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#140 狂乱の宴から一夜明け、初ダンの様子はいかに




「さあ! 今日もダンジョン攻略よ!」


「おうさ! ダンジョン攻略行ってみよー!」


「お、おー、おー!」


 マリー先輩の店を出て初ダンへ向かう。

 ラナと俺のテンションが高いのはいつもの事だ。

 頑張って付いてこようとしてくれるハンナはマジ良い子。


「ハンナは無理に付き合おうとしなくてもいいのよ?」


「い、いえ。私もやりたいですから。まだ不慣れですけど、追いついてみせます!」


「向かう方向を間違えていると思うのだけど」


 シエラが片手を頬に当てて困ったようにハンナを見る。


「私たちもいつかあの中に入るのでしょうか?」


「困ったわね。ラナ殿下が中心にいるのが(なお)のこと困ったわ。エステルはあれ注意しなくても良いのかしら?」


「はい。ラナ様は〈エデン〉に入られてとても笑顔になられました。その笑顔が続くのならば、少しくらい(しば)りを(ゆる)めてもよろしいかと思います。今は何かされそうならゼフィルス殿が止めてくださいますから」


「…そう、ね。護衛として今の言葉はいいのかしらとも思うけれど。ゼフィルスがいるから。あの人本当に面倒見が良いわよね。自分の好きな事だけを楽しんでいるように見えてちゃんと他の人たちにも手を差し伸べている。ラナ殿下もユーリ王太子殿下が王宮に居た頃のように明るくなられて…。……でも、ラナ殿下もゼフィルスから少なくない影響を受けているように思えるけどそれは良いのかしら?」


「よろしいではないですか。今のラナ様も素敵ですよ」


「あなたも大概ラナ殿下が好きね」


 後ろの方でシエラとエステルが何やら話しているがよく聞き取れない。


「おーい。シエラ、エステル、どうかしたか?」


「…なんでも無いわ」


 ふむ。何か言いたそうな視線を受けた気がしたのだが。まあいい。

 それよりも問題は、初ダンだ。


「目的地に到着した。今から俺が潜入する。各員、突入は俺の合図を待て」


「よく分からないけど分かったわ。健闘を祈るわね!」


「え、何? ゼフィルス君?」


 よく分かってなさそうなメンバーにその場で待機を命じ、俺だけ初ダンの門にサッと身を寄せる。少し顔を覗かせれば中が見える位置だ。


 気分は突入部隊隊員。

 昨日の今日だ。まだ初ダンの状態がどうなっているかも分からない。

 もしかしたらスペシャルハイになった研究員たちがそのテンションのまま徹夜してスペシャルハイの向こう側に覚醒している可能性も()きにしも(あら)ず。

 何しろ昨日はビフォーとアフターであれほど出来上がってしまったのだ。

 一夜明けたらどれほど出来上がってしまうのか、もう見当もつかない。


 緊張にたらりと汗が流れる。

 リアル〈ダン活〉に来てからここまで緊張したのは、初めてかも知れない。


「すー、はー。——いざ!」


 深呼吸して気持ちを落ち着かせ、突入した。


 そこで見たものは。



「ユニークスキル復唱!! 『筋肉こそ最強。他はいらねぇ』!!」


「「「「「『筋肉こそ最強。他はいらねぇ』!!」」」」」



 なんか変な物見た。


 おかしいな。想像していたのと違う。


 いつの間に白衣の研究員たちは筋肉にシフトしたんだ? 想像の斜め上(どころ)の騒ぎじゃないぞ。


「いいか! お前たちはここまで、辛く苦しい訓練を重ねてきた! 「筋肉は幽霊(ゴースト)に無力」、そんな事を言われるのも今日までだ! お前たちの鍛え上げられた筋肉を信じろ! たかが〈筋肉殺し〉、たとえ殺されても不死鳥のごとく(よみがえ)る筋肉を見せてやれ!」


「「「「「イエス・コマンダー!!」」」」」


 (よみがえ)る筋肉ってなんだ?


 門から入って見たものはダビデフ教官に染められている真っ最中の一年生5人。

 たしか〈マッチョーズ〉とかいう【筋肉戦士】のみで構成された、正気かと(うたが)うギルドだったはずだ。

 とある筋からの情報によれば数日前に〈デブブ〉で全滅して以来、ずっとトレーニングに明け暮れレベリングをしていたらしいが、おそらく再戦をしに行くところなのだろう。…本当に正気か? 魔法職入れろよ。


 全員の熱が凄い。身体から陽炎が見えるようだ。物理的に暑苦しい。


 見なかった事に出来ないだろうか?


 とりあえず、外で待っている皆の下へ戻る。


「あ、帰ってきたわ! ねぇゼフィルス、中はどうだったの? あのお祭りはまだやっていたかしら?」


「ああ。多分終わってたぜ…」


「多分って何よ!」


 いや、そこまで見る余裕が無かったっつうか…。

 うん。筋肉の衝撃に気を取られすぎて初ダンの中を確認する事を忘れていた。


 でも視界に掠りもしていなかったし、あのイッちゃった声も聞こえなかったから、多分終わっているはずだ。

 俺は役目を果たしたんだ。


「もう、仕方ないわね。今度は私が見てきてあげるわ!」


「あ」


 やや衝撃に動揺していたところを突かれ、ラナが初ダンに入ってしまった。

 あ、ヤバい。筋肉に汚染する前に助け出さないと!


「何よ。何もやっていないじゃない!」


 と中に入るとプリプリ怒ったラナに出迎えられた。

 辺りを見渡してみるが、先ほどの筋肉たちは見えない。

 あ、ダビデフ教官を発見。他の筋肉は居ない模様。


 どうやらダンジョンに入った様子だ。良かった。


 改めて初ダンを見渡すと、昨日の光景が嘘のように片付けられていた。ホッと息を()く。誰だか知らないがグッジョブだと言いたい。よくあの宴を終わらせてくれた。


 普段の静けさを取り戻した初ダンで気を取り直し、今日挑もうと思っていた初級上位ダンジョンの1つへ皆で向かう事にした。


 後で知ったのだが。

 学園インフォメーションによれば、あまりに狂っちゃった研究員の画像を見た学園長が〈生徒会〉を連れて直接乗り込み、あの宴を沈静化させたらしい。

 学園のイメージに傷が付くというのが主な理由だそうだ。やっぱまずかったかあの報道。





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― 新着の感想 ―
[一言] 筋肉の宴については、学園長や〈生徒会〉が突っ込まなかったのかぁ。 今までが筋肉戦士が優良職扱いだったため、 感覚が麻痺しているに違いない(笑)
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