#1263 火山でエステルが魅せる。魅惑の反転攻撃砲!
上級下位のランク9、〈火口ダン〉は所々で溶岩の川がフィールドを分断している強烈なダンジョンだ。
さらに上級中位ダンジョン、上級上位ダンジョンまで続く特殊なチェーンフィールドでもある。
その最初のチェーン。難易度として一番低いのがこの〈火口ダン〉だ。
フィールドとしては山の麓に当たり、巨大な火山地帯の麓を巡る地形となっている。
環境はそこそこ熱く、〈ヒエヒエドリンク〉などの環境対策が必須なダンジョンだ。
さらに攻略するには溶岩の川もなんとかする必要がある。この溶岩の川は今までのダンジョンでもほとんど敵無しだった〈イブキ〉の進行も出来ないエリアだ。
〈雷ダン〉でもビリビリ来るとはいえ無理矢理〈イブキ〉で進むことは出来た環境だったが、ここの溶岩は本当に侵入自体ができないのだと言えば、なぜランク9ダンジョンに〈火口ダン〉がランクインしているのかが分かるだろう。
かなりの難易度だ。
とはいえ救済アイテム〈鎮火の秘薬〉があれば溶岩を陸地に大変身できるので問題はない。
救済アイテムが無くても【氷姫】や【人魚姫】の上級職、他にもいくつかの〈氷属性〉に特化した職業ならば凍らせることが可能だ。
今回はちゃんと〈鎮火の秘薬〉で最奥まで行けることを証明するために敢えて救済アイテム縛りで攻略しているけどな。
これが救済アイテムの力だ! ふはははは!
〈エデン店〉でたくさん売ってるからみんな買ってね!
俺たち〈エデン〉は〈イブキ〉でいつも通り走行、溶岩の川で進めなければ〈鎮火の秘薬〉を投げて固めて走行。
途中巨石を背負ったガーゴイル〈ロックミットゴイル〉や顔がトカゲの二足歩行モンスター〈リザードマン〉を始めとしたモンスターが次々襲ってきたが、〈イブキ〉の敵じゃなかった。
みんな襲ってきた直後に「ゴツン」されて吹き飛び光に還っていたよ。
ただ溶岩の川から飛び出してくる〈マグマニカエル〉だけは厄介だったな。
溶岩の川に近づくと脅威のジャンプ力で〈イブキ〉に乗り込んで来ようとするのだ。
まあ、カタリナの『乗り物用移動結界』のおかげで乗り込まれることはなかったけどな。
名前の通り、結界で弾いて溶岩に返してやったよ。いくらかは光に還ったけど。
また、モンスターの調査も同時平行。
これは〈救護委員会〉へ提出するデータのためだ。
データ回収♪ データ回収♪
ふっふっふ。リアル〈ダン活〉のデータがどんどん増えていくよー!
2層ではレアイベントがあった盆地はスルー。
もう宝はないからね。
5層では、守護型ボス。
〈デブチンリザード〉という、どう見てもどう考えても守護に向かなそうなブヨンブヨンの体をした四足歩行のリザード系モンスターが出てきた。
近くに流れる溶岩の小川に入ってマグマ弾を口から発射してくる中々のボスだが、どう見ても溶岩に入り切れていない、小川から色々体とか足とかがはみ出しまくっているボスだ。
たまに二足歩行になることもある。
だからどうした! とばかりにぶった切って通った。やっぱり守護に向いてないんじゃないかなあの体型。
それからもスムーズにボスを撃破しまくり、ジュースもたくさん――じゃなくて〈上級転職チケット〉もたくさん当てながら進んだよ。
いやぁ、ボスを見るとラナが気合いを入れて祝福してくれるんだ。
チケットばかりがやたら落ちる気がしたのは、きっと気のせいだと思いたい。
また、〈火口ダン〉も〈氷ダン〉や〈雷ダン〉と同じく計3つの階層で迷路化しているところがあった。
一部の地面が溶岩になっていて通れない仕様だが、〈鎮火の秘薬〉があるので通れてしまうよく分からない障害を乗り越えて、俺たちは昨日55層に到着していた。
55層にショートカット転移陣で転移し、今日も元気にダンジョン攻略だ!
「今日は最奥まで潜るぞー! そんで攻略者の証をゲットするのだー!」
「「「「おおー!!」」」」
そろそろみんな慣れてきたのか「ええー」「そんな簡単に攻略していいの?」という声は無くなったな。
俺たちがダンジョン攻略の最前線。簡単に攻略していいのだ!
そしてじゃんじゃんみんなに広めよう! みんなもどんどん攻略してくれよな!
