#1313 周りが全て宮殿だらけ、〈守氷ダン〉入ダン!
〈守衛の氷宮ダンジョン〉、通称〈守氷ダン〉の門を潜った俺たちの目の前に広がっていたのは、氷で出来た宮殿だった。
俺たちが出てきたのは中庭で、正面、左右、そして後ろまで全てを宮殿に囲まれている。
「これは、見知らぬ宮殿に迷い込んだ感じね」
「中心部からスタートということでしょうか? この宮殿の中のどこかにある階層門を探せ、ということでよろしいのでしょうか?」
「おう。エステルの認識で合ってるんじゃないか?」
ゲーム〈ダン活〉時代、ここは別名〈迷いの宮殿〉、通称〈迷宮〉なんて呼ばれていた、難易度の高いダンジョンだ。
ラナとエステルの言うとおり、フィールドの中心部からスタートしてどこかにある階層門を探すのが基本となる。
しかし、問題なのがこの宮殿が氷で出来ており、着色なんてされていない点だ。
「……見事な作りの宮殿だけど。みんな同じ形に見えるわね」
シエラの言うとおり、この氷の宮殿は見た目の違いがよく分からない。
色で見分けられないので全部同じに見えてきてしまうのだ。
おかげで迷う迷う。
ランク1の〈謎ダン〉がクイズに正解すれば迷う要素が複数階層門くらいしか無いのに対し、ランク2は全力全開で迷わしに来ているものだから犠牲者が続出したんだ。自分がどこにいるかも分からなくなってしまう。高難度のダンジョンである。
地図持ちの支援職必須ダンジョンだな。
〈ダン活〉のデータベースと言われ、全てのダンジョンを把握している俺ですら、ここでは地図がないと突破に時間が掛かると言えばどれほど難易度が高いか分かるだろうか?
ランク1の〈謎ダン〉はあくまでチュートリアル的なダンジョン。
上級中位ダンジョンの本番はまさにランク2からと言っていいだろう。
気を引き締め直さなければ。
「これ溶かせないデスか? 全部溶かしてしまえば階層門なんて一発デス!」
こらパメラ。宮殿を溶かしてはいけませんよ?
それやったら上級ダンジョンの名が泣いてしまう!
まあ、できないんだが。
「残念だが、それはすでに〈ハンター委員会〉が試したらしいぞ? この建物は氷に見えるかもしれないが、ダンジョンオブジェクトだ。ダンジョンオブジェクトは破壊不可。溶かすことも壊すこともできなかったらしい」
「それほど甘くは無かったデス」
「そうは簡単に突破はさせてくれない、ということか」
というわけでロマン戦法である迷宮破壊は不可である。
メルトの言うとおり、上級とはそんな簡単に突破できるものじゃないんだよ?
ということでまずは偵察。
周囲の状況確認から始めた。
いつも通り「俺の『直感』が囁いた!」戦法を使おうか迷ったが、今後のこともある。メンバーにもちゃんとダンジョンを攻略出来る実力を身につけてもらいたかった形。
まず王道の空から地形を把握する。
空を飛ぶことのできるフィナと、ゼニスに乗ったアイギスが周囲の探索。
ここからだと建物が邪魔で見通しが悪いので空からどうなっているのか見てもらおうという作戦。
もちろん2人とゼニスが飛び回っている間に俺たちもできる限り周囲を調べておく。
「あ、フィナとアイギスが戻ってきたわよ」
偵察を終えたフィナとアイギスが戻ってくると、情報交換する。
「えっと、なんて言えばいいでしょうか。ちょっと一言では言葉にし難いです」
「宮殿がどこまでも続いていました。庭はここだけで、後はずっと建物が建ち並んでいました」
「え? ずっと?」
「はい。ここ以外が全部宮殿です。全て氷でした。階層門も探してみましたが、見つかりませんでしたね」
「クワァ!」
フィナとアイギスの報告にどよめくメンバー。
それもそのはずだ、ここ以外全部が宮殿のダンジョンである。
何それだな。これ作った人、どんだけ頑張ったんだよっていうね。
まあ、ダンジョンオブジェクトは一瞬で建つから頑張らなくてもいいんだけど。
ということでショートカットなどは出来ず、建物の中を地道に探すしかないわけだ。
「となると、一度中に入って探索したら、途中で空から現在地を確認することもできないのね」
「地上はどうだったのですか?」
「こっちは少しだけ建物の中に入ってみたわ。予想通り下も壁も天井も全て氷。あれは何も対策無しで歩いたらすぐに迷うわね。モンスターはそれほどでも無かったけど」
アイギスの問いにシエラが答える。
シエラの言うとおり、これ対策無しで行くと大ピンチになるやつである。
実際、ゲームでも戦闘職だけで挑んだら帰ることも進むことも出来なくなって結局〈転移水晶〉で帰還するしか無くなった。という人で溢れていたからな。
正直、攻略サイトの地図を見ながら進めても、自分が今どこにいるのか見失うというのだからここのダンジョンはマジやばい。
上級の支援職の『地図』系スキルが絶対に必要なダンジョンだ。
「ということで、リーナとカイリの出番だな」
「お任せくださいまし。しっかり迷わないよう地図を作製いたしますわ! 〈竜の箱庭〉起動! 『フルマッピング』ですわ!」
「了解だよ、敵味方の配置よ出でよ~『立体地図レーダー完備』!」
「「「「「おお~!!」」」」」
ちゃんと攻略しなくちゃいけないダンジョンならちゃんと攻略してやろう!
