撃を潰されたクイナダとカルアだったが、そこは〈エデン〉メンバー。怯んだのは一瞬ですぐにクイナダは青竜刀を振り回しながら足運びでセレスタンから距離を取り、反撃し始める。
「私もいるのを忘れないでねー『フレアソング』!」
「それはこちらも同じことですわ! 『天の導き』!」
ここで後衛のノエルとリテアのスキルが衝突。
『フレアソング』は攻撃スキル。対してリテアの『天の導き』は他者への回避を付与するという特殊な魔法。これにより、『フレアソング』がクイナダをスルーしてしまう。
「ありゃ、やるね。それならこう攻めるかな! 『プリンセスアイドルライブ』! 『リズム・メロディ・ハーモニィ』!」
「ユニークスキル! わたくしだって――『月の女神の導き』!」
今度はユニークスキル同士の発動。
ノエルのことはちゃんと調べてあったリテアはそれをすぐに看破。
自分もユニークスキルを発動する。
『月の女神の導き』は回避率の大幅付与。気まぐれに相手の攻撃が命中しなくなるというとんでもない効果を持つ。これをクイナダに付与した。
「『カウンタースマッシュ』! む、これは……やりますね」
「ありがとうリテアちゃん! これなら、カルアちゃん! ――『一武百鬼峰閃』!」
「ん! ――『神速瞬動斬り』!」
前衛の流れはセレスタン優勢だったが、ここに来てスキルがなぜか命中しなくなり、セレスタンの〈四ツリ〉のカウンターがこれまた謎の回避でクイナダに避けられて、隙が出来てしまう。
ここでクイナダが使用したのが乱舞系の〈五ツリ〉『一武百鬼峰閃』。嵌まればおそらくセレスタンをこのスキルだけで倒せる様な超連続攻撃だ。合わせてカルアも飛び込み、すり抜けざまに斬ることで動きを封じようとした。だが、クイナダは焦りすぎた。セレスタンの後ろにはノエルがいるのだ。
「みんなを守って『エコーウォールボイス』♪ あなたの心は『ブルーな気持ち』♪」
防御と反撃を同時にこなす〈四ツリ〉の防御スキル『エコーウォールボイス』がセレスタンに掛けられる。
これによりカルアの神速の斬撃は止められ、クイナダの乱舞も数撃セレスタンに命中したが、ノエルの防御スキルを破壊したところでセレスタンに逃げられてしまう。本来『一武百鬼峰閃』はダウン中の相手を確殺するためのスキルなのだ。
「う、うにゃ~~~!?」
しかも次に使用された『ブルーな気持ち』は〈呪い〉を付与するスキル。対象はカルアだった。カルアは『神速瞬動斬り』を防がれた隙を突かれて〈呪い〉状態になってしまう。
もちろん、そんな隙を逃すセレスタンではない。ここでクイナダに仕掛けた。
「ここですね―――『急所はそこです』!」
「ううっ!」
セレスタンは見逃さない。
本来、挑発攻撃である『急所はそこです』は命中率に大きな補正を持っている。
さらにノックバック中にこれが決まると、クリティカル判定率が高まり、ダウンを捥ぎ取ることも可能という優れたスキルだ。もちろん、タイミングがシビアなので使いこなせるかは術者次第。
しかし、セレスタンはこれを完璧に決めてみせ、気まぐれ回避も突破。
クイナダをダウンさせることに成功する。
「クイナダさん!?」
「今だよ! 『歌魂』!」
「『波動剛歩爆』!」
この隙を逃すノエルとセレスタンではなく、一気に総攻撃を仕掛けた。しかし、
「『奇跡の導き』!」
ここでリテアがさらにユニーク級を発動。
これはなんと、ダウン即復帰を含む状態異常を癒す強力なユニーク級だ。
弾かれるようにクイナダが飛び起き、カルアが元気になり、疾駆する。
「はああああああ!」
「なんと!」
