#1296 先遣隊が先へ進む!50人いるけど問題無いよね
「これは20層と25層にあったシステムと同じようですね」
うん。35層で再び行き止まりにたどり着いた時点でほぼ調査は完了だ。
この〈謎ダン〉のシステムもみんなが理解したことだろう。
ということで、大体の謎も解けたため、俺はこう提案した。
「シグマ大隊長」
「はい。なんでしょうゼフィルスさん?」
「スピードアップしませんか?」
「はい?」
意味がよく分からなかったのか、珍しい表情のシグマ大隊長。
おっと俺としたことが、少し簡潔に話しすぎてしまったかもしれない。
「気が付きませんかシグマ大隊長。20層からここまで、あまり新しい発見は無いことに」
「確かに、大きな発見と言えば階層門が2つあるということだけですが……」
「なら調べるものも少ないですし、攻略速度を速めても良いと思うんですよ」
「ゼフィルス、攻略じゃなくて調査だからね?」
ふお!? いつの間にか後ろにシエラが!?
ガシッと俺の肩に添えられた手の圧が強い気がする。
「ゴホン。調査速度を速めても良いと思うんですよ」
俺は言い直した。でもなぜか肩への圧が強まった気がした。気のせいであってほしい。
「出たわねゼフィルスさんの本領発揮が」
「タバサ先生? なにかご存じで?」
そこへタバサ先生も来ちゃった!
「ええ。こうなったゼフィルスさんはお任せするのが一番ですよシグマ大隊長。ゼフィルスさんなら最高の結果をもたらしてくれるはずです」
やった! タバサ先生は味方だ!
うむ。謎も解けたし、残り3日しかないのだ。
今までは調査ばかりであまり階層数は更新できなかった。現在35層。
これからもどんどんコンソールは増えていくし、さらに時間が掛かるだろう。
そうなると、このままでは70層まで調査が間に合わない!
ということで、スピードアップしよう!
「そうですシグマ大隊長! 我々は調査団。隅々まで調べるのも良いですが、徘徊型や上級中位ダンジョンの階層数なども調査する必要があります! スピードアップして行けるところまで行くべきだと思うんですよ」
「ふむ。具体的にはどうするのですか?」
「ああ、これはダメかもしれないわ……」
シグマ大隊長が俺の言葉に興味を示したことでシエラの圧が弱まった気がした。
今がチャンス!
「部隊を分けましょう。今ではこのダンジョンも慣れてきて、50人行動では手持ち無沙汰な人も多く出てきています。なので今後階層門のある部屋を見つけたら先遣隊がすぐに潜り安全を調査、その調子で階層門を見つけたらその時点で潜り、どんどん階層を更新していくのです」
「それは……」
「ダンジョンの全てを丸裸になるまで調査していては、どのみちダンジョン週間中に終わりません。ならば階層数を増やし、奥に居るモンスターの難易度を測る方がより安全面では良くなるのではないかと考えます」
「……なるほど。ゼフィルスさんの意見は、確かに分かります」
シグマ大隊長が俺の言葉に考え込みながら35層の階層門のある方角を見る。
そちらでは現在〈ハンター委員会〉が守護型ボスと戦闘中だ。
その間、俺たちは待機中。
この待機時間、勿体ないでしょ?
ということでもっと効率アップする方法を提案したわけだ。
そして、タバサ先生も交えた話し合いで、結論が出る。
「わかりました。先遣隊を作りましょう」
「はい! 言い出した我ら〈エデン〉が責任を持ってその任を全うします!」
「ゼフィルス、最初からそれが目的だったわね?」
シグマ大隊長は素晴らしいことを決断したよ。
もちろん俺は言い出しっぺの責任を取る! 言い出したのは俺だ、もちろん俺が務めるのが筋というものさ!
何も問題はないさシエラ!
