#1459 〈6組〉の〈竜騎士〉飛び立つも―初の退場者!
第六十ブロック。〈戦闘課2年生〉クラス対抗戦――決勝戦。
〈1組〉〈2組〉〈3組〉〈4組〉〈6組〉〈留学生1組〉〈留学生3組〉〈留学生4組〉。
◇ ◇ ◇
試合開始直前のこと。
フィールドの北西に位置する。コの字型の水路に3方を囲まれた場所。
そこに〈6組〉の拠点が建っていた。
ここもエリートクラスの1つ。転送された直後、〈1組〉と同じようにまず周りの状況を確認するために駆け回り、そしてリーダーへ報告する。
「リーダー、南側に拠点が見えます! なんか、すげぇ位置に建ってます!」
「あれじゃあ狙ってくれって言ってるものじゃないかな?」
「いえ、俯瞰して見るとそうでもないのですよ。池や〈デッカマス〉などに囲まれた、なかなかにやりにくい位置です。どこのクラスがあそこに建てたのか、気になりますね」
「〈1組〉の可能性は?」
「……無いとは言いません。しかし、〈1組〉は今回7クラス全てから狙われているというのは公然の秘密。あんな場所に建てるというのは、ちょっと考えにくいですね。僕ならもっと壁や山を背にします。ひょっとしたら〈2組〉なのかもしれません。集合場所は中央の〈ビッグマス〉でしょうから、近い場所に建てた可能性があります」
クラスメイトたちにそう解説するのは、この〈6組〉のリーダー。
名前をエサント。
元〈ホワイトセイバー〉のギルドメンバーの1人で、【正義漢】ダイアスから他のギルドへ逃がされた経緯を持つ、「騎士爵」カテゴリーを持つ男子だ。
〈ホワイトセイバー〉時代は燻っていたが、〈転職制度〉を受けて心機一転し、クラスメイトからの人望もある人物として〈6組〉を引っ張っている。
職業はなんと【ワイバーンライダー】。
〈集え・テイマーサモナー〉から〈ベビーワイバーン〉に特殊進化するタマゴを交換してもらい、丁寧に育て、【ワイバーンライダー】となったのだ。
〈竜騎士エサント〉と呼ばれている今注目の2年生の1人である。
「他に拠点は? 確か東側にあったはずです」
「待ってください。近くには……」
「一番近くてここから東に1城! ですが、直線で25マス近くも離れています!」
「了解です。ここから比較的近いのは南の拠点のみですね」
「良い位置に付けたな、エサント!」
「ええ。運が良かったようです」
「今回もエサントが1人で行く気か?」
「その方が速いですから。いいですか、これは速さの勝負なのです」
リーダーエサントは昨日の出来事を思い出す。
〈6組〉が決勝戦に登ったのは本当に運が良かっただけだ。
〈1組〉という意味分かんない超エリートたちに拠点が襲われなかった。それ故に決勝戦に勝ち進んだと思われている。まあ、事実なんだが。
しかし、0点突破だからといって何もしていなかったと言われるのは心外だ。
〈6組〉はちゃんと〈14組〉を弾き返して勝利している。
あれは割と総力戦だったため、それほど退場者も出さずに勝利した〈6組〉を褒める声も多少はあったが、〈1組〉が凄すぎて霞んでしまっていたのだ。
それを、今日挽回する。
転機は〈2組〉のラウと、〈留学生1組〉のクイナダに誘われたこと。曰く〈1組〉を7クラス全員で倒そうと。
エサントからしても、〈1組〉とはそういう扱いをしないと倒せないと思っていたため2つ返事で承諾した。「騎士として7対1とかしていいの?」、たとえそんなことを聞かれても「〈1組〉だもん」で済ませるくらいには〈1組〉が強すぎたのだ。
そしてラウからは「〈1組〉は常識はずれだ。くれぐれも常識に囚われるな」と忠告を貰っている。
そんなこと最初から分かっていたので聞き流し、その続きを聞きたかったのだが、ラウからはこれ以上の〈1組〉の情報を聞き出せなかった。ほとんどが同じギルド所属のメンバーなのでそれも仕方あるまい。
続いて7クラスの作戦を聞けば。
「細かな取り決めをしている時間は無い。訓練をする時間も無い。〈1組〉は初動から最速で動いてくるだろう。俺たちが集合し、しっかりした陣形を組んで物量で攻めるなんてことはできないと思ってほしい。むしろ、俺たちが互いの拠点の位置を知った時には何クラスかすでに落ちていると思った方がいいだろう」
と、そんなことを言っていたくらいだ。エサントも同じ考えだ。
つまり、どこかしらのクラスが脱落することが前提。むしろそのクラスが囮になっているうちに残りのクラスが集まり突撃を実行する。ということだ。
