#1461 突撃して震えろ!!〈留学生3組〉の拠点!
試合開始前。〈1組〉の南側。
そこには〈留学生3組〉の拠点が建っていた。
上下左右対称のフィールドで、北にある〈6組〉と同じようなコの字型の水路の中心にある。
ここを決めたのは6番目であり、準決勝の2位としてはなかなかのポイントを稼いでいたクラス。つまりはかなり強いクラスのはずだった。
〈留学生3組〉のリーダーは〈第Ⅳ分校〉出身。名をエドガー。
「男爵」子息で、その二つ名を〈旋律のエドガー〉と呼ばれている音楽家だ。
シンボルであるキラキラエフェクトが舞っている。
「震える」
これがエドガーの口癖である。
エドガーは人よりも耳がすこぶる良い。そのおかげか、危機的なことに敏感である。エドガーがなにかを聞き取って震えたのを感じたもう1人の男子が詳しく聞いた。
「エドガー、何か感じるのか?」
「大気が、震えています」
「そりゃあ歓声が鳴り響いてる。震えるだろう。おかしなことではない」
「……そうではないです。北側の観客席、その震えが他よりも大きいのです」
「! つまり観客席の熱量が違うということか?」
「そう、それこそが震えの原因です。確かに周囲全体から震えは起きていますが、北側のあの拠点の前が特に震えている。観客席が他の場所より多く震えていると言っていいです」
「つまりはそれだけのクラス?」
「ここは、ハズレだったかもしれませんね。震える」
「この位置に拠点を選んだのはリーダーだけどな! 〈旋律のエドガー〉!」
拠点の2階部分に2人の男子たちがいた、リーダーである〈旋律のエドガー〉に親しそうに盛大にツッコミを入れているのは、〈第Ⅶ分校〉出身。〈キャプテンハーミット〉と呼ばれている〈乗り物〉使いの男子だ。名はハーミット。
職業は【パーフェクトターミネーター】。【サイボーグ】のもう1つの上級職で、無機物系の装備で身を固めている。
対して〈旋律のエドガー〉はまさに音楽家という様相。パリッとしたチェック柄の服装備を着こなしている。エドガーの職業は【音楽の貴人】。
貴人とついているが「貴人」カテゴリーではなく、「男爵」カテゴリー【彦スター】の上級職の1つだ。
彦職からの上級職なので相当強い部類に入る。
音の申し子といっていいだろう。そんなエドガーは、北の拠点に何があるのか、観客席の音の大きさで大体把握していた。
まさに震える展開。
出身こそ違えど、ここで友となったハーミットもすぐにエドガーの本気度を感じてとても顔が引きつっていた。
「確か、『〈1組〉と拠点が近かったら諦めろ』だったか?」
「諦めよう」
「いや早ぇわ! もっと抵抗しようぜエドガー! 俺が高速で東にある拠点に行ってくるから! それまで耐えてろ! いいな? 絶対だぞ!?」
「震える」
「いや、震えるは返事とは言わねぇよ!?」
【パーフェクトターミネーター】であるハーミットは、サイボーグ系の装備が使える。その1つにバイクの様な装備が存在する。
飛べはしないし1人用だが、高速で走る分には〈留学生3組〉でハーミットに敵う者は居ない。
バイクに跨がり、高速で敵陣に突っ込む姿は圧巻で、人は彼を〈キャプテンハーミット〉と呼ぶのだ。
試合、開始!
