#1264 〈火口ダン〉は最奥も暑い。一度帰って再入場
〈火口ダン〉の徘徊型は〈陸恐竜・ドングレイグ〉。
あの〈ジュラパ〉の徘徊型〈ジュラ・レックス〉の進化型なだけありティラノザウルスをより強力にしたようなモンスターで、二足歩行でズドンズドン足音を響かせながら駆けてくる姿は圧巻の一言だ。
「ジュラァァァァァ!」
「〈ジュラ・レックス〉の進化系ですか。私が相手をさせていただいてもよろしいですか?」
「お、エステル今日はやる気だな。許可する。――みんな、今回はエステルチームが挑むぞ!」
先程の反転攻撃を決めたエステルが珍しくやる気だ。
そういえばエステルは〈ジュラ・レックス〉戦で危うくやられそうになったことがあったっけ。リベンジに燃えているのかな?
「ん! やる気満タン。〈ドラゴンダガー〉と〈コウセイ〉が火を噴く」
「火を噴くのはどっちかって言うと〈ドングレイグ〉の方だけどな」
「? あれは火を吐くのか?」
「ゲフンゲフン!」
同じパーティのカルアが両手に短剣を構えて決めゼリフ的なものを言っていたので、つい突っ込んでしまった。危ない危ない。リカ、それは忘れるがよろしい。
実際〈ドングレイグ〉は〈火属性〉を獲得していて、火は吐くし、翼は生えるし、咆哮も凄い。攻撃も耐久もむっちゃパワーアップしてる。
とはいえ〈ジュラパ〉で周回しまくった俺たちは恐竜系にかなり慣れているため、戦闘はかなりこちらの有利で進んだ。
「うわ~、なんか戦い慣れしているっていうか、みんなの動きが結構いつもと違うね!」
「ああ。エステルさんなんか、大体の場合あそこで踏み込んでさらに前へ出るのがクセになっていたはずだが、逆に距離を置いていたぞ。これまでのボス戦には見られなかった動きだ」
その動きに外野のルキアとラウが目を瞬かせる。
そう、なんかみんなの動き方がいつもと違うのだ。なんとなく多めに回避運動を取っている。これ、絶対恐竜慣れしているせいだろう。
みんな、対恐竜戦の動きが体に染みついているのだ。
「ここです。『戦槍乱舞』!」
「『128スターフィニッシュ』!」
「『二刀斬・陽光桜嵐』!」
「ジュラァァァァァ!?」
そして俺が指示も出していないのに決めるところをしっかり把握していて同時攻撃。
あ、ダウンした。
「ええ~……」
「攻撃のタイミングがぴったりすぎる。しかも今のコンタクトも取ってなかったぞ」
うむ。声も、目によるコンタクトも取っていないみんな独自での攻撃。しかしそれがぴったり重なっていた。みんな攻撃するタイミングが分かっている証拠だな!
ちょっと恐竜戦をやりすぎたかな? 古参メンバーの動きが頼もしいです。
「……なんだか、ゼフィルスの動きを見ているみたいに思えるのはなんでかしら?」
「き、気のせいさシエラ! 俺はそんな、全ボスに慣れているわけじゃないぞ!? ――あ、カルア! トドメは〈コウセイ〉で刺すんだぞ! ドロップ2倍を狙うんだ!」
「ん!」
「…………」
カルアの左手武器〈増幅闇短剣・コウセイ〉には『爬虫類型モンスターのドロップ2倍』が付いている。これでトドメを刺せばドロップが2倍だ。宝箱も2倍になってくれるととても嬉しいのだが。
途中シエラが何かに気付きかけたこともあったがなんとか話を変えて誤魔化し、ついに〈ドングレイグ〉がエフェクトの海に沈んで消えていった。
やはり恐竜慣れしているためか、わりと苦労せずに倒せてしまった。
エステルのやりきりましたという輝く表情が満足そうだ。敢えて〈イブキ〉からではなく降りて戦った甲斐はあったということだろう。
そして今回は――〈銀箱〉!? 1個じゃん!
