#1309 テスト突入! 3年生より優秀な2年生問題!?
「そうだ。影武者だ! 〈幸猫様〉の影武者を用意しよう!」
「どこに行くのゼフィルス? 明後日からテストよ? 今日はナキキたちに教えるのでしょう?」
「…………そっちも重要だな!」
「もしかして忘れてたんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことないぞシエラ。バッチリだぜ」
「…………」
〈幸猫様〉のボディーガードに影武者を用意しようというナイスアイディアを思いついたのはよかったが、現在テスト期間中ということをうっかり失念していた。
いや、忘れていたわけじゃないぞ? うん。もちろんだ。俺が忘れるわけないじゃないか! あとジト目ありがとうございます! やる気が湧いてきたぜ!
ということでテストに集中し直すことにする。
「今日はよろしくお願いするっす!」
「ゼフィ先輩、手加減よろ」
「おう、よろしくなナキキ、ミジュ。安心しろって、ちゃんとしっかり教え込んでやるからな! ミジュは寝かさないぜ?」
「がーん」
今日も午前中はナキキとミジュを相手に勉強を教えた。
ちなみにシュミネは、頭が良いので勉強会免除である。
シュミネの学力とLVなら間違いなく1組継続だろうからな。
「ほらほら。来年も1組を維持したいなら頑張れー」
「ハード!」
「うう、シュミネと離れるのはいやっす! 頑張るっす!」
ミジュとナキキのやる気をなんとか引き出し、がっつり教えた。
無理矢理詰め込んだとも言う。
これでなんとかテストでは良い点が取れるだろう。
午後にはアリスとキキョウに教えることになっている。
「お兄ちゃん、勉強教えて~?」
「おういいぞいいぞ。優しく教えてあげるからな」
てててっと教材を両手で持って駆けてくるアリスがもう可愛いです。
思わず優しくしてしまう。なぜか視界の端でナキキとミジュが「私たちにもやさしくするっす!」「むむ~!」と訴えてくる光景を幻視した気がしたが、きっと気のせいだろう。
「ゼフィルス先輩。あまりアリスを甘やかさないでください。――ほらアリスも、ちゃんと勉強しないと来年私と一緒のクラスになれないんだよ?」
「それはいやだよー」
「なら勉強しよう。頭が良くなって2人とも1組なら離ればなれになることもないから」
「うん。アリスね、いっぱい勉強するね」
ふう。これが尊いということか、なぜか眩しすぎて目が開けてられない。
目を開けたら浄化されるんじゃないかなこれ? いや、そんなことはないだろう。
多分。
ちなみにアリスとキキョウは2人ともかなりの学力だった。
キキョウは、まあそうだろうなと思っていたが、アリスは意外だった。というか意外すぎたな! アリス、幼い感じの言動なのに頭いいの!? 点数高っ!
ふう。これは嬉しい誤算だった。正直なところ、アリスって本当に勉強が覚えられるのか心配だったのだ。これでも16歳ということか。見た目7歳とかに見えるんだけど?
ということで2人が苦手なところを重点的に教えるだけで済んでしまった。
どうやらアリス、暗記は得意らしい。子どもはいろんなことをスポンジのように吸収するというが、まさかアリスもなのだろうか? なんにでも興味を持ってしまうお年頃のご様子!
残りの1年生たちはみんな勉強が得意なのでほとんど教える必要がない。
ヴァンやサーシャ、ノーアやクラリスはもう見た目から勉強できますって感じだしな。
え? ノーアが心配?
実は俺もそうだったが、大丈夫だったんだ。どうやら公爵流の英才教育を受けてきた模様だ。
ちょっと苦手なのがカグヤとアルテだが、カグヤはコミュ力が高いからか、自力で頭良い友達を捕まえて勉強を教えてもらっているらしい。マジかよ。凄いな!
アルテは、お姉ちゃんっ子なのでアイギスに教えてもらっているそうだ。
問題はアイギスも勉強は凄く得意というわけではないことだろう。アイギスは努力家なので、努力でその点を補っているのだ。
まあ、ヤバそうならアイギスの方から声を掛けてくるはずだし、大丈夫なはずだ。頑張れお姉ちゃん!
「あのゼフィルスさん、ちょっとよろしいでしょうか? その、勉強を……」
そう思っていたらアイギスが来ました。
大丈夫じゃなかった!
