#1239 一瞬で決着!?初動で全巨城白になって詰んだ!?
成功しちゃったな……。
試合開始から約10分。上空にある巨大スクリーンにはこう書かれていた。
ポイント〈『白14,980P』対『赤780P』〉〈ポイント差:14,200P〉。
〈巨城保有:白7城・赤0城〉
〈残り時間1時間19分20秒〉〈残り人数:白30人・赤30人〉
そこには7城あった巨城を全部〈エデン〉が確保した結果の数字があった。
この〈ハート〉フィールドが、一際難易度が高いと言われている所以。
それは、選択肢が多いということもさることながら、その中には全ての巨城を確保されてしまう戦法が存在し、しかも素早さ勝負で負けていたとき、対抗策を取っていないと割と高い確率でハマるところにある。
これぞ〈ダン活〉プレイヤーたちの英知の結晶。
――〈救済東西ぶった切り〉戦法だ。
そしてガロウザス先輩の要望通り、〈イブキ〉を3台使用しその戦法を使って本気で動いてみた結果、この戦法を知らなかった〈世界の熊〉は、見事に全ての巨城を確保出来なくなったのだった。
完璧に決まった。
この〈ハート〉フィールドは観客席と巨城が非常に特殊な配置の仕方をされていて、中央に3城、後は東西南北にそれぞれ巨城が1城ずつ存在する。
そして東西にある巨城がポイントで、これが本来なら〈救済巨城〉となる。
〈救済巨城〉とは各フィールドに必ずある巨城で、自分の本拠地からかなり有利に取ることが可能な巨城のことだ。
つまりは西にあれば西に本拠地を持つギルドが確保しやすいし、東にあれば東の本拠地が確保できる巨城。
相手の本拠地からは距離が離れすぎているため、普通なら相手側から取られず、ほぼ必ず確保できるのだ。これによりギルドバトルは成立すると言ってもいい。
なにしろギルドバトルの性質上、初動で全ての巨城を確保されると、もうほとんど勝負が付いてしまうのだ。
7城確保したときのポイントは14,000ポイント。これを相手側が本拠地を落とすことで全部いただいたとしても、14,000ポイント稼いで同点になるだけ。
後は小城取りの勝負になるわけだが、〈エデン〉は小城を取ることにだけ集中すれば勝てるのに対し、〈世界の熊〉は最終的に巨城を全てひっくり返した上で小城のポイントで勝たなくてはいけないのだ。
〈エデン〉が圧倒的に有利なのが分かるだろう。
〈エデン〉は本拠地が襲撃されようと、対人戦を仕掛けられようと、全てを放置して逃げてただ小城を取るだけで勝てるのだ。それが初動で決まり、制限時間いっぱいまで続く。
小城のポイント次第では、負け確定が決まってしまうのだ。ほぼ詰んでいると言い換えてもいい。
だからこそ、そういう絶望的ギルドバトルを回避すべく、超優先的に確保できる〈救済巨城〉が各フィールドに必ず1城は配置されている。これを取っておけば、少なくとも本拠地を陥落させることで逆転が可能だからだ。ラストバトルで番狂わせができると言えばこれがどれだけ重要な巨城か分かるだろうか?
勝利の芽が摘まれることがなくなり、ハラハラドキドキ展開となってギルドバトルが成立する。というわけである。
しかしこの〈ハート〉フィールドは、なにをとち狂ったのか東西にある〈東巨城〉と〈西巨城〉。つまり〈救済巨城〉が南側からしか取ることが出来ないよう壁と障害物で囲まれている。
すると、南側に回り込まなくちゃいけない手間が生じるわけだが、南側に侵入させないよう足の速いメンバーで保護期間のマスで線を引いてしまえば、〈救済巨城〉が確保出来なくなってしまう状況が完成してしまうのだ。
これぞ〈救済東西ぶった切り〉戦法の本質。
「〈救済巨城〉が1城しかないのなら、逆にそれを取れば勝ちじゃん」という逆説的な理論に基づき、東西の〈救済巨城〉を狙ってしまうというとんでもない戦法だ。
相変わらず〈ダン活〉プレイヤーがやべぇ。いいぞもっとやろう!
