#1308 セルマさんの大作、試作機の実力や如何に!
新しい〈幸猫様〉と〈仔猫様〉のボディガードはヘルプニャンと名付けられた。
名前の由来は……まあいいだろう。
とりあえずその性能を見る。
さすがはホムンクルス。猫マークが大量のフルプレートを着込み、猫のぬいぐるみを抱っこした姿で微動だにしない。
神棚の前、モチちゃんとは反対側に立つヘルプニャンはなかなかに頼もしく感じた。
もし〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を攫おうとする輩が現れれば即座に迎撃――猫のぬいぐるみを差し出す手筈になっている。
これで〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の安全が確保できるはずだ。
……本当かな?
「ふんふふ~ん♪」
そこへいきなり初仕事到来!?
やってきたのは―――ルルだった。
なんだルルか。
俺は椅子に座って優雅にティーを飲みながらそれを見守った。
ルルなら安心だ。
やって来たルルは神棚の〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の方にまずお祈り。
さすがはぬいぐるみ愛好家、作法が行き届いていますね。
続いてルルはどう見ても幼稚園バッグにしか見えない〈空間収納鞄〉から料理アイテムを取り出した。
そのまま神棚へとお供えする。
「お供えなのです! たくさん食べるのですよ!」
ううっ。ルルが尊いよー。
なんて良い子なんだルルは。
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお供えする子に悪い子はいない。
ヘルプニャンの方も無反応だった。うむ。お供えを邪魔してはいけないからな。
手を合わせてお願いをしていたルル。
いやぁ良いもの見させてもらった。尊すぎてティーが美味い。
ちょっと涙で前が見えないかも。
そんなことを思っていたときだった。
「ヘルプニャン、ご苦労様なのです!」
「――――」
「ルルはぬいぐるみを守る使命を持ったヘルプニャンをとても尊敬するのですよ!」
ルルがヘルプニャンを労い始めた!
言葉はしゃべれないなりにルルへ一礼するヘルプニャン。
おお~。
ぬいぐるみを守るボディガード、そんなお仕事がルルの琴線に触れたのかもしれない。
なんかちょっと感動する光景だな。
「はう。ルルが尊いです」
「……シェリア、いつの間に隣にいたんだ?」
「え? 最初から居ましたよ?」
気が付いたら隣の席にシェリアが居た。
ルルを見て目を輝かせている。
おかしいな、さっきまで居なかったような気がしたのに、気のせい、か?
まあいい。ルルが尊いというのは同意する。
一緒に眺めようじゃないか。
そう、ほっこりとしていたときだった。ハプニングは唐突に起こる。
「ヘルプニャン、そのぬいぐるみを見せてくださいなのです!」
「――――」
「ありがとうなのです! ほほう、これは良いものなのです」
ヘルプニャンが持っていた唯一の猫のぬいぐるみがルルの手の中にあった。
「……あれ?」
ちょっとおかしいなと疑問に思うもそのまま話は続いていく。
「これはなかなかのお仕事なのです! さぞ名高いぬいぐるみ職人さんが作られたに違いないのです! ヘルプニャン、ちょっとこのぬいぐるみを貸してくださいなのです!」
貸しちゃダメだよ!? それは〈幸猫様〉を守るための身代わりなんだから!?
「――――」
「良いのです? ありがとうなのです!」
「あかーん!」
声に出せないしヘルムで顔が分からないからか、ルルは了承と受け取ったようだ。
そしてそのままこっちに来る。
ヘルプニャンが「あっ」と言いそうにルルへ片手を伸ばして、そのまま固まっていた。そういえば持ち場は離れられないんだった。
「ゼフィルスお兄様! シェリアお姉ちゃーん! 見てくださいなのです! 素晴らしいぬいぐるみなのです! ヘルプニャンが貸してくれたのです!」
しまった……。
〈幸猫様〉のためになかなかのクオリティで作った身代わりぬいぐるみが裏目に出たようだ! ルルの気を思いっきり引いてしまったらしい。
「良かったですねルル」
「いやいや良くないぞ!? それがないと万が一の時に身代わりに出来ないんだって! ――ルル、すまんがそれは大切なものなんだ。返してくれるかい?」
「そうなのです? 分かったのです!」
「ルルは素直だなぁ」
ルルは猫のぬいぐるみを3度撫でるとちゃんと俺に返してくれた。
さすがはぬいぐるみ愛好家だ。
俺はルルからぬいぐるみを受け取り、未だ固まっていたヘルプニャンに返してあげた。だが、そこで信じられないことが発生する。
神棚からほんの少し目を離していた隙に〈幸猫様〉が居なくなっていたのだ。
「あれぇぇ!?」
結局ラナの膝の上で愛でられていたのを発見した。
ラナ、マジでいつの間に攫ったし!!