「うおおおおおおお! 唸れ俺のマシン! 速攻だりゃあああああああ!」
「震える」
「だから震えるは挨拶でもねぇぇぇぇぇ―――」
一瞬でバイクに活を入れて去って行く友人を見送るエドガー。
手を振っているというのにそのセリフは「震える」だ。ハーミットがツッコミを入れながら去って行くのも分かる。
「ではみなさん。震えている場合ではありません。北を警戒してください。きっと何かしてくるに違いありません」
「震えていたのはリーダーだけですよ」
「……震える」
「笑ってないで指示しろ!」
「ちょ、北側来てる!」
「〈1組〉だ! 〈1組〉来てるよ!!」
「やっぱり北側にいたの――〈1組〉だったんだ!」
「というか何あれ!?」
予想通り。まさに予想通り。
北から〈1組〉襲来。
来ているのは14名。
シエラ、ラナ、シズ、パメラ、メルト、ミサト、カタリナ、フラーミナ、ロゼッタ、エリサ、フィナ、ハク、トモヨ、アイシャだ。
北側にはアイギスとエステルが猛威を振るったが、こっちでは空に天使2人と聖獣天馬に乗る1人。
下からは汽車型の〈乗り物〉が通路を難なく走ってくる。
どれも明らかに他のクラスに扱えるものではない。〈1組〉確定だった。
〈留学生3組〉にも激震が走る。
だが、その一瞬後には、さらなる絶望が降りかかる。
「『大聖光の十宝剣』!」
「王女殿下の超長距離宝剣だ!」
「震える……」
南側にはラナが派遣されていた。
ラナは〈1組〉のやや南にある〈デッカマス〉の横辺り、〈留学生3組〉の拠点が射程ギリギリに入る位置に留まり、そこから超長距離宝剣をぶっ放してきたのだ。
しかし、予想は付いていたのでこれは防がれる。
「『重奏の守護曲』! 今です、防御スキル!」
「『グレートウォール』!」
「『ダークセカンドシールドロック』!」
「『ビッグシールド』!」
【音楽の貴人】の『重奏の守護曲』は防御スキルを重ね合わせ、より強固な防御を作るスキル。発動した防御スキルの数が多ければ多いほど、一つ一つの防御スキルの威力が増加する。
これにより張られた防御スキルを突破できず、『十宝剣』が全て防がれてしまったのだ。
「いいぞ!」
「「「「うおおおおお!」」」」
「感動に打ち震え――」
「――ている場合じゃなーい! リーダー、後ろ、後ろ、後ろーー!!」
「列車が南側に回り込んだぞ!」
コの字型の水路の中心に建つ〈留学生3組〉の拠点だが、その陸地は南側のみにあった。
そのため北側から宝剣が降り注いで対応しているうちに、南側に回り込んだ列車が攻めてきたのである。
まさに悲劇。
ここを選んだのは拠点を攻め込むにはわざわざ南側へと回り込まなくてはならないという地形が、とても良いと判断したからだったが。
蓋を開けてみれば北側からはラナの宝剣、南側からは列車という挟撃に見舞われてしまったのだ。
なんという震える展開。
「列車から次々と〈1組〉下車!」
「防衛モンスターを放つのです! 震えろ――『テンポダウンミュージック』!」
「よし、デバフの歌だ! 反撃開始ー!」
しかし、リーダーは健在なため〈6組〉よりもまともな対応が可能となった〈留学生3組〉。
29人全員で秩序を保ったまま〈1組〉と切り結んだ。
「見事ね。でも、それでは私たちは倒せないわよ――『守陣形四聖盾』! 『カバーシールド』!」
「あの防御は壊せんな。ならば、『十倍キログラビティ』!」
「盾が!」
「ちょ、防御スキルが落下した!?」
「ナイスメルト様! デバフの回復は任せてね! 『反・デバフ』! 『桃色サンクチュアリ』! それと~『色欲の鏡』! 『攻撃力ドレイン』! 『防御力ドレイン』! 『魔法力ドレイン』! 『魔防力ドレイン』! 『素早さドレイン』!」
「ぐあ!?」
「デバフが反射されてるわ!」
「MPもドレインされてる!」
