#1466 〈留学生1組〉に襲撃! 北じゃなくて西!?
一方こちらは〈留学生1組〉拠点。
そこでは出撃の準備が着々と進められていた。
「こちらの部隊は準備完了でゴザル。いつでも出撃できるでゴザル」
「バフも滞りなく浸透していますわ。伝令が来れば、即座に動くことが可能ですわ」
「ありがとう2人とも」
腹心の2名、ゴザルことアビドスと、お嬢様口調のリテアからの報告に、リーダーのクイナダがお礼を言う。
試合開始から3分。
基本、〈留学生1組〉はどこにも行かず待機していた。これも作戦の1つ。
向こうにはリーナがいて、単独で動けば即捕捉されて各個撃破にあうのはクイナダにはよく分かっていた。
伊達に同じギルドにいるわけではない。ラウからの助言もあり、〈2組〉の伝令が来るまで下手に動かないことが戦力の維持に繋がると〈留学生1組〉は判断していた。〈2組〉の伝令は〈1組〉とは反対のルートで来たり、カルアなどのもし見つかっても問題無い人員で行なわれている。
だが、もちろん無駄に時間を浪費するなんてことは無く、〈2組〉が来るまでの間に出来る限りのバフと、〈防壁〉系のアイテムを使って拠点の周りにバリケードを組んでいた。
バフは主にリテアの仕事。リテアは【巫女】のもう1つの上級職、【導き手】だ。
ポジションはバッファー&デバッファー。その能力はディレイ系で、【占い師】系がよく使う、一定時間後にバフが掛かるというもの。
それを全員に掛けておくことで、出撃した後、自分がいなくても継続的にバフが発動し、しかも効果が消える前に自動で掛け直されてバフを維持するという戦術が可能になるのだ。
団体戦ではかなり強力な職業である。
ちなみにゴザルことアビドスは攻撃役だ。こう見えて、クイナダに次ぐ実力者。
故にクラスメイトをまとめ上げ、〈防壁〉アイテムや罠を設置したりなど精力的に動いた後は先頭に立って出発準備を整えていた。
クイナダはバリケードを見て思う。
「(これ、やっぱり〈1組〉を相手にするには気休めだよね。なんだか〈1組〉のみんながこんなので防げるとは思えないんだけど……)」
この〈防壁〉アイテムはなんと上級下位級。
他のクラスであれば喉から手が出るレベルで欲しがるほどの性能を持つ、壁だ。
でもクイナダには、それが暖簾レベルに見えてしまうから重症である。
〈1組〉なら、いや〈エデン〉ならこんなもの「よ、大将やってる?」と言わんばかりに普通に抜けてきそうである。
〈留学生1組〉の拠点は凹型の水路に囲まれ、周囲8マス中7マスが池という孤島だ。故に、攻めてくるならば普通は北の1マスからになる。
故に普通なら防衛機構は拠点の北側にしか設置されていない。
……だが、〈1組〉にはそんな常識は通じないと思う。
そのため、拠点の周囲を囲む形でバリケードを設置していた。でも、ちょっと、気休め程度の効果しか得られない不思議である。
クイナダはこれまで幾度も〈1組〉用の戦術を考えてきたが、〈1組〉から拠点を守り切る手段がどうしても浮かばなかった。
もうみんなで突撃し、落とされる前に落とすしかない。
だからこそ〈2組〉のラウも早期決着に拘っていたのだ。
「クイナダ殿! 〈2組〉の伝令でゴザル!」
「! 出撃準備だよ!」
ようやく待ち人来たる。
〈防壁〉アイテムの向こうに伝令さん到着の報を受け、クイナダはすぐに出発を促した。
「〈2組〉のキハとカルアです! 伝令に来ました!」
「ん!」
「ご苦労様! 準備は出来ているからすぐ出るね!」
伝令は兎人のちょっとショタな男子と猫人女子のカルアだった。
このショタの職業は【タイムラビット】の上級職、【ヴィジョナリーシーフラビッツ】。
