#1247 〈金箱〉回!〈幸猫様〉信者はこうして出来る
「〈金箱〉だー! イエス〈幸猫様〉バンザイ!」
「ふお!? ゼフィルス君がいきなり弾けた!?」
〈サボッテンダー〉がエフェクトに沈んだ跡地に残された〈金箱〉、俺はそれを見て歓喜する。隣のカイリがなぜか跳び上がって驚いていた気がしたが、きっと気のせいだ!
「あ、先輩たち来たっす!」
「ゼフィルス様がとてもいい笑顔ですね」
「喜んでる」
「やったなみんな! ついに初級上位のボスを倒したな! しかも3人でだ! おめでとう!」
「ありがとうっす先輩!」
「3人でも、本当に何とかなるものですね」
「ぶい」
うむうむ、3人ともとても喜んでいる。
そして立派だった。
もし厳しそうならもちろん俺が参戦する予定だったが、見事に3人だけで〈サボッテンダー〉を倒しきった。
ステータスは足りているし、装備も充実しているし、立ち回りや作戦もしっかり伝えてあるからいけるとは思っていたが、実際勝つとジーンとくる。
さらに今回、素晴らしいことがあった。
もちろん〈幸猫様〉〈仔猫様〉バンザイ。もとい――〈金箱〉だ!
本当は1人1人に今の戦いの反省点や労いの言葉も掛けてあげたいのだが、それは後でもできる。
今一番必要なのは〈金箱〉を開けることなのだ!
「今回みんなの頑張りで〈金箱〉が出たな!」
「〈金箱〉っす! これ、すっごいお宝が入っているんっすよね!?」
「これが本物の〈金箱〉なんですね。初めて見ました」
「全部金色でキラキラ」
「豪華そうなものが入っていそうだろ?」
俺はみんなを〈金箱〉の前に促す。
「じゃあ、早速開けてみるっす!」
「おっとちょっと待ってもらおうか」
「ふえ?」
ナキキが飛びつこうとしたので肩を掴んで緊急停止。
危ない危ない。急に飛び出しちゃダメじゃないか。
「3人は〈金箱〉が初めてだから知らないだろうが、〈金箱〉を開けるには作法がある」
「そんなのがあるんすか!?」
「初耳です。ゼフィルス様、詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「作法?」
俺が真剣な顔つきで言うと超素直なナキキは驚き、シュミネが教えを請うてきた。
ミジュが首を傾げているが気にはなる様子。
「あ、あはは」
カイリはなぜか苦笑していた。そんな苦笑することなんてないよ?
「聞いてくれ、ここだけの話だが、実は宝箱を開けるときに〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお祈りをすると、中身が良くなるというデータがある」
「そうなんすか!?」
「! それはとんでもないことです! ただでさえ当たりにくい〈金箱〉から、さらに良いものがドロップするのですか!?」
「……データ?」
「あ、あはは」
驚愕するみんなに俺は真剣に頷いた。
この真剣度、通じてほしい。
「カイリ先輩、今の本当?」
こらミジュ、疑うんじゃありません。
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉はいつも見ているのですよ!?(←幸猫様信者)
「うーん。データがあるかは知らないけれど、良いのが当たりやすくなる感じはあるかな。他のギルド、私は一時期〈救護委員会〉に助っ人に行っていたこともあるけれど、明らかに〈エデン〉の方が大当たり率が高いからね」
「マジ?」
カイリよ、良いアシストだ!
ミジュも目を白黒させながらも「これ、マジもんか」という表情で〈金箱〉を見つめていた。表情が変わったな。
「ふふふ、カイリの言うとおりだ。〈エデン〉は〈幸猫様〉方が居たからこそここまで大きく発展したと言っていい」
「これが割と否定できなくってね。例えばギルドバトル〈拠点落とし〉が目前に控えていたりすると、最奥ボスの召喚盤がよくドロップしたりするんだよ」
「〈幸猫様〉〈仔猫様〉、〈金箱〉の中を良いものに変えてください」
おおっと、カイリのフォローでミジュが言われる前にお祈りを始めた――!!
