#1299 上級中位最初の最奥ボス戦、無効化能力を看破
上級中位ダンジョンのボス部屋は――これまで通り、〈謎ダン〉で幾度も登場した巨箱型の部屋だった。
溶岩や氷のギミックもない。いわゆる普通の部屋である。
その奥、影となって見えない位置にボスがいた。
「あれがボスだな。――シズ」
「周囲にそれらしい敵影はありません。ボスは1体のようです」
「こっちも出たぞ。あれは〈謎属性総進撃・スロットマジーン〉だ!」
「……名前からして、……えっと、ちょっとよく分からないボスね」
シズが素早く周囲を確認し、他に敵性個体が居ないことを確認。これまでの〈謎ダン〉ではボスが合流してくるなんてざらだったのだ。ボスが複数体居ても不思議ではないという判断。それでいい。
まあ、合流するはずだった徘徊型の〈アール〉は本日うっかり撃破してしまったのでここにはいないんだけどな。
俺は〈幼若竜〉でボスの名前を『看破』する。
こいつの名前は〈謎属性総進撃・スロットマジーン〉、通称〈マジスロ〉だ。
名前からして凄そうなやつだが、名前からはまったくもってよく分からない。
マジーンだしな。
マシンなの? 魔人なの? とか聞かれちゃいそう!
答えはマシンです!
「ギギギギギギ―――――!」
「来るわ! 『オーラポイント』! 『シールドフォース』! 手応えありよ」
「バフを掛けるわね! 『守護の大加護』! 『耐魔の大加護』! 『獅子の大加護』! 『迅速の大加護』! 『病魔払いの大加護』!」
シエラがヘイトを稼ぎ、ラナがバフを掛ける。
するとズシンズシンと足音を立てながらそいつは影から現れた。
見た目は……お察しの通りスロットマシンに手足と頭を付けたようなボス。
胸部に巨大なスロットがあって今は777と光っている。
ボディは黒を基調として炎が画かれている地獄風。
体長は8メートル。顔がビコンと一つ目を光らせてシエラを捉えていた。
そう、〈マジスロ〉は無機物系のボスである。
最奥ボスは筋肉じゃないのだ!
本当ならお供に筋肉がいたがすでに倒してあるので、セーフ。
「ギギギギギ――スロット開始」
「喋ったわ!?」
「撃ちます。『フェニックスショット』!」
無機物から音声のようなものが流れた。
ラナが驚き、よくもラナ様を驚かせてくれたなと言わんばかりにシズが初っぱなから手加減抜きで〈五ツリ〉をぶっ放した。おおう、やるなぁシズ。
〈マジスロ〉のスロットが回転するが、そんなの関係ねぇとばかりに火の鳥の銃弾が飛び込んだ。しかし。
「今日のスロットは――火」
「な!」
ここでとんでもないことが起こる。シズの〈五ツリ〉が命中する直前、回転したスロットが止まるとそこには『火火火』という文字が書かれ、直撃したシズの『フェニックスショット』を無効化してしまったのだ。ダメージは、まさかのゼロ。
「攻撃が通じません!」
「ギギギギ! 大当たり。火の眷属大当たり」
「! 眷属召喚よ!」
シエラの言うとおり。
スロットの下部分がガゴンと開くと、そこから登場したのは――コイン。
どう見てもコインだが、デカい。1メートル半はあろうかという、赤いコインに顔が画かれ、おでこの部分(?)に『火』と書かれている眷属が何体も生産されたのだ。数は、20くらいだな。
普通ならその数に戸惑うところだが、どうということはない。
「エリサ、やっちまえ!」
「私の出番ね! 眠っちゃいなさいよ――『ナイトメア・大睡吸』!」
眷属が相手となればエリサの右に出る者はいない。
いきなりのユニークスキル発動が猛威を振るった。
回転しながら炎を吹き出し、転がって攻撃しようとしていた眷属たちはたちまち眠りに誘われ倒れ込んだ。おおう、チャリンチャリン言いおる。
「これで一掃よ! 『夢楽園』!」
そして、ペロッと舌を出す仕草でエリサが即死魔法を発動した。
エリサの強烈〈即死〉コンボ! これには眷属は誰もレジスト出来なかったようで全眷属が〈即死〉してエフェクトが周囲にブワッと溢れる。
「ううーん、やっぱボスには効かないわね」
「だがナイスだエリサ! これで眷属一掃だな! 『勇者の剣』!」
「ギギギギ!」
「ダメージが、入る? ならば――『バードデスストライク』!」
「『グロリアススマイト』!」
ボスは『睡眠無効』持ちなので残念ながらエリサの攻撃は入らなかったが、十分である。
エリサの攻撃の間に近づいていた俺が一撃を決めダメージが入った。
今回初ダメだ!