シーフと名の付いている通り【シーフ】系の高の中で強力な職業だ。
危機的な状況に非常に敏感になり、索敵から潜伏など斥候技能に特化している。
足もかなり速いため、カルアと共にこの伝令に選ばれていた。
そしてカルアから衝撃的な連絡が告げられる。
「クイナダ、西の〈1組〉が〈6組〉を今さっき落とした。次はここかも」
「はひっ!? もう〈1組〉拠点落としたの!? というか次、ここ!?」
あまりの衝撃にクイナダの言葉が若干乱れた。
何しろ試合開始からまだ4分程度である。
「時間がありません、すぐに出発しましょう!」
キハが動揺する〈留学生1組〉を促し、すぐに出発せんとする。しかし。
「わ、わか―――はっ!?」
「ふわ!?」
「ん!?」
クイナダもすぐに伝令に答えようとした瞬間のことだった。
クイナダの直感系スキル、『将軍の勘』が警報を鳴らしたのである。同時にキハやカルアにもビビッと来たようだ。
「みっ!?!? みんな警戒! 〈1組〉が来るよ!」
「はわわわ!?」
「ん! 警戒態勢!」
「へ? な、なんだってー!!」
あまりに突発的なことでもちゃんと指示が出せるのがクイナダだ。
『将軍の勘』が大軍急接近、警戒せよと全力で警報を鳴らし、もうそんなの〈1組〉しかありえないとクイナダが判断して速報を発したのである。
なお、今さっきまで入念に周囲を警戒していた限りでは、〈1組〉の姿は確認出来ていなかった。
本当にいきなりのことだったのである。
これにはさすがの〈留学生1組〉メンバーも一瞬呆気にとられ、続いて蜂の巣を突いたような大騒ぎになる。
「落ち着くのですわ! 冷静におなりなさい!」
「そうでゴザル! みなの者、我らには防壁があるでゴザル! すぐに北へ!」
「あ、そっちじゃ―――!」
攻めてくるなら普通は北から。
そんな常識が〈1組〉に、というかゼフィルスに通じるはずがない。
〈1組〉が北からくると思い込んで〈留学生1組〉が一斉に北側の〈防壁〉を見た瞬間、ドッカーンという音と共に、西側からとんでもない音が響いてきたのである。
その音に振り向けば、バリケードが吹き飛び、〈イブキ〉とゼニスが侵入してきていたのだった。
◇ ◇ ◇
「拠点捕捉です」
「バリケードで囲ってありますね」
「よっし、ぶちかませ、エステル! アイギス!」
「はい! 『ホーリースラストバースト』!」
「〈モンスターカモン〉! ゼニス!」
「―――クワァ!」
「いきます――――――『ドラゴンブレス』!」
拠点の隣接マスに入ったところでおそらく誰かが俺たちの接近に気が付いたのだろう。おそらく『直感』系持ちたちだ。
だが、直前まで気が付かなかったのはやはり致命的。
ラクリッテの『蜃気楼』は本当に優秀だ。
そこへ俺は挨拶代わりにエステルのスキルをぶっ放してもらった。時間をほんの少しズラして騎乗したアイギスが『ドラゴンブレス』を発動。
池と拠点マスの間に置かれていたバリケードに直撃。
減退された攻撃だったが、エステルの連打とアイギスの攻撃により、バリケードの一部を即でぶっ壊して中に進入したのだった。
おお、良い感じの混乱を与えたな。
「全員下車! セレスタン、ノエルは任せたぞ!」
「承りました」
「いってらっしゃーい!」
「みんな俺に続けー! 混乱を広げるぞ! ――『フルライトニング・スプライト』!」
「はっ! 『インパルススラストキャノン』!」
混乱を収めさせない。一気に流れを持っていく!
エステル号から飛び降りて、即で〈五ツリ〉の魔法をぶっ放した。
エステルもどんどんスキルをぶっ放しまくっている。
拠点の方はセレスタンとノエルに任せ、まずは対人戦だ。
観客席から歓声とどよめきが聞こえるぜ!
