#1285 上級職ランクアップ! キキョウ編!
アリスの〈上級転職〉が終われば次はキキョウの番だ!
「次はキキョウの番だね」
「う、うん。しっかりとアリスを守れる職業に就いてくるからね」
アリスの屈託のない笑顔に思わず表情が緩みそうになったキキョウがブンブンと顔を振って引き締め、なぜか手をファイティングポーズにも似た位置に着けて、覚悟を決めた様子で俺の方へ向かってきた。
まさか、これは下手なことを言えばロリパンチが繰り出されるやつか!?
一瞬ボケるか真面目にやるかで葛藤したのは秘密。
うん。真面目にやろう!
「よろしくお願いします。ゼフィルス先輩」
「おう! 俺に任せておけ!」
ファイティングポーズを取りながら真剣な表情で見上げてくるキキョウ。
すでにリーチの圏内だ。俺、リーチを掛けられている。
くっ、ついボケてしまいたくなる心境が暴れそうだ! 我慢我慢。
ふう落ち着いた。
「こほん。キキョウはこのままタンクを目指して突き進む、ということでいいんだよな?」
「はい。アリスももちろんですが、今は〈エデン〉でお世話になったみなさんも守りたいと思っています」
「……了解だ」
ぐほぁっ、胸に何か清らかなものが刺さった気がした。いや、きっと気のせいのはずだ!
ふう。
キキョウはタンク、【神社の守護者】だ。
その実力もこの2ヶ月、シエラやフィナなど他のタンクから教えてもらうことでだいぶ伸びてきて、今では的確に対処できることも増えてきている。まだ初見のボス相手では難しいところもあるが、シエラの話では才能もあるそうだ。
本人のやる気もあって、キキョウにはこのままタンクとしてやっていってもらおう。
しかし、懸念もある。
こんなピュアなキキョウをこの職業に就かせてしまって本当にいいのか? という懸念だ。
それが俺を悩ませる。
「……何か悩みがあるのですかゼフィルス先輩? 私、なんでもやりますよ?」
なんでもやる……!
くっ、キキョウの思いを無駄にしたくはない。
よし、俺も覚悟を決めよう。とりあえずやってみるだけやってみよう。
「……俺はキキョウに提案したい職業があるんだ」
「はい。伺います」
腕を組みながら少し難しそうな表情の俺に、キキョウも何かを感じ取ったのかファイティングポーズをやめ、姿勢を正した。
「俺がキキョウに提案したいのは「狐人」【大罪】系職業――【嫉妬】だ!」
「! 【嫉妬】ですか? あの7大罪職の1つの?」
俺の提案がやはり予想外だったのかキキョウがぱちくりと目を瞬かせる。
「ああ。だが、今は〈百鬼夜行〉に1人いるはずなんだよな~。だからなんでこれがここにあるのか、という疑問もある」
俺は1つ頷いて、【嫉妬】の専用装備である〈羨望取消書〉を取り出した。
―――【嫉妬】。
今言ったとおり「狐人」の【大罪】系職業であり、その能力は〈封印〉と〈コピー〉。
相手のスキルや魔法を封印することはもちろん、放ってきた魔法と寸分違わない魔法をぶっ放すことも可能で、封印したスキルをコピーして使用することすら出来てしまう驚異の職業だ。まさに大罪。
さらに〈呪い〉や〈即死〉にも適性が高く、うっかり強力な技を使ったら反射的に〈即死〉させられたり、〈即死〉をレジストしたと思ったら〈呪い〉が掛かっていたりと、まあとんでもないタンクなのだ。そんなキキョウ、想像出来ないよ!
正直封印だけでもめちゃくちゃ強い。だってあれ、ユニークスキルですらキャンセルさせるからな。俺の『完全勇者』の無敵モードすらキャンセルできると言えばどれだけとんでもないものかわかるだろうか?
勇者の無敵を取り消してしまえるなんてなんて罪深いんだ!
しかし、1点だけ腑に落ちない部分がある。
それが――職業制限だ。
今まで【獣王】の時にも1度あったのを覚えているだろうか?
学園内で【獣王】に就いている者がいるのなら、他の「獣人」は【獣王】に就けないというとんでもない制限である。
実はこれ、【大罪】にも言えるのだ。
ゲーム時代、【大罪】職というのは制限があり、ポンポン増やせなかったのである。
とはいえ【獣王】とは少し違い、要は〈学園のギルドに【大罪】の専用武器がある場合、同名の専用武器がドロップしなくなる〉、そして〈ギルドに【大罪】持ちが居る場合、同名の【大罪】持ちに〈上級転職〉することができない〉という制限だった。
そんなわけでゲームでは専用武器が必ず学園のギルドに1つまでしか存在しないため、【大罪】職を増やせなかったのだ。
ただこれには裏技(?)があって、実は専用武器は〈決闘戦〉に賭けてもらうことが可能だった。
【大罪】職を持つギルドにその専用武器を賭けて〈決闘戦〉を挑み、見事に勝利すれば学園内に2人目の同名の【大罪】職を生み出すことは出来たのだ。
あれは熱かったなぁ。
必ず敵の【大罪】とバトルしなくてはいけなかったのでなかなかにハードルが高く面白かった。
【大罪】を倒せば、【大罪】を仲間にできる、そんなイベントみたいなものだったんだ。
なお、ドロップした【大罪】専用武器は学園に売ったりすると、同名の装備がなぜかドロップするようになるぞ。不思議だ。
このことからも分かるように、実は「獣人」系には職業制限があるのだ。
王族貴族系は〈人数制限〉。ギルドに入る人数に制限が掛かる。
獣人系は〈職業制限〉。ギルドに入る人数に制限はないが、職業の方に制限がある。
こんな感じで釣り合いをとっていたわけだ。
そして問題なのがSランクギルド〈百鬼夜行〉だ。
確かここって【嫉妬】持ちがいたはず。
なのに、【嫉妬】の専用装備〈羨望取消書〉がドロップしちゃったのだ。
むっちゃびっくりしたよ。思わず2度見どころか5度見したもん。
あいぇ!? 【嫉妬】2人目出来ますか!? まだ〈決闘戦〉してないよ!?
