#1260 〈彫金ノ技工士〉が大ピンチ! 立て直せ1年生!
結局今日中に全員が攻略者の証をゲットしたときには夜の7時を超えていた。
素材がっぽがっぽだぜ! これで〈クマライダー・バワー〉を2台くらい作れるだろう。いいね!
全員の胸元に煌めく〈雷ダン〉の攻略者の証が眩しいぜ。
ということでスクショで攻略記念撮影だ!
「最奥のボス部屋でスクショの撮影なんて、待っている人がいたら怒られるわね」
「〈雷ダン〉の最奥まで来る人はまだいないからこそできることだな!」
それに攻略者の証を胸元に付ける姿もレアだ。
女子メンバーはみんな攻略者の証を入れる用のケースに仕舞ってしまうからな。
だが、攻略記念撮影なので今回は胸に付けてもらって撮影だ。パシャパシャ。
うーん贅沢。
今だから、先駆者だからこそできることだな。
「ゼフィルス、そろそろ帰りましょう? もうみんなも疲れているみたい」
「だな。――みんな〈雷ダン〉攻略お疲れ様! 少し遅くなってしまったが無事全員がランク8の攻略者の証をゲット出来て嬉しい! というわけで今日はここまで、帰るぞ!」
「「「「おおー!」」」」
シエラの言葉に頷いて終了宣言。
〈上下ダン〉に帰還すると、なんかまた大騒ぎになった。
そういえばみんな胸に証、付けっぱなしだったぜ。
ふっ、ちょうど良い。俺は〈雷ダン〉の攻略と、〈雷ダン〉最奥までの地図の販売を宣言してさらに盛り上げてあげたのだった。
みんなも〈雷ダン〉攻略してね! 〈雷止め〉は〈エデン店〉で発売中だよ!
翌日。5月19日月曜日。
どうやら先生方はダンジョン週間で追い込みを掛ける心算らしい。
もしかすれば、6月にでも上級中位ダンジョンが解放されるのかもしれないな!
とても楽しみだ!
俺も是非協力しなければ!
まず放課後になって向かったのは〈彫金ノ技工士〉。
例の〈クマライダー・バワー〉、通称〈クマライダー〉を造ってもらうためだ。
「ケンタロウいるかー?」
いつものように店の入り口から入って声を掛けると、店の中に女の子が1人いるだけだった。俺に気が付いたその子が答えてくれる。
「うん? タロウ先輩なら裏にいるですよー。案内するですよー」
「おお、サンキュー」
タロウ先輩!?
ケンタロウは先輩になったのか!?
そういえばケンタロウって2年生だったな。俺と同い年だった!
内心で驚愕しつつも自己完結して冷静を装う。
あとケン先輩とかタロ先輩とかケンタロウ先輩とかではなく、太郎先輩と呼ばれている辺りにケンタロウへの扱いがなんとなく感じ取れるな。
〈赤世代〉の女の子が案内してくれると言うので、せっかくだからと付いていき裏の駐車場へ回ると。
〈ガンゴレ・マッスルバージョン〉の前で黄昏れているケンタロウを発見した。
「ケンタロウ? どうしたんだ?」
「うわひょっす!? ゼ、ゼフィルスさん!?」
「よう。すんごい跳んだな」
俺が後ろから声を掛ければ30センチくらい跳び上がってびっくりしたケンタロウが振り向いた。驚きすぎだ。
「それでケンタロウ、どうしたんだそんな黄昏れて」
「ゼ、ゼフィルスさん~。聞いてください。〈ガンゴレ〉が、〈ガンゴレ〉が全然売れないんっす~! 〈マッスルバージョン〉も全然売れないっす~。そしてなぜかオプションのランドル顔像だけ売れるんっす~」
「そうか」
妥当なところじゃね?
いや待て、顔像だけ売れるの? ランドル先輩の?
……いったい何に使われているのか気になるところだ。威嚇かな?
俺が上級ダンジョンの攻略促進を願って造ってもらった〈ガンゴレ〉は、例の〈学園春風大戦〉の影響で、『筋肉とセット! その名もガンゴレ』と学園に浸透してしまっていた。
いやまあ、これインパクト凄いからな。
俺ですら度肝を抜かれたインパクトだ。一般の学生ならばひとたまりもあるまい。
マリー先輩たち〈ワッペンシールステッカー〉はAランク戦に挑んだとき、俺たち〈エデン〉の素材やレシピを大量に援助してもらっていたにもかかわらず、勝負は僅差まで食い下がられたというのだからマジヤバい。
完全にインパクトだけでのし上がってきてるなガンゴレ。
最終的には〈ワッペンシールステッカー〉が勝利しAランクギルドへと昇格していたが、マリー先輩には「危うくわけ分からんうちに負けそうになったわ! あのレシピは〈エデン〉からもろたと聞いたで! マジどういうこっちゃ!?」と詰め寄られたんだよなぁ。
でも俺もよく分からないんだ。お祝い品をちょっと多めに渡したらマリー先輩の機嫌も直ったので良しとしよう。
そんなわけで、売れなくなってしまった〈ガンゴレ〉に替わる次世代機を用意しようと思う。
「まあ元気出せ。今日は新しい〈戦車〉のレシピを持って来たんだ。〈ダンジョン馬車〉にも使える、最大12人まで乗車出来るすごい〈乗り物〉だ! こっちなら絶対売れるだろうぜ!」
「! いやっす! 僕はガンゴレを大量に売りまくるんっす!!」
「あれっ!?」
しかし俺の予想とは裏腹に、ケンタロウは半泣きになってガンゴレに抱きついた。
そこへ俺を案内してくれた女の子が近寄って――唐突にケンタロウをど突いた。
「こんのヘボマスター! いい加減に立ち直りやがれです! せっかくかの有名な〈エデン〉のギルドマスター様が直々に売れるというレシピを持って来てくださってんです! シャキッと切り替えろです!」
「おお?」
今ヘボマスターって言った?
