#1288 〈上中ダン〉解放。この日学園は再び震撼した
6月21日土曜日。
今日からダンジョン週間だ!
それはつまり、例の上級中位ダンジョンへの調査団が出発する日でもある!
俺たちは一度ギルドハウスに集まり、メンバー集合後、全メンバーを連れて〈上中ダン〉へと出発していた。
「おい、アレ見ろよ」
「!! 〈エデン〉一行だ!」
「ど、どこへ行く気なんだ? あっちは何も無いだろう?」
「バカ、掲示板見てないのか? 〈エデン〉はこれから上級中位ダンジョンの調査に向かうんだよ!」
「ええ、上級中位ダンジョン!? 何それ!? うそ、マジで!?」
「マジだって、それで掲示板がお祭り騒ぎだったじゃねぇか!」
「あれはお祭りって言うのかな?」
「先頭を歩くのは〈エデン〉のギルドマスター、ゼフィルスさんだ! その後ろに続くのはサブマスターのシエラさんにラナ殿下! 前を歩く10人が選抜メンバーか? そうそうたる顔ぶれだぞ!」
「3人幼女が混じってるが?」
「馬鹿野郎! 幼女は強いんだぞ!」
「その通り。その見た目に騙されて油断したところをポイポイ屠られた輩は星の数にのぼるとか」
「擬音がちょっと可愛い」
「ポイポイ、いったいどんなやられ方をしてるんだ」
ふっふっふ、周りからの羨望の視線を肩で切るようにして進むのが気持ちいい。
すでに〈エデン〉が上級中位ダンジョンへ向かうという情報は知られているのか、俺たちが〈上中ダン〉へ向かうと左右に人波が分かれて道を譲ってくれるんだ。
中には付いてくる人たちもいる。
実はそれもそのはず、これから行く〈上中ダン〉の前で重大発表が予定されているからだ。
なお、その発表の内容がなぜか漏れている気がするのは、きっと気のせいだろう。
そうして予定の時間の丁度10分前に目的地に到着したのだが、その時にはすでに主要なメンバーは全員揃っていた。
ギルドメンバーからシエラだけ連れてすぐに向かい、挨拶する。
「タバサ先生!」
「ゼフィルスさん、みなさんも。またダンジョンを一緒できて嬉しいわ」
「俺もですタバサ先生! 今日もよろしくお願いいたします!」
「うふふ」
「? タバサ先生、よろしくお願いします。また一緒にダンジョンに潜れて私たちも嬉しく思っているの」
「私たちもよ。でもお手伝いしてもらうのは私たちの方かもしれないのだから、こちらこそ〈エデン〉の協力を得られてとてもありがたいわ。今日からよろしくね」
まず挨拶したのは、元〈エデン〉メンバーの1人、タバサ先生だ!
すでに先生方の中でも主要人物となりつつあるタバサ先生は、今回〈攻略先生委員会〉の初代隊長を務めることになったのだ!
最初聞いたときは無茶苦茶びっくりしたよ!
どうやら〈テンプルセイバー〉を実質1人で支えていた実績などが評価されたらしい。あと、元〈エデン〉のメンバーということで、〈エデン〉と先生、ひいては学園との結びつきを強化したい考えがある模様だ。今後も〈エデン〉と先生方が長い付き合いになりそうなのは向こうも察している、ということだろうか? うむうむ。
ちなみに副隊長は元〈千剣フラカル〉のサブマスターだったキリちゃん先生だ。
そこはカノン先生じゃないんだ!? と驚いた記憶がある。
キリちゃん先生曰く、カノン先生はこういう誰かを支える仕事はあまり向いていないのだそうだ。学生時代はキリちゃん先生がカノン先生を立てていたからあの順番だったが、〈攻略先生委員会〉ではタバサ先生を支えるのはキリちゃん先生になるとのことである。
カノン先生はのほほんとしたものだ。キリちゃん先生を取られても問題は無いらしい。
「キリちゃん先生もよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく、ゼフィルス君、シエラ。今日から数日間、共に調査する仲間だ。何か分からないことや困ったことがあればすぐに頼ってほしい。〈エデン〉には期待しているからね」
「期待に応えられるよう全力を尽くすわ」
キリちゃん先生は以前から姉のフィリス先生を助けることに慣れていたらしく、サブマスターとしてカノン先生を支えたりもしていたため、誰かの補佐を得意としていることが決め手で副隊長になったのだとか。
なお、もう1人、元〈キングアブソリュート〉のソトナ先生も候補に挙っていたのだが、まだ攻略ダンジョンが足りず上級中位ダンジョンに潜れないことから副隊長を辞退している。
2人への挨拶が終わったのでシエラと次へ向かおうとすると、なぜかラナたちに取り囲まれた。あれ?
