#156 馬車の等級をどうしよう。目指せ最上級馬車!
「いらんわ! 〈燃えるキノコソード〉とか誰が使うねん!」
「ですよねー」
ネタ武器の宿命、買い取り拒否である。
まあゲームの時ならネタ武器好事家の連中やコレクターの輩には良い値段で売れたんだが、残念ながらリアルではまだその手の人たちには顔つなぎは出来ていない。
しばらく倉庫行きだなこれ。
残念に思いながらも、せっかく取り出した〈燃えるキノコソード〉を〈空間収納鞄〉に収納する。
「というか、帰ってきて真っ先にソレ売ろうとするなんてどういうことや? さっさと他のボスドロップ出さんかい」
「はい」
〈毒茸の岩洞ダンジョン〉の攻略を終えて、その後周回をしまくった後。
俺はその足でマリー先輩の下に赴いていた。
しかし、マリー先輩呼んだ時に取り出したネタ武器はマリー先輩のお気に召さなかった模様。もしかしたら買い取りワンチャン行けっかと思ったが、行けなかった。
一応〈攻撃力39〉と『フレイムスラッシュ』という中級下位の属性付き斬撃系〈スキル〉を持っている、性能だけ見れば優秀な装備なのだが、見た目がどう見てもキノコなのがなぁ。
ちなみに大剣だ。
〈燃えるキノコソード〉でバッタバッタとモンスターを切り伏せる姿を想像してみる。とてもシュールだ。
ま、ネタ武器は『能玉化』など再利用可能なので取っておいても損は無いだろう。
まだ〈スキル〉系を使える『空きスロット』の激レア武器を持っていないのでとりあえずこのままだ。もしかしたらハンナに奉納されてしまうかもしれないが。
それはひとまず置いておき、今日集めに集めたドロップ品を取り出していく。
「……兄さん。奥行こか。ここは兄さんが素材を取り出すところじゃないねん」
「マリー先輩が出せって言ったのに」
溢れる素材の山、その一部を見たマリー先輩はゆっくり首を振りながら優しい顔で奥の部屋へと促した。
何がマリー先輩をそんな顔にさせるのだろうか。俺には見当もつかない。
「で、兄さんどんだけボス素材集めてきたんや?」
奥の部屋に通され、〈空間収納鞄(容量:大)〉をひっくり返す勢いで素材を取り出していったらマリー先輩が呆れた目をしてそう聞いてきた。
「58体分だな。エステルが数えていてくれたんだ」
「いや、そこは別に聞いてないわぁ。というか58体分かぁ」
結局あの後〈姫職〉組のやる気に火が着いて、それはもう〈マザーマッシュ〉が泣き顔になるくらいボッコボコに倒しまくった。
さすがにあの超全力を繰り出すにはMP的に勿体なかったのでその辺は縮小調整したが、それでも3段階目のツリーの力は凄まじく、ボスのタイムアタックがとても捗った。計ってないけど。
結局何体倒したのか、俺は途中で分からなくなったがちゃんとエステルは覚えていてくれた。さすがはエステルだぜ。58周とか、〈金箱〉が3回も出たぞ。レアボスはツモらなかったけど。
「毎回毎回凄まじい数やなぁ。なんかコツでもあるんか?」
「さりげなく探ってこないでくれマリー先輩。企業秘密だ」
「残念やなぁ。それはともかくとして、ドロップのキノコは全部料理専門ギルド〈味とバフの深みを求めて〉に流すけど、ええか?」
「ああ。いつも食材系を卸しているところだろ? 任せるよ」
いつも通り、俺は素材を〈ワッペンシールステッカー〉ギルドに卸すだけ。後はどこに流そうがマリー先輩たちに任せる。
前に仲介を頼もうとした時は凄い数のギルドが立候補してこんがらがったので、窓口は〈ワッペンシールステッカー〉に全て任せる事にしてある。
しかし、いちいち流す場所を教えてくれるとはマリー先輩もマメである。だから商売上手なのかもしれないが。
ネタ武器も引き取ってくれないかなぁ? 強いよ? キノコだけど。
「オーケー。そんじゃ他の素材も預かるでっと。あ、それとコレ渡しとくな、昨日の査定終わったから」
「おう。さすが仕事が早いぜマリー先輩は」
〈付喪の竹林ダンジョン〉で稼いできた査定表を受け取る。
ほとんどのボス素材はガント先輩に渡してしまったので、今回の報酬は非常に少ないものだった。
合計220万ミール。ボス素材で使わない物と〈木箱〉産のドロップは全て売ってこの値段だ。うーん。寂しい。
