#1244 選択授業再び――スラリポマラソン大公開!
5月9日金曜日には今期初の選択授業を行なった。
学園長と約束した例のあれだ。
対象は1年生高位職の「貴人」「獣人」「エルフ」「ドワーフ」などのカテゴリー持ち。
実はこの選択授業なのだが、例年より1週間早い開始だ。
どうやら去年の俺の授業は想像を超えて外で広まっていたらしく、選択授業の応募は1週間かけて行われるはずが、俺の〈育成論〉は応募が始まったら定員が一瞬で埋まったらしい。どういうこと?
そして募集が一瞬で終了したため晴れて1週間早くから授業が開始できたとのことだ。性急過ぎるぜ。
だが、これほどまで性急に進めたのには当然わけがあり、要は〈育成論〉を又聞きで間違った認識、もしくは勘違いでSPを振る人が続出したのである。
まあ少数だったしLVも低いため大事にはなっていないが、学園は可及的速やかに〈育成論〉の授業を始め、正しい知識を教えるよう通達した。というわけだ。
それはいけない! 俺が正しい知識を伝授しようではないか!
それに伴い、俺はこの授業でとあるとても大きな知識をお披露目する予定である。
それは――スラリポマラソンだ!! スラリポマラソン大公開だ!
俺はついに、この超便利で世界に革命をもたらしかねないスラリポマラソンを大公開することに決めたのだ。
この決断に踏み切ったのにも当然わけがある。
今までは、スラリポマラソンくらい普通に発見できることなのだからこの世界の人たちが発見できるまで見守ろう。高位職の条件、〈モンスターを◯◯体倒せ〉をクリアするために、安全なモンスター狩りの方法として優秀なスラリポマラソンは絶対どこかで発見されるだろう。そう思っていた。
しかしこの世界はアリーナで大量にスライムを生み出し狩らせるという方法でそれをクリアしてしまった。これにより1年待ったが誰もスラリポマラソンにたどり着けなかったのである!
それ自体は別に良い。
元々高位職発現のために生み出された方法なので、もっと効率的なものがあればそっちを活用するのは問題ないことだ。
だが、それとは別に大変困ったことが学園で起こり始めていた。
それが、魔石の不足。
アリーナのモンスターはドロップをしない。
スラリポマラソンの副次的利益である〈魔石〉が手に入らないのだ。
今まではとあるスラリポ中毒者によって大量の〈魔石〉を得て、それを使い大量のポーション類が生産できていたため学生は困っていなかった。
しかし、学生の質が向上し上級ダンジョンに突入するギルドが爆発的に増えたのと、多くの学生を入学、留学などで受け入れ増員したために、ついに消費量がハンナのスラリポマラソン魔石供給量を上回ってしまったのだ。
何ということだろう。
今ではSランクギルドハウスの〈エデン店〉、ポーション販売1号店は毎日大忙しの大繁盛だ。とても良いことである。
間違えた。おかげで〈魔石〉がどんどん減っていく!
ちなみに〈エデン店〉は結局ポーション販売を専門に行なう〈ポーション販売1号店〉とポーション以外を売る〈アイテム&武具販売2号店〉に店のコンセプトを分けている。
それほどまでにポーションを買い求めにくる学生が多くなっているのだ。
さらに他の生産ギルドでもポーションをお買い求めの学生が増え、どんどん魔石が減っていると〈生徒会〉に寄せられているらしい。
というわけで、魔石が足りない。
一応学園が外から輸入するという方法も取れなくないらしいのだが、現在の〈生徒会〉のトップ、生産隊長様が「魔石ってスラリポすれば簡単に手に入るのに、なんでお金を払って買わないといけないの?」と素で思われているので外から購入することも難儀。
生産隊長様からすれば「魔石を買うなんてことに大切な予算を使うのはちょっと」とのことだ。うん。まあ、そうなるよね。
今はまだ深刻な問題に発展していないが、徐々に減っていく〈魔石〉在庫を見てハンナが俺に相談してきたのである。
ハンナの頼みだ。俺は二つ返事で引き受けた!
―――俺に任せろ!
そんなわけで、俺はスラリポマラソンの公開を決定したのである。
十分待ったし、いいよね?
これもハンナの――じゃなくて〈生徒会〉のためだ!
なぜか視界の端で学園長っぽい人が「ぴぎゃー!?」と鳴いていたシュールな光景を幻視した気がしたが、学園長はそんな声で鳴かない。きっと気のせいだろう。
授業開始!