実際〈1組〉に突撃を仕掛けられるのは6クラスか、はたまた5クラスか。時間経過で減っていくと考えていいだろう。それだけ勝率は低くなる。
故に、速さが重要。さらに。
「まずはお互いの拠点の位置を知ること。〈1組〉へ攻める時は全クラスで一斉攻撃。その時は多少タイミングが合わなくても合わせてくれ」
「もし〈1組〉に拠点が襲われたときは?」
「……〈1組〉と拠点が近かったら……諦めろ」
とんでもない話だ。
ラウからすれば、〈1組〉と拠点がお隣になった段階で退場必至らしい。
故に拠点の位置が最重要となる。だが、これについては学園が警戒網を敷いているため容易にはいかない。
そうなると、〈1組〉の拠点を他のクラスに伝える簡単な手段は、〈1組〉に対して時計回りに拠点を配置していくのが最善だろう。これならどこが〈1組〉なのかが容易に分かる。
だが、これだと〈1組〉に一番近い拠点は〈2組〉になってしまう。
『……〈1組〉と拠点が近かったら……諦めろ』
うむ。この案はボツである。〈2組〉が最下位になっちゃうよ!
そのため、拠点の位置は各自バラバラになってしまった。
〈2組〉は〈1組〉の次に拠点の場所を選ぶため、〈1組〉の真反対の場所に拠点を建てる予定だそうだ。
続く〈留学生1組〉と〈3組〉もお互いからなるべく距離を取る方向で拠点の位置を決める方針だそうだ。
4番目まではいい。なにしろフィールドは四角形なのだ。
〈1組〉がど真ん中にでも拠点を建てない限り、お互いかなり距離を取ることができる。
これは、ラナの宝剣の圧倒的射程距離も考慮されている。
あれが11マス(今の時点では)も射程を持っているため、お互いの拠点が分からない今の時点では、お互いの拠点の距離を離す必要があった。
しかし5番目からはそうもいかない。どこかしらの拠点と近い場所に拠点を構えないといけないからだ。
これが決勝進出2位のクラスと1位抜けのクラスとの差。
当然0点通過の〈6組〉なんてバリバリリスクのありまくる場所を選ばざるを得ない。
それでも、東の拠点は直線で約25マス離れており、比較的近い南にある拠点さえ〈1組〉じゃなければ一先ず安泰という位置に拠点を建てられたのは僥倖だったと、この時のエサントは思っていた。
でも、試合開始後に知ることになる。南のそれ、〈1組〉の拠点なんですと。
まだそんな知りたくない新事実を知らないエサントは準備する。まずは南の拠点に挨拶だ。
〈ワイバーン〉に乗って空を飛ぶことのできるエサントが行くのが、合流するには一番早い。万が一〈1組〉で王女の宝剣が降ってきても、単体であれば逃げられる可能性が一番高くもあった。
他のクラスと情報を共有し、拠点の位置情報を共有し、なんだったらエサント自身が空を飛びながら各拠点の位置情報を集めて他のクラスにリークすれば、準備にそれほど時間は掛からないだろうと考える。
〈1組〉の動きは速いため、こちらも合流が早ければ早いほど被害は少なくできる。
被害が少なければそれほど大戦力で〈1組〉の拠点を攻められる。
これは時間との勝負だ。全ては自分の速さに掛かっている。
そんなことを思い、気を引き締めるエサント。
なお、このエサントの作戦と覚悟が前提から木っ端微塵になるのは、試合開始すぐのことだった。
ブーーーーーーっと試合開始のブザーが鳴り響き、試合開始。
「行ってくる! あとを頼んだぞ! 〈モンスターカモン〉――ワイバーン!」
「お気を付けて!」
「こっちは任せてください!」
「よっしゃ! リーダーが頑張っているうちに防衛モンスターを召喚して拠点の防衛力を強化しておくんだ!」
「全員いつでも出撃できる体勢を整えておくぞー!」
「「「「おおー!!」」」」
〈ワイバーン〉を呼び出して飛び立つエサントと、リーダーが頑張っているのだから私たちも頑張るぞと士気を高める〈6組〉。
エサントはそのクラスメイトの言葉を背中に浴び、打ち震えるようにして気合いを入れる。
「ふ、責任重大ですね。行きますよ相棒。ここからは速さが勝負です。君の力をみんなに見せてあげま―――ん?」
飛び立って十数秒。
空から南の拠点を見て違和感。
自分と同じく、何か飛んでくる者が居て違和感。
下を見れば、なんか〈エデン〉が使っている〈イブキ〉らしき物を見つけて違和感。
しかもそれが、真っ直ぐ〈6組〉に向かってきていて確信!!