そんなわけでこの戦法はよく研究され、この〈ハート〉フィールドでたくさんの絶望を生み出したのだ。
ポイントは〈北巨城〉の南マスから東西に行き来するマス(図VとW―15と16)、要所を確保しそのまま突っ切り、そのまま〈救済巨城〉まで走り抜けるところ。もうとんでもないレベルのAGI持ちを2人確保しておき、さらに〈北巨城〉を落とす担当、〈中央西巨城〉を落とす担当、〈中央東巨城〉を落とす担当。この3箇所を真っ先に落とす部隊を作っておけば大体が成功してしまう。なお、難易度は結構むずい。テクニックがいる。
相手はまず〈北巨城〉や〈中央東巨城〉に向かうため、足の速いツーマンセルが先に〈北巨城〉の南マスを突破して(図X-17)南下し、〈中央東巨城〉の東側を囲ってしまえば相手は〈中央東巨城〉を確保出来なくなってしまうのだ。
さらにツーマンセルはそのまま東へ突っ切る進路を執り、南北を分断するように保護期間の線を引いてしまえば完成。
相手は〈中央東巨城〉の確保に負けた時点でスピードが劣っているので、この分断に追いつけず、分断を許してしまう。そうすると南側から進入しなくてはいけない〈救済巨城〉の〈東巨城〉すら取れず、その南側にある〈中央南巨城〉と〈南巨城〉も取れなくなって、結果〈北巨城〉が確保出来ていなければ全巨城を確保出来ない状況になってしまうのだ。
こちらは後は後続のメンバーが〈中央東巨城〉、〈東巨城〉の順番に確保、相手を南や西に進入させないよう保護期間を上手く使いつつ、西の部隊が〈中央西巨城〉、〈中央南巨城〉、〈南巨城〉、〈西巨城〉を確保してしまえば完成だ。
マジとんでもない。
とはいえ強い戦法だからこそ対処法もよく考えられており、要は相手より先に南側へ進入できれば解消する問題だ。本拠地から南へ真っ直ぐ進む部隊さえあれば作戦を潰すことが出来る。この時〈北巨城〉〈中央南巨城〉〈南巨城〉〈救済巨城〉が狙えるぞ。
俺も万が一を警戒し、パメラとルキアのツーマンセルが本拠地からまず南へ9マスの地点(図Kー14)まで真っ直ぐ南下してもらっていた。
この時点で西側にツーマンセルが侵入してきていたら、すぐに〈救済巨城〉の〈西巨城〉だけでも確保していたね。後は南側の巨城の取り合いになったはずだ。
だが、ツーマンセルが来なかったため、パメラ&ルキアはそのまま南東へ進路を変更。〈中央西巨城〉を隣接しながら東西を行き来できる要所まで進み、万が一相手が西側に攻め込んで来られたときに備える動きを見せた。結局この動きは杞憂だったけどな。
ロゼッタたちには〈中央西巨城〉を確保してもらい。さらに南下して〈中央南巨城〉と〈南巨城〉もゲット。そして最後に〈西巨城〉をゲットしてもらった。
〈北巨城〉もエステルたちがしっかり確保してくれたからな。
東西を行き来できる僅かなマスもラナを中心とした迎撃部隊がガッツンガッツン抑え、結局〈世界の熊〉は西に進入することができなかった様子だ。
そして俺たちアイギス号のメンバーたちは〈中央東巨城〉と〈東巨城〉を確保、〈世界の熊〉を牽制して南側に行けないようにした。
7城確保された〈世界の熊〉が唖然としていたよ。
〈世界の熊〉、この戦法に見事にハマっちゃったのだからちょっと心配になった。
どう動けばいいのか分かんなくなっちゃったのか、固まっちゃったからな。
見ろ、なぜかラウが震えていた。
〈ディストピアサークル〉時代の対〈エデン〉戦を思い出したのかもしれない。
そういえば全巨城を確保したのは、これで2回目だったな。
おっとそれはともかくだ。これで〈エデン〉は14,000ポイントを手に入れたし〈世界の熊〉はこの時点でほぼ詰みだった。
