#1455 決勝に進出する〈1組〉以外のクラスが手を組む
〈留学生1組〉から真っ先にお誘いがあったのは、本校の〈2組〉と〈3組〉だった。
決勝進出の最大の候補と言われているので声が掛かるのも当然だ。
そして、第五十六ブロックが35分という歴代最速のニューレコードを達成するほどちょっぱやで終わったために、第五十七ブロックの試合開始までまだ時間のある今、〈留学生1組〉と〈2組〉、〈3組〉の代表者たちが顔をつきあわせていた。
「まずは自己紹介するね。〈留学生1組〉所属、〈第Ⅱ分校〉出身のクイナダだよ。〈留学生1組〉ではリーダーをしてる。よろしくね」
まず代表して話すのは〈留学生1組〉所属のクイナダだ。他にも付き人っぽい人が2人控えていた。
そちらの紹介がまだだったが、まずは代表者の挨拶ということで〈2組〉のリーダーが挨拶する。
「〈2組〉所属。リーダーを任されているラウだ。今日はよろしく頼む」
それは今代の【獣王】。獣人の羨望の中心。ラウだ。
続いて〈3組〉の代表が話す。
「〈3組〉所属のリーダーでベニテでーす。こちらこそ呼んでもらってありがとね。あ、それと紹介させてもらうけれど、私がタンクだからサブリーダーと参謀を随伴しているの。後ろの3人がサブリーダーのマースィさんとエフィ、それと参謀のシヅキだよ」
代表者のベニテは桃色ツインテールの髪を靡かせた活発系のややロリ体型女子で、〈新学年〉から優秀な成績で登ってきた者の1人だ。
ただ年齢的にはクイナダと同じ2年生なので年齢は17歳である。
そしてその後ろには3人が控えていて、3人とも兵隊さんかな? と思わせるピンと背が伸びたポーズで控えていた。紹介されても頭を下げるだけである。
ちなみにマースィだけさん付けなのは、ベニテの2歳年上だからだ。
それを聞いてクイナダもクラスメイトを紹介する。
「あ、私のところも紹介するね。こちらがサブリーダーでクーレリテア。こっちが……ゴザル君だよ」
「ちょっと待つでござる。異議有りでござるよ! 拙者にはアビドスという名が!」
「いや、ゴザルのイメージに合わないし」
「そうでございます。あなたはゴザルさんで十分ですわ」
「あの、拙者これでも〈第Ⅲ分校〉のトップなのでござるが?」
「みなさま、気にしないでくださいませ。わたくしのことはどうぞ親しみを込めてリテアとお呼びくださいまし。こちらはゴザルさんと」
「え? 決定でござる?」
〈留学生1組〉のコントにラウが視線で「おいクイナダさん、これ大丈夫なのか?」と聞いていた。それにクイナダは困った顔をするだけだ。
なお、ダメだと思ったからこうして集まっているというのを忘れてはならない。
「あはは。〈留学生1組〉って面白いね」
「だね~。――よろしくねゴザルさん」
「決勝戦では仲間だ。共にがんばろうね」
「へ? あ、どうも、よろしくでござる。へへへ」
ちなみに〈2組〉のお供はサチとエミとユウカだ。
陽キャオーラをバンバン出している3人に面白いと言われてまんざらでもなさそうなゴザル。
彼がゴザルと呼ばれることが決定した瞬間だった。
「あはは。あれ、ちょっといいね」
「ベニテリーダー、ほどほどにしてくださいよ」
「あははは、大丈夫大丈夫。先輩ほどの人はなかなかいないもん」
〈3組〉は〈3組〉でリーダーのベニテがダメなゴザルを気に入って、後ろからマースィに苦言を入れられていた。
ベニテはダメな男が好きなのだ。なまじ自分が優秀なものだから、ついダメそうな男を支えたくなってしまう。そして、本校一のダメ男とも言われているとある先輩にベニテは夢中なのだ。あれほどの逸材はなかなかお目にかかれない。
ゴザルは〈留学生1組〉の代表に選ばれるほどの男。その実力は〈第Ⅲ分校〉でトップを誇る。実際の活躍を見れば冷めるだろうとマースィは放置することにした。
最後に〈2組〉が自己紹介して、ようやく本題を話し合う。
「こほん。では僭越ながら私、クイナダが進行を務めさせてもらうね。決勝戦、対〈1組〉についてなんだけど。率直に言えば〈1組〉との対決だけは全クラスで協力してほしいの!」
「まあ、妥当なところだな」
「あはは、だよねー」
「そうするしかないもんねー」
「正直全クラス集まっても勝てるか怪しいし」
クイナダが端的に要望を口にすると、同じギルドメンバーでもある〈2組〉のラウ、サチ、エミ、ユウカが同意して頷く。
〈2組〉にとっても、優勝を目指すのであればクイナダと同じ結論に至っただろう。
むしろゼフィルス相手だ。7クラスで〈1組〉を相手にしたとしても勝てない可能性もある。というか、ゼフィルスに勝つビジョンが浮かばない4人だった。
一方〈3組〉はというと。
「私たちも分かってるつもりだよ。こればっかりは協力せざるを得ないよね?」
「〈1組〉を放置したら、負けます」
「それ」
ベニテが後ろを振り向けばマースィがしみじみと呟き、エフィと紹介された剣士風の女子が言葉少なく同意していた。そしてもう1人、参謀はと言うと。
「勇者さんに会える……」
「シッ!」
「あたっ!?」
「失礼いたしました」
概ね、賛成の様子だ。
控えるもう1人の2年生、シヅキから何か漏れた気がしないでも無かったが、マースィが即デコピンで黙らせたのでセーフ。
この一見しゃんとしている様子の女子シヅキは、こう見えてヘビーな勇者ファンだ。
これまで販売された勇者グッズは全て手に入れているほどの猛者である。
今も表情は硬いが、頭の中は生勇者君と会えることでいっぱいだ。そしてあわよくば同じギルドに加入して側で推したいと考えている。
こいつを連れてきたのは失敗だったかもしれないと思うマースィである。
だが、シヅキの職業【伏兵通信士】は非常に有用だ。
だからこそ参謀の地位を務めることになったと言っていい。
もう一発デコピンを食らわせるか?