「任せとけアイギス、アイギスの勉強もアルテのことも、俺がまとめて見てやんよ!」
「ゼフィルスさん!」
「うわぁ、ゼフィルス先輩がかっこよすぎて目を開けていられません! アイギス姉さまもキラッキラじゃないですか!」
ふっ、決まってしまったかもしれないな。
ということで土曜日の夕方はアイギスとアルテの勉強を見た。夜遅くまで掛かってしまったがなんとか主要なところは教えられたと思う。
翌日日曜日は、〈アークアルカディア〉にお邪魔した。
こちらではアルストリアさんを筆頭に、サティナさんやサトルがサポートしながら教えている。意外にも、こう見えてサトルは学力もあるし仕事もできるのだ。
そのおかげか、こちらは不安材料はほとんどなかった。
「元々〈ダンジョン生産専攻〉や〈ダンジョン支援専攻〉というのはクラス数も少ないですから、〈錬金術課〉なんて1組しかありませんし、〈戦闘課〉と比べるとそこまで競争が激しくないので楽ですわね」
とはアルストリアさんの言葉だ。
〈戦闘課〉は280組もあって競争率が半端ないからな。こちらと比べるとそもそも上級職も少ないし、テスト勉強に俺の手を借りるまでもないとのことだ。
そんなわけで〈エデン〉に戻り、俺に教えてもらいたいというメンバーを募集することにした。
なのになんでラナが来ているのか? いつも教えているはずのシズとエステルはどこに行ったのだろう?
「ゼフィルス、ちょっと分からないところがあるの。その、教えてもらえないかしら?」
そんなことを上目遣いで言われてしまえば教えないわけにはいかない。
「任せろ、どんな問題だって教えてやるさ!」
「ゼフィルス!」
そう思っていたのだが。
「ほらシズ、エステル。ラナ殿下が居たわよ」
「さすがシエラ殿です。助かりました」
「ええ!? エステル、シズ!? なんで!?」
「さぁラナ様、お部屋に戻りましょう。分からないことがあれば私たちがお教えしますから」
「シ、シエラ~!?」
シエラがシズとエステルを連れてきてうやむやになった。
ラナは抵抗していたが、連れて行かれてしまった。
頑張ってほしい。
なんかシエラのガード力(?)が上がっている気がする。気のせいかな?
ふう、テスト期間だというのにギルドも賑やかになったなぁ。
去年は25人+3人しかいなかったのに、今年はその倍以上かぁ。しみじみ。
なんだか懐かしく感じた1日だった。
そんなこんなあったテスト準備期間だったが、とうとうテスト本番がやって来た。
月曜日から始まり、週末の金曜日までテスト期間だ。
水曜日までが座学、木曜日からは実技のところも去年と同じだな。
しかしそこへ少しトラブル(?)発生。
問題は……実技で起こった。
例年だと2年生の〈戦闘課1組〉というのは中級下位の1つ、〈盗鼠の根城ダンジョン〉でパーティを組んで10層まで挑む。
ボス戦として最弱の10層守護型ボス、「こいつ本当に守護型なの!?」と何度も言われてきた酒に酔った二足歩行巨大ネズミ、〈アルチュウ〉と戦闘を行なうのが通例だった。
中級下位で最弱のボスというのは伊達ではなく、〈アルチュウ〉に負けるような〈戦闘課2年1組〉はほとんどいないという。
まあ酔っ払ってるし、というか守護型のくせに寝ていることもあるから素通りも楽だしな。さすがは最初にして最弱の守護型ボス。
しかし、最弱すぎてうっかり狩ってしまうとその日はもうリポップしないので要注意。
そのため先生がOKを出すまで戦闘し、OKが出た段階で退却してバトンタッチすることを繰り返すのだそうだ。ショートカット転移陣で戻ればタゲも切れるからな。
しかしだ、今年は例年より遥かに学生の質がいい。
端的に言えば――1組って全員上級職である。ヒーラーのラナですら一撃で屠りかねない。(そんなわけ…………あるかも?)
中級下位どころか中級上位でも負けないんじゃない? むしろ上級下位の10層くらいがちょうど良いのでは?
そんな感じになってしまったのだ。
さらに下手をしなくても上級生である3年1組より強いまである。
3年生より難しい実技にすると3年生の立場が危うい。3年生を2年生の問題に合わせたら、3年生の平均点がガクッと落ちそうな予感。
どうしよう。
これにはフィリス先生たちもずいぶん頭を悩ませたそうだ。
なにしろ今まで上級ダンジョンでテストなんかしたことはないのだから。
ということで、俺たちは間を取って中級上位のランク5、〈四季の妖精ダンジョン〉の10層ボス、〈妖精長〉を軽く捻るだけの楽な実技になってしまったのだった。
ミッション、イケメンをみんなでボコボコにしろ?