エサントの表情に、盛大に、まるで滝のように汗が流れ出した。
『……〈1組〉と拠点が近かったら……諦めろ』
ラウの言葉が脳裏を過ぎる。
そこでエサントは気が付いた。もし南にある拠点が〈1組〉だったときの対応をなんにも決めていないと。
それは、自分でも無意識にラウの言葉を肯定していた事実に他ならない。
「―――!!」
しかも、向こうの〈1組〉は自分よりもずっと速かった。
お互い向かっていたこともあり、すぐに接触する。
「りゅ、〈竜騎姫アイギス〉……!」
「これは、エサント君ではありませんか」
それは〈亜竜〉である〈ワイバーン〉とは違い、格上の〈竜〉。
ゼニスに騎乗するアイギスと空中で接触してしまったのだ。
昔のギルドメンバーを見つけてしまい、指示が遅れてしまったのも致命的だった。
「ギャーッス!?」
「あ、相棒避けろ! 右へ旋回! 隣のマスへ――」
「遅いですよ。ゼニス、速攻行きます。――『エアリアル・アクロバット』!」
「クワァ!」
アイギスがまず選択したのは『ソニック』系。
ただでさえ速かったゼニスがさらに速くなり、回避しようとした〈ワイバーン〉を強襲したのだ。
「グ、『グローリーシールド』!」
「ゼロ距離行きますよ!」
「クワァ!」
エサントは盾を使い防御スキルで防ぐ。しかし、組み付いたゼニスを剥がすことは〈ワイバーン〉にはできなかった。
そして守りの薄い部分にゼニスの口が開く。
「『ドラゴンブレス』!」
ゼニスの『ドラゴンブレス』が〈ワイバーン〉の頭部を直撃。
「ギャーーッス!?!?」
「相棒!? な、このダメージは!?」
「ごめんなさいエサント君。これも勝負ですから――本気で行きます。『ドラゴンクロー・セイバーランス』!」
「『ワイバーンロックスタ――――ぐがっ!?」
「ギャーーーース!?」
まともに受けた『ドラゴンブレス』に動揺した隙を、アイギスは見逃さずに五段階目ツリーの手札を切る!
エサントも対抗しようとしたが間に合わず、アイギスの槍とゼニスのクローが直撃してしまう。
ダメージは深刻だ。
「し、下です! 相棒、下に抜けるのです!」
「そ、それは悪手ですよエサント君!?」
必死にここから逃げようとエサントが急降下を選択する。
ここで初めてアイギスから慌てたような声が聞こえた。
これが正解だったか!? と脳裏を過ぎったが、それは勘違いだった。
なにしろ、急降下した先に居たのは、〈1組〉のみなさんだったから。
「あ」
「【ワイバーンライダー】か! かっこいいじゃないか! な、エステル!」
「はい。あれを撃ち落とせばいいんですね。『スラストゲイルサイクロン』!」
「あれ!? 俺そんなこと言ったっけ!?」
ズドンと、何かとんでもないものが〈ワイバーン〉に直撃。
暴風によってエサントと〈ワイバーン〉は吹き飛ばされてしまう。
そして落ちた場所は、運良く、もしくは運悪く、地面。
墜落したことで〈ワイバーン〉はダウンしてしまった。そこへエステルの声。
「トドメと行きましょう」
「よ、よし! 総攻撃だ! 【ワイバーンライダー】君、さらば!」
クラス対抗戦に慈悲は無い(?)。
そんなエステルとゼフィルスの言葉が聞こえて数秒後。
エサントは気が付けば、〈敗者のお部屋〉にいたのだった。




