#1276 プランB発動!新メンバーランクアップは近い
それからマリアにも聞いたところ。
「専属で学園の後ろ盾で臨時出張店!? 是非やらせてください!」
と良い返事が返ってきた。
マリアがやりたいと言うのなら、応援してあげるのが仲間というものだ。
「頑張ってこいよ」
「はい! ゼフィルスさん、ありがとうございます!」
丁度中級中位ダンジョンの攻略者の証を3つ集め終わったところだったので、これでマリアは中級ダンジョンまでならどこでも行ける。
俺は感動とやる気に満ちあふれたマリアに手を振って見送った。マリアは最後までお礼の言葉を口にしていたよ。
臨時出張店の初代店長か。頑張ってほしいな!
思わぬ結果になってしまったが、学園をステップアップさせるとんでもない事業の始まりになってしまったな。
「というわけで、アルテにはもう上級職になってもらおうと思う!」
「なにが、というわけなのよ」
「え!? 私、もう上級職になるの!? なっていいのですか!?」
「なっていいのです」
「わぁ!」
ギルドハウスにて、俺はアルテに向かって1枚の〈上級転職チケット〉をペラリと見せてそう言った。
側に居るシエラの目がどんどんジト目になっていくよ~。
でも仕方なかった。俺はもう少しジト目を味わいたい欲求を堪えて説明する。
「マリアが新しい臨時出張店をメインに活躍することになったのは知っていると思う」
「今学園はその話で持ちきりね」
「あの話にはびっくりしましたよ~」
「アルテ、こんなことでびっくりしていたら〈エデン〉のレギュラーと肩を並べられないわよ」
「そうなのです!?」
シエラのクールな言葉に目を見開いて驚愕するアルテ。
なぜかそれをシエラが少し羨ましそうな、懐かしそうな目で見ていた。まるで「私もこんな純粋な時代があったわね」とでも言いそうな視線だった。
シエラにいったい何があったというんだ!?(←原因)
「こほん! まあそんなわけで、新メンバーの運搬役を増やす必要が出てきたのだが、アルテのLVがそろそろカンストするんだから、いっそのこと〈イブキ〉に乗ってもらえばいいという考えだ」
「なるほどね」
俺の提案にシエラが納得の表情で頷いた。
現在新メンバーはトモヨを入れて13人。
〈からくり馬車〉で運べる最大乗車人数は8人。
しかし〈イブキ〉なら16人も乗せられるのだ!
〈イブキ〉は上級職じゃないと操縦ができないので、ならいっそアルテを上級職にしてしまえばいいのでは? というのがプランBだな。
次点でミジュを上級職にして〈クマライダー・バワー〉を渡すというプランCもあったが、ミジュたちのパーティはLVカンストまでもう少し掛かりそうなのと、〈クマライダー・バワー〉が現在〈エデン〉に無いため、中級中位ダンジョンで周回しまくりもうすぐLVがカンストしそうなアルテに〈イブキ〉を渡すプランBを採用したわけだ。
「でも待って、〈イブキ〉は今3台しかないわよね? 新しく作るにしても今は【クラフト】系のギルドは軒並みてんやわんや状態だって聞くわよ? とても新しい〈イブキ〉の作製はできないのではないかしら?」
「ああ。だから一先ずはロゼッタ号をアルテに使ってもらおうと考えている」
「……もしかしてロゼッタには〈ブオール〉を使ってもらうの?」
「だな。それにランク10ダンジョンはあれだ。〈乗り物〉は必要無いからな」
「……なるほどね」
「え? え? なんですか、どういうことですか?」
シエラと俺の会話についてこられていないアルテがオロオロしながら俺とシエラを交互に見ていた。
うむ、なんだかちょっと可愛い。
今のアルテ、大人の会話に入れないでも入りたい妹という感じでちょっと良かった、と思ったのは内緒にしておこう。
「説明するとね。〈エデン〉には上級戦車が2種類4台があるの。〈イブキ〉が3台、〈ブオール〉が1台ね。そのうち〈ブオール〉を寝かせている状態なのよ」
「〈ブオール〉はロゼッタの職業じゃないとその真価を発揮できないからな。誰かに貸すのは得策じゃない。むしろロゼッタに〈ブオール〉を使ってもらって余った〈イブキ〉1台をアルテに使ってもらおうという話だな」
「〈エデン〉が使っているあの最強の〈イブキ〉を、私も運転していいのですか!?」
「もちろんだ。ただ、しっかり練習はしてもらうぞ。エステル曰く〈からくり馬車〉時代とは結構操作が違うらしいからな」
「もちろんです!」
また、トモヨが新メンバー組に移動したことでレギュラーメンバーの数が32人になり、〈イブキ〉2台でも運用が可能になった、という理由もある。
どっちみち〈イブキ〉が1台余っている状態なので、なら新メンバー組が使えば良いじゃない、というわけだな。
