#1262 学園が〈氷ダン〉を攻略した!上級中位は近い
6月1日日曜日。
感慨深い、実に感慨深い。
とうとう2度目の6月に突入したのだ。
去年の6月1日と言えば、〈キングアブソリュート〉が上級ダンジョンの攻略に乗り出した日だ。
上級ダンジョンの時代はここから始まったと言っていい。
あれから、ちょうど1年。
ダンジョン週間最終日、その日セレスタン経由でついに連絡が届いた。
「ゼフィルス様、学園からの連絡で〈救護委員会〉がついに〈氷ダン〉を攻略したとのことです。ついては上級中位ダンジョン解放へ向けて調査団の派遣に動き出したと――」
「待ちわびたぞ!!」
ギルドハウスの大部屋でいつもの〈幸猫様〉たちへのお供えとお祈りを済ませたところ、それを待っていたようにセレスタンが告げてくれたために俺はガタリと立ち上がった。むしろ跳んだ。
「これはまさか、〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の恩恵か!」
すぐに神棚に向きなおりお礼のお祈りを捧げる。
6月1日という日、お供えとお祈りした直後にこの報告、無関係とは思えないんだぜ(無関係です)。
ついに待ちわびた報告が来たのだ。
その名も上級中位ダンジョン、そのダンジョン門の解放! 調査団の派遣だ!
あれ? 今「動き出した」って言った?
「セレスタン、動き出したって言ったか? それは今日開かれるわけではない感じ?」
「そうですね。〈氷ダン〉を突破したのもまだ5人とのことです。ですが〈氷ダン〉攻略の目処は立ったため各所で来たるべき日に備えて準備している段階ですね。〈クマライダー・バワー〉も納品され、〈雷ダン〉でも攻略の検討がされているとか。この調子でいけば今月中には上級中位ダンジョンへ調査団を送ることが出来る見込み、とのことです」
「……まだだったか。しかし今月中か! それは朗報だな!」
若干早とちり!
しかし今月中には調査団を結成するというのは超朗報だ!
もちろん〈エデン〉も加わらなくては!
「ゼフィルス、ちょっと落ち着きなさい。今月中なのだから急がなくても大丈夫よ」
「シエラ!」
「さーてこれは動かないとな」と考えを巡らせていたところ、横から声を掛けながらやってくる美少女が目に入った。
美しい金髪を靡かせ、背筋が伸びた綺麗な歩き、気品が全身から溢れているんじゃないかと思う。
その正体は〈エデン〉のサブマスター、シエラだ。
しかし、その美しさとは逆に俺を見つめる瞳は若干ジト目が混ざっている。
やったぜ!
「私の方でも話は聞いたわ。〈救護委員会〉は〈クマライダー・バワー〉によってかなりの速度で攻略が進んだそうよ」
「〈クマライダー〉が役立ってよかったよな。急いで造ってもらった甲斐があるというもんだぜ」
〈クマライダー・バワー〉は先週〈雷ダン〉でレシピを入手し、作製した見た目がクマの戦車だ。最大乗車人数が12人なので〈ダンジョン馬車〉としても使える。
スキルによって周囲に小さな雷を落としまくることで敵を寄せ付けない素晴らしい能力を持っている。
見た目はクマが4足歩行で走っているようなもので、背中にはウッドデッキのスペースが存在して人を乗せて運べるようになっていた。
〈エデン〉が使う戦車〈イブキ〉のように浮くわけではないが、その代わり木登りや崖のぼりが得意で〈山ダン〉の崖すらも登ることができる。
最上級品を造るには時間も素材も足りなかったので高級品をとりあえず2台生産し、〈救護委員会〉と先生方に納品していた。
かなり評判は良いらしい。もっと納品してほしいと打診が来たくらいだ。
素材は〈雷ダン〉で手に入るので教えたら、〈氷ダン〉攻略よりも〈雷ダン〉攻略に切り替えるべきでは? という意見がとても多くなったらしいとも聞く。
「アレがなければもう数倍は時間が掛かっていたはずよ。ゼフィルスが居ない状態の私たちがそうだったもの」
そういえば。〈氷ダン〉を〈エデン〉が攻略している最中、俺が途中で抜けたことで〈エデン〉の攻略速度がグッと落ちたことがあったことを思い出した。
道案内が無くなっただけであそこまで速度が落ちるとは。
初めてのダンジョンというのはそれだけ時間が掛かる場所なんだと再認識する。
それと同時に、逆に階層門の位置が分かる地図と〈乗り物〉さえあれば時短はかなり進むということでもある。
もちろん学園にもすでに作成した地図も渡しているぞ。
「そうか。だが、最奥にたどり着けたんだからもう問題はないだろう。後はボスを倒すだけだしな!」
「それが、難しいんだけどね」
「もう少し時間が掛かるでしょう」
「え? そうか?」
俺は最奥のボス、10メートル近いペンギンを思いだす。
さほど強くはなかったなずだが……。やはり騒音がネックか?
「それもあるけれど、時間が掛かる理由はそれだけではないわ。〈救護委員会〉は万が一遭難者が出たときに助けに行くのが仕事だもの。階層門まで最短距離だけじゃなく、もう少し地形の把握なんかも必要になるわ」
「確かに、それも話し合う必要があるな」
上級ダンジョンは広い。
もう無茶苦茶広い。
それを全部把握なんてしていたら上級中位ダンジョンの解放や、その後に控える上級上位ダンジョンなどの攻略がなかなか進まないだろう。
ならば、最初から侵入可能エリアを決めておけばいい。
地図を持っていないと入ダンできないようにしたり、「今日はこの場所に行く」など行く場所をあらかじめ受付に提出しておけば万が一遭難してもある程度安心が得られるだろう。登山届のダンジョン版だな。
これも学園長と話し合っておかなければならないな。
ここ2週間、俺は学園長や〈救護委員会〉と会う機会が増えた。
攻略は〈エデン〉にお任せ! まだ〈エデン〉しか攻略していないダンジョンの構造や注意点、上級中位ダンジョンを解放するための条件など多くを話し合っていたりする。
また話し合う必要があるものが増えたな。
「それで、ゼフィルス、今日はどうするの?」
シエラの言葉に俺は1つ頷く。
今日は日曜日。日曜日と言えばダンジョンだ。
もちろん話し合いだけではなくギルドのダンジョン攻略も蔑ろにしていない。
1年生たちのレベル上げはもちろん、新たに上級下位のランク9、〈火山の入口ダンジョン〉、通称〈火口ダン〉の攻略も進めているところだ。
そして今日は〈火口ダン〉に行くと約束してあった。
そのための〈幸猫様〉〈仔猫様〉へのお祈りだったのだ。
「もちろん〈火口ダン〉へ行くぞ! 今日で〈火口ダン〉も攻略済みにしてやるぜ!」
このダンジョン週間で〈火口ダン〉はすでに55層までを攻略済みとなっていた。
つまり、今日は仕上げだ!
今日中に〈火口ダン〉も攻略してやるぜ!
そして学園長とお話だ!




