#141 物に命が宿った系はちょっと厄介です。
本日やってきたのは初級上位ダンジョンの一つ〈付喪の竹林ダンジョン〉。
辺り一帯が竹林になっており、どこか静かな情景を思わせる。
しかし、出てくるモンスターは全然静かではない。
「そっち行ったわ! エステル、気をつけて!」
「はい! 『ロングスラスト』!」
「ビビビー!?」
どこか機械っぽい音声を出しながらモンスターが沈黙して消える。
「戦闘終了だ。お疲れ様~」
「お疲れ様。ねえゼフィルス。このモンスターってなんなの? すごく変わってるけど」
このダンジョンに来てから初の戦闘が終わったところでラナが代表で聞いてくる。
皆、明らかに馴染みがないだろうからなぁ。全員同じ事を感じているのだろう。
ここ〈付喪の竹林ダンジョン〉では無機物型モンスターと呼ばれる、所謂物に命が宿った系のモンスターが登場する。
今倒したのは、機械っぽい音を出していたが、車輪を搭載したからくり人形型モンスター〈お湯太郎〉君だ。お盆に乗せたお湯をぶっ掛けてくるので注意が必要だ。
足が車輪なので中々移動速度が速い。え、そういう話じゃないって?
「小さいお人形なのに、全然可愛くなかったよ」
「そうですね。むしろ踏んでしまいたくなる人形でした」
可愛いもの好きのハンナとエステルの評価がこれまでにないほど手厳しかった。
〈お湯太郎〉君、邪なこと考えてそうな顔だったからな。
大きさ僅か50cmほどのからくり人形だ。さぞ踏みやすいに違いない。踏んだら逆に喜びそうな気がするがきっと気のせいだろう。
「ま、あれは特殊な分類だ。他のモンスターはまともだし可愛いから安心してほしい」
「いえ、そういうことでもないのだけど」
「可愛いからって何に安心しろっていうのよ」
ごもっともだった。
いや、〈お湯太郎〉君はな、特殊なモンスターなんだ。何しろお湯をぶっ掛けてくるんだぞ? 薄い服が濡れたらどうなるか、想像してみろ。とても大変だ。
まあゲームではそんな描写はなかったんだが、一部の〈ダン活〉プレイヤーが描いた同人誌がヒットしてな。とても有名な作品があったんだ。〈ダン活〉プレイヤーたちは敬意を籠めてこの〈お湯太郎〉を君付けで呼ぶようになった。詳しくは言えないけどさ。
※〈ダン活〉は年齢制限B(12歳以上)のゲームです。
うーむ。語れないのが辛い。
「ま、ともかく先に進もう。無機物型モンスターは動きがとてもユニークだから気をつけろよ」
「なるほどね。わかったわ」
タンクのシエラに無機物型の特徴とその攻撃手段を語りながら先へ進む。
あいつらは生物ではないので挙動がすごい。首と腕が360度回転したりする。その辺リアルは注意が必要だろう。
その後、ワゴン型モンスター〈バスケット〉や動く着物の幽霊型モンスター〈ハンテン〉を倒しながら先へと進む。
さすが初級上位ダンジョンだけあって幽霊特性を持つ敵も1種だけだが登場する。だんだんと難易度が上がってきているな。
シエラは、やはり〈ハンテン〉は苦手そうだ。少し被弾が多いように見える。
そしてこのダンジョンで厄介なのが一種。
「あ、〈チリンリン〉がいるわよ!」
「仲間を呼ばれる前に倒すぞ!」
風鈴型モンスター〈チリンリン〉だ。
こいつは仲間を呼ぶため見つけたら即集中して倒すことが重要。
他のゲームでは仲間を呼ぶ系は良い経験値稼ぎになるのだが、〈ダン活〉ではボス周回で間に合っているのでただ邪魔なだけだ。時間をかければ周回数が減る。即・滅・斬。である。
「あ、採取ポイントあったよー」
「おっしゃ掘るぞー!」
竹林なので当然タケノコもここでは採れる。
ハンナには美味しい食事を提供してもらいたいので食材の確保に余念はない。
ちなみに今タケノコ『採取』に使っている〈優しいスコップ〉は俺がポケットマネーで購入したものだが、今後はギルドで使うためギルド予算が下りることになった。100万ミールが俺の手元に返ってきた形だ。
他にも採集で使うアイテム系はギルド内予算で購入することに決まり、今後のために一通り揃えておこうと話がついている。良い物を揃えたいな。できれば〈優しいスコップ〉と同じく『量倍』スキルが付いたやつがいい。
そんな感じでわいわい進み、また隠し扉も3つ開けて〈銀箱〉3つ確保。
中身は料理アイテムの〈レシピ〉(タケノコ入り)と腕装備の〈ナックルガード〉。
それとMPを500P回復してくれる〈MPハイポーション〉が手に入った。
〈ナックルガード〉はレア装備だけあって結構良い性能なので俺が装備することにする。
しかし、天空シリーズとの組み合わせが悪い。こりゃ、初の〈デザインペイント変更屋〉の出番だな。帰ったらマリー先輩に頼むとしよう。
今は仕舞っておく。
今回は採取メインではなくLV上げがメインだ。
そのため出来るだけ最短距離で最下層まで進んだ。
そして昼の12時、無事に最下層の救済場所に到着する。
ボス戦が楽しみだ。
時間はたっぷりある。たくさん周回するぞ!