#1454 え? 準決勝戦第一試合、もう終わり?
「〈1組〉、来ます! 来てます!」
〈5組〉に凶報が届いた。
「ちくしょう! 〈1組〉対策には何もしないでそっと身を潜めておけばよかったんじゃなかったのか!?」
〈1組〉対策。
去年〈10組〉が準決勝戦で行ない見事に2位で勝ち抜いた戦法で、要は動いて目立つと狙われるんだから、動かなければいいのだ。という逆転の発想の戦法だ。
〈カメさん作戦〉なんて呼ばれ方をしている。
去年の準決勝では〈1組〉は残り4クラスになった時点で自分の拠点に引き返し、優雅にティータイムなんかして試合終了まで待っていた。
なので今年もきっとはしゃいだ留学生組を全て蹴散らした後は自分の拠点に引っ込んでいてくれるだろう、そう思っていた。むしろ願っていた。
しかし、去年は去年。今年は今年だ。
予想通り、ちょっと動きすぎてしまった留学生組4拠点は真っ先に陥落させられた。〈1組〉によって。
試合開始から10分毎に状況が表示される上空スクリーンには、開始20分経過で留学生組4クラスが脱落したことが記されていたのだ。恐ろしい。
ここまでは良かった。後は〈1組〉が引きこもってくれさえすれば、本校組の本番はむしろここからだ! みたいな感じだったのに。
なぜか〈5組〉に攻めてきた。今ココ。
「ああああ!?」
「光の宝剣来てる!? 来てるーーー!?!?」
「イヤーーーーー!?」
「ぜ、全力で防げーーーーー!!」
まさに悲劇。
〈1組〉に狙われてしまったが最後、〈5組〉の運命は決まってしまったのだ。
ラナの宝剣はなんとか〈5組〉の名に恥じぬ力を見せて防ぐことが出来たが、それはまだ第一波。
続いて第二波、第三波が〈5組〉の拠点を襲う。
だが、〈5組〉も負けてはいない。上級職たちの必死な努力もあってなんとか宝剣を全て防ぎきったのだ。これはすごいことだった。さすがは〈5組〉。
しかし、宝剣は〈1組〉にとって挨拶代わりの序の口だったのがアウト。
続いて来たのが槍砲を撃ちまくりながら接近するエステル号と空から襲撃するアイギスとゼニス。
〈5組〉は防戦一方だ。
また、こういう時助けてくれる同盟相手を作っておかなかったのも防戦に拍車を掛けた。
ある程度揺さぶって強撃を与えると――次が本番。〈1組〉のゼフィルス率いるメンバーズが〈イブキ〉と〈ブオール〉から降りてきて拠点へダッシュ。〈5組〉は大混乱に陥ったのだ。
物の見事に〈5組〉はボッコボコにされて結局敗退。
防衛モンスターのポイントは全部持っていかれたし、20人規模の退場者を出したのち、拠点を落とされて敗北してしまうのだった。
◇ ◇ ◇
これで残り〈1組〉と〈6組〉と〈14組〉。
あと1クラス退場すれば決勝戦進出可能ということもあって、〈5組〉が狙われたと同時に動いたクラスがあった。
〈14組〉だ。
もちろん狙いは〈6組〉拠点。
〈1組〉の拠点なんて行くはずもなし。
先に〈6組〉の拠点さえ屠ってしまえば〈14組〉は決勝戦進出だ。
これに対し〈6組〉は冷静に構えて対処。
〈14組〉の強い攻勢に対し、どっしりとした構えで防衛に徹した。
その甲斐あり、〈14組〉が劣勢。〈6組〉の拠点は落とせず終いだった。
〈1組〉はというと、それを見てちょっと傍観。
さすがに5クラス陥落はちょっとはしゃぎすぎだったようで、消費したあれこれの回復に当てていた。
1度拠点に帰って補給も整え、さあどこへ行こうかというところ。
ドキドキの瞬間。
〈14組〉は半数近くを失い、拠点に引き返して再び手足と頭を引っ込めた亀状態となり、〈6組〉は防衛モンスターこそ多くやられたが、人的被害はたったの3名。
まだまだ余裕があり。力強い防衛力を誇っていた。
果たして〈1組〉はどっちを選ぶのか。もちろん選ばれた方が、負ける方だ。
どうか選ばないでと両者が願う。
〈1組〉にとって、抵抗力が強い方が歯ごたえがあってやりがいがある、という風潮がある。どこかの誰かさんの影響で。
実は〈14組〉の狙いはこれだった。
〈14組〉がボロボロで、〈6組〉がシャキンとしていれば、〈1組〉が選ぶのは―――〈6組〉になるだろうという的確な推理だ。
故に〈14組〉は、〈1組〉が〈5組〉を攻略していて手が離せない隙に〈6組〉に仕掛けたのである。
そのまま陥落できれば良し、もしボロボロに負けても〈1組〉に狙われなくなるから良し、という非常に強かな作戦だ。
しかし、この作戦には1つ大きな見落としがあった。
この見落としにより、〈1組〉が最終的に選んだのは――〈14組〉だったのだ。
理由は防衛モンスターのポイント。
そう。〈14組〉は〈6組〉を攻めたことでその防衛モンスターのポイントを手に入れていた。
しかも自陣にも〈14組〉防衛モンスターが闊歩しており、まとめて倒せればポイントを多く貰える。
逆に〈6組〉は防衛モンスターはやられつくしており、皆無という状態。
つまり、〈6組〉を落としてもポイントは少ないということ。
別に〈決着〉による勝利にするなら今更ポイントに拘らずともいいじゃない、と思うかもしれないが、今年は去年よりも総ポイントが高いのだ。
なんと今年は拠点を落とせば900点が加算され、防衛モンスターには300P分のモンスターを召喚できるのである。あのSランク戦と同じ数字だ。
去年は拠点が300点。防衛モンスターが100Pだったことからしてもその差は歴然だろう。
理由は前にも語ったとおり、上級ダンジョンが解放され学年全体の実力が上昇してきている昨今、拠点落としのコストも上方修正されているからだ。
おかげで〈1組〉は〈14組〉を倒せば、なんと7000Pを超えるところまで来ていた。なお、〈6組〉では7000Pを超えない。
7000P?