「え!?」
「今ですわ、クイナダさん! カルアさん!」
「たああああああ! 『必殺・急所に届く勝利の一撃』!」
「んーーー!! 『128スターフィニッシュ』!」
2人の狙いは―――ノエル。
セレスタンの攻撃を抜いたクイナダとカルアが、後方のノエルを強襲に成功したのである。
「きゃあああああ!」
ズドン、ズババババババババンと直撃。
ノエルのバフのおかげでギリギリ退場こそしなかったものの、大ダメージを受けてしまった。
もちろん、このままでは終わらない。
「悪いけど、ここで退場して! 『狼王剣』!」
ここでクイナダのユニークスキル発動。
強力なエフェクトが青竜刀に帯び、そのままクイナダは薙ぎ払うように一撃。
ズッッドンと非常に強烈な衝撃を放った。
「あー! 負けちゃっ―――!」
これにより、なんとノエルのHPがゼロになり、〈1組〉最初の退場者になってしまう。
「これは、してやられました」
セレスタンもこれにはいつもの微笑みも崩れ、笑みを浮かべながらも困った顔になった。
「後はお任せしますわ、クイナダさん」
「リテアちゃん、ありがとう、ごめんね」
そして同時にセレスタンにやられリテアも退場してしまう。
セレスタンを抜きノエルを倒したクイナダとカルア、しかしセレスタンも無防備になった後衛のリテアを退場させていたのである。
タダではやられない。これが〈1組〉の執事。
だが、戦果としては〈留学生1組〉側が大勝だろう。
あの究極重要人物。最もコンビをさせてはいけないと言われていた片方を討ち取ったのだからだ。しかもノエルが活躍するのはセレスタンだけではなく、ラナと組ませたりしても大活躍する。
そのノエルだけでも倒したクイナダ、カルア、リテアは大成果と言えるだろう。
「『狼眷属召喚』!」
「『エージェント猫召喚』!」
クイナダは狼の眷属を召喚。カルアはエージェントな黒猫を召喚する。
狼召喚は〈五ツリ〉で可能になった、クイナダの部下たちだ。その数はまだLVが低くても5匹もいる。カルアの黒猫は3匹。
「ん、伝令、これをラウに渡して」
「ニャ」
うち猫の1匹には何やらアクセサリーのようなものを託すカルア。これは「緊急事態、〈1組〉に襲われて戻れないなう」を知らせる意味を持つ。アクセを口に咥えた黒猫はとぷんと影の中に沈んで消えてしまうのだった。
いつの間にか〈1組〉は拠点の北側を占拠しており、この〈留学生1組〉唯一の道である北側が通れなくなっていたのである。おそらく、カルアが頑張っても抜けることはできないだろう。だってゼフィルスいるもん。
そして残りの周囲の7マスは全部水路。カルア、今が大ピンチにようやく気付いていた。せめてラウに状況を知らせるだけでもしようと眷属を向かわせたことだけは褒めてあげてほしい。
ちなみに、ゼフィルスはカルアを捕まえる策をいくつか用意していたのだが、それもおじゃんになった瞬間だった。さすがはカルアである。
その伝令黒猫をセレスタンは静かに見送る。さすがにこれだけの戦力、迂闊に攻撃を仕掛けられないからだ。
「今度は、そう簡単には負けないからね! というより、勝たせてもらうんだからねセレスタンさん!」
「ん。切り替えた。勝てば良い。今度こそ、負けない」
「いいでしょう。打ち破らせてもらいます」
構えを取るセレスタン。普段微笑みを浮かべているセレスタンが超真面目顔で逆に怖いと思うクイナダとカルア。平時なら尻尾がへんにゃりしてもおかしくはない。
しかし、リテアに託されたからには負けるわけにはいかないと大技を使用する。
「『大軍一将宣戦』!」
