#1268 ニーコを捕まえて周回へ。トモヨと夜の相談!
全員が〈火口ダン〉の攻略者の証をゲットしたのは、その日の夕方になった辺りだった。
〈氷属性〉の遠距離攻撃が無いと〈オビサルス〉が溶岩から出てくるのを待たなくてはいけないため、スムーズな攻略のためにパーティに2名は〈氷属性〉攻撃が可能なメンバーを入れて送り出していたら、全員が攻略者の証をゲットするのにこんなに掛かってしまった。
「よし。これで全員が攻略者の証をゲット出来たな! なら次はニーコを加えた周回を――」
「おっと勇者君それ以上はいけないよ? 見てほしい、ほらもう18時だ。夏至が近いから日が延びているだけでもうこんな時間なのだよ? そろそろ上がろうじゃないか」
攻略者の証を全員が手に入れるためのパーティ編成が終わったのだから、今度はドロップをメインにした周回をするかと口にしたらニーコがどこからか先っちょに「×」と書かれた棒で俺の口を塞いできた。さらには時計を見せての必死の説得。
ふむ、もうこんな時間だったのか――とでも言うと思ったかニーコよ! もちろん時間なんて把握しているわ!
俺はニーコの肩へガシッと手を回して捕まえる。
「!? しまった!」
まさかニーコの方から来てくれるとはありがたい。
「さあ、ボス周回の時間だぜ! ボス戦まだやりたい人!」
あと2回、頑張れば3回は周回できるだろう。
立候補を募ると、まず真っ先にやって来たのはトモヨだった。
「ゼフィルス君! 私やってみたい! リベンジだよ!」
「トモヨ君、そんな宣言をする前にぼくを助けてはくれないか!?」
「う、羨ましいなんて思ってないんだからね!」
「なんでこんな時にツンデレ風ゼリフを!? そういうのいいから!」
もちろんニーコは逃がさないよ?
それにしてもトモヨが来たか。実は今回の〈オビサルス〉との戦いでトモヨはなかなかに危険がいっぱいだったらしい。何度も戦闘不能になりかけたようだ。
〈オビサルス〉とトモヨの【アルティメット・イージス】は相性がそんなに良くなかったというのもある。
とにかく溶岩の津波攻撃に弱く、あれが来るとトモヨは防ぎ切れずに大ダメージを受けてしまう結果が相次いだ。最終的にはユニークスキル『究極継続戦線術』で回復しながら乗り切ったようだが、トモヨとしてはリベンジしたいくらい悔しい結果だった模様だ。
「よし、今度はフォローにカタリナやフィナを入れよう。それと氷属性のメンバー、そしてニーコだな!」
「や、やっぱりぼくが入るのは確定なのかい?」
「むしろニーコが入らないと周回する意味がない。俺たち全員すでにLV34だしな」
「そ、そうだよねぇ」
抵抗を続けるニーコだったが、ようやく諦めた様子だ。
せっかくここまで来たのだから、もっと〈金箱〉を狙う!
すでに何箱か出ているものの、何箱だって出てくれて良い。現在はこの〈火口ダン〉こそが攻略の最前線。
その〈金箱〉産の価値はそれはそれは高いのだ。ニーコには期待している。
「ニーコちゃん頑張ろう! 私も頑張るよ!」
「うん。頑張ろうかぁ」
リベンジに燃えるトモヨ。
結局、ヒーラーとトモヨのフォロー役にカタリナとフィナを入れ、アタッカーはラウとニーコでパーティを組んでもらい送り出した。
カタリナを入れたのは結界でボスの行動を制限するためだ。
溶岩に潜ったら危険なのだからそもそも溶岩にたどり着けないよう結界を張ってしまえば良いじゃない。というわけである。
ラウは〈氷ダン〉でゲットした〈ブリザードン・ツー〉の力を見越してである。
〈氷属性〉の攻撃の連打が無茶苦茶強く、中距離攻撃のスキル『ブリザードンブロー』で溶岩から飛び出させることも可能なのでラウは今回大活躍していた。もし溶岩の波が来ても自力で引き裂けるしな。
そうして無事勝利を収めて、トモヨもリベンジを果たして帰って来た、と思ったのだが様子がちょっとおかしい。
「お疲れ様。それでニーコ、トモヨはいったいどうしたんだ?」
「あ~、どうもカタリナ君に良いところをだいぶ持っていかれたのが堪えているらしい」
「……あちゃあ~」
どうやらフォローに入ってもらったカタリナに、フォローをさせすぎてしまった結果に落ち込んでいるらしい。
それは予想外だったな。カタリナも励まそうとしているが、ちょっと悪手っぽい。
フィナがフォローに入ったが抱きつかれ、立派な胸部装甲に逆にフィナがメンタルへ大ダメージを受けていた。ふむ……。