「なんだか、タバサ先生とはずいぶん仲が良くなかったゼフィルス?」
「それ私も感じたわ! ゼフィルス、何をしたのよ」
「ご主人様と話している時のタバサ先生は、とても嬉しそうだったわ!」
「教官?」
問い詰められる俺。いったいなぜ?
なぜか斜め方向4箇所にシエラ、ラナ、エリサ、フィナが居てガッチリ俺を包囲しているのはどうしてだろう?
おかしいな。俺は何も疚しいことはしていないというのに。
「気のせいさ!」
「そんな言葉で片付けられるはずないでしょ。あの先生たちと行なった強化合宿ね。油断していたわ」
「きっとあそこでタバサ先生がゼフィルスと急接近していたのよ」
「これは聞き出さなくちゃいけないわ」
「教官、逃げられませんよ?」
え?
ふとあの強化合宿を思い出す。
タバサ先生との思い出? なんかよしよしと頭を撫でてもらったり、相合い傘したり、後ろから目隠し状態で引っ張られたりした幸せな記憶が鮮明に残っている。
タバサ先生、優しかったなぁ。
でもそれをストレートに言うと火に油をドバッと注ぎ込むような気がするのはなぜだろう?
うん。秘密にしておこう。
「それよりも次は〈救護委員会〉へ挨拶だ。もう時間も迫ってる? 急がないと」
「……いいわ。でも帰ったらじっくり聞かせてね?」
「き、聞かせるほどのことなんてないさ?」
「…………」
シエラのジト目だ! 至近距離のジト目!
くぅ、テンションが上がりそう! 頑張って抑えなければ。
それから俺たちは〈救護委員会〉のシグマ大隊長やラムダと挨拶を交わし、続いて〈ハンター委員会〉のアーロン先輩たちともガッチリ固いハンドシェイクを交わし合った。
未知のダンジョンの調査に学生を参加させるのはどうか、みたいな意見もあったようだが、そんなのは建前で俺たちが参加している時点で崩れ去っている。同級生のラムダやミュー、リャアナたちもちゃんと今日の参加者に入っていた。こっちにも軽く挨拶したりラムダとはハイタッチしたりして盛り上がる。
そして次、実はこの公式ギルドに所属していない参加メンバーが1人いる。
そちらは自ら俺たちの方へ挨拶に来た。
「おはようゼフィルス君。今日はよろしくお願いするわね」
「ユミキ先輩! こちらこそよろしくお願いいたします!」
やってきたのは昨年度の〈調査課〉トップ。現在は校内ニュース〈学園の鳥〉に所属するエリートさん。ユミキ先輩だ。
学園には所属していない唯一のメンバーではあるが、その職業【フリーダムメビウス】が非常に重要ということで学園がユミキ先輩に依頼した経緯があった。
なんとユミキ先輩はここ2ヶ月ほど先生方や〈救護委員会〉の方々と共にダンジョンに潜っており、すでに〈氷ダン〉も攻略済みだというのだから素晴らしい。
調査団に調査課の元トップとか納得しかないな。
ユミキ先輩とも握手を交わす。
「カイリも今日はよろしくね」
「ユミキ姉が居るなら心強いよ~」
そうそう、ユミキ先輩が挨拶に来たので妹のカイリを呼んでいた。
2人とも手を振り合うくらいで挨拶を済ませる。
そうして挨拶が終わりしばらくそれぞれで談笑していると、だいぶ〈上中ダン〉の周りに集まる学生が増えてきた。
学園長も足を運んできたのでそちらとも挨拶を交わす。
実は今日行なうのは――解放式。
もちろん解放するのは〈ダンジョン門・上級中伝〉である。
今まで公式上、開かれたことの無かったダンジョン門を解放するということで式典が催された形だ。
