#1294 金箱回?デレッたゼフィルスの罪は重かった?
「コ、コンゴウ~~……」
ズシーンと轟音を立てて倒れエフェクトの海に沈んでいく〈東金〉。
相手が俺たちでなければ〈西金〉と挟み撃ち出来たかもしれないが、残念だったな。
俺に死角無し! 〈エデン〉に死角無し!
まあ来ると分かっていたので2パーティで守護型ボス戦を開始し、参戦してきた〈東金〉をフィナとラクリッテに任せたんだけどな。
やっぱフィナ強いわ~。
特に回復持ちのタンクってところが良い。さすがは天使!
多少の時間稼ぎするだけならフィナ1人でもこなしてしまう!
そこへラクリッテも入って2人で押さえたら〈東金〉は完全に抑え込まれてしまうって。
おかげで〈西金〉を先に屠ることが出来、2体に挟まれることなく1体ずつ撃破できた。
1体ずつ相手にするなら難易度はいつもとさほど変わらない。楽勝だったな!
「倒したぞーー!」
「「「わあああああ!」」」
「〈エデン〉がやったぞ!」
「すっげぇ! ボス2体を相手取って勝利かよ!」
「挟撃されてたのに完全に防いでいたぞ!」
「おいミュー、あれって俺たちも出来たと思うか?」
「無理。初見であんな対応ができるのは〈エデン〉だけ。うちらなら大被害」
「だなぁ。さすがはゼフィルスたちだ」
周りからも歓声が聞こえてきた。
見れば〈攻略先生委員会〉だけではなく、〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉のメンバーまでほとんどが集まっている。
あの〈東金〉、守護型ボスのくせに大部屋を横断しちゃった影響だろう。
今まで守護型が持ち場を離れるなんてことはありえなかった。
シグマ大隊長もアーロン先輩もおったまげたことだろう。
目が点になっていたのではなかろうか? ちょっと見てみたかったなぁ。
アスリート走りしながら大部屋を横断する〈東金〉、それを目を点にしながら見送るシグマ大隊長とアーロン先輩。
……やっべ、想像したら腹筋が痛くなってきた!
これ以上は帰ってからにしよう。
「お疲れ様でしたゼフィルスさん。ごめんなさい、加勢してあげられなくて」
「全然大丈夫さタバサ先生! そもそも〈エデン〉のバトルへの乱入だからな、タバサ先生たちが入ったら回復されていたかもしれない」
「あ、やっぱりそうなのね。ターゲットが完全に〈エデン〉の方を向いていたから。手を出さなくて良かったわ」
あれは〈西金〉のスキルで呼び出されて合流してきたボスなので、〈東金〉は完全に〈エデン〉2パーティと戦闘中という扱いになっていた。そこに先生方が参戦したらさらにハンディが加算され、〈東金〉がさらにとんでもない強さにパワーアップしていたことだろう。これこそが〈守護型参戦現象〉の罠。
他のパーティを助けようと戦闘を開始したら、ハンディがとんでもないことになって逆にピンチに陥ってしまうということもありえるのだ。
先生方もその可能性を懸念し、近くにいたのに攻撃しなかったようだ。それで正解。
「一応〈エデン〉が崩れたとき真っ先にカバーできるよう準備していたのよ? 必要なかったみたいだけど。さすがゼフィルスさんね」
「いやぁそれほどでもあるぜ~」
タバサ先生の褒め言葉につい表情が緩んでしまう!
「あ、ちょっと汗かいているわ。じっとしていてね?」
「あ~」
タバサ先生はそう言うと、純白のハンカチを取り出して俺の顔にポンポンと当てて汗を拭ってくれる。
俺、今タバサ先生にお世話される! 幸せ~。
「うふふ。しっかりしているように見えていても少し緊張していたのかしら? はい、綺麗になったわよ」
「ありがとうございます!」
多分、汗をかいたのはその後腹筋が捩れそうになったのを気合いで堪えたせいだと思うが、それは言わないでおいた。
「むむむ~。ゼフィルス! 〈銀箱〉よ! いらないのね!」
「! いる!」
「あ!」
ラナの声につい反応してしまう俺。
ぐりんと首を回す勢いでそちらを向き、腕を腰に当てながらちょっと不機嫌そうなラナとその脇にある2つの〈銀箱〉を視界に収めると、そのまま〈銀箱〉へと向かっていった。宝箱が俺を待っているんだ! 俺を止めることなんてなんびとたりとも不可能! もちろん俺自身にも不可能だ。
タバサ先生の声も耳に入らず、俺はそのまま、気が付けば〈銀箱〉の前に立っていた。
「それでこそゼフィルスだわ」
ご機嫌そうに言うラナ。しかしラナの足下には3つ目の宝箱があったことで俺はそちらに目を奪われる。その宝箱は金色に輝いていたからだ。
「ってちょっと待とうかラナ! なに俺に〈銀箱〉を回して自分だけ〈金箱〉をゲットしようとしてるんだ!?」
「タバサ先生にデレッとして来るのが遅かったゼフィルスが悪いわ」
「なぬ!?」
ラナのセリフに俺は閉口せざるを得ない。
今回は守護型ボス2体の撃破、故に本来なら宝箱は2つ。1つ増えているのは〈幸猫様〉の恩恵だろう。片方増えたんだ!
