#1274 臨時出張店〈マッシュンエデン店〉オープン!
今日のメンバーを紹介しよう。
トモヨのパーティである、ノーア、クラリス、アリス、キキョウ、トモヨに加えて、今日は俺とマリア、ついでに見てみたいという立候補があってヴァンたちのパーティ4人も参加している。
完全に新メンバー組のメンツだな。何しろ今日は試運転。
攻略じゃ無いので俺以外のレギュラーメンバーは参加していない形だ。
〈マッシュルームキャラバンⅡ改〉の運転席は2台にそれぞれ1つずつ、反対方向に向けて設置されている。乗車人数は1台につき7人、2台で14人まで乗れる。連結部分はまるで電車のように走行中でも行き来が可能という優れものだ。
俺もリアル〈ダン活〉に来て初めて知ったのだが、運転方法はゲームだった。
ハンドルのようなコントローラーが付いていて、エンジンも無いのにボタンを押すと動きます。不思議!
「では行きますね。出発進行です!」
「わ、動いた!」
「本当にマリアちゃんが操縦してるよ!」
マリアの掛け声の後〈マッシュルームキャラバンⅡ改〉が発進すると、アリスが喜びながら倒れてきたので捕まえる。
あ、あぶねぇ……。おかしいな〈乗り物〉って慣性とかかなり緩和されているはずなのに。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「……気をつけろよ~」
……まあ、いっか。
はしゃぐアリスを解放し、とりあえず気をつけるように促しておいた。
「?? あの……揺れとかほとんど感じないのだけど??」
「気にするなクイナダ。今のはラッキー幼女現象だ」
「ラッキ? え? あと、これが本校で有名な〈馬車〉だよね? え、商人職のマリアさんが本当に操縦してる??」
アリスを見て、窓の外を見て、目を瞬かせるクイナダのリアクションが最高です。
留学生のクイナダは分校の空気に染まっているせいか、まだまだ本校の空気に染まらず新鮮な反応をしてくれる貴重な存在だ。
アルテやエステル、アイギスのキャリーによって擦れたはずのクイナダだったが、改めて商人であるマリアの運転に驚愕を隠せないらしかった。
サーシャやカグヤは擦れて「すごいね」くらいの反応しかしなくなっちまったからな。ありがたや。
「!? なんか今ぞくってきたんだけど??」
おっといけない。俺の純粋なお祈りがクイナダに届いてしまったようだ。俺のお祈り力もずいぶん上がってしまったな。しかし体を抱くような反応しているのはなぜだろう?
「モンスターにもほとんど気付かれてないね」
「商人のスキルには『安全通行』もありますからね。それにこの〈マッシュン〉も『キャラバン』スキルを持っていて隠密性は格段に上がっていますから」
「へ~。あと〈マッシュン〉ってこの〈馬車〉のこと?」
「はい! 〈マッシュルームキャラバンⅡ改〉なので、〈マッシュン〉です!」
「マッシュ」が占領しすぎー! キャラバンは「ン」しか入ってないじゃん!
そう思ったが、トモヨと仲良く談笑しているところに水を差すのも無粋かなと思ってスルーした。
「〈キャラバン〉は〈ン〉しか入ってないですの!?」
「〈マッシュ〉占領しすぎて笑う~」
でもサーシャとカグヤにむっちゃウケてた。
「ええ~、良い名前じゃない?」
「お、覚えやすいとは思いますの!」
「〈マッシュン〉、〈マッシュン〉ね。もう覚えたよ~」
でもトモヨから聞かれたら全力で肯定しにいったのはなぜだろう?
トモヨの言葉には逆らわない訓練とかしてる??
「行くのですわ〈マッシュン〉! 敵なんか蹴散らして進むのです!」
あれ、もう〈マッシュン〉が定着してる!?
まあいいや、じゃあ〈マッシュン〉採用で。
「お嬢様、〈マッシュン〉は移動用で、アルテさんの〈からくり馬車〉のように相手を倒して進むものじゃないですよ」
「それでしたら私が先頭で剣を振うのはどうですか? きっと経験値も入りますわよ?」
「なに!? ノーアその話、詳しく語ろうぜ!」
聞き流し役に徹していたらノーアからすんごい話が飛び出して、思わず流した話を連れ戻した。
〈馬車〉は走行中に光にしたモンスターの経験値を貰えない。ドロップも拾えない。
その大きなデメリットがあるからこそ理不尽なまでの運搬力とのバランスが上手くとれているのだ。
しかし、先頭でキャラがモンスターをバッタバッタなぎ倒しながら進めば経験値ももらえるかも? ……リアルならでは方法、これは行けるか!?