まるで新しい玩具をもらったかのようにわーいと喜ぶアルテ。
まだ案の段階なので決定じゃないのだが、これは水をさせないな。
「あ、そういえばランク10では〈乗り物〉を使えないってどういうことですか?」
そこでピタッと止まったアルテがもう1つありましたと言わんばかりに振り向きながら聞いてきた。
「それか。文字通り、上級下位のランク10は〈乗り物〉で爆走できないダンジョンなんだ」
「結構有名なダンジョンなのだけど、まだ1年生だものね。知らないのも無理ないわ」
「あれ? ランク10ってまだ〈エデン〉でも攻略していないダンジョンですよね? もしかして〈乗り物〉に乗れないから〈エデン〉でも攻略できないダンジョン、とかなのですか!?」
「いいや? 単純に今は新メンバーの育成にリソース振っているから攻略していないだけでいつでも攻略できるぞ?」
「いつでもってあなた。あそこは普通のダンジョンとは何もかも違いすぎるのに加え、ランク10、つまり上級中位ダンジョンに一番近いダンジョンと言われるような難易度なのだけど?」
「それなぁ。実際は中級上位ダンジョンのランク10の延長みたいなダンジョンだからそんなに難しくは無いはずなんだが」
「え、え? 待ってください! 私にも詳しく聞かせてくださいー」
あ、またアルテを置いてきぼりにしてしまった。
すると「待ってお兄ちゃーん」とでも言わんばかりに後ろを追いかけてくる妹を幻視してしまう。なぜだろう? ちょっとグッときたのは内緒。
「ゼフィルス?」
「こほんこほん! 説明するとだ。アルテももうすぐ経験してもらうが、中級上位ダンジョンと上級下位ダンジョンのランク10は似ていてな。要は広大な迷宮のようなダンジョンではなく、シンプルなバトルフィールド型のダンジョンなんだ。モンスターを全部倒せば階層の扉は開かれて次の階層へ向かうことができる」
「それを繰り返してダンジョンのモンスター全てを駆逐して攻略するのがランク10なのよ。倒せないほどの強敵が立ちはだかったらもう先には進めないわね」
他のダンジョンでは基本的にボス相手でも逃走は可能だ。最奥ボス以外はな。
モンスターからもノンエンカウントで次々進み攻略することも可能で、唯一倒さなければいけないのはダンジョンを守る最奥ボスのみ。
なのだが、このランク10だけは全モンスターを撃破しないと次の階層にいけないので、モンスター戦を強要されるダンジョンなのだ。
バトルフィールド型なので〈乗り物〉で移動しても次の階層へはいけないし、というか次の階層門自体モンスターを全部倒さないと現れない。攻略には時間と力量が要るというわけだな。
ちなみに学園もこのシステムのことは把握している。公式記録では最高到達階層は10層らしいが、中級上位ダンジョンでも同じようなものがあるので、これもきっと同じ類いのダンジョンだろうと結論付けてから長い間放置されてきたのである。
なぜ放置されているのか? それは中級上位のランク10にはなかった上級の環境が厄介だからだ。
上級ということでもちろんギミックが追加され、なかなかに戦いにくいダンジョンになっている。
ただでさえ上級の敵がわんさか出てきてヤバいのに、環境で戦い難くされているのだ。放置されているというのも分かるというものだろう。
だが救済アイテムで環境を安定させ、五段階目ツリーを開放し、すでにLV34に至った俺たちならば造作もない。
だがモンスターとずっと戦わなくてはいけないので問題は時間が掛かりまくることだ。なので纏まった時間の時に攻略したいのだが、今はちょっとやるべきことが多い。
というわけで上級中位が解放されるまでの間、新メンバーの育成に力を入れているわけである。
そんなことをまとめて告げる。
「そうだったんですね! ということは上級下位ダンジョンを総なめにする日も!?」
「ふっ、遠くはないかもしれないな」
「おお~!」
なんかアルテが振ってきたのでかっこいいポーズを決めつつ乗ってしまったぞ。
とても気分が良い。
シエラはそんな俺をジト目で見つめていた。
テンション上がるぜ!
新メンバーが加入してもうすぐ2ヶ月。
非常に早いテンポでレベルを上げ、中級上位ダンジョンの入ダン条件を達成している新メンバーが完成していた。
ふふふ、後は周回でカンストまで至れば即〈上級転職〉だ!
上級ダンジョンに迎え入れる日も近い。このままなら夏休みまでには全員達成出来そうな勢いだ。
ならば先にアルテを優先してしまってもいいだろう。
上級ダンジョンの攻略に〈イブキ〉は必要なのだ!
「というわけだアルテ、準備を整えておいてくれ!」
「あいさー!」
それから数日後、6月も後半に入った頃、アルテたちはLV75。カンストに至っていた。




