#1258 〈クタビリス〉第三形態戦――決着!
「む、全身が棘の鎧に覆われたぞ」
「全身棘? ダメージ全然入らなくなった」
「あの棘は攻撃であり防御でもあるみたいだな。となると攻撃が効くのはむき出しの顔面くらいだが、あっちはリカに任せて俺たちはもうちょっと攻撃してみよう。こういう時は棘を破壊してむき出しになった部分を攻撃するのが鉄板だ」
「そうなの? ん。やってみる。『デルタストリーム』! 『スターブーストトルネード』!」
〈クタビリス〉の第三形態は全身棘形態。
体全ては棘で覆われ、覆われていないのは顔面のみ。手も足も引っ込めてほとんど球体と化したこの第三形態は、見た目に反してかなり強力だ。
なにしろ棘が防御の役割をこなしているために攻撃のダメージが入りづらくなっている。にもかかわらずこちらが攻撃すると電撃でスリップダメージを負うのである。
さらに移動だけで攻撃になる、転がる移動は攻撃と同義だ。しかし、棘を受け流したところで体は横回転するばかりで逸らすことができないため、リカには難しい展開だろう。
「ジュウ!」
「来たぞリカ!」
「『制空権・乱れ椿』!」
相手が防御しながら攻撃してくるのであればリカも同じ戦法で迎え撃つ。
自分の刀が届く範囲に相手の攻撃が来た時斬り落とす防御スキル『制空権・乱れ椿』を発動。
先ほどの『制空権・刀滅』の時のような乱舞が巻き起こる。
「ジュウウウウウウ!」
「横回転する! 同じところの攻撃無理」
「みたいだな。ん? 何か来るぞ!」
「ん!」
〈クタビリス〉の回転は縦と横、斜めと自由自在で、今まで棘を壊すために一点集中で攻撃していたカルアだったが、その部分は横回転したことでどこかにいってしまったようだ。
さらにその直後、『直感』が警報を鳴らす。これは同じ『直感』持ちのカルアも感じたようで素早く離脱していた。
「ジュウウウウウウ!」
「くっ!」
「『ハイヒール』!」
〈クタビリス〉がしてきたのは電撃の棘を発射する範囲攻撃だ。
リカは近すぎて攻撃が防げず直撃。ミサトがすぐに回復を送るため大事ない。
俺とカルアは回避成功。
発射した棘があった部分は禿げてしまった。
丁度そこは頭ら辺だったようで――草臥れてしまった感が増した!?
「ジュウウウウウウ!」
「見たかカルア!」
「ん! 禿げた」
「おそらくあの棘が禿げた所なら攻撃が通ると見たぜ!」
「なるほど! そういうことか!」
自らパージして鎧が剥げた部分を攻撃する。こういう攻防使える鎧系で全身覆ったモンスターの定番の倒し方だ。カルアとリカにもそうさり気なく教えておく。
「あ、でも棘がもう生えてきてる」
「髪生えるの早っ!! ――間違えた。棘生えるの早っ!!」
十数秒で生え揃っちまったよ。草臥れた感が消えた!?
これが〈クタビリス〉の厄介な部分。すぐに棘が生えてくるので攻撃できるタイミングが少ないのだ。
ゲームでは「何あの発毛速度」「羨ましすぎて禿げるんだけど」とか言われていたっけ。〈クタビリス〉の棘は毛が固まったものなので、抜けても抜けても生え替わる毛に羨望を集めていたんだ。同時によく狩られていたっけ。俺も恨みはないけど狩らせてもらうよ!
「ジュウウウウウウ!!」
今度は電撃を纏ったまま横回転。さらに電気が集まっていく。
「あれは『充電』スキルだ! ルキア!」
「『タイムオーバー』!」
「ジュウウウウウウ!?」
横回転しながら『充電』とかとんでもないことをしやがるが、それ遠距離攻撃も弾くやつ! 速攻でルキアが溜めキャンセル。ただその場でクルクル回るだけにしてあげた。
そこへ接近、顔面が俺の前を通り過ぎる瞬間を狙い、高速の一閃を放つ。
「『聖剣』!」
「―――ジュア!?」
『聖剣』スキルの良いところは、直撃すると相手がほんの少しだけ止まること。
ズドンと衝撃で一瞬停止した〈クタビリス〉。チャンスだ!
「よし! 今だカルア!」
「『128スターフィニッシュ』!」
運良く顔面がカルアの方を向いたため大技でズドン。
大きなダメージが入ったな。
また草臥れた感の増した〈クタビリス〉が棘をじゃんじゃん発射して迎撃してくる。
さらにはその棘の球体のまま大ジャンプを決めてきやがったから大変だ。
「「と、跳んだ~~!?」」
兎人組の声が揃った。兎でもあそこまで高くは跳べない。
「下に居るなー! 退避退避ー!」
「逃げるー!!」
〈クタビリス〉必殺の『ライトニング・ニードル・フライングプレス』だ!
もしその落下位置に居たらどうなってしまうのか想像に難くない。
でもゲーム時代ならジャンプした影を見て回避行動を取らなくちゃいけなかったので、たまに回避しきれないことがあったが、リアルだと目視でこっちに跳んでくる球体が見れるから回避余裕だな!