とてもいい傾向である。
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉が鷹揚に頷いた気がした。
「ミジュ!? どうしたっすか!?」
「いや、あの姿こそ正解だ。〈金箱〉を開けるとき、〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお祈りするのが作法になる」
「作法っすか!?」
「このお祈りがまた、割と当たっちゃうから恐ろしいところなんだよ」
「恐ろしくないぞ。安らぎだ」
「なるほど、〈エデン〉ではこうして〈金箱〉の前で〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお祈りをするんですね。だからあんなにお供え物が……」
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉は〈エデン〉と〈アークアルカディア〉のご神体。
そう、加入してくるメンバーには必ず伝えている。
なぜご神体と呼ばれているのか、その理由が明らかになってシュミネが納得していた。
「ではこれより開けるぞ。お祈りするときはまずお礼、そして良いものが当たるようにお祈りするんだ。ここでやってはいけないのが、具体的に何が欲しいとか伝えないこと。もしこの武器が欲しい、あのアイテムが欲しいと願いながら開けると、絶対に来ないうえに変なものが当たるから要注意だ」
「んん? どゆこと?」
「ミジュ君、これも信じがたいことだが。確かに具体的な物を願うと当たらないんだ。これが本当にマジなんだよ。意味不明に思うかもしれないけど、そういうものだと思ってほしい」
「……マジ?」
「そう。一説では妖怪が邪魔をしていると言われている。具体的なお祈りをすると〈妖怪:物欲センサー〉がイタズラをしてくるんだ。だからさっきのミジュのお祈りは合格だ。具体的なことは言わず、ただ「良い物ください」とだけ伝える。ここが大事だ」
「わかったっす!」
「覚えました」
うむうむ。ナキキとシュミネはもう本当に素直。素直すぎてちょっと心配になるくらい素直だ。
それに比べミジュは割と現実的。いや、分からないことを聞くのは良いことだけどな! 聞いたうえで信じることにしたのだからミジュさえ居れば他の2人も大丈夫だろう。
「また、〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお供え物をするとさらに当たり率が上昇する。ちなみにお肉がお好きだ。帰ったらみんなでお肉のお供え物をしような」
ここ重要。
必ず教えなくてはならない! 〈幸猫様〉たちはお肉が好きだ!
「〈エデン〉には信じがたい秘密があった」
何やらミジュが本気で驚いていたが、まあ最初は驚くかもしれないな。
まあ、すぐに慣れる。そして〈幸猫様〉と〈仔猫様〉へのお祈り無しの体じゃいられなくなるのだ。
ミジュも早くこっちにきな。
「じゃあ、今回は俺が決めてしまって悪いがミジュに開けてもらおうか」
「! わ、わかった。頑張る」
「ねぇゼフィルス君。ミジュ君は自分のお祈り力が試されていると思っているんじゃ?」
「お祈り力なんてものはないさ。ただちゃんと〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にお礼を言えれば問題はない」
カイリと俺の言葉にミジュがホッと溜め息を吐き、〈金箱〉の前にしゃがみ込む。そして再びお祈り。
うむうむ。〈幸猫様〉と〈仔猫様〉はきっと当たりをくださるだろう。
そしてパカッと開けると、そこには〈方位コンパス〉という地図系アイテムが入っていた。
げっ! ハズレじゃん!
「こ、これ!」
「…………〈方位コンパス〉だな。中級ダンジョンまでしか使えない、次の階層の方向をある程度示すだけのアイテムだ」
俺は淡々と告げた。全地図を把握している俺からすれば大ハズレの類いである。
しかし、説明を受けたみんなの反応は劇的だった。
「ど、どひゃあああ!? それすんごく高い超激レアアイテムっす!」
「これが〈方位コンパス〉! 初めて見ました!」
「あ! そ、そうだよね。感覚が麻痺してたけど、〈方位コンパス〉ってかなりの激レアアイテムだよ! これがあれば中級上位を最短で攻略できるもんね!」
…………あ、なるほど!
カイリの説明ゼリフによって俺も〈方位コンパス〉の価値を理解した。
そういえば、俺は中級どころか全マップを把握しているし最短距離を行くことができるが、普通は知らないし学園は地図を売ってない。それにこの前まで一握りの人たちを除いて中級が最高到達階層だった。
となると中級ダンジョンまでしか使えないという微妙すぎる効果のこれもかなりの価値が出てくるということになる。
ゲーム時代、確かにこれに助けられた時期もあったが、最終的には「なんでこれ〈金箱〉産なの?」という価値に暴落していたアイテムだったので一瞬ハズレかと思ってしまったよ。
「カイリカイリ、これってお高いの?」
「詳しくは分からないけど。普通の〈金箱〉産より2倍から3倍くらいお高いんじゃないかな」
マジか。
後輩たちに聞こえないようカイリとこそこそ話すとそんな言葉が返ってきて驚かされる。
ただでさえゲーム時代よりも〈金箱〉産の装備やアイテムなどがお高く取引されているリアル〈ダン活〉でさらに2倍から3倍。
なるほど、後輩たちのこのはしゃぎっぷりも分かるというものだ。
「これが〈幸猫様〉と〈仔猫様〉のお力なんすね!」
「帰ったらいっぱいお供え物をしなくてはなりません」
「〈金箱〉いっぱい、うはうは」
ふっふっふ。〈幸猫様〉の信者がまた増えてしまったな。
俺も帰ったらいっぱいお供えものします!
後書き失礼します。お知らせ。
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