#1306 勉強会! クイナダはそのままでいてほしい。
「話には聞いていたけど、〈エデン〉の勉強会って凄いんだねぇ」
「私もいつもお世話になっているんだよ~。勉強会のおかげでとても良い点が取れるようになったんだ~」
「ふぇ~」
クイナダとハンナがお勉強中。楽しくおしゃべりしていた。クイナダの「ふぇ~」いただきました!
ダンジョン週間が明ければダンジョン入ダンは禁止、テスト期間に突入する。
テストで赤点者なんて出しません。
ということで毎日放課後は勉強会である!
「分からないことがあれば遠慮無く聞いてくれ。みんなで補習を回避し、楽しい夏休みを満喫するんだ!」
「「おおー!」」
俺の言葉にノリの良いクイナダとハンナが手を挙げて応えてくれる。
クイナダもだいぶ〈エデン〉に慣れ親しんできた様子だ。染まってきたとも言う。
クイナダはあまり染まってほしくない今日この頃。
今日の俺の担当はハンナとクイナダ。
そう、今日の、である。
なぜか俺の授業を聞きたいというメンバーが多いので俺は毎日ローテーションで教えることになっていた。
月曜日、シエラとセレスタンという貴重な戦力を送り出した後、去年と同じように学力調査を行なった。
もちろん1年生たちにである。あとクイナダにも。
去年、俺たちが受けたテストを回答してもらい。どのくらいの学力があって、苦手科目がなんなのか調べた。
最優先事項は赤点の回避。赤点になりそうな課目を重点的に鍛えるのが目的だ。
とはいえさすがに赤点になりそうなメンバーはいなかったのでセーフ。
基本的にテストの点数は組数に直結するため、みんなちゃんと勉強はしているのだ。
とはいえ、今年は学生が多く、1組を維持するには相応な学力が求められるだろう。〈エデン〉のメンバーはその多くが1組だ、我ら上級生が「しっかり勉強しておかないと1組は維持できないんだよ」と教え込んでいたおかげで、1年生たちも自力でちゃんと勉強はしていたらしい。よきかな。
とはいえ苦手科目はある。
その辺を教えるのが俺たちの役目だな。
今回もできる人が教える形で勉強会をしていた。
「でもでも、〈本校〉ってなんで再試験ないのかな?」
「クイナダさん、再試験って?」
「え? えっと。再試験っていうのは赤点になった人が受けられる再テストのことだよ。そこで赤点を回避出来れば補習は受けなくてもいいの」
「ええ! 2回テストを受けられるんですか!?」
〈本校〉に再試験はない。
〈分校〉にはそんな救済処置があると知ってハンナが驚いていた。
「もう、私の方がびっくりしたよ。赤点一発で補習送り、しかも真夏の勉強合宿ってどういうこと!? 〈本校〉が厳しすぎるんだけど!」
クイナダが戦慄を隠せないでいたが、まあゲームの仕様上そうなっているのではなかろうかと思う。ゲームでは再試験とかカットされていたのだ。
でもリアルでは一応別の理由が用意されていたぞ。
「〈本校〉は2万人を超えるマンモス校、それも〈本校〉入学を勝ち取った学生たちが通うエリート校(?)でもあるからな。テストだけでも2万人を採点するんだぞ? それだけ労力も凄いってことで、再試験はカット。赤点になるような学生は〈本校〉の名において鍛え直してやる。慈悲はない。そんな感じらしいぞ」
「〈本校〉厳し~。〈分校〉とは大違いだよ~」
「大丈夫だよクイナダさん」
「ハンナちゃん」
「良い点取れば赤点なんか関係ないよ。勉強しよう?」
「これが〈本校〉の考え方なの!?」
さすがはテストで限界を超えて歴代最高得点を叩き出したハンナ。
考え方がエリート。
そんなハンナの言葉にクイナダが何度目かも分からない〈本校〉へのギャップにおののいていた。相変わらずクイナダは良いリアクションだなぁ。
ほんと、ずっとそのままでいてほしい。
まあクイナダからすれば、救済処置が消えて赤点一発アウトだ。
プレッシャーを感じるのかもしれない。
とはいえクイナダはさすが〈分校〉で〈戦闘課1組〉に在籍していただけあり学力も悪くはなかった。平均70点から80点というところだろう。
赤点の心配なんかしなくても問題ないよ?
その日は不安がるクイナダの学力を平均90点くらいにする勉強法を教えたのだった。
そして翌日。
今日の生徒はシュミネ、ナキキ、ミジュだった。この3人はシュミネが平均90点は固いほどの学力なので2人に教えていたのだが、ナキキとミジュは割りと勉強が苦手なのでサポートを頼まれた形だ。あと、ゼフィルス先生の授業も受けたかったとのこと、嬉しいことを言ってくれるな~。俺は二つ返事で了承した。
「はいっすゼフィルス先生、質問っす!」
「はい、ナキキ。なにかな?」
「どうすれば暗記科目を覚えられるっすか!? 色々アドバイスを受けたっすが覚えきれないっす!」
「ゼフィルス様、どうか手伝ってください。ナキキに暗記の覚え方を教えても、なかなか身につかなくって」
「なるほどな。どんな感じに教えているんだ?」
出たな、学生が逃れられない試練。暗記。
苦手な人はとことん覚えられないって聞くからな。
シュミネに聞いたところ、声に出して読ませたり、とにかく限定してこれだけは覚えようというものを決めたりと色々試しているらしい。
おかげで多少は身についてはきている様子だが、しばらくすると忘れることも多いとのことだ。
「そうだなぁ。苦手意識を持たず、何にでも興味を持てば覚えられるというのが1つの解決策だ」
「それがむずかしいっす。勉強には苦手意識があるっす」
「だな。そこで俺が昔やっていた方法だが、何度も読み返すというのが結構有効だった」
俺が〈ダン活〉に来る前の勉強法だな。
「読み返す、っすか?」
「苦手意識とはつまり恐れがあるからだ。だが人は慣れる。何度も読んでると次第に苦手意識が無くなって、読み返し2周目には「あれ? これってどういう意味だっけ?」と興味を抱きだし、3周目には「これってこういう意味なんだな。わかった」と理解する。理解が得られれば苦手意識なんてどこかに行ってしまうという方法だな」
「力業っす!?」
「今のナキキには結構合っている方法だと思うぜ。まあ、これは苦手意識を時間を掛けて消し去る方法だからテストには間に合わないだろうが」
「なるほど。さすがはゼフィルス様です。まず苦手意識から取り除く、ですか。そういう考え方もあるんですね」
「人ってのは怖くなければ堂々と歩けるもんだ。興味が湧くことができれば儲けものだな」
「なるほどです」
そんな感じで適度にためになる話も盛り込んで勉強を続ける。
そういえばミジュがさっきから大人しいな?
見ればうつむいて手がストップしているミジュがいた。
「ミジュ?」
「ん? 寝てないよ?」
「誰も寝ているとは言ってないが?? 寝てたのか?」
「……寝てた」
「寝てたのかよ!」
どうやら寝落ちしていたらしい。勉強してるとなぜか眠くなるよね。
とはいえ渡した答案用紙の回答欄は全部埋まっているのでやりきって沈んだらしい。
まあ、これくらいは仮眠ということで良いだろう。
勉強には仮眠も必要なのだ。
「だが寝過ぎるなよ? あまり寝ていると、耳をもふるからな」
「! なんということ。でもそれくらい別にいいよ?」
「よーしもふってやる!」
「みゃー」
時にはちょっと遊んで気分転換だ。
ミジュの小さな熊耳は、意外とふにふにで、もふもふだった。