そうノーアと盛り上がっていたら。
「盛り上がっているところ失礼しますお嬢様、ゼフィルス様。それは難しいかと」
「ええ? なぜですのクラリス?」
「足場がありません」
「あ、そういえばなかったな」
丸いボディの〈マッシュン〉にはバルコニーどころか突起も無い。
あるのは車輪とキノコ傘だけだ。キノコの傘にぶら下がれば、あるいは?
なんとかできないかととりあえず俺がやってみたところ、経験値は――入らなかった。
そういえば中級じゃ敵のLVが低すぎてそもそも経験値が入ってこないじゃん。
うっかりミス!
「次は私ですわ!」
「おやめくださいお嬢様! 絶対にさせませんよ! 戻って、ほら戻ってく・だ・さ・い!!」
そしてキノコの傘にぶら下がりながらモンスターを斬る案は挫折したのだった。
「無念だ」
「残念ですわ」
「この2人、もしかして組ませたら危険なのではありませんか? こっちはお嬢様だけでも手に余りますのに……シエラ様に相談しなくては」
項垂れる俺たちを見ながら、なぜかクラリスが「じー」と見つめて小声で決意を固めていた。なお、何を言っていたのかは小さくてよく聞き取れなかった。
「あ、エンカウントしてしまいました。護衛さん、お願いします」
「私にまっかせてよマリアちゃん!」
マリアの『安全通行』でもたまにモンスターに気付かれる時もある。
そういうときは護衛の出番だ。マリアは商人だからな。護衛を前提としたスキルも持ち合わせているんだ。
「『護衛料弾みますよ』!」
「滾ってきたー! いくよノーアさん! クラリスさん!」
「任せてくださいまし! トモヨさん、タンクをお任せいたしますわ!」
「お嬢様は1人で突出して行かないでください!」
マリアの『護衛料弾みますよ』は商人を守っている間、味方の能力値をがっつり上げる強化スキルだ。
また、アイテム強化系のスキルも覚えるので爆弾や罠など、身を守るスキルも使うことができる。
〈雷ダン〉で手に入れた〈デンバリさん〉を使えば、例え『電撃耐性』持ちのモンスターでも容易に入ってこられなくなると言えばその強さがわかるだろうか?
スキルを使うと戦闘参加になってしまうため〈『ゲスト』の腕輪〉だと壊れてしまうのがネックなんだが、スキルは使えた方がいいだろう。これが俺たちが現在攻略者の証を集めている理由だな。
「ヴァン? そんなところで固まって何してんだ?」
「…………瞑想を少々」
「なぜ?」
「ノーアさんが戦う姿は、とても直視できませぬであります!」
「お、おうそうか。うん、ガンバレ(迷走してる……)」
1年生で一番大きいと言われるノーアが戦うと、ヴァンが固まった地蔵のようになっていたが、まあ順調に進んだ。
そんなこんなで途中モンスターとエンカウントしながら進むこと2時間後。
「着きましたよゼフィルスさん!」
「見てたぞマリア。すっげぇじゃねぇか! ついに中級ダンジョンの1つも攻略だな!」
「はい!」
「もう2人とも気が早いよ~ゼフィルス君たちがいれば余裕だろうけどさ」
ちなみにここは定番の〈盗鼠の根城ダンジョン〉だ。学生が多く潜るダンジョンで、中級下位の中では比較的難易度の低いダンジョンである。
1年生メンバーはもう中級下位の攻略者の証はゲット出来ているため、ここに来たのはマリアのためだな。このまま中級中位まで行ってもらおう!
