#1322 上級職ランクアップ! サーシャ編!
「えへへへへへ~。【神使の巫女狐】だ~」
「ダメですの。カグヤはダメになってしまったんですの」
「大丈夫だ。しばらく放っておけば直るさ。〈上級転職〉した人がたまになる特有の現象らしいからな」
無事〈上級転職〉を果たしたカグヤだったが、虚空を見つめて涎を出しかねない、乙女がしちゃダメそうな表情をして呆けてしまった。
多分その虚空にはカグヤしか見ることのできないステータス画面が映っていることだろう。
ヴァンも先程から口数が少なくなってしまって、ずっと虚空を見つめながら唸っているからな。
「じゃ、サーシャの〈上級転職〉を始めるか」
「よ、よろしくお願いしますの!」
ということでサーシャに向きなおると、サーシャは少しビビっていた。
変わり果ててしまったカグヤとヴァンを見ておののいてしまったのかもしれない。
そういうときに励ますのが俺の役目だ。そういうのすっごく得意だ! 俺に任せとけ!
「安心してくれサーシャ。ただ〈上級転職〉するだけさ。何も問題無いだろう?」
「そ、そうですの。何も問題は……いえ、やっぱりカンストした瞬間に〈上級転職〉するのは非常識だと思いますの!」
「なぁにそれはただの思い込みさ。レベルが上がらなくなったら〈上級転職〉し上を目指す。サーシャもそう思うだろう?」
「た、しかにそうですの。でも」
「サーシャ、就きたい職業はあるかい? なんでも言ってごらん? 俺が何にでも就かせてあげるよ?」
「ご、ごくり。な、なんにでも……ってどう聞いても怪しい勧誘か何かですの!」
「おお!?」
バカな。俺の励ましの言葉で落ちないだと?
おかしいな、大概はみんな喜ぶのに。
サーシャは両手を斜め上に挙げるポーズでウガーとするとカグヤを盾にして隠れてしまった。
完全に怯えた動物じゃないか。
俺は〈上級転職チケット〉をヒラヒラとヒラつかせて「こっちおいで~」と言って誘ってみる。
「それ餌のつもりですの!? 食いつかないですの!」
しかし餌には食いつかないようだ。
よし、ならば話し合いで解決しようじゃないか!
俺は巧みな話術で説得を開始する。
「本当にいいのかいサーシャ? 〈上級転職チケット〉だぞ?」
「うっ」
言葉に詰まるサーシャ。
ふっふっふ、いくら言葉で嫌がっても〈上級転職チケット〉の魅力からは逃れられないのだよ。
「サーシャ、俺はサーシャに【氷帝姫】に〈上級転職〉してもらいたいと思っているんだ」
「この状況で勧誘ですの!?」
相変わらず素晴らしいツッコミを決めるサーシャに頷く。
サーシャの【氷姫】の主な〈上級転職〉ルートは2つ。
――【雪氷園の姫君】か【氷帝姫】だ。
【雪氷園の姫君】はタンク系。
【氷姫】をRES系で育成して〈上級転職〉させた先にある。
その能力は〈氷の城塞〉ギルドのレイテルが就いている【永久凍土の氷城主】のさらに上位互換。要は【城主】系の職業だ。
もう1つの【氷帝姫】はアタッカー魔法使い系。
【氷姫】をINT系で育成して〈上級転職〉させた先にある。
【氷姫】の上位互換で、主に氷属性魔法攻撃に特化し、ダメージディーラーとして大いに活躍が期待できる。
さらにアリスと同じく属性攻撃に貫通能力があり、敵の氷属性耐性を下げながらガンガン攻撃し、たとえ〈氷属性〉を無効化してくる敵にだってダメージを与えるスペシャルな特性を持つのだ! まさに〈氷属性〉のスペシャリストである。
〈氷属性〉最強魔法も当然のように覚えるぞ!
