#1369 昼食!料理アイテムは食べてしまいなさい!
「美味い……魚が化け物みたいに美味いぞ……」
「良かったなメルト。まだまだいっぱいあるぞ」
「ああ……」
昼食。
みんなでわいわいレジャーを楽しみ◯◯狩りをしてすっかりツヤツヤになったメンバーたちとお昼ご飯を食していた。
俺も自分の釣った魚を食べてみるが、中々の美味。
メルトなんかタイチの釣り上げた〈ハイイワナ〉の塩焼きに齧り付いて涙を流しているよ。
おいおいメルト、男子たるものそう簡単に泣くな。ほら、これも食え(涙追加)。
そんな調子でメルトを慰めて(?)いると、まるで縁日にいる子どものように両手に〈ハイイワナ〉の塩焼きを持ったミサトが現れた。
指の間に串を6本! レアな高級魚が縁日で売られているただの魚に見えてくるんだぜ。
「もう~、メルト様ったらなっさけないな~。私が癒やしてあげるよ! はい、カルシウム。――うきゅ!?」
「ありがとうミサト。だが、これはカルシウムじゃなく〈ハイイワナの塩焼き〉というんだ。間違えないようにな?」
ああっと後ろに回り込んだメルトのウサ耳クローが、一瞬のうちにミサトのウサ耳の付け根を掴んだー!!
マジ見えねぇ。信じられるか? これでメルトは魔法職なんだぜ? メルトはいったいどこに向かっているんだ!?
このウサ耳クローをモロに受けたミサト!
酸欠の魚のように上を向いて口をパクパクさせるしか出来なーい!
勝負あったな。
メルトも無事復活したっぽいので後はミサトに任せ、他のところへと向かう。
視界の端でミサトが俺に手を伸ばして助けを求めている様子を幻視した気がしたが、きっと気のせいだろう。
「あ、ゼフィルス君来たよー」
「ゼフィルスいらっしゃいー」
俺は和み成分豊かなハンナとクイナダのところにお邪魔することにした。
「アイテムの調子はどうだ?」
「うん、もうばっちしだよ! やることが少なくてちょっと物足りないくらいかな」
ハンナに聞くとそんな言葉が返ってくる。
なんの話かというと、この日のために購入してきた料理作製生産アイテム〈自動調理器〉の運用についてである。
―――〈自動調理器〉。
その名の通り素材を入れて作りたいものを入力しておけば、ものの数分後には料理になってしまうという素敵アイテムのことだ。
あの〈カレーのテツジン〉と同系統のアイテムである。
どこでドロップするか不明なのだが、学園にはこういうアイテムが結構な種類売られているのだ。おそらく、学外ダンジョンでドロップしたものなのだろう。
ゲームではインテリア扱いだったが、リアルだとちゃんと食料を入れたら料理になるんだからとんでもないぜ。
前回〈食ダン〉に来た時はBBQ三昧だった。
それはそれで合宿っぽくて悪くは無いんだが、毎回はちょっとワンパターン。
ということで、思い切って何台かの〈自動調理器〉を購入してきたのである。
これの管理をハンナや〈アークアルカディア〉の生産職の面々が引き受けてくれたのだ。
なお、クイナダは単純に料理を取りに来てそのままハンナとおしゃべりに移行しただけの模様。
「ゼフィルス君、何食べたい?」
「メニューはこれだけありますよ」
「おお!? マリア、いつの間に!?」
「こういうことは商人にお任せですよ!」
ハンナの言葉にどんな料理があるのか聞こうとした瞬間、気が付けばマリアがメニューを持ってそこに居た。速っ!
受け取ったのは現在作れる料理の一覧表、というかメニューだな。
「商人のスキル『リスト化』で作製したメニュー表です! これがあれば便利だと思って作ってしまいました!」
「仕事が早い! おお、畜産エリアでゲットした料理アイテムなんかも書いてあるのか!」
「料理アイテムを普通の食事で食べてしまうのは贅沢ですが、正直私たちはもう上級料理アイテムを使っていますし、食べても良かろうと判断しました!」
「その判断、最高!」
さすがはマリア、思い切ったことをする。
〈自動調理器〉で作られたものは所詮は普通の料理、しかし畜産エリアの動物を〈火属性〉などの属性攻撃を使って倒すと料理アイテムをドロップする。
これはちゃんとした料理アイテムなので料理バフが付くのだが、〈食ダン〉自体が初級ダンジョンレベルなので料理アイテムの効果もお察しである。攻略ではまず使わないだろうな。
しかし、料理アイテム自体は美味しい。
なので、じゃあせっかくの機会だからこの場で食べてしまおう! という話だな。
「じゃあ俺は〈力持ちの生姜焼き〉と〈栄養満点豚汁〉をいただこうか」
「毎度あり! ゼフィルスさんなら、特別価格で1000ミールですね!」
「って、マリアさん、ゼフィルス君からお金取っちゃダメですよ!」
マリアのお茶目に笑わせてもらいつつ、メッと窘めるハンナに癒やされる。
そしてハンナからしっかり〈空間収納鞄〉から取り出したばかりの出来たてホヤホヤ料理アイテムを受け取ったのだった。
「料理アイテムが湯水のように……! これが〈エデン〉の常識なんだね……」
横でクイナダが「はわわ」みたいな表情でその様子を見ていた。
栄養価が高い! ごちそうさまです!
いろんな意味でお腹を満たしたら一旦食休み。
セレスタンの下へ行ってみると、すでに2箱の〈空間収納倉庫〉がいっぱいになっている光景に出会った。
「もういっぱいになってんじゃん! しかも2箱も!」
「はい。みなさんとても張り切っているようで、ですが想定内です。今回は3泊4日の行程、〈空間収納倉庫〉は合計120箱持って来ました」
「前にも聞いたけど敢えてツッコもう。持って来すぎじゃね!?」
余裕をもって持って来たと言っていたが、120箱は多いだろう。
そう思っていたのだが、たかがほんの少し自由時間にしただけで2箱も埋まったこれを見るに、持って来すぎじゃなかったのかもしれないと思い直した。
「これくらいないと、溢れたら困りますから」
「ま、まあ、そうだよなぁ。前回はかなりギリギリだったもんなぁ」
「あの時のメンバーは23人でした、今年は57人です。しかも今年は〈採集無双〉の方々もいますし、装備も向上しております。さらに言えば〈激しいシリーズ〉など上級の採集アイテムが大量にあります。120箱で十分くらいかと」
「……なんかそれを聞くと120箱でも危なそうな気がしてくるから不思議。ちなみに120箱も〈空間収納倉庫〉を用意するのにいくらくらいQPを使ったんだ?」
「はい。これくらいです」
それは、今まで〈エデン〉が使ったQP額を上回る、過去最高QP額だった。
俺は目が点になりかけたよ。
切り替えて行こう!
次に目指すは10層、広大な果樹園エリアだ!
しかし目的地に向かって走っている途中の7層で、俺たちは立ち止まることになる。
そこで、とあるイベントが発生したからだ。