2コマを使い基礎となる〈育成論〉の授業を行ない、3コマ目の授業で満を持してスラリポマラソンを公開した。
「これが『錬金』スキルによる大失敗だ! これによってスライムを狩れば、アリーナでは無かった経験値、そしてドロップまでがゲット可能だ」
実演して〈『錬金』の腕輪〉を嵌め、〈錬金セット〉を持って来て講堂の壇上付近で大失敗をしてみせる。
多少の悲鳴は上がったが、すでに彼ら彼女らも職業持ち。
HPバリアに守られていればスライムごときには負けない。負けないよな?
とにかく4体のスライムを発生させ、入学生が最初に渡される〈初心者用片手剣〉でなぎ払った。
そしてドロップしたのは〈スライムゼリー〉が2つと〈魔石(極小)〉が2つ。
「見ての通りだ。こんな装備で簡単にスライムは倒せる。しかもこの〈スライムゼリー〉をまた〈錬金釜〉に入れて〈泥水〉を注ぎ、『錬金』スキルを発動すればさらにスライムを発生させることが可能だ。これを繰り返すことで〈魔石(極小)〉が理論上無限に近い数得ることができる」
俺は今ドロップしたばかりの4つの魔石を手に持ち、みんなに見せながら続きを述べる。
「さらにこの〈魔石(極小)〉は合成することで、〈ポーション〉や〈MPポーション〉に必須の〈魔石(小)〉を作製することが可能なんだ。実質タダで」
ざわざわざわざわ。
俺の言葉に貴族の子弟や獣人、エルフの学生たちがざわざわする。
ようやくこのスラリポマラソンの価値に気がついたようだ。
中にはすでに頭の中でソロバンを弾いているような子や、今後の〈魔石〉の値段暴落に腕を組んで悩ましい表情をしながら計算している者もいる。
特に後半のそれはなぁ、こんなに〈魔石〉が簡単に手に入ってしまうと分かれば間違いなくこれからの価値は暴落する。最初は大きな混乱が予想されるだろう。
だからこそ、貴族の子弟が集まるこの場でまず公開したんだけどな。
また、貴族の子弟に先に話した理由がもう1つ。スラリポマラソンはスライムとはいえモンスターを発生させるわけだから管理が必要になる。15歳以下の未覚醒者にとってはスライムだってとっても危険なのだ。偉い人が管理しなければならないだろう。
やるからにはやる場所や安全性も考えなくてはいけないからな。抜かりは無い。
ちなみに、すでに学園長には話を通してある。
職業持ちではない15歳以下の子でもお金が稼げる貧困救済という側面や、限りなく需要がありそこまで価値が落ちないだろう〈魔石〉という資源。むしろ今までわざわざモンスターを倒しに行って〈魔石〉を集めていた労力を減らすことができ、逆にモンスターを倒しに行くよりも薄利多売の方が利益が出るとして、学園長は許可をくれたのだ。
学園長、なんかいつもより紅茶を口に運ぶ回数がやたら多かった気がしたが、きっと喉が渇いていたのだろう。
というわけでスラリポマラソンを前提にした商売や、スラリポマラソンで得た魔石などを値崩れしそうな単位で売る場合などは学園長の許可が必要だと、この場を借りて通達しておく。もし破ったらもちろん公爵家が敵になるので、頑張って交渉してほしい。
多くの貴族子弟がガクンと肩を落としたり、はたまた目を輝かせる中、俺は授業を再開した。
今の所スラリポマラソンは〈育成論〉とあまり関係がないからな。
ちゃんと〈育成論〉の授業らしく「スラリポマラソンはLV6までの育成が可能だ。まだLVが5以下の者はこれでLVが上がるぞ」と教えてあげる。
すると目を輝かせたり、さらに肩を落とす者が何人か。
多分、肩を落としたのはLV0からLV5まで上げるためにスペシャルコースを受講してしまった子たちだろう。
あれ俺も経験したが、ヤバいからなぁ。
それがスラリポマラソンを30分するだけでLVが6まで上がるというのだからあの苦労はなんだったんだとなったはずだ。
逆にまだLVが5以下の子はまだ結構いたみたいで、この福音に盛り上がっていた。
「また、このスライムを倒すことで高位職の条件、〈モンスターを○○体倒せ〉もクリア可能だ。このスラリポマラソンは職業発現前から覚職後まで幅広く使える有用な技法なのでうまく活用することを強くオススメするぞ。では早速体験してみよう、まずはLVの低い子に実感してもらおうか」
そんなこんなでスラリポ未経験者にスラリポマラソンのことを実技込みで伝授していったのだった。
これで少なくとも〈魔石〉が学園に流通するようになるだろう。