そこからは早かった。
先遣隊には〈エデン〉と、もう1つどこかのギルドと組んで行くことが条件だったがもちろんそれくらいは構わない。
〈ハンター委員会〉が勝利して36層の部屋へ潜ると、そこからは難易度アップ。
なんといつもの大部屋にモンスターが湧いていたのだ。
折り返しで大部屋にとうとう雑魚敵が登場するようになってさあ大変。
「これではコンソールを調べるのも骨ですね!」
「今ホネデスって言った?」
カノン先生がホネデスに反応してる。思い出が深かったのかもしれない。
「くっ次々モンスターが襲ってくるな!」
「これではなかなか調査が進みませんよ!」
そう。大部屋にモンスターが居るということは、今までゆったりとできていたコンソールの調査に妨害が入るのと同義。
これではコンソールの謎を解くのがさらに遅れてしまう!
だが安心してほしい。
こういう時に頼りになるメンバーが〈エデン〉にはいるのだ!
「やっと私の出番ね! もう私の出番なんか無いんじゃないかと思ったじゃない! 眠りなさい――『ナイトメア・大睡吸』!」
そう我らの悪魔っ子、エリサである!
そのユニークスキルにより、大部屋にいたモンスターの半分、範囲内にいた全てのモンスターが眠ってしまう。
そして雑魚モンスターを相手にすれば最強と言われた即死コンボが発動する。
「じゃあね――『夢楽園』!」
ペロっと舌を出して即死魔法発動。
エリサを中心にフサーーっとエフェクトが溢れてモンスターが消えていったのだった。
もうそれは壮観と言うしかない。
「す、凄い」
「これが【悪魔】の力」
「やはり、あのレアイベント〈ホネデス〉は毎日狩った方が良さそうですね」
素晴らしい! 素晴らしいよ! 部屋だから障害物も無く、モンスターがどうなっていくのかよく見えるのがいいね。
みんなエフェクトで輝くエリサに大注目だ。
――その隙に俺は手頃なコンソールに飛びついて正解する。
「シグマ大隊長! 階層門発見しました!」
「え、ええ!? もうですか!?」
「まだ36層に着いて1分くらいしか経ってないが!?」
俺の報告にびっくりしたシグマ大隊長が振り向いた。
ラムダのツッコミに親指を立ててほとんど全員で向かって確かめれば、確かに階層門のある部屋が開かれていたんだ。
「ゼフィルス?」
「いやぁ偶然ってすごいな~! 早速先遣隊として出発しまーす!」
シエラがジト目だ!
この機会を逃す俺ではない。
テンションの上がる心に身を任せ、約束通り37層へと突入していった。
一緒に突入したのは〈攻略先生委員会〉の方々。タバサ先生が心配して付いてきてくれたんだ!
これは嬉しい。よーし、俺に任せとけ! ガンガン階層数を増やしてやんよ!
そしてあっという間に40層に到達した。
いやぁ、階層門のある部屋を見つければ階層更新が早いというのがこの〈謎ダン〉の魅力だよ~。
シグマ大隊長たちはリポップするモンスターの相手をしながらコンソールを調べてはいたものの、やはりじっくり調べるとはいかず、ある程度判明したところで先遣隊に追いついてきた。
調べづらいよね36層以降。やはり階層数を更新する方が良い調査になると思うんだよ!
40層の階層門は――再び2つだった。
となればもう慣れたもの。階層更新優先で部隊を2つに分け、〈エデン〉と〈攻略先生委員会〉がボーナスステージに、〈救護委員会〉と〈ハンター委員会〉が46層への階層門がある方へと進んだ。
正解ルートを早々に見つけまくって45層に到着。
なんとここには〈金箱〉が10個もあったよ!
全部俺たちのものだー! わはははは!
俺に掛かればコンソールの問題なんてなんの障害も無いので、郵便屋さんの如くマラソンしながら45個のコンソールを全部正解してあげた。
途中ロリーズチームが参戦して3つくらい「不正解」を引いたりもしたが問題無し!