「トモヨが活躍できる場を用意しないとマズいかもしれないな」
「そうは言うが勇者君、あの中でやっていくにはちょっとやそっとのことでは難しいよ? 〈エデン〉のメンバーはみんな優秀だ。もうびっくりするくらい優秀だ。それこそ他のギルドに在籍していたならばギルドマスターやサブマスターをしているほどの人材がゴロゴロいるのが〈エデン〉なんだよ? そんな中でトモヨ君は普通の範疇だ」
トモヨは普通。そりゃノーカテゴリーだからな。
同じノーカテゴリーの中でも上級職、高の中である【神装】シリーズに就いているサチ、エミ、ユウカと比べても、トモヨだけは上級職、高の下だ。
五段階目ツリーを得てから、〈エデン〉の戦闘職の中でも明確に差が出始めている。
別にボスを突破し攻略するのであれば【アルティメット・イージス】でも問題はない。
トモヨがボス戦で戦闘不能になったということも未だに無いしな。
ただ、そういうことじゃないんだろうなぁ。
ニーコが言ったように、〈エデン〉というギルドマスター級やサブマスター級のメンバーが数多く揃っている場所で、自分だけ劣っているように感じているのかもしれない。
一度トモヨとはしっかり話しておいた方が良いかもしれないな。
なお、今回の宝箱は、しっかり〈金箱〉だった。
ニーコにはもう1度周回へ行ってもらおう。
◇
〈火口ダン〉から帰還した夜、ギルドハウスの温泉に入って一段落したあと、俺とトモヨはラウンジにやってきていた。
「ゼフィルス君、こんな夜中に女の子と2人きりになりたいなんて大胆すぎるんだよ!」
「はっはっは、それにノコノコ来てしまう君も大概さ! 覚悟しろ~」
「きゃー」
誰も居ないからってラウンジでちょっとはしゃいだりしてしまったのは許してほしい。
夜の誰も居ない場所ってなんでこんなにテンション上がるんだろうね?
テーブルに向かい合う形で座り、話し合う態勢に移る。
「さてトモヨよ。ここからは真面目な話だ」
「ドキドキ」
ドキドキとか口に出さなくてよろしい。
「言っておくが、甘い話とかじゃないからな?」
「え~」
不満そうに口を尖らせるトモヨだが、ここで甘くなれば何かとんでもないことが起こりそうなのでしっかり言っておく。
なぜかラウンジの入口近くからパメラらしき金髪NINJAの影がこっちを覗いている気がするのだ。気のせいであってほしい。
「こほん。トモヨの職業についてだ。【アルティメット・イージス】に就いてわりと経ったが、その感想とか、手応えとか聞いておきたくてな」
「あ~。うん。その話か~」
今日の夕方の件だ。なんとなく察しが付いていたようでトモヨが難しい、いや困ったような表情か? そんな顔でポツポツと話し出す。
「今日もね、私的には自分の職業の力を最大限使って勝てたと思っているんだよ? ちょっと危ないところもあったけど、なんとか乗り切ったし。上級ダンジョンの最奥のボスにだって戦えるんだって、勝てちゃうんだって誇りに思う」
頷きながら俺も思ったことを、素直な気持ちを告げる。
「実際トモヨは凄いぞ。今まで未踏破だったダンジョンの攻略者、しかもその最先端を走っているんだからな。しかも上級ダンジョンでは未だ戦闘不能になったことはないだろ?」
「そうなんだよねぇ。凄いんだよ私。凄いはずなんだよ――なんだけど!」
そこでトモヨがテーブルを両手で叩いて身を乗り出す。
「〈エデン〉のメンバーが強い! もう強い! すっごく強いんだよ! え? 私も十分凄いはずなのに霞んじゃってない!? どういうことなのいったいこれ!? 〈エデン〉に入ったは良いけれど周りが強すぎて、ついていっているはずなのに足を引っ張っていないはずなのに弱くないかな私!?」
そう言ってトモヨが思いをぶっちゃけた。もうテーブルもバンバン叩いてる。
そのたびにエステルに迫る胸部装甲がばるんばるん揺れるんだから目のやり場にとても困った。トモヨは風呂上がり!
いかんいかん。ギルドマスターとして、トモヨの不安を受け止めなければ!
とりあえず目を瞑り、うんうんと相槌を打って聞き役に徹した。
「はぁはぁ。そんなわけでゼフィルス君、相談に乗って!? 私、どうすれば強くなれるかな!? みんなと比べても遜色ないレベルになれるかな!?」
最終的に思いをぶっちゃけて落ち着いたトモヨから相談を受けた俺は、ニヤリと笑った。
ほほう? 力が欲しいか?




