#1291 せっかくだから俺はこの赤のボタンを選ぶぜ!
〈謎ダン〉の第1問。これを俺は「不正解」を選択するべきだと進言した。
俺たちは調査団。失敗したときにどうなってしまうのかも確かめておかなければ安全とは言いがたい。
とはいえそれで大きな被害が出たりするのであれば俺も考えるが、〈ダン活〉には命や怪我に直結するようなペナルティーは無いので安心だ。〈即死〉はあるけどな。
「不正解ですか。正直どれだけの被害が出るか分からないので遠慮しておきたくはありますが、どんな現象が起こるかも調査しておかなければ学生を入れるのも躊躇われますからね。それを調べるのも調査団の役目です」
「でしたら〈転移水晶〉が使えるかも調べておきましょう」
「よし。すぐに脱出できるよう退路の確保を!」
「はっ!」
シグマ大隊長も俺と同じことを考えていたようだが、かなり警戒している様子。
何しろシグマ大隊長たちには初のペナルティーだ。ここは未踏の上級中位ダンジョン。何が起こるか分からないため慎重になるのも分かる。
〈救護委員会〉の方が進言し、万が一の時の脱出手段など構築する。
「〈転移水晶〉、問題無く起動いたしました! 〈上中ダン〉にある転移リングの下に転移した模様です!」
「ご苦労様です。ユミキさん、そちらの方はどうですか?」
「相変わらず何も無いわね。出口までダッシュすれば数十秒で全員が脱出できるわ」
さすがは〈救護委員会〉とユミキ先輩だ。脱出経路の構築が早い早い。
そう、〈上中ダン〉にもちゃんと転移リングがあり、〈転移水晶〉を使うとちゃんとその下に転移されるのだ。モンスターのエンカウント中でなければいつでも帰還が可能だぞ。
ペナルティーに対し、どんどん警戒態勢が整っていく。
よし、ここでもう1つ切り札をお見せしよう。
「そうだ、シグマ大隊長。少しこちらでもあのコンソールを調べてもいいですか?」
「もちろん構いませんよ」
「カイリ、来てくれ」
「ん? 呼んだかい?」
俺はさも今思いついた風を装ってカイリを呼ぶ。
カイリを呼んで最初に反応したのはユミキ先輩だ、無言だがカイリには手を振ってる。
カイリはちょっと照れくさそうだ。
〈救護委員会〉の面々は少々面食らいつつも、彼女ならあるいは何かしてくれるかもしれないと熱い期待の視線でカイリを見る。
以前カイリはシグマ大隊長のパーティにいたからな。そこで上級ダンジョン攻略の足がかり、支援課の有用性を大いに示した実績があった。故の期待だな。
ふっふっふ。いいだろう。
その期待、応えてやるぜ!
俺はカイリに指示を出す。
「〈五ツリ〉で覚えた『リドル・イリュージョン』があるだろう。アレをコンソールに使ってみてくれ」
「あ、あれね! うん、了解――『リドル・イリュージョン』!」
カイリの〈五ツリ〉『リドル・イリュージョン』は謎解きやギミックの対抗スキル。正解の選択肢やルートが分かる他、LV1とはいえペナルティの効果も多少知ることができるという超優れたスキルである。
「えっと。あ、これ凄いかも。正解は、青? 黄色も若干光ってるけど。赤を選ぶとモンスターが襲ってくるっぽいよ。黄色は、〈毒〉になる、のかな?」
「ほほう」
カイリの言葉にシグマ大隊長が反応し〈救護委員会〉がざわめいた。
必死に記録を取っている人たちもいるな。
「カイリさん、この問題の答えやペナルティーが分かるのですか?」
「そうみたいです。正解するとどうなるのかとかは書いてないですが、それぞれの色にモンスター(赤)、毒(黄)、正(青)って書いてあります」
「それは興味深いです」
LV1なのでマジ少量の情報しか入ってないが、全部の選択肢の内容が分かるとかマジとんでもないスキルである。さすがは切り札。
ちなみに「正」が正解な。つまり青のボタンを押せばいいわけだ。
赤を押せばモンスターが出てくるし(どんなモンスターか、何体出てくるかは不明)、黄色のボタンを押せば〈毒〉状態になる(何人が毒になるのか、効果範囲などは不明)。
つまりこの〈謎ダン〉は謎解きとトラップが搭載されたギミック系ダンジョンということになる。
ボタンを押すだけなので簡単だが、ハズレを引けばトラップが発動し、時にはモンスターの大軍に襲われ、時には〈麻痺〉や〈即死〉の霧が噴出されて一網打尽にされることもある。
まあ正解だけ引き続ければ何も問題は無いな!
とはいえクイズはランダムなので、〈謎ダン〉を攻略する時は【ダンジョンインストラクター】などを連れて行くことが推奨されていたな。
いや、クイズの正解が分かるスキルって、マジとんでもねぇ!
〈救護委員会〉のメモを取る手がとどまるところを知らないな。むっちゃ書きまくってる。
「カイリさんお手柄です。まずはモンスターを選んでみましょう。先生方もよろしいでしょうか?」
「かまいません。何かあった場合、回復は任せてくださいね」
「頼もしいですね」
そうこうしている間に〈攻略先生委員会〉や〈ハンター委員会〉も部屋を調べきって戻ってきていた。1層だとコンソールはここしか無いんだよな。
シグマ大隊長が確認を取るとタバサ先生がニコリと微笑み頑張ってくださいと応援する。タバサ先生の回復があれば百人力だ!
「では行くぞ!」
シグマ大隊長がパーティを率いて覚悟を決め、赤の〈マッチョで有れ〉のボタンを押す。
すると画面に現れたのは―――『大不正解!!』
不正解に大がついてる!?