「ラクリッテとルキアは妨害維持! 他のクラスが気が付く前に一気に落としきるぞ!」
「ポ、ポン! 歪みのオアシス『蜃気楼』! ポンを探さないで――『ジャミング』です!」
「オッケー! 『索敵フリーズ』!」
これで外側から見たら〈留学生1組〉の拠点で戦闘が起きているなんて分からない。
「に、西側から来たでゴザル!? ええい応戦するでゴザル!」
「先陣は任せてもらおう! 『制空権・乱れ椿』!」
「あ、あれは〈崩将のリカ〉だ!」
「俺らの魔法を全部打ち落とすだと!?」
リカの制空権でまず反撃を粉砕し、その隙にルル、アイギス、ラムダ、レグラム、そして俺が一気に突っ込む。
「とう! いつもより多く回っちゃうのです! 『ローリングソード』! 『小回転斬り』! からの『フォースバーストブレイカー』!」
「な! 〈無双の幼聖〉だ! いきなりリーダーじゃないと太刀打ちできない大物来ちゃったぞ――ってああああ!?」
「なんで幼女がこんなに強いんだーーー! 『ブラストセッキアンガー』!」
「いや、幼女以外もリーダーが対応しなくちゃいけないレベルだぞ! 全員!」
「ひえええええええ!?」
「ゼニス、突っ込みます『竜の友』!」
「クワァ!」
「『ドラゴンクロー・セイバーランス』! 『オーバードラゴンテイル』!」
「きゃあああああ!?」
「ドラゴンだー! 防衛モンスターを出せ! 【竜騎姫】相手じゃ持たねぇぞ!」
「はは、混乱中悪いが、討たせてもらうぞ! 『審判の剣』! 『聖光剣現・真斬』!」
「このぉ! 〈1組〉のラムダ! こんなに強いなんて!」
「〈エデン〉以外の〈1組〉所属も相当な実力だぞ! 全力で掛かれー!」
「ふ、ラムダは訓練の成果が出ているな。俺も続かせてもらおう――『疾風迅雷』! 『轟光閃破』!」
「速い! それに、飛んでる!」
「今のが〈雷閃のレグラム〉だ! あの速度で空中を移動してくんのかよ!」
「そして真打ち登場の俺が急所を斬り込んでやるぜ! 『ディス・キャンセル・ブレイカー』! そこだー! 『スターオブソード』!」
「「「あああああああ!?!?」」」
「うそ、3人もいっぺんに退場!?」
「勇者でゴザル! 相手のリーダーが直接攻めてきてるでゴザル! 討ち取るでゴザルーーー!」
うっそ、なんかゴザルの人いるー!
しかも結構上位の人なのか、指示を聞いて俺に何人か集まって来ちゃった! あ、リカが来た。
「シッ! 『強化崩し・先破』!」
「ぬ! 『轟け剛刀・力飯』!」
「ってゴザルは【ジャスティス】かよ!」
ガキンとリカとぶつかるゴザル。
あの語尾で上級職【ジャスティス】とかどういうことだし。いや、正義と刀は相性バッチリだけどさ! というか今ゴザル、リカの攻撃を見切って止めなかった?
おっと、囲まれそう。退散! それよりもだ。
「っとクイナダとカルアはどこだーー!?」
「クイナダさんたちは真っ先にセレスタン殿を止めに行ったのを見ました。人数はカルアさんを含めて3人です」
真横で炎と闇の衝撃。俺を追い詰めようとしていた何人かが吹っ飛んだ。
シェリアの仕業である。なお、シェリアの視線がルルの方に固定されているのはいつものことだ。
しかし周囲のことはちゃんと把握している不思議。
「さすが、クイナダは分かってるな! 誰か援護に行かせるか? ラクリッテは」
「ジャ、『ジャミング』よりそっち優先にしますかゼフィルスさん?」
「いや、大局を見れば『ジャミング』の方が有効だ! ラクリッテはそのまま続けてくれ!」
「わ、わかりました!」
シェリアの話にカルアは斥候&案内人だと即看破し、ラクリッテには『ジャミング』継続を指示。
となればクイナダを案内したところで伝令役のカルアは北へ戻ってくるはずだ。〈1組〉が〈留学生1組〉拠点に来ちゃったというのは誰にも知られていない貴重な情報だからな、〈2組〉に持ち帰ることを最優先するはず。そこで、カルアを倒す罠を張る!
相手がクイナダ合わせて2人ならば、セレスタンとノエルの2人でも問題ないと判断する。
「勇者覚悟しろーーー! 『騎槍突撃』ーー!」
「おっと私が相手だよー『ノットフリーズタイムオーバー』!」
「な、足が!? ってちょ、そっちは池! 池! 池! 足が止まらな、ああああああああああ!?」
さらにルキアのエグいノンストップスキルが炸裂。
そのスキル、こんな池に囲まれたフィールドで使うととんでもないことなっちゃうよ!
俺を狙いに来た【重騎士】風の男子君、そのまま俺たちが破ったバリケードの方まで止まれなくて池ポチャしちゃったじゃん……。
うむ。戦いはまだ始まったばかりだ!