そして〈金箱〉1個、〈銀箱〉2個という状況が出来上がる。
しかし、ラナが〈銀箱〉と言ったために今回のドロップは〈銀箱〉だと思い込んでしまったのが痛恨。どうやらタバサ先生にお世話されてその辺の意識が飛んでいたようだ。これでは反論できない!?
そこにスッと近づいてくる人影1つ、シエラだった。
俺はシエラに希望を見た。
「シエラ!」
「ゼフィルスは今回見守っていて、今回は私たちが開けるから」
「シエラ!?」
あれ!!??
〈金箱〉どころか〈銀箱〉もダメ!? シエラの目が若干つり上がっているように見える!?
タバサ先生にデレッとした代償は大きかったようだ。
「はいはいご主人様どいてね~」
「では祈りましょう姉さま」
「ゼフィルスお兄様~――にゅ?」
「ルルはこっちよ」
エリサもフィナもスッと俺が確保していた〈銀箱〉の前に陣取り、お祈りを開始する。あやや!?
ルルは俺のところに来ようとしたところをシエラに抱えられてもう1つの〈銀箱〉へ連れて行かれてしまった。
そして〈金箱〉には我らがラナが!
マジで俺の席は無いらしい。なんてこった。
「さ、みんな開けるわよ!」
「「はーい」」
「はいなのです!」
「ルル、タイミングを合わせてね」
そしてオープン。
み、見ることは許されるだろう。許してくれるよねシエラ?
「にゅ? たべるんなのです?」
「ダンベルね」
俺はスッと目を逸らした。
ダンベルがたべるんに。相変わらずルルの言葉に和みが止まらない。ってなに? ダンベル?
そこへ近づいてきたセレスタンが『解析』してくれる。
「これは〈マッチョ改造ダンベル〉というそうです。効果は……使用すると〈マッチョになる〉。だそうですよ」
「なんですって!」
「な、なんだと!?」
シグマ大隊長とイルカ先生の声が響き、辺りはざわめきに包まれた。
そう。これは〈マッチョ改造ダンベル〉。マッチョに改造してしまうダンベルなのだ!
〈ダン活〉ではマッチョキャラはキャラクターメイキングの時に選択しなければならなかった。
そしてマッチョでなければ就けない職業もあった。
それが――【筋肉戦士】である。その条件はただ1つ。〈マッチョであれ〉、これだけだ。
つまりはそういうことだ。
この〈マッチョ改造ダンベル〉は、その〈マッチョであれ〉を満たす謎アイテムなのである!
ゲームでは、使用すると消滅する代わりに一瞬でマッチョに早変わりしてた。
「「……いらないわ(のです)」」
ああーーっと、いつもなら宝箱の中身には輝かしい瞳をするルルすら首を振るー!!
〈マッチョ改造ダンベル〉は不評だった。
「では僕が」
「え? セレスタンが使うのか?」
俺はとんでもないものを見る目でセレスタンを見てしまう。
「いえ、適当な場所に売り払っておきます。欲しいギルドに心当たりがあるのですよ」
あ、察し。
セレスタンが使う気じゃなくて良かったよ。
どこに売る気なのか? こんなのを買い取りたいなんてギルド、1つしか心当たりが無い。セレスタンはアランと割と気が合うらしいんだ。
なぜか視界の端でイルカ先生が震えていた気がしたが、きっと気のせいだろう。
ちなみにエリサとフィナは〈光の真強化玉〉というレア素材をゲットしていた。
武器や防具の強化の時に使うアイテムだな。中級でドロップしていた〈装備強化玉〉の上位アイテムでプラス値が2増えたり、強化に使用する個数が3分の1になるという素晴らしい素材アイテムだ。
そして〈金箱〉を開けたラナだが。
「これは――〈守護像のレシピ〉ですね」
「え? もしかしてあのボスが造れるようになるの?」
「……軽く見ただけですが、そのようです」
「…………」
守護像のレシピをゲットしていた。
これはラナの言うとおり、金剛像を作製できるようになるレシピである。
先生方が「上級中位級の〈金箱〉産レシピだと!?」と騒ぐ一方で俺たちは微妙な表情をしていることだろう。
〈金剛マッチョーズ〉の主張が強い!
とりあえず、このレシピは持って帰ることになった。




