#1305 セルマさんが危険人物扱いされている件!!
セルマさんは学園で唯一【闇錬金術師】に〈転職〉した方で、以前にオススメ育成論を渡していた人でもある。
そういえば今のLVはどれくらいだろう?
カンストしていれば【闇の魔女】へ〈上級転職〉してもらいたいなぁ。学園で貴重な【闇の魔女】だ。
うむ。そうと決まれば行動に移そう!
これも〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の平穏のためだ!
「ハンナー、ちょっと取り次いでほしいんだが、いいか?」
「え? ゼフィルス君が相談してくるなんて珍しいね? えっと、ミーア先輩かな?」
「いや、今回はセルマさんだ」
ミーア先輩とは〈生徒会〉生産副隊長のミリアス先輩のことだ。
あの方にもとても助けられている。主に上級料理とか。
昔はギルド経由で料理の受け渡しなどを依頼していたのだが、お忙しい方だ。最近は〈生徒会室〉でハンナたちが注文品を受け取ってくる感じに落ち着いていたりする。
そのため最近会っていなかったためだろう、ハンナはミーア先輩の取り次ぎだと思った様子だ。しかし、今回はそっちではなく、ハンナの同級生であるセルマさんの方だ。
「セルマさん?」
「ああ。どのくらいレベルが上がったのかと思ってさ」
セルマさんにオススメ育成論メモを渡したのが去年の〈転職制度〉が行われた後。もう半年以上経っている。
この世界では学生がカンストまで行くのに年単位で掛かることも珍しくない。
半年でどこまで育ったのか気になるところだ。
もし育っていないのなら、カンストまで連れていくのも大いに有りである。
「レベル? 確かこの前カンストしたって言ってたよ」
「……え? もうカンストしてんの!」
「うん。セルマさんが直接私に言いに来たんだよ。レベルカンストしたわーって。あとアルストリアさんやシレイアさんにも言いに行ってたから間違いないよ」
なんとびっくり。
セルマさん、すでにレベルカンストしていた件。
素晴らしい。
「これはすぐに問い合わせにいかなければなるまい! ハンナ、行こう!」
「ふえ?」
ガシッとハンナの手を掴む俺。しかし、そこに待ったが掛かった。
「ゼフィルス、どこ行く気なの?」
「シエラ!?」
背後から突然話しかけられてちょっとびっくり。
振り向けばそこには〈エデン〉サブマスター、シエラがいた。
俺に気が付かれずに背後を取るだと!? さすがはサブマスターなんだぜ。
しかしなぜかシエラの瞳は疑いの眼差しになっていた。これはいけない。
なぜか? 実は今日6月30日月曜日からは期末テスト期間なのだ。
ダンジョンに入れない期間である。悲しい。
そして、〈エデン〉としては赤点者を出さないために勉強会を行なうのが通例になりつつあった。今日はその話し合いにみんながギルドハウスに集まっていたりする。
「聞いてくれシエラ。〈幸猫様〉と〈仔猫様〉がピンチなんだ! ボディガードを強化すべきだと思う」
しかし〈幸猫様〉と〈仔猫様〉には代えられない。
〈エデン〉の攻略速度は〈幸猫様〉と〈仔猫様〉に支えられていると言っていい。
そこのガードを固めるのは非常に重要な事柄だとシエラに熱く語った。
そこに〈守護像〉を入れようと考えていることやセルマさんの話も含めてだ。
空の神棚をアピールするのも忘れない。見てくれシエラ。神棚が空なんだ!
「…………」
シエラは寂しくなってしまった神棚と俺、そして〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を愛でるラナを見渡して、また俺を見た。
俺はペラリと〈上級転職チケット〉を取り出した。キリッ!
「……話は分かったわ」
「分かってくれたかシエラ」
さすがはシエラだ。
話せばきっと分かってくれると俺は信じていたぞ。
「でもゼフィルスからそのセルマさんに〈上級転職チケット〉を渡すのは認められないわ」
「あれ?」
おかしいな。俺が持っていた〈上級転職チケット〉がパッと取り上げられてしまったぞ!?
シエラの話は続く。
「全部こっちで依頼などの処理をしておくから、ゼフィルスは【闇の魔女】の発現条件だけ教えてくれるかしら? 知っているのでしょ?」
「いやいや、ここは俺が何とかする場面で」
「ゼフィルスは後輩たちに勉強を教えるのが優先よ。あの人に〈上級転職チケット〉を渡しに行くなんて、間違いを起こしたいと言っているようなものよ。危険だわ」
あれ!? セルマさんが危険な人物扱いされてる!?
そういえば〈上級転職チケット〉には〈嫁チケット〉的な意味もあったが、それだって最近は意味が薄れてきているとも聞く。
しかし、シエラ的にはアウトらしい。おかしい、今までほとんどアウトなんて無かったのに。
「いいゼフィルス。セルマさんを〈上級転職〉させようものなら必ず〈エデン〉へ加入させてと言ってくるわ。それはもう間違いなく、よ」
「お、おう」
「でもそれはできないわ。なぜなら、セルマさんが不合格だから、よ」
「お、おう!」
セルマさん、未だに不合格の判定が外れないっぽい件。
「できれば他にカンストしている【闇錬金術師】の方が居ればよかったのだけど、以前の生産隊長代理はご卒業してしまったし、居ないのだから仕方ないわね。確かに防犯を意識するのは間違っていないから、セルマさんには依頼は出すわ。ゼフィルスは伝えたいことを手紙に書いてもらえるかしら?」
「そんな面倒なことをしなくても俺が直接――」
「却下」
「――て早っ! 却下早っ!」
「これはゼフィルスを魔の手から守るのに必要なことなの。2人を会わせるわけにはいかないのよ。――セレスタン」
「ここに」
「分かっているわね?」
「もちろんでございます。ゼフィルス様には指一本触れさせません」
どんだけ警戒されているのセルマさん!?
なんかすごい〈エデン〉に警戒されていますが!? ハンナも目を丸くしているぞ? セルマさんって実は闇の人物とかだったりするのだろうか?
結局シエラの「却下」が俺以外賛成多数で可決され、〈守護像のレシピ〉はシエラに預けることになったのだった。
えっと、まあ目的は〈幸猫様〉と〈仔猫様〉のボディガード作りだし、完成すればなんでもいいな、うん!
こうして俺がセルマさんのところへ訪問する話は無しになったのだった。
ガード、堅いやぁ。
なぜか視界の端でこちらに手を伸ばしながら涙目で引きずられていくセルマさんの姿を幻視した気がしたが、きっと気のせいだろう。
さーて、切り替えよう。
今日からテスト期間だ!
特に1年生は初めてのテスト期間である。
赤点者は夏休みの間に補習という名のプリズンに放り込まれ、最低でも10日間は戻って来られなくなるのだ! 恐ろしい。
もちろんそんなことはさせる気はない。
夏休みという超長期休暇が俺たちを待っているのだ! 全力で遊び尽くしてやる!
なお、赤点イコール補習というのは本校独特の制度ということで、分校出身の留学生、クイナダが「本校って再試験無いの!? 赤点で補習確定!?」とおののいていたのがやけに印象に残った。
そういえば分校には再試験があるんだっけ?
本校にはそんな甘い制度はありません!