ここから5割、110万ミールがギルドに、1割が各パーティメンバーに支払われる。
つまり俺の取り分は22万ミール。おおう、寂しい。
「あ、そういえばガントから兄さんに伝言や」
「ん? もしかしてもう完成したのか?」
レシピと素材を渡したの昨日だぞ? いや、しかしスキルを使えば作業も捗るこの世界。
もしかしたら1日で完成してしまうことも大いにあり得る。
という俺の心境とは裏腹にマリー先輩の話は全然違った。
「レアボスの素材が欲しいから取ってこいって言ってたで」
「まさかの追加要求!」
あの人、職人気質みたいな人だなぁと第一印象を抱いたが、本当に仕事に一切手を抜かない職人タイプらしい。
レシピには、普通のボス素材のみで作る上級タイプ。道中に出るザコモンスターの素材を混ぜて作る並タイプ。そしてレアボスの素材を混ぜて作る最上級タイプ、の3種類が書かれていたはずだ。
〈金箱〉産のレシピなので上級タイプでも十分以上に強いし、中級上位ダンジョンまで活躍出来る性能を誇り、乗車人数も5人と最適なのだが。
ガント先輩はまだ上を目指したいらしい。
しかし、最上級の馬車かぁ。
「聞いたんやけどレアボス素材で作る馬車には〈テント〉機能があるんやって?」
〈テント〉機能なぁ。
〈テント〉機能。
〈ダン活〉ではダンジョンが進めば進むほど階層が深くなっていく仕様だった。
例えば〈初心者ダンジョン〉なら5層が最下層。初級下位なら10層。
初級中位なら15層。そして初級上位なら20層だ。
だんだんと日帰りで攻略するのはキツくなってくる。
まあ、〈ダン活〉はゲームだったのでちゃんとショートカット機能はあった。
初級ダンジョンでは最下層にしか無い〈転移陣〉だが、これが中級ダンジョン以降は10層毎に配置され行き来出来るようになっている。
つまり、月曜日に中級下位を10層まで進めて転移陣で帰ってきました。火曜日10層に転移して攻略を再開します。そんな事が可能なのだ。中級からは。
また、中級ダンジョンは初級ダンジョンと比べると1層の広さが倍近く大きくなっている。
今まで20層に到着していた時間で10層くらいまでしか進めなくなるので注意が必要だ。
ここからが本題の〈テント〉だが、もし、転移陣にたどり着けなかった場合、〈ダン活〉ではダンジョン内で夜を明かすために必要な必須アイテムという扱いだった。
〈ダン活〉は学園生活を基盤にしており、ダンジョンを攻略するキャラクターが〈学生〉という設定上「夜はちゃんとおやすみなさいしましょう」というルールがあった。
ダンジョンに潜る時間というのは決まっており、朝6時から夜0時までである。
夜0時を〈テント〉で過ごさず一時間以上経過すると〈学生手帳〉が自動で〈救難報告〉を上げてしまい学園に連れ戻されてしまう仕様だ。ああ、タイムアップが近づいてくる〜。
それを避けるために〈テント〉が必要なのである。
〈テント〉でおやすみなさいして夜を明かせばHP・MPも回復するし(テントの格によって回復量は変化)ダンジョンを朝一番で攻略再開出来るので、バッグに余裕がある時は一度地上に戻らずクリア出来るまでダンジョンを突き進むのが常識だった。
それほど、攻略に必須とも言われるくらい重要なアイテムである。
しかし今回俺が言わなかったのは、エステルが〈乗り物〉を使えるようになると攻略速度が一気に速まるため転移陣までは余裕で行けるし、リアルでは皆18時くらいには引き上げるのでダンジョンで一泊とかしないためだ。つまり、まだ必要ない。
しかし、〈馬車〉の最上級タイプは乗車人数が7人に増えるほか、攻撃力も上がるし、〈テント〉機能が最低位の物だが搭載される。
うーむ。別に必要ないと言えば必要は無いが、あっても邪魔になるような物でも無い。
しかし、わざわざレアボスをツモりに行かなくてはいけない事を考えるとそこまでメリットは感じないわけで。
「レアボス素材を使ったタイプしか作らないって言ってたで」
「これだから職人気質は厄介なんだよなぁ」
どうやらレアボス素材を取りに行くのは決定らしい。
さてスケジュールをどうしようか。