そう、今度は利き手でデコピンを構えるマースィに顔を青くしたシヅキが首を勢いよく横に振るう。
マースィは銃使いでSTRは初期値。デコピンはHPバリアを素通りして直撃するのだ。
痛い。
「えっと、では〈3組〉も賛成ということでよろしい?」
「よろしいよ~。あの勇者君を相手するのであれば答えは1つだよ~。……それでも勝てるビジョンが浮かばないけど」
「〈3組〉リーダー。君、よく分かっているじゃないか」
「へへん! 私たち、これでも掲示板愛読者だもんね!」
ラウの言葉に胸を張るベニテ。
普段掲示板を見ないラウたちでも掲示板の存在は知っている。
そして、その情報の伝達の速さもだ。
ちなみに、勇者ファンであるサチ、エミ、ユウカはちょい笑いだった。
勇者ファンの間では、こんな言葉がまことしやかに囁かれている。
『学園上位勢ほど勇者ファンが集まる』と。理由は勇者さんの授業を受けたことがあるから。
〈3組〉の反応からして掲示板のヘビーな読者であるとサチとエミとユウカは即座に理解したのだ。
あそこの住人ならゼフィルスのヤバさを割とギルドメンバー並に知っている。
実際サチたちの予想は当たりで、ベニテは掲示板では〈紅盾〉という名で活動しているし、シヅキは〈女兵〉という名で度々コメントもする。マースィは基本読専だが、去年の今頃は〈魔射〉という名前でちょこっとだけ書き込んだこともあるメンツだ。
エフィは完全な読専なので名前無し。〈3組〉のクラスメイトは、大体が掲示板に触れている人たちなのだ。ほとんど読専だが。そして勇者ファンも多かったりする。
勇者の情報は、掲示板によってよく拡散されるために愛読者が多いのだ。
ホッと一息吐くクイナダ。
留学生組が代表してこんなことを言っても、本校組の妙なプライドを刺激して聞く耳持ってくれないのではないかと思っていたが、知名度が高すぎるゼフィルスなため、状況の深刻さがしっかり伝わっていた様子。ちなみに聞く耳持たなければラウが説得する手筈になっていたが、その必要は無かった模様だ。
でも逆に言えば、誰でも分かるくらいマジ深刻な問題だという意味になるのだが、もうそこは見ないことにするクイナダ。
「では話を詰めていこう。他の勝利するであろうクラスへ根回しの協力を。それと、〈1組〉に対抗出来るだけのクラスを2位通過させてほしいんだよ」
「もちろん。それは必須だな」
「腕が鳴るね~。それもここで決めようか」
クイナダの頼みにラウもベニテももちろんと頷く。ここで皆の心は1つになったのだ。
「そういえば第五十六ブロックの2位、〈6組〉の〈竜騎士〉には声は掛けたのか?」
「そこはこれから。今とても疲弊しているみたいだし、あとまだ控え室から出てこなくて会えなかったんだ。でも、すぐに声を掛けるよ」
〈6組〉は亀さん作戦でほとんど何もしていなかったはずだが、〈1組〉と同じブロックは相当なプレッシャーだった様子だ。
ちなみに〈竜騎士〉とは〈6組〉リーダーの二つ名である。本物の【竜騎士】ではないのであしからず。
「その時は俺も行こう。〈留学生1組〉と本校の〈2組〉からの頼みだ。断ることはしないだろう」
「うわ、それ〈6組〉泣いちゃわない? 大丈夫? 今回も必死に身を小さくして生き残っただけだけど?」
「確かに、まるで肉食動物に怯える小動物みたいだったよ」
「だとしても頼むしかあるまい。共に肉食動物に立ち向かおうと。それに少なくともリーダーの〈竜騎士〉はできるやつだ。リーダーさえ引き込めれば残りのクラスメイトもついてくる」
「えっと、私も行こうかな。〈6組〉のフォローにね」
こうして対〈1組〉同盟は発足した。
他のクラスもどんどん巻き込んでいき。
第五十七ブロック戦、第五十八ブロック戦、第五十九ブロック戦の準決勝が終わり、決勝へ進出するクラスが決定する。
そのクラスたちは、対〈1組〉同盟に加入したのだった。
……加入する以外の道が無かったともいう。