早速55層の守護型ボス、なぜかこのむちゃくちゃ熱い〈火口ダン〉で分厚い羽毛に覆われた〈火山イケイケコカトリース〉という茶色に日焼け(?)してグラサンをしたコカトリスっぽい怪獣ボスをまず打ち倒す。あんなに羽毛を身に纏って「暑くないのかな?」と不思議に思うボスなんだぜ。まあ〈石化〉とか〈毒〉とか〈火傷〉とか付与してくるうえに火炎放射を吐きまくる強ボスなんだけどな。昨日も倒したので流れは分かってる。状態異常耐性を付与して撃破した。
さーて、昨日は〈金箱〉。
〈上級転職チケット〉をドロップしていたが、今日はどうかな?
今日のドロップは――〈木箱〉だった。
「〈木箱〉ですって!? 何よこれ、サングラスじゃないの!」
ラナの『プレイア・ゴッドブレス』が不発に終わることもあったが、そういうこともあるさ。ドロップはまさかのコスチュームアイテムだった。
なお、密かにみんな着けて盛り上がっていたことをここに記載しておく。
グラサンニナリタイか?
56層からは新しい通常モンスターが登場した。それは恐竜。しかもちょっと竜寄りの翼を持った小型の恐竜だった。
「〈翼恐竜〉と出ました」
「翼竜なのか恐竜なのか分からん名前だな!」
まあ〈ダン活〉では全部恐竜扱いなんだけど。
この火山ダンジョンは上級中位で〈亜竜〉が登場する。そのためか恐竜っぽい見た目のモンスターがかなり増えてきていた。
「〈翼恐竜〉、振り切れません」
「ずっと後ろを着いてくるわね」
「大分速いですわ。追いつけてはいませんが」
「ギュオオオオオオ!」
「ギュオオじゃねえ!」
おっとここでついに〈イブキ〉の速度を追うことのできる通常モンスターが登場してしまいました!
あの翼は飾りか? と思わせるような力強い走りで追ってきます!
しかし、心配は無用。
「みなさん掴まっていてください」
エステルの言葉にみんなが近場の何かに掴まると、エステルがスキルを発動する。
「旋回します! ―――『ドライブターン』!」
本来は超直角V字移動という普通では曲がることは不可能な軌道を実現させるスキルだが、エステルはそれで一瞬右に曲がったかと思うと次の瞬間には左に直角移動した。しかもそのままバックで移動し始めたのだ。
〈イブキ〉の砲身が向く先は――追ってきている〈翼恐竜〉どもである。
つまり――反転攻撃だ。
「吹き飛んでください――『スラストゲイルサイクロン』!」
「「「ギュオオオオ!?!?」」」
「「「おおー!」」」
ロマン溢れるバック移動しながらの反転攻撃で〈イブキ〉内は大いに盛り上がる。
すげぇ! さすがだぜエステル!
エステルの範囲攻撃の槍が追ってきていた〈翼恐竜〉たちを軒並み吹き飛ばした。
完璧な一撃!
超かっこいい! 俺もやってみたい!
「素晴らしい活躍だわエステル!」
「もう反転攻撃の操作は完璧だなエステル!」
「ありがとうございますラナ様。ゼフィルス殿。では再反転しますね」
ロマン迎撃に目を輝かせるラナ。とてもよく分かるんだぜ。
俺も一緒になって目を輝かせながらエステルを褒め称えた。
完全に思いつきだったが、こんなことが出来たらかっこいいよねとエステルと話したことがあったんだが、なんとエステル、それを実現してしまったのだ!
これには俺も超驚いたよ。同時にすげぇってなったけど。
ゲーム〈ダン活〉時代、前にしか進めず、横に移動するにもスキルを使わなければならなかったのに! リアルではバックしながら攻撃ができるのだ!
リアル技超凄い。もうね、超凄い!
エステルはこれを実現するために結構練習したみたいだが、その成果がようやく実っていた。
「よっと、ふう、再反転して前を向くのがやっぱりもたつきますね。まだまだ改良が必要です」
エステルは急速反転するために『ドライブターン』を使っていたが、戻る時はクールタイムに突入しているのがネック。わざわざこのために『姫騎士覚醒』や『ドライブ全開』を使うのもなんなので、戻る時は減速しながらちょっと大回りして戻るしかなく、少し時間が掛かっていた。
元々走行しながら反転してバック走行なんてスキルも仕様も無かったのでこれは仕方ない。
反転攻撃が見られただけで俺たちは満足ですとも。
並走するアイギス号やロゼッタ号からも賞賛をもらいながら、一同はそのまま進んで行ったのだった。
そこへ徘徊型ボス――〈陸恐竜・ドングレイグ〉が行く手を塞ぐ。