そんな心境だった。どうせなら〈決闘戦〉をしたかったのは秘密。
あれ? ということは〈百鬼夜行〉は〈羨望取消書〉を持っていないことになるのだが……。しかし【嫉妬】さんは現在のギルドマスターだとハクから聞いている。
やはり貴族の制限が無くなったように2つ目の専用装備はドロップするんだなぁと納得。
とはいえ【獣王】のように、ギルド内に同名の【大罪】職を増やすことは、どうもできないっぽい。2つあった制限のうち1つが解除されている。そんな感じのようだ。
まあ、【嫉妬】に〈上級転職〉できるならいいんだよ。
だから後はキキョウを本当に【嫉妬】に就かせていいのか、という点だけだな。
「よくわかりませんが、ゼフィルス先輩は私に【嫉妬】になってほしいんですよね? ならなります! これで強くなってみなさんを守れるのなら!」
「ぐっ!?」
俺の胸に本日何度目か分からない清らかな何かが刺さった気がした。
キキョウが、キキョウが眩しすぎる!
思わず抱きしめてクルクル躍りたくなってしまったぞ。ロリパンチ来るかな?
はっ!? いかんいかん。
「了解だ。なら、キキョウには【大罪】系の職業、【嫉妬】についてほしい!」
「はい!」
そう言ってくれたキキョウにちょっと心が浄化されながら、俺はまず〈天罪の宝玉〉を渡す。
ちょっと震える手でそれを受け取り使用するキキョウを、俺とアリスは揃って見守った。
アリスの「キキョウ~綺麗だよ~」という言葉にも浄化の波動を感じる!
おかしい、なぜ俺は浄化されそうになっているのだ? 俺の心はこんなにも清らかなのに!
でもそれは置いといて、〈宝玉〉を取り込んだキキョウに俺は一冊の本を渡す。
「続いてこれだ。【嫉妬】に就くために必須の専用武器〈羨望取消書〉だ」
「は、はい! いただきます」
学生服姿だったキキョウは本を受け取ると早速装備する。
すると本は開き、宙に浮いてキキョウの周りを泳ぎ始めた。本当、なんか泳ぐように動き回るのだ。
「本が浮いてます?」
「ほわ! 不思議~!」
「その本がヤバいんだけどな……」
突撃してくるし。これ、自在本なんだよ。シエラの自在盾と同じ感じで敵に突撃し、その強烈な本の角でスキル発動中にキャンセルさせてくるんだ。
くっ、やめろ! 追ってくるな!?
はっ!? 少しゲーム時代を思い出してしまったぜ。
「後は〈上級転職チケット〉で全部揃ったはずだ。キキョウ、〈竜の像〉へタッチしてみてくれ」
「はい!」
俺から〈上級転職チケット〉を受け取ったキキョウが思い切って〈竜の像〉へタッチすると、そこにはしっかり【嫉妬】の職業が載っていた。
「おっしゃ!」
やっぱり専用装備があれば〈上級転職〉はできるらしい。
いいね!
「キキョウ、間違えないようにな?」
「はい!」
俺はスクショを構える。キキョウは【嫉妬】にタッチする。
パシャパシャ!!
【大罪】職が生まれる瞬間を激写――!!
そして来る覚醒の光。
「わ、わわ」
「激写ー!」
「激写だよー!」
俺の隣のアリスのテンションも高い!
ふわふわと覚醒の光に包まれて浮いているキキョウは、神社を守る本物の神の化身かと見間違えるほど神々しい。これは絶対にスクショに残さなければ!!
俺はアリスと合わせ、マジで最高記録を更新したんじゃないかというほど激写した。
「もう、ゼフィルス先輩、アリス。その、恥ずかしいです」
「今の良い! 凄く良い!」
「良いってキキョウ~」
「もう!」
照れ隠しか、尻尾を手に持って顔を隠そうとするキキョウに待ったを掛けながら、でもやっぱり尻尾で顔を隠したキキョウもスクショして、とうとう覚醒の光は終わってしまう。
「わ、なんか不思議な体験でした」
「そうだろうそうだろう。キキョウ、〈上級転職〉おめでとう」
「キキョウおめでとう~」
「あ、ありがとうございます!」
こうしてキキョウは【嫉妬】に就いたのだった。