さらに〈氷結〉にする魔法も大量に覚えるため。〈氷結〉にして動けなくしてダメージ2倍でボンだ。マジ強い。
正直【城主】系にするかで迷った時期もあったが、サーシャがアタッカー系で行くと言っているので採用した形だ。
サーシャは伯爵の出なのに盾を使い慣れていないらしいからな。メルトと同じく魔法使い系の道に進んだ形。
まあ、その代わり【城主】系にはヴァンが就いてくれたので問題無し。
俺はサーシャをアタッカーとして育成することに決めたのだった。
その準備も、もうほぼ終えている。
「さあサーシャ。後は〈天聖の宝玉〉を使い、全装備に「氷」の名の付くものを着たまま〈竜の像〉をタッチすれば晴れてサーシャは【氷帝姫】だ」
「あ! それでこのアクセに杖ですのね!?」
サーシャは今気が付いたと言わんばかりに取り出した両手杖の〈大氷者ステッキ〉とアクセの〈氷結晶イヤリング〉と〈氷マークのリストバンド〉を見たり触ったりする。どれも〈エデン〉から貸与しているものだ。
他の防具である〈氷姫装備シリーズ〉はサーシャの持ち物だったが、氷の名が入っていなければ〈エデン〉の装備とチェンジしていたところだな。
そう、サーシャの装備は最初から「氷」の名で埋め尽くされていたというわけだ。
サーシャがアタッカーを目指すと決まったその日からな! ふははははは!
「用意が周到過ぎますの!」
「サーシャ。だからあとは〈天聖の宝玉〉を使うだけなんだ。さあ、これが〈天聖の宝玉〉だよ。受け取ってくれ?」
「うっ、本能が、本能が誘われてしまいなさいと囁くんですの……!」
さっきまで怯えていた様子のサーシャだったが、〈天聖の宝玉〉と〈上級転職チケット〉の前にはなすすべもなく、フラフラと宝玉の方にやって来てそれを受け取った。
「使っていいよ」
「使ったら戻れないですの。使ったら戻れないですの。でも、ああ!」
サーシャは抗えず〈宝玉〉を使ってしまった。
ふははははは!
宝玉から出た粒子がどんどんサーシャに入っていくぞ!
はっ!? おっとあぶないあぶない。これでは悪役ではないか!
サーシャといるとつい悪魔の誘惑をしたくなってしまうからヤバいんだ。マジでマリー先輩を彷彿とさせる。
これ絶対サーシャの言動も原因あるって! 俺だけのせいじゃないはずだ!
それはともかくである。
ここまで来れば後やることはもう〈竜の像〉に触れるだけだ。
「サーシャ。〈上級転職チケット〉だ。これを持って〈竜の像〉にタッチしてこい!」
「い、いってきますですのー!」
サーシャ、元気に目をバッテンにして〈竜の像〉へタッチ!
現れたジョブ一覧に目を回しながら上から下まで読む。
「落ち着いてサーシャ! 気をしっかりと持つんだよー」
「間違えるなよサーシャ! 【氷帝姫】だぞー!」
気が付けば俺の隣にカグヤも居てサーシャを一緒に応援してた。
「ハイですの!」
一度目を瞑ったかと思ったサーシャが再び目を開け、勢いに乗って【氷帝姫】をタッチする。
他の一覧がフェードアウトして消え、【氷帝姫】がサーシャの上へと輝いた。
そして瞬間起こる覚醒の光。
俺はスクショを構えた。パシャシャシャシャシャシャシャ!!
「ちょ、撮りすぎですの! 明らかにカグヤよりも撮っていますの!」
「そんなことないぞサーシャ。そんなことよりポーズ決めてくれ!」
「サーシャ、笑顔笑顔! 胸張って!」
「カグヤも楽しんでいますの!?」
そうしてしばらく俺とカグヤの玩具――じゃなくてモデルになったサーシャだったが、良い感じに大量に撮れたところで覚醒の光が消える。
「や、っと終わりましたの。なんだか覚醒の光を受けた自覚が無いですの」
「後でいっぱい写真を渡すな。それで自覚も出てくるさ!」
「お疲れ様サーシャ。〈上級転職〉、おめでとう~」
「あ、それ俺のセリフ……。まあいいか。サーシャ。おめでとう」
「お、おめでとうでありますサーシャさん」
俺の最初のお祝いセリフをカグヤに取られるというハプニングはあったものの、最終的にはヴァンも来て3人でサーシャを祝った。
「ありがとうですの!」
途中色々あったような気がしなくも無かったが、サーシャも最後は無事笑顔で〈上級転職〉も終了したな。
これで無事、3人の〈上級転職〉が完了だ!