この子、毒舌キャラか!
「あう!? ちょ、ごめっすタネテちゃん、ごはっ!?」
「こちらうちのギルマスが失礼したですゼフィルス先輩。そのレシピについて詳しく聞かせてほしいです」
「もちろんだ」
一通りど突いて最後にひっぱたいてケンタロウをノックダウンさせたタネテちゃんと呼ばれた女の子が、なにごとも無かったかのように振り向いてお辞儀をした。
うーむ、なぜか今はこの子の方が興味あります。
「改めて、私はタネテ。先月【クラフトマン】に就いたばかりの1年生です。〈彫金ノ技工士〉には今月の頭に加入させていただいたです」
「まだ20日も経ってないのにギルドマスターの扱いがこんなにも!?」
俺、びっくり。
そういえばケンタロウはギルドマスターを引き継いだんだったな。
そしてタネテちゃん、今月から加入ということはケンタロウのできる仕事人としての姿は見たことがないのだろう。それでこの扱いが定着してしまったらしい。
タネテちゃんにとって、ケンタロウはダメなギルドマスターという位置づけの様子だった。
ケンタロウよ。すでに手遅れ臭いけど、頑張れ。とりあえず仕事人として復活しとけ。
「あー、とりあえずレシピはこれだ」
「拝見します――これは! 上級レシピです! しかもこの数値は……! もしかしてこのレシピ、〈金箱〉産です?」
「その通りだ。ふっふっふ、これは上級ダンジョンでも使える〈ダンジョン馬車〉にして〈戦車〉。〈ガンゴレ〉とは違い、ほぼ全ての上級ダンジョンに対応し、地形によって足を取られない四足移動型の超装備。これさえあれば上級ダンジョンの攻略速度は飛躍的に上がるだろう」
「上級で十全に使える〈ダンジョン馬車〉!!」
おっと、これだけでタネテちゃんは〈クマライダー〉の価値を理解したようだ。
まだ入学して間もないはずなのに、なかなか優秀な子だな。
「実は学生でこれを満足に作れるのはケンタロウだけなんだ。だから依頼を――」
「タロウ先輩、起きやがれです! ビッグな依頼に傾いたBランクとしての地位を立て直すときが来やがったです! 今すぐ立ち上がれです!」
「あひゃあひゃは!?」
みなまで言う前に尻だけ上げてダウンしていたケンタロウを無理矢理立ち上がらせてガクガク揺するタネテちゃん。
「そんなに売れなかったのか〈ガンゴレ〉」
「少なくとも私が入ってからは在庫が1個たりとも減ったところは見ちゃいませんです」
うむ。タネテちゃんが慌てるのも分かる。
このままではBランクの地位が危ない。
「う、うっす?」
「タロウ先輩。いいですか? 今すぐこれを造るのです。返事は「はい」か「イエス」か「了解」か「喜んで」以外認めません」
「よ、喜んで!」
「よろしいです」
うーむ。こりゃあとんでもない後輩が入ったな〈彫金ノ技工士〉は。
結局その後、例のガンゴレと同じ契約でレシピを渡し、今度は変なオプションは付けさせませんというタネテちゃんに監督されたケンタロウは、即行で2台の〈クマライダー〉を作製してまずは学園と〈救護委員会〉へ卸すこととなるのだった。
その後も〈エデン〉は〈雷ダン〉でさらに素材をゲットして渡す予定だ。
〈世界の熊〉のガロウザス先輩にも渡したいなぁと思う。これがあれば飛躍的に伸びるギルドは多いはずだ。
また、タネテちゃんは監督だけではなく【クラフトマン】でも才能があるほうらしく、これは素晴らしいと〈エデン〉が大量に素材を援助するのでさっさと上級職に上がってもらう契約を交したのは余談である。
「任せてくだせぇです。速攻でタロウ先輩を押しのけて超えてやるですよ!」
「期待しているぜ」
「あの、僕の立場はどこ行くっすか!?」
マジ頑張れケンタロウ。
奮起しないとガント先輩から譲り受けたギルドマスターの座を取られちゃうぞ?