最奥の救済場所に〈マッシュン〉で入ると、思いのほか注目を集めてしまったようだ。
ざわざわとざわめきが凄い。
もちろんざわめきまくっているのはダンジョンの最奥にいる2年生たちだ。
一部震えている者もいる。
「な、なんだありゃ?」
「キノコが2つ?」
「動いてたんだけど! 車両なのかあれって!?」
「まさか、〈馬車〉なのでは?」
「あんな馬車があるなんて聞いたことねぇぞ」
「いったい誰の馬車なんだ?」
ふふふ、知りたいか? なら教えてやろう。
俺はマリアに指示を出し、脇に止めてもらうと、それを発動させた。
「!?」
「キノコが開いた!?」
「なんだありゃ!? 店、なのか!?」
「キノコがお店に大変身!?」
「ええええええ!? なんか馬車が止まったと思ったらいきなり色々開いてお店ができたんだけど!」
「こんなことをするギルドに、俺は少し心当たりがある」
「!?」
「き、奇遇だな。俺も心当たりがあるぞ?」
「わ、私も!」
うむうむ。場は温まっているな!
そろそろ主役の登場だ!
「で、出てきたぞ!」
「あ、あれは!?」
多くの学生がなんだなんだと、いきなり登場した馬車に目を白黒させながら注目し、集まって来ている所に、〈エデン〉のメンバーズが下車していく。
すると、周りの反応は劇的だった。
「エ、〈エデン〉だ! 〈エデン〉の新メンバーだああああ!?」
「やっぱりぃぃぃぃぃっ!?」
「1年生! 1年生がもうこんな所までぇぇぇぇぇえええ!?」
「ま、待て、あと1人降りてくる」
「あ、あれは!?」
「ゆ、勇者君キターーーーーー!!」
「やっぱり勇者君よ! 勇者君の馬車だったんだわ!」
「こんなところで会うことがあるなんて!」
「勇者くーん!」
「うおお…………やっぱり予想は間違って無かった」
「ファンの叫びがやべぇ」
「やっぱり〈エデン〉かよ! そうだろうとは思ってたけど!?」
「なんでSランクギルドのギルドマスターがここにいるの!?」
「勇者がキノコから生まれた!?」
満を持して俺たち登場。
ゲリラ的展開をしたというのにダンジョンの最奥はいきなり大きく盛り上がった。
凄く気持ちいい。
そのまま発表に移る。
「みんな聞いてくれ!」
俺がそう叫ぶといきなり静かになった。特に女子。
まるでどこかで訓練でも受けていたかのような速度だったぞ?
しかし動揺も封じ込めて俺は務めて冷静に話し出す。
「実は〈エデン〉は今後、ダンジョンに臨時出張店――〈マッシュンエデン店〉を開くことにした! このキノコ型の馬車が開いていたら〈マッシュンエデン店〉だ。ここではダンジョンの中にもかかわらず好きに買い物ができるぞ! ダンジョンの攻略中、ボス部屋にたどり着いたけどポーションが切れた。なんてときも御安心。ダンジョン内だからちょっとお高くはあるが、ダンジョン内で補給できるようになるのが最大の利点だ!」
「「「「―――うおおおおおおおおおお!?」」」」
俺の話に数瞬事態を飲み込む時間を有した後、叫びは歓声へと変化した。
よっし、掴みは完璧!
新メンバーたちからも羨望の眼差しを感じるぜ。
ここにいた人たちの多くはおそらくボスが突破できず、ここでなんとかボスを突破するための対策を練っている人たちだろう。ボスに挑戦するも、勝てなかった人たちだ。
だからこそ、そんなあなたに良い話。
〈マッシュンエデン店〉で補充ができればボスにだって勝てるかも?
学生は〈救難信号〉を上げるために必ず〈学生手帳〉をダンジョンに持って来ている。
そして〈学生手帳〉にはキャッシュレスが搭載されている。つまり全財産を持ち歩いているということだ。
金はある! なら商売はできる!
うん? ここまで来たのだから絶対攻略して帰りたい?
そうだな~。レンタル品であれば良い武器あるよ? 1戦これくらいでどう?
そんな提案もできたりできなかったり、やっぱりできたりする。
成長すればバフ付きの料理アイテムを売るのも有りだろう。
さてさて、学生たちが求めているのはなんだろう? 実地調査も兼ねた初の商売開始だ!
「これより、臨時出張店〈マッシュンエデン店〉をオープンする! 初回だから特別価格に設定しておいたぜ! みんな、買ってくれよな!」
「「「「「おおおおお!」」」」」
こうして最初のダンジョンショップはオープンした。