「大不正解」か。ただの不正解ではないのだ。うむ。
そして次の瞬間、別の場所の壁が開く。するとそれは現れた。
「うお!?」
「壁から来るぞ! 気をつけろ!」
イルカ先生が呻いた。そしてラムダからも注意が飛ぶ。
なんと壁から上半身だけ毛が無い筋肉ムキムキのボディをした〈ムエタイイエティ〉というエリアボスが出てきたのだ。
「イッエーーーイ!!」
陽キャボス登場――再び!
「『エリアボス探知』!」
「『識別アイズ』!」
「「こいつはエリアボスよ(だよ)!!」」
カイリとユミキ先輩の声が辺りに響いた。
「〈氷ダン〉の〈パンチマンイエティ〉の近縁種か!?」
「考察はあとだ、フォーメーションを取れ! ラムダは側面からだ!」
「了解!」
まさかのボス出現。
うむ、普通の不正解なら通常モンスターが出るのだが、「大不正解!!」をやらかすとエリアボスが登場するのだ。ちなみに「大」とは普通は間違わないような答えを回答したときなどに起こる。
〈意訳:マッチョなわけないだろう!! テメェら全員大不正解じゃ!!〉〈イッエーイ!〉みたいな感じだろうか。
ちなみにその日エリアボスが倒されていたら通常モンスター10体とかになるぞ。
初めての上級中位ダンジョンエリアボス。
〈救護委員会〉の面々は慎重にことを運んだ。10人体制2パーティで囲って叩く。
しかし、所詮は第1層のボス。
「イエーーイ!!」
「こいつ、マッスルポーズをとりやがった!!」
「ちょ!? 〈盲目〉になったんだが!?」
「こっちは〈混乱〉だ!」
「状態異常回復! 急げ!」
「動きは型破りですが、荒い。荒いです。そこ!」
「イエーー!?」
「シグマ大隊長がダウンを捥ぎ取ったぞ!」
「攻撃しろー!!」
〈救護委員会〉は冷静なシグマ大隊長のおかげで切り抜け、キックから跳び蹴り、ドロップキックなど様々な蹴り技とマッスルポーズで楽しませてくれた筋肉、もとい〈ムエタイイエティ〉を15分ほどでエフェクトの海に下したのだった。
「ふう。恐ろしい敵だった」
本当に?
「ああ。〈氷ダン〉10層の〈パンチマンイエティ〉より間違いなく強かった」
ラムダの言葉にシグマ大隊長が手の甲で汗を拭いながら同意する。
まあ、あっちは推奨レベル17。こっちは推奨レベル25だからな。確かにこっちの方が強かろう。
「しかし、周囲の雑魚敵が沸かなかったというのは評価できます」
「ですね。ひょっとすれば戦いやすい相手なのかもしれません。次は〈フルート〉で呼び出してみましょう」
たった1戦。たった1問。
しかしそれで分かったことは膨大だった。
また、様々なことが検証されていった。
まず、不正解、大不正解を出すと問題が変わることが判明。
召喚盤は消えないので安心。
エリアボスが出てきた通路はいつの間にか塞がれていたので、正解しないと先には進めないことも判明した。
エリアボスを倒せばコンソールには大不正解の回答が消えて、正解か不正解のどちらかしか選べなくなったが、〈フルート〉を吹けば再び大不正解の答えを選べるようになった。
もちろん大不正解を選べばエリアボス〈ムエタイイエティ〉が登場したので、今度は〈ハンター委員会〉が狩っていた。なお、〈救護委員会〉も〈ハンター委員会〉も報酬は〈木箱〉だった。無念。
しかし、初の上級中位ドロップということで大切に運ばれていったのだった。研究所に渡るらしい。
「だいぶ判明しましたね。そろそろ正解も選んでみることにしましょう」
「賛成です」
そして何度か不正解を調べたのち、ようやく正解を選ぶことになった。
さて次の問題はっと。――む! これは、なぞなぞ問題!
〈問題:クマはクマでも悪いクマさんは誰でしょう?〉
ってまたクマかよ! 誰だこんななぞなぞを考えたのは! 絶対開発陣だろ!?
そして回答欄がこちらだ。
〈A. 赤:悪魔 黄:天使 青:熊田〉
誰だよ熊田って!
あれか? 「悪いクマは――熊だ!」てか!?
「答えは赤の〈悪魔〉じゃい!」
正解は――悪魔だ!
せっかくだが俺はこの赤いボタンを選ぶぜ!
俺は秒でタッチした。
――――『正解!』
「「「「おおー!」」」」
「あれ!? 私まだ『リドル・イリュージョン』使ってないんだけど!?」
俺が正解を押すことになり、奥へ続く通路が出現すると歓声が上がった。
悪魔はクマの仲間だったのか? 本当に正解だったのか気になるところだ。
あ、ちなみにこの〈謎ダン〉はクイズだけじゃなくてちゃんとなぞなぞも登場するぞ!
「ユミキさん、確認をお願いいたします」
「任せて頂戴」
そしてユミキ先輩に中を先に確認してもらうと。
「あ、中に階層門があったわ。……むしろそれしかないわね。個室で行き止まり、コンソールもないみたいだわ」
「罠の類いも?」
「見当たらないわね」
「なるほど、つまりこのコンソール。正解すれば無条件で通路を開くが、不正解、もしくは大不正解には何かしらのペナルティーを浴びせるということですね」
「みんなー2層への階層門を発見したぞー!」
「「「「おおーー!!」」」」
階層門の発見で調査団が盛り上がる。
正解を選べば先に進めることに間違いは無かったのだ。
ということで、俺たちは続いて2層へと向かうのだった。
あ、ちなみにコンソールに嵌めた召喚盤はちゃんと回収したぞ。