なるほどなるほど。〈木箱〉、〈銀箱〉と来ましたか~。
これは……最奥ボスへの期待がとても高まるなっ!!
……これで〈金箱〉を落とさなければどうしてくれようか。
出るまで周回してやる!
そんな雰囲気を出しながら俺たちは最奥へと到着した。
「やっと到着ね!」
「いつもより結構掛かりましたね。〈火口ダン〉はかなり厄介です」
「対策も結構いるから、レベル上げとかには向かない環境だな」
『環境対策モード』に守られた〈イブキ〉から下車したラナが最奥の救済場所で元気良く到着を宣言し、シズが周囲を警戒しながらもそれに頷く。
俺もシズの言葉に同意しながらしみじみと語った。
暑さ対策と溶岩の川対策が常に必要になり、モンスターも手強いものが増える〈火口ダン〉はエリアボス周回には向かない環境だ。
とにかく攻略を目指す。そんなダンジョンである。
周回するとしても最奥ボス周回くらいだろう。ここでしかドロップしない〈竜〉の付く品もあるので、それを狙う感じだな。
まあ〈氷属性〉特化メンバーにすれば結構攻略しやすいダンジョンではあるが。
「最奥の救済場所では暑さは比較的マシ、か?」
「〈ヒエヒエドリンク〉の効果も切れてるし、体感では普通に夏くらいの感じかな?」
メルトとミサトの賢者組が素早く辺りを探っていた。
最近は学園に提出する資料作りのためにこうして様々なデータを取っていたからな、なんかクセになりつつある様子だ。
最奥の部屋には木々もあり、道中よりは比較的マシな気温になっている。
地面からは何か竜に効きそうな名前の実まで生えていてなんとなく涼しく感じるのだから植物って不思議だ。
「早速料理アイテムを、と言いたいところだが、この暑さで熱い食事は厳しいな」
「あい! ルルは冷たいお飲み物が飲みたいのです!」
「準備しましょう。冷たいアイスティーでよろしいでしょうか?」
「アイ!」
なんとここで新たな問題が発生!
比較的マシとはいえ普通に夏くらいの暑さのこの空間、アッツアツの料理が食べられない!?
ゲーム時代では「そんなの関係ねぇ!」とここでアッツアツの〈チゲ鍋〉すらキャラに食べさせたことのある俺だが、あれは可哀想なことをしたかもしれないとちょっと思った。
「料理アイテムは冷たいものが食べたいわね」
「むしろここで食べることに拘らなくてはいいのではありませんの?」
シエラの言葉に頷き〈転移水晶〉を片手に持ったリーナが尤もすぎること言っていた。
今まで最奥のボス部屋の前でしか食べてこなかった料理アイテム。ここで食べるからこそ「最奥のボスと今から戦うぞ!」という気合いが入るものだと思っていた料理アイテム。
それを「一度帰還してから食べましょう? ここ暑いですし」と言われては……「まあ、そうだよね」しか言えない。
というわけで〈火口ダン〉の最奥に到着して早々、俺たちは〈転移水晶〉で一度戻ることにしたのだった。
うーむなんだろうこの敗北感は。
「もう6月、それなりに気温が高くなってきましたが、地上の方が涼しく感じますね」
「〈火口ダン〉が暑すぎたのよ。地上ではこれ以上気温は上がらないでほしいわ」
「これ以上となると、地上でも〈ヒエヒエドリンク〉のお世話になるかもしれませんわね」
エステルとラナ、そしてリーナが太陽を眩しげに見つめていた。
最近の夏って暑いよね。
そのまま〈上下ダン〉から出て一度ギルドハウスへと帰還する。
「はぁ~。やっぱりギルドハウスの中は生き返るわ~」
「これが〈秘書置〉ですか。涼しくて良いアイテムですね」
「快適ですわ。一家に20台くらい欲しいですわね」
6月もまだ1日だというのに、暑い日に涼しく快適な空間を提供するギルド設置アイテム、白い秘書の像の姿をした〈秘書置〉がすでに活躍していた。
秘書はクールで主を快適にするんだ。もちろんスーツ姿のクールビューティ像である。
というかリーナの規模がだいぶお嬢様だな!? ギルド設置アイテムは1個でいいんだよ?