支援職の力、篤と見よ! いやぁ、やばいね。
現れた立体的な地図は宮殿内部構造もしっかり映し出してくれていた。
とはいえ、明らかになったところで内部が同じような構造ばかりで逆にわけわかんなくなっているけど。とはいえ、『地図』系の真価はそこではない。『地図』系の真の価値は、自分たちの位置が分かる能力にある。
これがあるからこそマッピングマンたちは迷うことがないのだ。
「俺たちが居る場所は、あそこだな。丁度中央だ」
〈竜の箱庭〉が5メートル近くもあるため、「ここだ」ではなく「あそこだ」と表現する不思議。今俺たち、地図見てるんだぜ?
「このモンスターの配置は、ちょっと妙ですわね。特にこの大型のモンスター、何かを守るように配置されていますわ」
「まるで門番ね。ゴーレムよねこれ」
『立体地図レーダー完備』で立体的に表示されているモンスターとその配置を見てリーナとシエラが唸る。
そこに現れていたのは巨体の氷像。どう見てもゴーレムの一種だった。
それが道の突き当たりに門番のように配置されているところが何カ所もある。
そして、リーナの予想は当たりだ。ということでそこを掘り下げてみる。
「何かを守っているとなれば、重要なものじゃないか?」
「重要なもの、攻略に必要な情報とかかしら!」
「宝箱かもしれないデース!」
するとすぐにラナとパメラが食いついた。
こんなどこに行けばいいのか分からない状況。何か手がかりというか、とっかかりが欲しかったところにこれだ。
顔を上げたリーナとシエラが見つめ合い、1つ頷いた。
「ではこちらに向かってみましょう。何かあるかもしれませんわ」
「攻略に役立つ情報の方が嬉しいわね」
「よし、決まりだな。俺たち〈エデン〉がまず向かうのは、このゴーレムが門番のように配置されている場所、その奥だ! 行くぞ!」
「「「「おおー!」」」」
方針決定。俺たちはすぐに〈イブキ〉に乗車し出発することにした。
今日のメンバーは32人なので、エステル号に16人、アイギス号に16人の2号編成だ。
まずは正面、北側から宮殿に侵入する。
宮殿は凄まじく煌めいてた。氷で出来た宮殿は美しく、見る者を魅了するかのように目が離せない。これは観光地にしたらすごく儲かりそう。
うん、急いでいないしゆっくり見ながら進もうか。
というか内部広いなぁ、〈イブキ〉が3台横に並んでも大丈夫そうな通路だ。
助かるけどな!
途中で出てきたモンスターは、〈無機物〉系だった。
卵のような形の2メートル近いモンスター〈アイスコロン〉はコロコロ転がって体当たりしてきては〈イブキ〉に撥ねられて光に還った。
ティッシュ箱のような姿に氷の手足が生えたモンスター〈アイスチッシュ〉は、氷の紙手裏剣で翻弄してきた。
なんか手裏剣に触発されたパメラが「こいつは私がやるデース! これが本当の手裏剣デース」とか言って対峙していたよ。
最後はモンスターの数に押されて『忍法・影分身爆裂丸』で打っ飛ばしてたけど、手裏剣勝負はどこいったの?
道中そんなこんなありつつも目的地に到着。
そこには6体もの〈アイスクリスタルゴーレム〉が扉を守っている場所だった。
「ビビビ。ココカラ先ハ通セマセン」
「喋った!?」
そう、実はここのゴーレム。喋るんだよ。門番だしな。