俺はルルに「もうぬいぐるみを借りてはいけないよ」と言い聞かせ、ラナと〈幸猫様〉を取り合って今日も負けたのだった。
くっ、大丈夫だ。初めてのことに失敗も付きものさ!
今のはヘルプニャンが武器を手放していたから起きたこと、ちゃんと持っていればボディーガードの役目もきっと果たせるだろう。
そしてその翌日。
やってきたのは〈幸猫様〉を毎度、というかほぼ毎日のように攫っていき膝に載せるラナ!
大本命だ!
本来ならば俺が気付いた段階で回り込むのだが、今回はヘルプニャンの試運転。
今日はばっちりぬいぐるみも持っているし、準備は万端だ。
ちゃんと〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を守れるのか? その実力をハッキリ見させてもらうため、俺はテーブルと椅子の影からそっと見守った。
ラナがどんどん神棚に近づいていく。
これはもう間違いありません。目的は〈幸猫様〉です!
〈空間収納鞄〉を持っている様子も無いことからお供え物という線もありません! 果たして!?
「〈幸猫様〉、今日も会いに来たわ!」
おおっとラナがモチちゃんには目もくれずにまっすぐ〈幸猫様〉に手を伸ばしたー!
思わず出ていきそうになる体をグッと堪える!
その瞬間、すごいことが起こった。
「あ、あら? これくれるの?」
なんとラナの伸ばした手を、ヘルプニャンが装備していた猫のぬいぐるみでブロックーーー!
見事な割り込み! ラナが掴んだのは〈幸猫様〉ではない、ただの猫のぬいぐるみだーーーー!!
これは決まったーー!!
ラナが猫のぬいぐるみをそのままもらい腕に抱きしめるーー!
「ん~、いいわねこれ! ヘルプニャン、これは良い仕事してるわ!」
「――――」
ラナが猫のぬいぐるみを抱きしめたままヘルプニャンの方へ向いて褒めた!
どうやらとても気に入った様子だーーー!!
か、完璧だ! 完璧に決まった! 強制身代わり作戦!
ラナの魔の手に身代わりの猫ぬいぐるみをプレゼント! 完全に決まったー!
素晴らしい、素晴らしい働きだよこのホムンクルスは!
〈幸猫様〉ブロック大成功だーーーーーーー!
「そうね、今日はこの子を愛でようかしら」
俺は今夢を見ているのだろうか。
渡されたぬいぐるみを持ったラナは一瞬〈幸猫様〉を見るも、クルッと背を向けて戻ってきたのだ。
せ、成功だーー!!
苦節1年以上!
初めてラナの魔の手から〈幸猫様〉を守ったんだーーー!!
セルマさんありがとうーー!
試作品でこの威力、これは完成品が納品されたらさらなる成果を見せてくれるに違いない!
俺は完成品の納品を心から待ってまーす!!
そう思った翌日のことだった。
この日もヘルプニャンは見事な働きを見せた。
ラナの魔の手にただの猫のぬいぐるみを渡してブロックしたのだ!
俺は安心して見ていた。しかし――。
「じゃあ、このぬいぐるみももらって行くわね。ありがとねヘルプニャン!」
そう言ってラナがひょいっと〈幸猫様〉も攫って去って行ったのだ。
「……………………あれーーっ!?」
一瞬意味がよく分からなかった。
〈幸猫様〉の代わりに猫のぬいぐるみをラナに渡す、しかしラナはそれプラス〈幸猫様〉も持っていきやがった!?
神棚に〈仔猫様〉しかいなーーーいっ!?
俺は慌てて出ていった。
「ラナ、ちょっと待ってもらおうか!」
「出たわねゼフィルス、この子たちは私のものよ!」
「いやいや、ちょっとタンマ! タンマだ! 一旦〈幸猫様〉を神棚に戻して!? というか猫のぬいぐるみもらったじゃん! そこは〈幸猫様〉を諦めるところだろ!?」
「そんなことないわよ! どちらも違ってどちらも良い。でも〈幸猫様〉がいないとやっぱりダメだわ! 〈幸猫様〉成分は〈幸猫様〉からしか補給できないのよ!」
「ぐぬ!?」
結局、〈幸猫様〉はラナの膝の上で撫でられることになった。
新入りの猫のぬいぐるみも一緒にだ。
くっ、やっぱり猫のぬいぐるみだけじゃ〈幸猫様〉は守れない! なんとなく最初からそうじゃないかと思ってたよ!
もっと画期的な、〈幸猫様〉を諦めざるを得ないぬいぐるみ、そう、影武者が必要だ!
こうして〈幸猫様〉たちのボディーガード計画は続くのだった。(←続きません)