そんなこともありつつ料理アイテムを食べてから再入ダン。
うーむ。〈イブキ〉のデッキで食べた方が良かったかもしれないとちょっと脳裏を過ぎったが、それ以上は考えないことにした。ギルドハウスまでちょっと遠かったんだ。
というわけで帰ってきました〈火口ダン〉最奥!
「これから最奥ボスに挑むぞー! 最初のメンバーは前に出てきてくれ!」
「「「おおー(なのです)!」」」
俺の言葉に出てきてくれたのは、なんとロリレンジャーズの3人!
紫のエリサ、金のフィナ、そして銀のルル。
バランスが良い。
この先にいる存在を相手にロリたちが挑む!? 果たして大丈夫なのか!? 主に絵的に!
まあ、実力的には何も問題は無い。
そして最後の1人は。
「もちろん私も行きますよ」
「おう、期待しているぞシェリア」
保護者(?)のようなそうじゃないようなシェリアだ。
うむ。この3人が挑むのなら順当すぎる人選だったな。
シェリアの気合いが凄いんだぜ。
「良いところいっぱい見せて褒めてもらいます!」
「おーいシェリアー、欲望が口から出てるぞー。というかむしろ頑張ったルルたちを褒める側の存在なんじゃないの?」
「! それは盲点でした。これは私が活躍しすぎると怒られてしまうパターン!?」
「いや、普通に倒しちゃっても良いと思うぞ。そしてルルたちに褒められ、ルルたちの頑張りを褒めるのだ」
「! 一挙両得! 一粒で2度美味しい……。私、頑張ります」
ちょっと文脈がおかしいような気がしなくもなかったが、シェリアの気合いが削がれなくてよかったぜ。
「ゼフィルスお兄様! 頑張ったらルルも褒めてほしいのです!」
と思ったら名指しでルルが来た!
シェリアが目を見開いて俺を見ている! これはいけない!
「も、もちろんだルル。シェリアと一緒にたっぷり褒めてあげよう!」
「わーい!」
ふう。シェリアがニコニコ顔に戻りルルもバンザイして喜んだ。
危ない綱渡りだったんだぜ。
なんでボス戦前に綱渡りなんてしてんのかな俺?
「あー! ルルちゃんだけずるいわご主人様!」
「私の頭はいつも空いていますよ教官」
「もちろん2人も褒めよう。頭をナデナデしてやろう!」
ずいっと迫ってきたエリサとフィナにももちろん約束し、なぜか背筋に冷たい物が流れた気がしてハッとして振り向くと、快適な〈イブキ〉から見下ろすシエラのジト目、唇を尖らせたラナ、苦笑するリーナがいた。
どうしよう、何か言わなくてはいけない気がする!?
「あ! シエラたちも攻略者の証をゲットできたら褒めてほしいのです! ゼフィルスお兄様にもナデナデしてあげてほしいのです!」
「え? ……いいかもしれないわね」
「そ、そんなのもちろん構わないわ! ナデナデもセットよ!」
「ナデナデもですの!? わ、わかりました。わたくしもやりますわ!」
「いや、普通におめでとうだけでいいよ!?」
ルルの一言で男の尊厳がどこかに逃げようとしたので速攻で確保して元の位置に戻した。
男にはナデナデしなくてもいいんだぜ。
ルルの言葉でさっきの雰囲気はうやむやになった。
「こほんこほん!! 注目! そろそろ出発するぞ! 相手は未知の存在! もしかしなくても強いだろう。だが、この5人ならばきっと勝てる! 気合い入れて行くぞー!」
「「「「おおー(なのです)!!」」」」
このままここにいてはなんか変な方向へ話が進んでしまうと危惧した俺は、しっかりと宣言した後、早々にボス部屋へと挑んだのだった。