去年2000P超えで騒がれていたのに?
ポイントの多さに目が眩んだゼフィルス。これはもう取るしかないじゃん?
そんなゼフィルスの理屈で選ばれてしまったのが――〈14組〉だった。
「な、なぜ!? 僕の推理は完璧なはず! 完璧な―――な、なぜだああああああああああああ!?」
悲報。〈14組〉リーダー、スタークスの悲鳴轟く。
結果、最後ド派手に決めるぞー、みたいなノリでゼフィルスたちは乗り込んでいき。最終的に〈14組〉の防衛モンスター全てと生き残りの者を全て敗者のお部屋へ送ったのち〈14組〉拠点は陥落。
こうして第五十六ブロックは決着。
勝者――〈1組〉と〈6組〉の決勝進出が決まったのだった。
◇ ◇ ◇
そんな試合を見て震える者が数十名。
「ねえ。やっぱり〈1組〉に挑むのやめない? 被害が大きいだけじゃすまないと思うんだよ」
「な、何言ってますのクイナダさん。あなたは我がクラスの希望なのですわよ? そんな弱気では勝てるものも勝てませんわ」
「さ、さようでござる。我ら、あの練習ギルドバトルの試合でクイナダ氏が〈エデン〉のメンバーを倒したのをこの目で見たでござるよ。よ、我らの希望の星」
「あれは同期、というか1年生だってば! 2年生のレギュラーメンバーなんて倒したことなんてないって!?」
ここは〈留学生1組〉のブース。
準決勝戦に進出している〈留学生1組〉に特別に宛がわれた第五十六ブロック観客席だ。
いわゆるVIP席である。
しかし、今そこは揉めまくっていた。
なんと今年のクラス対抗戦で最高ポイントを叩き出して〈1組〉は1位通過した。
あのポイントを見てビビらない者はいないだろう。しかも退場者ゼロという事実がマジやばい。
どういうことだろうね? わかんない。
しかも前半の試合、留学生組だからこそあるネットワーク、つまり横の繋がりで、この試合に出場していた4クラスの留学生組の出場者もほとんど知り合いだった。
そしてどれも油断できない強者ばかりのはずだった。
〈留学生2組〉なんて準決勝までの試合で全て1位通過だったのだ。なのに最初に〈1組〉とドンパチやったがためにここでは最下位である。不憫だ。
〈留学生1組〉は震えていた。簡単に言えばガクブルである。
頼みの綱は希望の星とも言われてクラス中から注目されている少女、〈第Ⅱ分校〉出身のクイナダ。
あの学園最強のギルド〈エデン〉が、膨大な留学生の中から唯一スカウトした少女だ。
その実力は疑う者が皆無なくらい強い。留学生一とも呼ばれているほどの実力者である。
しかし、〈エデン〉は自分なんかが及びもつかないほどの強者揃いだと知っているクイナダからすれば、挑むなんて自殺行為。
正直言うと、決勝に進出した全クラスで戦っても果たして勝てるのか疑問視するレベルなのだ。
だが、クイナダがクラスで最強と思っているクラスメイトたちはクイナダが基準になってしまっている。だってクイナダは〈エデン〉の1人だから。
クイナダレベルがいるならば集団で戦えば何とかなる。そう思っているのだ。思いたいだけかもしれないが。
クイナダは説得する。
上級中位ダンジョンを平気で攻略してくるレギュラーメンバーと、本校に来てもう半年近いのにまだ新メンバーと呼ばれている自分を一緒にしないでと。
しかし、このままでは勝てないのもまた事実。
クイナダの発言力はクラスで一定以上の効力を持つため、じゃあすり合わせをとしていった結果、最終的に―――全クラス巻き込めるなら〈1組〉に仕掛けても良いと結論付けたのだった。
後書き!
スタークスは去年〈24組〉のリーダーをしていた【参謀】男子。(補足)