事前に決めてあったローカルルール〈敗者復活〉のせいで、対人戦で人数を減らしたとしても復活してしまうということで〈エデン〉の人数を減らすこともできず、小城マスの確保が阻止できないことが決まっているからだ。
そしてガロウザス先輩の判断は早かった。
「タイムだ! ちょっとタイムだ! ゼフィルスと話がしたい」
うむ。良い判断である。
ランク戦にはタイムは無い。ロスタイムも当然無い。
でも〈決闘戦〉ではいくらか融通が利く。
一旦試合を止めて俺はフィールドの中央付近でガロウザス先輩と話し合うことにした。
熊騎兵に跨がりやって来たガロウザス先輩。
この前までかっこよかった印象の〈歴戦の熊鎧〉からなぜか哀愁を感じるのはなぜだろう? いや、きっと気のせいだ。
「ゼフィルス」
「ガロウザス先輩!」
「ああ、ゼフィルス」
「ガロウザス先輩!」
「貴様強すぎるぞ!」
「ガロウザス先輩!?」
ガロウザス先輩がグッと拳を握りしめ何かに耐えるようにそう言った。
いやぁ。それほどでもある。
「いや、手加減するなと言ったのは俺だし、本気でかかってきてくれと頼んだのも俺だ。だが、だがな? こんな手も足も出ず訳が分からないうちに詰んでいるというのは予想を遙か彼方レベルで超えている!」
ガロウザス先輩が熊の毛皮をバサリとひけらかし、手の付け根を目頭に当てて悲しがる。
うむ。俺もちょっと本気を出しすぎたかもと感じていたよ。でも俺はそうおくびにも出さずに切り出した。
「これが〈エデン〉の強さだ。どうする? まだ時間もあるし、もう一戦仕切り直すか?」
「いいのか!?」
「もちろんだ。というよりガロウザス先輩もそれを交渉しに来たんだろ?」
「まあそうだがな」
ランク戦と違って〈決闘戦〉の良いところは、両者が望めばやり直しなどが可能なところだ。もちろんこのギルドバトルで不利な方は報酬を上乗せしなくてはならないし、勝っても相手が賭けた報酬は半分以下しか貰えないなどルールはあるが、そこら辺は後で調整する。アリーナのレンタルの時間もあるのでそこら辺は後回しにし、お互いの合意があれば仕切り直すことは可能だ。
「審判の先生は――相変らず神出鬼没ですねムカイ先生。やり直しお願いできますか?」
「…………」
気が付けば近くにこのギルドバトルを審判していたムカイ先生がいてこくりと頷いていた。
きっと転移陣で来たのだろう。相変らず無口な方だ。
「俺たち〈世界の熊〉は負けを認め、制限時間内でのやり直しを提案する!」
「〈エデン〉はその提案に応じよう」
お互いの合意が改めて決まると、ムカイ先生がタブレットのようなものを操作する。
するとスクリーンに「試合終了――勝者〈エデン〉」の文字とブザーが流れた。
さらにやり直し第二試合を10分後にスタートすると書かれる。
なんだか観客席がすごいざわざわしているな。
残り時間が〈1時間10分〉だったので、次の試合では残り時間〈1時間〉でギルドバトルがスタートする計算だ。
「あとガロウザス先輩に軽くアドバイスだ」
「ほほう? 聞こう」
後、熊騎兵の運用にちょっと思うことがあったので、これも伝授しておいた。
これで先程よりもいい運用ができるはずだ。
そして、転移。
俺たちは気が付けば白の本拠地にいて、メンバー全員が集まっていた。
そして当然ながら俺に注目が集まっているため、発言する。
「こほん。まず説明するな。さっきの試合の結果だが〈エデン〉の勝ちになった」
「「「「そりゃそうでしょ(よね)(ですよね)(だよね)」」」」
みんなの気持ちが1つになった。
7城全てを確保したところで〈エデン〉の勝利はほぼ揺るぎないものになっていたからな。
再試合をすると説明し、そして今度は別の戦法を試すことにしたのだった。