「「「「「ウォーン!!」」」」」
「『エージェントアサシン』!」
「「ニャー!」」
クイナダが狼たちごとパワーアップする〈五ツリ〉のバフを使用し、カルアが猫をアサシンにジョブチェンジさせるスキルを発動したあと、狼と猫たちがセレスタンに飛び掛かる。
「『浸透掌底』! 『必殺抜き手』!」
しかし、それをセレスタンは冷静に撃破していく。セレスタンの掌底や抜き手を食らい、ガンガン消えていく狼と猫の眷属たち。しかし、クイナダはその間にある秘策を決行していた。
「『必殺の溜め』!」
これはチャージスキル。
次のスキルが必殺技の時、威力と発動速度が特大上昇する溜めスキルだ。溜めれば溜めるほど威力と速度が上がる。
クイナダは眷属で時間を稼ぎ、必殺の一撃のチャージに入ったのだ。一撃でセレスタンを仕留めるために。
もちろん、これを成功させるため、カルアが足止めに飛び込む。
「『ブレイクピンポイントスタッブ』!」
「『上段回し蹴り』! 『ブリッツストレート』!」
「『64フォース』!」
「『ブレイクノッキング』! はっ!」
「にゃ!?」
狼と猫、そしてカルアの飽和攻撃、だがセレスタンは狼の攻撃を僅かに被弾しながらも捌ききり、カルア必殺の『64フォース』をブレイクして破ってしまった。
しかも2体目の猫と4体目の狼までやられてしまう。
さらに攻防の末に最後の狼が倒された。まさにこの瞬間、クイナダは必殺のスキルを発動する。
「『必殺・大閃刹那落とし』!」
これは〈五ツリ〉にしてクイナダ最速の一撃。
刹那の瞬間に放たれたスキルは一瞬で相手を斬り、空中にいても斬り落とすとんでもない射程を誇る。
さらに自己バフと溜めを重ねたことで、セレスタン、つまりこの回避執事を一撃で倒そうというのがクイナダの思惑だった。
それに対し、セレスタンがしたのはただのスキル。
「『残像回避』!」
セレスタンが滅多に使わない回避スキルだった。
これは、そこに居るのにそこに居ない。残像を残し一瞬だけ完全回避するスキル。
クイナダが狙い、チャージをした段階でセレスタンも狙いに気付いていた。
故に最後の狼を倒した瞬間に当たりを付けてスキルを発動。
物の見事にクイナダのスキルは、空を切ってしまうのだった。
「「な、なんでー!?」」
「では先にクイナダ様。失礼させていただきますね 『瞬拳』!」
「ふはっ!?」
もう狙いに狙った必殺技を回避されたクイナダは、びっくりするほどの隙を作ってしまった。もちろんセレスタンがこれに遠慮することなどなくて、 『瞬拳』からの連続攻撃を叩き込む。
「クイナダ! 『神速瞬動斬り』!」
「『瞬退相払い』!」
カルアが神速の瞬動で接近してそうはさせないと援護斬り。
クイナダが苦し紛れの下がりながら斬る、回避斬撃スキルを使うが、セレスタンは構わず突き進んだ。
「トドメです――『紅蓮爆練拳』!」
「きゃ、ひゃーーーー!!」
2人に斬られながらも追撃を敢行したセレスタンが爆発する拳を叩き込むと、ついにクイナダのHPがゼロになってしまうのだった。さらに。
「あともうちょっと!」
「ここからは一撃も当たってはあげられません」
HPが残り1割という史上稀に見るセレスタン。これに焦ったカルアが気を急ってしまう。
「『クロスソニック』!」
「『ノッキング』!」
しかし、先に刺さったのはセレスタンの、相手を〈麻痺〉にする『ノッキング』だった。
「あと、少し、だった……のに……」
「ええ、お見事でした。ここまで追い詰められたのは初めてです」
カルアは〈麻痺〉になり、そのまま退場させられてしまったのだった。