「ステータスが!」
「なっ! このままだとどんどん不利になるぞ!」
「なんだあの防御力は!?」
反撃を防御したのはシエラを代表とするタンクチーム。
相手の強固な防御を崩したのはメルトだ。
さらに〈旋律のエドガー〉のデバフはミサトが反射してしまい、〈1組〉はデバフに掛からず、MPまでドレイン回復される。
特に集団戦では範囲バフとデバフが非常に重要なポイントと言っていい。
相手を弱体化させ、自軍を強化できれば相当差がなければ覆すことなんて不可能だ。
にもかかわらず、相手へのデバフはミサトが無効化、否、反射してしまうのだからマジ手に負えない。
ここで大活躍しているのが【色欲】のミサトだ。
相手のデバフを受け付けず、自分はデバフを掛けながら味方をバフし、戦場のバフとデバフをコントロールする。それが【色欲】の真骨頂。
そして元々LV差があり、五段階目ツリーを全員が開放している〈1組〉が暴れればどうなるか。倍近い人数差があっても全く引けを取らない。むしろ〈1組〉がどんどん優勢になっていく。
「じゃーん! ここでエリサちゃんが行くのよー! 『睡魔の砂時計』! 『ナイトメア・大睡吸』!」
「震える! これが〈1組〉の悪魔! みなさん起きなさい――『起床のメロディー』! ――うっ!?」
エリサの〈睡眠〉。
『睡魔の砂時計』で、回復魔法やアイテムを使わない限り起こすことは適わない。
しかしエドガーは音楽家。しっかり眠りから起こすスキルも保有していた。だが、それが仇になる。
「ふふん『眠りを妨げる者には呪いを』、よ!」
エリサの武器〈古代の封印杖〉は、〈睡眠〉を起こした者へ強制的に〈呪い〉を与える『眠りを妨げる者には呪いを』が発動する効果がある。これは『完全耐性』か『無効』じゃないと防げない。
これにより、強制的に〈呪い〉に掛かったエドガーにさらにエリサが追い打ちを掛ける。
「『誘いの睡魔』!」
「ぐっ、震え……ない」
状態異常になっていると〈睡眠〉がほぼ確定で付着する『抗えない睡魔の罠』により、〈呪い〉の状態異常だったエドガーはここで〈睡眠〉が付いてしまう。
「ということでこれでトドメよ!」
〈睡眠〉に付いてしまえばこっちのものだとエリサが決めポーズを取る。そこへ。
「ちょっと、待ったーーーーーーー!!」
「へ、なに!?」
そこへ突如バイク襲来。
ガシャーンという音と共にエリサの上にあった大きな砂時計が割られてしまったのだ。
それを為したのは、〈キャプテンハーミット〉。バイクで突っ込みエリサの頭上へ吹っ飛ぶ形で砂時計を割ったのだ。身体を張った素晴らしいアクション。
会場中が盛り上がる!
「来てくれたか! 〈キャプテンハーミット〉!」
「今だ! その震えバカを起こせ!」
「そうはさせないわ! 『夢楽園』!」
「させるかよ! 『ウィリードライブ』!」
砂時計が壊されれば後はちょっと小突いただけで〈睡眠〉は解ける。
エリサの脅威はすでに全校生徒に知られるほどになっており、砂時計を割ることはもはやエリサ攻略の当たり前情報になっていた。
エリサはなんとしてもリーダーと呼ばれていた男子を〈即死〉させようと『夢楽園』を発動。
〈キャプテンハーミット〉がウィリーで180度回転してエリサの方へ突っ込む、しかしそこへ天使到着。
「姉さまには指一本触れさせません『天障壁』!」
〈妹天使〉のフィナだ。
この盾に阻まれ、ハーミットはエリサへの妨害が出来ず、ついに『夢楽園』は発動してしまう。
「あ?」
ハーミットの微妙そうな声が漏れた。
リーダー〈旋律のエドガー〉は、楽園に招かれ、夢の国へ退場してしまったのだ。
戦場がシーンと一瞬静まりかえった。
「あいつやられてんじゃねぇかあああああああああああああ!?」
瞬間、ハーミットの叫びが爆発した。