時間になったため、学園長が設置された壇上へと進み、俺たちはダンジョン門の左右に分かれて立つ。おお~、凄い人集りだ。
「おっほん、ここに集まってくれた諸君、わしはこの学園都市を治める学園長―――ヴァンダムド・ファグナーである!」
ついに学園長の演説が始まり式典が開始された。
学園長がいつになく熱く演説しているが、長いので省略。
要は「これより上級中位ダンジョンの調査に向かう、これはすごいことだ」という感じだろう。ふっふっふ、そう褒めるな学園長。何しろ上級中位ダンジョンどころか、今後は上級上位ダンジョンや最上級ダンジョンまで攻略する予定だからな!
「――っ!?」
俺が心の中で宣言するとなぜか話の途中でビクッとして言葉につまる学園長。どうしたのだろう?
「こほん、ではこれより――〈ダンジョン門・上級中伝〉の解放を行なう!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
学園長がそう言うと、運ばれてきたのは5本の鍵と1つの杖。
それを式典に参加していた幹部級の先生方が受け取り、各自配置に付く。
どうやら同時に開けないといけないらしい。
杖を持つのは学園長だ。
そして学園長が杖を真上に掲げ――宣言した。
「ダンジョン門――解放じゃ!!」
瞬間5箇所でガチャリと音がする。
学園長の杖にも光が集まって――あれってただの〈花火杖〉だよな?
そして学園長の杖から真上に火炎弾が放たれた。それも複数。
空中でそれがパンパンいいながら花開くと、ダンジョン門が開き出す。
学園長が持っていた杖って演出用かよ!
うん。演出は大事だよね!
「「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」」
「「「「開かずの門が開いたーーーーー!」」」」
おかげで周囲は大興奮だ。
あ、あの人は俺にスクショの使い方を教えてくれたカメラマンさん!
むっちゃ激写している! それほど世紀の瞬間、ということなのかもしれない。
しかも学園長が放った花火、多分写真に収まってない。つまり、後世でこのスクショを見た人は学園長が杖を振り上げて門を開けているかのように見えるわけで。おっとこれ以上はいけない!
周囲は大変な盛り上がりを見せた。
それもそのはず。
学園が創立してからここの門を公式に解放したというのは初めてのこと。
歴史の立会人だもの、そりゃあ大興奮だろう。
そしてその盛り上がりを利用して学園長はさらに宣言する。
「学園はこれより上級中位ダンジョンの調査を行なう! そのためのスペシャリストとして、先生の中でも選りすぐりのLVを持った者が集まった、新たな公式ギルドを発足することに決定した! その名は――〈攻略先生委員会〉じゃ!!」
「「「「「わああああああああああ!!」」」」」
さらに新しい公式ギルドの発足も公開。
タバサ先生やキリちゃん先生を始めとする先生方が、新しいエンブレムが描かれたフラッグをはためかせながら前へ出る!
すると場はさらに盛り上がった。
これ以上ないほどの発表だな。ダンジョン門の解放に公式ギルドの発表を合わせてきたか。
タバサ先生も優しく微笑んで手を振ってらっしゃる。俺も思わず観客たちに紛れて手を振り返してしまいたくなった。
―――この日学園は再び震撼した。
こうして学園は上級中位ダンジョンの大規模な調査へと動き出したのだ。