全てのお宝をいただいたら〈転移水晶〉で一度〈上中ダン〉へと戻り、40層へとショートカット転移陣で移動。この方が早い。
そのままシグマ大隊長たちを追いかけた。
シグマ大隊長たちは43層にいたよ。
ちょっと早かったかもしれない。
「え? ゼフィルスさん? もう向こう側を調べ終わったのですか!?」
「ええ。見てください、石版もゲットしてきましたよ!」
「早すぎるだろゼフィルス!?」
合流したらシグマ大隊長とアーロン先輩が目を点にしていて、ちょっと面白かった。
そして俺たちは深層と呼ばれる50層へと到着した。
50層では階層門はなんと3つに増えた。
行き止まりの55層からそれぞれ割れた石版を取ってきてくっつけ、56層に繋がるコンソールに嵌めれば先へ行けるという仕掛けだった。
これは問題無し。だがここからがちょっと大変。
深層には徘徊型が出るのだ。
徘徊型ボス。こいつはとんでもないやつで、突如上から落ちてくる。
天井に急に穴が空いたと思ったら徘徊型がズシーーーンという着地音を響かせながら落ちていて、その豪腕で巨大な剣を振り回してくるのである。
その名は〈壁抜け徘徊伯爵・ヴァンパイアアール〉。
そう、こいつは吸血鬼だった。
あの〈霧ダン〉の〈ヴァンパイアバイカウント〉の上位種である。
現れるときはなぜか毎回上から落ちてくるのに、逃げるときは壁まで寄って霧になって消えてしまう、筋肉モリモリの吸血鬼だ。白髪の生えた怖い顔面をしているせいでシエラが怯えてしまっ、いや、別に怯えていなかったな。
ヴァンパイアはアンデッドだが、幽霊でもオバケでもないのだ。
また、この徘徊型も逃がせば〈ヴァンパイアバイカウント〉の時と同じように最奥に登場するので毎日逃がさないように倒したぞ。
ただ、なぜか〈エデン〉の目の前に現れない。なぜだぜ?
うちの【大聖女】様が「来たら滅してやるわー」と気合い入れているからだろうか? 【大聖女】様はアンデッド特効を持ってらっしゃるんだ。
そして60層からは60個あるうち、とある5つのコンソールを正解して、その奥にある五分割にされた石版の欠片を集めないと、61層への階層門のあるコンソールを起動出来ないというギミックが出てくる。ここでは階層門は1つに減るのだが、60層から69層までは全部同じようなギミックになるので結構時間が掛かるのだ。
もうここまでくるとコンソールの数は膨大で、思わずクラッとくるかもしれないがそこは人海戦術で突破。
凄いんだ。今まで出た問題も全部メモっていたものだからカイリが居なくてもある程度正解が分かるのが良い。
正解が出るまでやり直すのも良しだ。
ここまで来るとなぜか先遣隊が50人になっていたが、もうそこはみんな慣れたものだったな。あれ? 先遣隊ってなんだっけ?
そして65層以降。
ここからはとんでもないギミックがあって、いつものノリで「大不正解」を選ぶと、全員に〈即死〉を付与したうえでエリアボスが登場するというアンビリバボー現象が起こるのだ。
これでチーンと南無ったプレイヤーは計り知れない。徘徊型よりも凶悪だ!
そこで登場するのが、『即死無効』のついたアクセ装備〈身代わりのペンダント〉だ。
俺はこれを「なんか『直感』がこれを着けておけと警報を鳴らしているんだ」と真剣に説得して着けてもらい切り抜けた。カイリの『リドル・イリュージョン』に〈即死〉と出ていたのも大きいだろう。
備えあれば憂いも無し! 50個持っていたので全員に配っておいた。これも『直感』のおかげだということにしておいたよ。
シグマ大隊長からは、「これほど危険なトラップは見たことがありません。要注意喚起しなければいけませんね」と真剣に検討していたが「希望者には〈上中ダン〉の受付で〈身代わりのペンダント〉の貸し出しもするよ」と提案して事なきを得たのだった。売ることはできないが、ダンジョンで使うぶんには問題無い。どんどん学生も使ってほしい!
そんなこんなで最終日、俺たちはなんとかお昼には最奥へ到達したのだった。