もちろん全員回避成功。
「ルキア、準備はどうだ?」
「順調だよ! 『ライトスター』! 『クレッセントブラスト』! 今ので半分くらい溜まった!」
「オーケーオーケー、そのまま続けてくれ!」
さらにルキアにはとあるスキルを発動してもらっていた。
その名も『時溜め』。
攻撃魔法の類いを発動直後の状態で時を止められる魔法だ。
ルキアの周りにはキラキラと光る小さな球体がいくつも浮かんでいた。これ1つ1つが発動直後に止められた攻撃魔法というわけである。
そして溜めるというのは攻撃魔法だけではなく、威力も溜められるのだ。
時間を掛けて溜めれば溜めるほど威力がどんどん上昇していくロマンスキル。
もちろん溜めの限界はあるので、今回はそれまで溜めてもらう。
何しろ〈クタビリス〉は棘の鎧を纏っていてダメージが削られてしまうのだ。
棘が禿げた瞬間を一斉攻撃したい狙いだな。
「! そっちに行ったぞ!」
「ルキア、強制ノンストップだ!」
「! 『ノットフリーズタイムオーバー』!」
「ジュウウウウウウ!? ジュガ!?」
今ルキアが使ったのは相手が止めようとしていることを無理矢理動かす魔法だ。
急ブレーキならば急発進になり、急カーブならば真っ直ぐ直進になり、モンスターが駆け寄ってきている時に使えばそのまま止まれずにサラバしてしまう。
そんなとんでもない妨害魔法だ。
そして〈クタビリス〉はルキアたちの方へカーブしていたところを無理矢理直進させられ壁に激突してしまう。
「ナイスルキア! 止まったぞ! 大チャンスだ!」
「ん! 『神速瞬動斬り』!」
「カルア、『鱗剥ぎ』だ!」
「わかった『鱗剥ぎ』! ――ん! 棘折れた!」
「『勇者の剣』! こっちも砕け散ったぞ。デバフ付きの攻撃に弱いとみたぜ――『スターオブソード』! 砕けたところはダメージが入るぞ!」
「私は顔を狙う! 『二刀斬・雷鳴麒麟』! 『光一閃』! 『闇払い』!」
回転さえ止まってしまえばこっちのものだ。
そして、実は棘を強制的に剥がす手段がもう1つあったりする。
防御力デバフの付いたカルアの『鱗剥ぎ』をかますと、棘が面白いように砕け散った。実はこの棘はデバフ付きの攻撃に弱いのだ。デバフと攻撃が別々だと大丈夫なのに防御力低下の効果が付いた攻撃だと容易く破壊することが出来てしまうのである。
俺も防御デバフのある『勇者の剣』で棘をぶっ壊し、続けざまに『スターオブソード』をたたき込み大きなダメージを与えた。
リカは顔面に移動して斬り込んでダメージを与える。
「ジュウウウウウウ!」
「うおっと」
「むきゅう!?」
「くっ。さきほどからこれが厄介だ」
電撃を体から放出して範囲攻撃をしてきたようだ。
膜のように体に張られた電撃の結界は、近接戦闘の俺、カルア、リカをダメージを与えながら吹っ飛ばした。
棘を破壊されたことで慌てだしたのだろう。しかし、これこそが狙いだ。
「『オールハイヒール』!」
ミサトの全体回復が俺たちに浸透した直後、〈クタビリス〉が顔を引っ込め棘をさらに尖らせるモーションを取った。
「ミサト反射結界だ! 何か来るぞ!」
「! 『リフレクション・ヘル』!」
「回避ー! 『ディフェンス』!」
「む! 『残影』!」
「『回避ダッシュ!』
「ジュウウウウウウ!」
瞬間、体に生えた全ての電撃を帯びた棘が発射された。
全体攻撃、『ハープーンサンダー』だ。
リカは『残影』ですり抜け回避。カルアはダッシュしたあと、回避不可能と感じるとミサトの後ろに隠れた。速っ!!
「お返しだよ!」
そしてルキアとカルアを守ったミサトは自分に来た攻撃を反射で返す。
「ギュアアアアア!?」
ハープーンを何発か直撃を受けた〈クタビリス〉が叫ぶ。見れば、やつの体は禿げ散らかしていた。体に生えた棘の8割ほどを使った攻撃は諸刃の剣。
全体攻撃で威力はかなり高いが、自分の防御力も低下するのだ。
しかし、時間をおけば棘は生え替わり、ニョキニョキと生えてきてさっきと同じ姿になってしまう。
要は生え替わり。棘を破壊されるとよくこの全体攻撃を放って棘を生え替わらせるのだ。
だが、今ならば剥げているところに攻撃が入る。
「『聖剣』!」
「ジュウウアアアアア!?」
聖剣で大ダメージを与える。
慌てたように〈クタビリス〉が周囲に電撃の膜を張って俺たちを遠ざけようとするが、それは悪手だったな。膜を張っている間、〈クタビリス〉は動けないのだ。
「ルキア今だ! やってやれ!」
「『オーバークロック』! 『そして時は動き出す』!」
火事場の馬鹿力並の威力を一時的に発揮するユニークスキル『オーバークロック』を自分に付与、ここで『時溜め』を解除する『そして時は動き出す』を発動する。
ズズズズズズズズズズンと大気が震えるようにしてルキアの周りに浮かんでいた光球が姿を変えて次々と発射された。
棘の多くを失い、電撃の膜を発動していた〈クタビリス〉は動けない。
「ジュ、ジュウ!?」
そこにルキアの溜めに溜めまくってさらに火事場の馬鹿力が発揮されている攻撃魔法の連射が直撃した。
おお! かっこええええ!!
「ジュウウウウウウ!?」
「ダウンしたぞ! トドメだああああああ! 総攻撃!!」
「「「おおー!」」」
あまりに大量の攻撃をその身に受けて、たまらず〈クタビリス〉はダウンした。
そこへ俺たちが総攻撃。
ルキアの攻撃ですでに残りHPが1割ほどまで減っていた〈クタビリス〉はこの総攻撃に耐えられず、HPをゼロにしてエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。
残されたのは―――またも〈金箱〉!
そして俺たちの手には〈雷ダン〉の攻略者の証が握られていたのだった。