それに反応してシズとシエラも攻撃すれば、これも直撃してダメージを負う。
「攻撃、通ります!」
「攻撃開始だ!」
俺の言葉にアタッカーのシズは素早く撃ちまくる。
すると、またボスに反応が起こった。
「ギギギギギ――スロット開始」
スロットが回転し始め、そしてすぐに止まった。
「今日のスロットは――無」
そして『無無7』とスロットに現れた。
瞬間、シズの攻撃が無効化され、ダメージが入らなくなる。
「! また、攻撃が入りません!」
「ハズレハズレ――残念パンチ!」
「! 『城塞盾』!」
「ハズレの恨み、込め込めパンチ! 連打連打連打!」
「『鉄壁』!」
「シエラ! 『生命の雨』!」
今度は眷属召喚は無し、そしてなぜか顔の部分が赤く染まってシエラにパンチを繰り出した。大きさの割りにフットワークが良い! ズダダダダと連続パンチを放ちまくる。ガードしていてもかなりのダメージだ。
しかし、ラナの継続回復重複掛けとシエラの継続回復パッシブスキル『盾姫ヒーリング』によってシエラはダメージを受けたそばから8割方回復していた。いいね。
防御は問題無し、問題は攻撃だ。
「ゼフィルス殿、どうすれば!」
攻撃が無効化される不可思議な事態にシズが珍しく俺に指示を求めた。
初めてのボス、見たこともない無効化現象にシズが大きく戸惑っている様子だ。
よし、そろそろネタばらししてもいい頃だろう。
「色々試す、何かからくりがあるはずだ! ――ラナ、ポジションスイッチ! 十宝剣をぶっ放せ!」
「! まっかせなさいよ! 『大聖光の十宝剣』!」
「エリサはシエラを回復だ!」
「オッケー! 『ダークハイヒール』!」
大技スタンバイ。
ヒーラーよりもアタッカーの方が生き生きとしている気がするラナが、〈五ツリ〉である大技、『大聖光の十宝剣』をぶっ放した。
「ゼフィルス殿!?」
「シズ、見てなって」
ラナの攻撃にシズが懸念を込めて呼んでくるが、これは重要なことだ。
物理的な攻撃でシエラをパンチしまくっていた〈マジスロ〉に直撃する。
すると――ダメージが入った。
「攻撃が、入った!?」
するとシエラに猛攻を仕掛けていた〈マジスロ〉が攻撃をやめて下がった。
「?」
「ギギギギギ――スロット開始」
そしてまたスロットを回し始める。
「それはもう見たわ。させない! 『ショックハンマー』!」
「今日のスロットは――無」
しかし、シエラが攻撃する前にスロットは止まり『無無無』という表示が現れていた。
瞬間弾かれるシエラのメイス。ダメージは――ゼロ。
「きゃ!」
「あれは!」
「ギギギギ! 大当たり。無の眷属大当たり」
「眷属召喚が来るぞ! ヒーラースイッチ! エリサ、掃討用意! ラナは回復を!」
「オッケー!」
「! 了解よ!」
瞬間、またガコンとスロットが下の口を開き1メートル半級のコインをジャラジャラと出す。今度は顔に「無」と書かれたグレーのコインだ。
コインはそのまま転がる岩のようにシエラを襲わんとするが、エリサが速攻で眠らせて〈即死〉った。
ここで説明。
「こいつはどうやら胸にある巨大スロットで表示された属性を無効化するようだ! さらに絵柄が3つ揃うと眷属召喚、揃わなければ〈マジスロ〉自身が攻撃を仕掛けてくるようだ! つまり、無効化されている属性以外なら攻撃は入る!」
「! そういうことですか! なら――『ジャッジメントショット』! 『ファイアバレット』! 『アイスバレット』! 『サンダーバレット』!」
そうこいつは―――特定の属性を無効化してくるボスだ!
スロットが回り、ハズレでも大当たりでも無効化はする。大当たりの場合は追加で眷属召喚までしてくるとんでもないボスだ。
今は眷属はエリサが一掃出来るからまったく苦にならないが、本来なら転がって移動しながらバラバラに攻撃してくる20体のモンスターがどれだけ嫌らしいか、エリサがいなければこうも簡単に眷属を倒すのは難しかっただろう。
そして眷属召喚はじゃんじゃん出てくるので倒せなければ眷属で部屋が埋め尽くされ、回復も満足に出来ず敗北だな。
しかもボスまで元気良く腕を振るってくるのだから第一形態からとんでもないぜ。
「『ライトニングバニッシュ』だ!」
「ギギギギギ――スロット開始」
「『フェニックスショット』!」
「今日のスロットは――火」
「また無効化!」
「シズ! 相手がスロットを回転させ始めたらそんな大技じゃなくて適当な技を撃て、どうやら回転中に放たれた攻撃で無効化する属性が決定するっぽいぞ!」
「! ということは今私が『フェニックスショット』を撃ったから〈火属性〉が無効化されたということですか?」
「その通りだ! あのスロットが回り始めたら『アイスバレット』で氷属性にしてやれ!」
「!! 承知しました!」
「ギギギギギ――スロット開始」
「! 今――『アイスバレット』!」
「今日のスロットは――氷」
「! ゼフィルス殿の予想の通りです! 今度は氷属性が無効化されました!」
「スロットはハズレだな! 今だ! ガンガン攻撃だ!」
「まっかせなさーい! 『祈望の天柱』よ!」
「ギギギギ!?」
そう特定の属性を無効化するのであれば、その属性へ誘導してやればいい。
俺がなぜこのパーティを選んだのか、それは――各人持っている属性が豊富だからだ。
ルルとフィナは無属性攻撃しか持っていないので相性が悪いのだ。
一部〈光属性〉のスキルも持っているが、光はラナが使えるしな。
というわけで、俺はアタッカーに闇と聖の属性以外すべて使えるシズを採用した。
ギミックの謎が解けると後は早かった。
適当な属性を無効化してもらい、その間にガッツリ攻撃を決めてやる。
すると、早速1本目のHPバーがゼロになる。
そして第二形態になった〈マジスロ〉は――スロットが二段になっていた。
「今日のスロットは――火と無」




